「ものづくりの楽しさを伝える」

2014年11月28日掲載

吉田 正伸

高知工業高等専門学校 電気情報工学科 准教授

1999年 3月
山口大学 工学部 電気電子工学科 卒業
2001年 3月
山口大学大学院 理工学研究科 博士前期課程 電気電子工学専攻 修了
2004年 3月
山口大学大学院 理工学研究科 博士後期課程 システム工学専攻 修了
2004年 4月
高知工業高等専門学校 電気工学科 助手
2008年 4月
高知工業高等専門学校 電気工学科 准教授
2010年 4月
高知工業高等専門学校 電気情報工学科 准教授(学科改組) ~現在に至る

主に電源システムの研究開発とパワーエレクトロニクス関係の教育・研究に従事(高周波電力変換回路、自然エネルギー利用システムなど)

自然豊かな高知県

私の所属する高知工業高等専門学校は、高知県の空の玄関口である高知龍馬空港に隣接しており、古くは約1300年前に国府が置かれて土佐の政治経済の中心地として栄え、紀貫之や長宗我部元親で有名な「土佐のまほろば」と呼ばれる南国市に私立高専として設立されました。その後、国立高専に移管し、現在は独立行政法人国立高等専門学校機構に所属する学校で、昨年度には創立50周年を迎えました。

表1 高知県の取り組み事例と課題 高知県健康福祉部 2005年より抜粋

高知県は四万十川や仁淀川を初めとする数々の清流、世界ジオパークにも認定されている室戸岬周辺の地質遺産、日本三大カルストの一つである四国カルスト、などなど美しく豊かな自然に恵まれています。また、ピーマンや茄子など農産物の促成栽培や豊富な海産物でも有名で観光資源にはことかかず、毎年8月のよさこい祭りの時期には多くの観光客で賑わいます。しかしながら、高知県の産業構造は主に第一次産業と第三次産業に大きく偏っており、本校の卒業生が技術者として就職をする第二次産業は、産業の構成比として非常に低い割合となっています。また高知県は非常に過疎化が進んでおり、少子高齢化は全国平均と比べて10年先行しているといわれています。

このような地方独自の問題点を抱えながら、工業高専では日本全国はもとより世界でも活躍できるエンジニアを育成していかなければなりません。

写真1 本校専攻科棟屋上から物部川と香長平野を臨む

工業高専と工学にふれる環境

さて、地域性に関する前置きが長くなってしまいましたが、高等専門学校の学生は16歳から20歳まで(専攻科へ進学すると22歳まで)となり、ちょうど高校生から短大生の学年までの非常に幅広い年齢が同じキャンパスに在籍しています。一方、高等専門学校への進学の意思を固める中学3年生の段階で、将来の進路として「工学を学んで技術を身につける」ことを決定するのは容易ではありません。近年では、高専を卒業後に他大学の教育学部や経済学部、理学部など工学部以外への編入学(高専5年を卒業後に他大学の2年または3年に入学する)する進路もひらかれていますが、一旦高専に入学してしまうと、それら別の進路を再度選択するというのはハードルが高く、本人の意思が相当強くなければ難しい状況です。それに加えて、数学や理科が苦手な子供が増えている状況で、高専を進路の選択肢に加えてもらうのは容易ではありません。

私は瀬戸内出身なので、近くに製鉄所や化学プラントなどの大きな工場があちこちにあり、友人の父兄の多くもそれらの工場で働いているという環境で生活をしてきたので、「大人になって仕事をすること=工場でエンジニアとして働く」という感覚でした。中学校卒業後の進路は普通科の高校を選択しましたが、その時から「大学は工学部」と決めていた気がします。つまり、私の過ごした環境では周りに工学系の人間が多くいたため、その方々に影響されて進路を決定していたのだと思います。様々な情報を入手しやすくなっている時代ですが、やはり実際に見たり聞いたり触れたりと身近にあるものに興味をもつというのは当然だと思います。

ものづくりの楽しさ

ものづくりの楽しさを知るには、やはり「実際に作(創)ってみる」という行為が大切だと思います。高専では小学校低学年への出前授業や高専への体験入学を通してその面白さを伝えていくとともに、オープンキャンパスや文化祭で実際に高専生になったらこんなことができる!と言うものを分野を問わず作っています。今回はその一例を紹介します。

写真2 河川敷野球場に設置した簡易照明

写真2は本校の野球部の練習風景ですが、練習用のグラウンドが河川敷で電源が敷設されていないため、冬季は夕方になると練習もままならないほど暗くなってしまいます。練習時間を確保したいとのことで、十数年前に本校に寄贈された太陽電池パネルを用いて昼間にバッテリを充電し、夕刻2時間程度使用できる簡易照明装置を作成しました。これは本科5年生が卒業研究で設計・製作したもので、バッテリは太陽電池パネルの最大電力追従制御で充電されます。

写真3は本校の建築・建設系学科が作成した「憩いの空間(ビオトープ)」試験場です。それに噴水とイルミネーションを追加したいと言う要望により製作したもので、夜間は写真4のような雰囲気になります。小型の太陽電池パネルと電気二重層キャパシタ、LEDモジュールなどを使用しており、これも卒業研究で本科5年生が設計・製作から設置まで手がけています。

写真3 本校のビオトープ 昼と夜

写真4は、専攻科棟屋上に設置され本校のシンボルともなっていた国内最大級のサボニウス型風車です。残念ながら平成25年12月に高知県香南市付近を襲った竜巻被害のため損壊し、現在は撤去されていますが、この風車の発電量と風速、同じ屋上に設置されている太陽電池パネルの発電量をインターネットで公開するためのインターフェイスとサーバーも学生が作成していました。現在も太陽電池パネルの発電量は、細々とですが公開していますので、興味があれば是非御覧いただければと思います。(http://power.kochi-ct.ac.jp/

写真4 本校専攻科棟屋上に設置されていたサボニウス型風車

写真5 校内でテスト走行中のマイクロEV(改修中)

最後に、写真5は現在改修中のマイクロEV(電動三輪車)の写真です。数年前まで文化祭や出前授業などで活躍していたのですが、トラックでの輸送中に物理的に破損して動かなくなっていた車体を、現在5年生の女子学生が1人で修理しています。電気回路としては難しくはないのですが、フレームの金属加工やギアの調整など機械に関わることも多いため(筋力的に)苦労していますが、一方で自分のアイデアがカタチになるのが楽しいらしく、非常に熱心に取り組んでいます。

おわりに

とりとめのない話になってしまいましたが、小学生や中学生の方々が、本校の学生が実際に関わった「ものづくり」の成果を見ることによって、「自分もこんなことができるようになりたい!」と感じてくれたらという思いで、我々は日々活動しています。「理科離れ」という言葉が現れて久しいですが、電気分野に限らず、高専を理科教育の一環で是非とも活用していただき、少しでも多くの方が科学技術に興味をもってくれればと思います。


電気工学のヒトたち

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