発展途上国を助けたい、 地元に貢献したい、日本の電力を支えたい。

2010年11月30日掲載

芝浦工業大学 藤田研究室は、約20名のメンバーと、電力・エネルギー系を中心に研究に取り組んでいます。学外合同研究が大変盛んで、国際色豊かな若さ溢れる研究室です。

※2010年9月現在。文中の敬称は略させて頂きました。

きっかけは「環境に貢献する(國府田)」、「家電が好き(峰尾)」、「ロボットをつくる(小川)」

皆さん、電気工学科を選んだ理由を教えてください。

國府田:中学生の時、授業の「総合的な学習の時間」で水力発電について調べたことがあり、電力がいかに地球環境に関連しているのかがわかりました。そして、その延長線で大学では電気工学の勉強をしたいと考え進みました。

峰尾:私の父親は海外で石油プラントを作る仕事をしていた関係で工学部に興味を持っていました。その中で電気工学を選択したのは、家電製品が好きだったからです。洗濯機や電子レンジなどを見て「何で回っているのか」、「何で熱くなるのか」、そんな疑問を小学生から漠然と持っていました。

小川:子供のころから、プラモデルや工作などものづくりが好きで、将来は工学系に進みたいと考えていました。その後、高校2年生のとき地雷を除去する番組を見て、誰も傷つかずに地雷を除去するロボットを作ろうと思い、電気工学科に行くことを決めました。

なるほど。地雷除去とは、すばらしい理由ですね。ロボットというと機械工学科という選択肢もあったと思いますが。

小川:機械工学科の選択はなかったです。芝浦工業大学のオープンキャンパスに行ったときに、電気工学科のブースにロボットが置いてあったので、電気工学科に進学すればロボットを作ることができると思いました。また、ロボットを作っている人は電気工学系を学んだ人が多いことも聞いていました。(※)

※電気工学と他学科 「電気工学と機械工学」
ロボットにおける電気工学と機械工学の関係性が分かります

地球温暖化防止に向けた将来の電力系統を切り拓く

皆さんの研究内容を教えてください。國府田さんからお願いします。

國府田:はい。私の研究は、「単独運転検出の精度向上のための逆相インピーダンス測定法」というものです。

具体的に教えてください。

國府田:電力系統で発生した事故を復旧する作業を行うには、電力系統を無電圧状態(停電)にしなければなりません。ところが、一般家庭の太陽光発電などが系統に連系(単独運転)していると、電気が系統側に供給されるため、作業員が感電をしてしまいます。従って、安全に作業を行うため、単独運転状態を検出したときに、太陽光発電などを系統から遮断(切り離す)することを目的とした研究です。

もうすでに実用化されているものなのですか。

國府田:はい。太陽光発電には「パワーコンディショナー」といわれる電力変換器に、単独運転を検出する装置を組み込んでいます。ただし、メーカーごとに特性のバラツキや機器に互換性が無いなどの問題があります。これらの問題を解決するための、より良い方法を見つけることが目標です。

峰尾さんの研究を教えてください。

峰尾:「配電線の不平衡運転と継電器誤動作」の研究です。電気は三相交流という方式で送られています。三相交流は、各相が120°の位相差(位相差とは電圧波形又は電流波形のズレ)を保った状態が理想なのですが、事故が起きて断線状態などになると位相差が120°からずれてしまう(不平衡になる)のです。

なるほど。

峰尾:それで、位相差が5°以上になったとき、断線(事故発生)と判断して遮断器を開放します。ところが、電力系統に連系しているモーターなどの影響で断線していないのに位相差が5°より大きくなり遮断器が動作してしまうことがあります。これを「誤動作」と呼んでいます。この誤動作をなくすための最適な位相差の設定を模索する研究をしています。

電力系統を安全に運用するための研究ですね。

峰尾:そうですね。また、太陽光発電が多くの家庭に導入されることにより、三相交流の不平衡の問題が出るのではないかと考えられています。これも、"PSCAD"というシミュレーションソフトを使って研究しています。

自動車用鉛蓄電池、太陽光パネル、民生分野の研究も行う

小川さんの研究テーマを教えてください。

小川:「自動車用鉛蓄電池の長寿命化」です。最近、ハイブリッド車や電気自動車の普及が地球温暖化問題への解決策として注目を集めています。とはいえ現在は、鉛蓄電池を使ったガソリン自動車が大半ですので、鉛蓄電池の長寿命化を研究テーマにしています。また、携帯電話は画面にバッテリーの残量を表示させることができますが、鉛蓄電池については残量を表示させることが難しいので、鉛蓄電池の残量を表示させるための取り組みもしています。

他にはどのような研究をされていますか。

小川:どの程度性能が落ちるとエンジンがかからなくなるのかなどの劣化特性解析や、温度変化に対する反応を調べる温度特性解析などをしています。

基本的にはパソコンによるシミュレーション解析なのでしょうか。

全員:そうですね。

実験はしないのですか。

峰尾:私は学部4年生と合同で「太陽光パネルで、"電気"と"温水"をつくる」研究もやっています。この研究は実験がメインで、太陽光パネルの裏側に取り付けたホースに水を流すことによって、温水をつくりだす実験をやっています。また、パネルを冷却することで発電効率が低下するのを防ぐことも狙っています。

研究も遊びも徹底的にやります

研究室の特徴を教えてください

國府田:先生の意向で、学会に参加する機会が多いので、プレゼンテーション能力や技術文献を理解する能力が身につく研究室だと思います。芝浦工業大学自体も、プレゼン能力を重視しており、授業もほとんど発表です。私自身、研究室へ入ってから、プレゼンする能力が身に付いたことを実感しています。

それは社会へ出てからも通用するスキルですね。他に何かありますか。

國府田:飲み会が多いです(笑)。昨日も研究の中間発表があって、その後、飲み明かしました。前期は、毎週木曜日には飲みにいっていました。

峰尾:そうですね。先生と一緒に、非常勤の先生も含めて研究室全員で行きましたね。

いまどき、週1回飲みに行くのは結構多いですね。

國府田:いや、研究室全体で行くのが週1回という意味です(笑)。私や小川君などは先生とマンツーマンで行きます。空いた日に「先生、行きませんか」みたいな感じです。

小川:先生が夜遅くまで残って研究していると、「今日、夕食どうされます?」とこちらから提案します。研究室の仲間同士で一緒にお店に行くこともあれば、個人宅に行って飲んだりもします。本当に飲む機会が多い研究室です(笑)。

飲み以外で(笑)、何かありますか。

國府田:留学生が多いので、海外の文化や習慣に触れ合う機会があります。私の研究も、ベトナムからの博士課程留学生と一緒にやっています。つたない英語力でどのようにコミュニケーションをとるのか、面白い経験ができますね。

学会への参加や企業との共同研究についてはどうですか。

國府田:学会には本人の希望で参加します。先生は「失敗してもそこから得るものがある」という考えなので、のびのびと学会発表をすることができます。

小川:自動車メーカーと共同研究を行っています。年に数回ぐらい企業の方とミーティングを行っています。特に思い出に残っていることは、企業の研究所に2週間ぐらい通って、実験を行ったことです。とても勉強になりました。

メーカーの研究室はよほどのことがない限り外部の人は入れないですよね。

小川:ええ。その研究所内も、決まった通路しか通れませんでした。それから敷地内にマスクをかぶったクルマが(たぶんこれから世に出るクルマだと思うのですが)走っていて、自動車メーカーの裏側を見られて楽しかったですね。

お二人はいかがですか。

峰尾:私は電力会社の方からデータをいただき、電力の潮流計算をしています。

國府田:私は電気機器メーカーに、2カ月に1回のミーティングで発表をしています。その場でいろいろアドバイスをいただいています。

企業との共同研究が盛んな研究室ですね。

國府田:そうですね。でも終わったあとは、必ず飲み会です(笑)。

研究室の一日と余暇の過ごし方についても教えてください。

國府田:私は学部4年生なので、平日は午前、午後に授業を受けた後、研究室に来ています。土日はイベントスタッフのアルバイトをやっています。

峰尾:私も同じです。夏休みは少し時間に余裕が出てくるので、小学校で放課後キッズクラブというボランティア活動をやっていました。放課後キッズクラブは、子どもたちの育成をサポートする活動です。

小川:私は、決まったスケジュールがありません。ただ、週に1回の研究室のミーティングには必ず出席しています。ミーティングで研究発表をするので、前日は研究室に籠もっています。それ以外の空いている時間は、自動車部で活動をしています。

子ども達に電気の楽しさを伝える(峰尾)、「なぜ」を意識する(小川)、自分の道が広がる(國府田)

電気工学を学んでよかったと思うことを教えてください。

峰尾:放課後キッズクラブに、モーターやソーラーパネルをつくって持っていきました。小学生がすごく興味を持ってくれたので、すごく嬉しかったです。子供達に電気の楽しさを伝えることができたのは良かったと思います。

小川:工学を学ぶと、何でこういう現象が起こったのかという「なぜ」の部分をいつも意識します。この現象が起きたのはなぜか、この結果になったのはどういうプロセスがあったのか、こんなふうに考えられるようになったのは良かったと思います。

國府田:電気の適用範囲は広いので、電気工学を学ぶといろいろな分野で活躍することができると思います。自分の道が広がっていると実感しますね。

最後にみなさんの将来の夢を教えてください。

峰尾:父親のように海外で働きたいと思います。発展途上国では、まだ電力などのインフラが整備されていません。電気がなくて困っている人々を支援する仕事をしたいと考えています。海外で活躍できる人材になりたいです。

小川:私は来年から電気技術者として、市役所に勤める予定です。「地元の人が住みやすい町を電気で作りたい」という思いがあります。

國府田:私は電力会社へ就職が決まっています。今後、さらに電気の知識を深めて仕事の幅を広げていきたいと思っています。

今日は皆さんが生き生きと学生生活を送っていることが伝わってきました。ありがとうございました。

藤田 吾郎  准教授(ふじた ごろう)

私立/東京都
芝浦工業大学 工学部 電気工学科

藤田 吾郎 准教授(ふじた ごろう)
当研究室は1998年にスタートしました。現在は20名弱のメンバーのもとに、エネルギー系に関する学外共同研究の実施などを中心に取り組んでいます。最近のテーマは,①分散電源系統連系技術(風力,太陽光,燃料電池など含む),②配電系統の電力品質改善技術,③自動車のエネルギーマネージメント技術,④給電運用技術などです。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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