運がとってもよかった??モータを研究する高専教員が語る『電気工学を究める

2011年4月22日掲載

冨田 睦雄

岐阜工業高等専門学校 電気情報工学科
准教授

1988年3月
三重大学工学部電気工学科卒業。
1988年4月
静岡県立公立学校教員採用。静岡県立浜松城北工業高校電気科教諭。
1992年4月
静岡県立引佐高校産業技術科教諭。
1993年3月
静岡県立公立学校教員依願退職。
1993年4月
名古屋大学大学院工学研究科博士課程前期課程電気工学専攻入学。
1998年3月
同後期課程 電気工学専攻修了。 博士(工学)。
1998年4月
岐阜工業高等専門学校電気工学科助手。
1999年4月
同講師。
2003年4月
同電気情報工学科助教授。
2007年4月
同 准教授。主に同期モータの制御と開発に関する研究に従事。

1. 中学生の皆さん! 岐阜高専 電気情報工学科を目指しませんか?!

岐阜高専とは、全国の国立高専のひとつである岐阜工業高等専門学校の略称で、中学校卒業生を対象に5年間の一貫教育を行う大学や短期大学と同じ高等教育機関です。卒業後は、技術者として社会の第一線で活躍することや、大学3年次に編入することもできますし、本校には、さらに2年間の専攻科が設置されており、専攻科に進学すれば学士の学位取得も可能で、大学院に進学することもできます。

気になる進路先ですが、具体的に平成22年3月本校電気情報工学科卒業42名の進路先を紹介します。就職については、中部電力(株)など電力会社に5名、東海旅客鉄道(株)(JR東海)に1名、(株)KDDIテクニカルエンジニアリングサービスなど情報通信業に5名、アイシン精機(株)など製造業に5名、その他1名で就職率100%です。進学については、名古屋大学など旧帝国大学に編入学が4名、その他国立大学に編入学が12名、本校専攻科に進学が8名、その他が1名です。以上のように、卒業後の未来は明るいです。

ハイブリッドカーや電車などの電気で動くものや、太陽光発電や、iPadとかの電子情報機器などなど電気・電子・情報に、なんとなく興味のある中学生の皆さん!!岐阜高専電気情報工学科を目指しませんか?「そんな装備で大丈夫か?」じゃなくて「そんな単純な動機で大丈夫か?」と思うかもしれませんが、私が、電気工学科に進学した動機は、10代の時やっていた「世界一周すごろくゲーム」というTV番組の「電子さいころ」が作れるようになりたいとか、そんな感じだったので、「大丈夫だ、問題ない。」だと思います。

2. 岐阜高専 電気情報工学科ってどんなところなの?

図1 学生の作品の例(2010年度本校学校案内より)

岐阜高専電気情報工学科に入学すると、高校(「後期中等教育」)とは全く異なり、いきなり大学と同じ「高等教育」を受けることになります。具体的には、まず、先生方のほとんどが大学の先生方と同じく「博士」などの学位を持つ、その分野に造詣の深い方ばかりです。そして、1年生(高校1年生年齢相当)から、数学や英語などの一般科目はもちろん、大学相当レベルの電気、電子、情報工学の専門科目を、高校と同じくらい丁寧に、講義(授業)、実験で学んでいくのに加えて、PICと呼ばれているマイコンなどを使った「創成型授業」等で学んでいきますので、4年生(大学1年生年齢相当)になる頃には、自分たちのアイデアを活かした、図1(ごくごく一例)に示すようなマイコンやネットワークなどを使った作品を作ることもできるようになります。そして、5年生(大学2年生年齢相当)での卒業研究を経て、大学並みの教養と電気・電子・情報工学の専門知識を持っているのに加えて、手を動かすことができる実践的技術者としての実力をもって、卒業していきます。

3. 岐阜高専 電気情報工学科に入ったら、冨田睦雄研究室に入って、モータの研究をしてみませんか?

3.1 冨田睦雄研究室の研究内容

申し遅れましたが、私、冨田睦雄(とみたむつを)は、岐阜高専電気情報工学科の教員(准教授)であり、講義もしますが、大学の先生と同じように研究もしていて、電気情報工学科の一研究室の「冨田睦雄研究室」の親分(?)でもあります。「冨田睦雄研究室」は、指導教員の私と卒業研究の5年生4名程度と専攻科特別研究の1~2名程度の専攻科生(大学3、4年年齢相当)で構成されています。

では、『「冨田睦雄研究室」は、何をやっているの??』と問われたとしたら、その答えは、次のような感じになります。『深刻な問題である地球温暖化防止に貢献するため、電力消費量の約50%を占めるモータのエネルギー効率の向上を求めて、「時代の最先端を行く高効率な同期モータの制御に関する研究」や、「高効率同期モータの開発に関する研究」を行っています。』格好つけすぎでしょうか。この2つの研究についてちょっと詳しく述べます。

同期モータの制御に関する研究

ハイブリッドカーや電気自動車から工作機械、エアコンなどの省エネ家電まで、幅広く用いられている最先端の高効率同期モータの制御についての研究をします。具体的には、図2のように、同期モータに不可欠なじゃまな位置センサを、制御理論などを使って、位置センサを取り除く位置センサレス制御の研究を行ってます。

高効率同期モータの開発に関する研究

モータの効率なんか、どれも同じなのでは?いえいえ。図3に示すように、モータの形状が変われば効率が変わるため、これまで色々な高効率モータの開発に携わり、エアコンなどの消費電力の大幅な削減に貢献してきたつもりです。これからも、さらなる高効率なモータを目指して研究を行っていこうと思います。

図2 高効率同期モータのセンサレス制御/図3 高効率同期モータの開発

3.2 高専生といえども大学・大学院生の研究レベルのテーマにも挑戦する?のが「冨田睦雄研究室」

先程、申し上げましたように、卒業研究を行う5年生や専攻科特別研究を行う専攻科生は、研究遂行能力、行動力ともに秀逸であり頼もしい実践的技術者といえます。そこで、冨田睦雄研究室では、卒業研究や特別研究として、大学の卒業研究や大学院生による研究レベルのテーマにも挑戦しているつもりです。

例えば、平成22年10月には、韓国で開かれた国際会議で、電気学会100周年記念基金国際交流助成を頂いて、専攻科生(大学3年年齢相当)が成果を発表(もちろん英語です)してきました!!普通、国際会議で発表するのは大学院に進学して1年くらいしてから(23~24歳位)です。ついでに、ほぼ、韓国語しか通じない焼き肉レストラン(図4参照)で焼き肉を食べてくるなど、ご当地グルメをチェックすることも忘れないのが「冨田睦雄研究室」です。(著者写真は韓国に出発するときに空港で発表学生が撮ってくれた写真)。

これまで10年で、5年生を含む「冨田睦雄研究室」の学生の発表業績は、以下の通りです。

  • 学会誌論文誌等に執筆した件数:2件
  • 国際会議で発表した件数:5件
  • 電気学会全国大会で発表した件数:3件
  • 電気学会産業応用部門大会で発表した件数:5件
  • 電気学会研究会で発表した件数:1件

図4 韓国の焼き肉レストラン

学会に参加すれば、自分の研究分野の動向について、すごく勉強になるのはもちろん、これらの国際会議や国内の学会の開催地で、学生と食べに行ったものは、東京湾お台場ベイクルーズでの立食パーティ、大阪食い倒れ、讃岐うどん、富山のカニ、国内の焼き肉食べ放題などなど...。私が大学院生の時、研究が進まず苦しんだときは、学会開催地の旅行ガイドを見て、「この学会に行って、この名物を食べてやる!!」と意気込んで研究したものです(ちょっと不純かもしれませんが...)。

「なんとなく面白そうな研究室だなぁ...」とか「地球温暖化防止に役に立つ研究ができるのか!!」とか「21歳で国際会議で発表できるチャンスがあるのか!!」とか「学会で発表すると、ご当地グルメも食べられるのか?」とか思った中学生の皆さん、岐阜高専電気情報工学科「冨田睦雄研究室」を目指そう!!

4. 最後に、運がとってもよかった??私から、電気工学を究めようとがんばっている中学生や学生の皆さんへ

「冨田睦雄」で検索エンジンに入れると、この人は、一生で一度もらえたら望外の幸せと思われる「電気学会論文賞」という恐るべき賞を頂いてたりもして、「ひょっとしたらすごい人なのか?」それとも、「ただすごい変わっている人なのか?」よくわからないと思います。その答えは、以下の文章を読んで判断してください。

私は、大学電気工学科在籍当時、講義は、結構真面目に聞いていて、定期テスト前は同級生にテスト対策を説き、結果的に3位/80人(くらい)で卒業した位なので(高等教育機関では、真面目にやれば成績はあがると思います)、電気・電子・情報が嫌いなわけ訳ではないです。しかし、私の妻に言わせると、「それは嫌みに聞こえるよ」と言われますが、「算数・数学が本当に嫌い」で、電気工学科にいながらも、通学時や講義の空き時間に、日本神話である「古事記」や、六法全書を読む方が好きで、大学卒業後に文系の大学院(法学研究科)に進学を本気で考えたこともありました。(やっぱりすごく変わっている人か?)そんな大学生でしたので、電気工学について研究してみたいということはなく、電気工学の大学院に進学も勧められましたが、工業高校(高専ではない)の教員に就職して電気を教育する道を選びました(普通は、工業高校の教員にはなかなかなれないのですが、このときは倍率が低いという幸運で受かったみたい?です...)。

しかし、教員に就職することを決めた大学4年の中頃になって、卒業研究(モータとは関係ないテーマ)を本格的にやり始めたら、「ああ、電気の研究って面白いんだ」とそこで気づきました。成績がいいにもかかわらず、大学院に進学せずに、就職を選んだ同級生も同じようなことを言ってました。でも、もう時既に遅しで、大学院への進学試験は終わっていましたので、大学卒業後は工業高校でずっと電気の教育をしていくんだろうなぁと思っていたある日、大学の特別講義で外部の先生から「(制御しにくい)交流モータを制御しやすい直流モータのように駆動する技術」について聴き、「これはすごい!!」と感銘を受け「いつの日かモータ制御をやってみたい」と思いました。これが、今の私を形成した原点なのかもしれません。

大学卒業後、22歳で工業高校の電気科教員になってから、その高校には、当時交流モータの速度を制御するインバータがなかったので、高校の生徒に見せたいと思って、教育用インバータを作りました。それが認められ、工業分野でだれも受賞していなかったのが幸運だったのでしょうが、平成2年「浜松市教育文化奨励賞」を24歳の時に頂きました。しかし、このインバータの作成や教育をしていくうちに、やっぱり自分は、電気工学の力が足りないので、できればモータ制御について研究して、もっと電気工学を勉強したいと強く感じるようになりました。そのため、地方公務員である教員を辞め、大学院に進学し、研究することを学び、再び、教育の世界に戻りたいと考えるようになりました。親族に相談すると、猛反対されました。それは、そうでしょう。「大学院ってどんなところなのか?」「自分は大学院でやっていけるものなのか?」などの疑問があったのはもちろん、大学院で博士を取ったからといって、再就職できる保証も何もないのですから...。でも、やはり私は変わった人なのでしょうか、実行に移してしまいました。まず、名古屋大学大学院の試験に受からなければいけません。私の親は「どうせ合格しないから高校教員のままね...」とたかをくくっていたそうですが、1日6時間勉強し、3時間睡眠を5ヶ月続けたというかなり無理をしたとはいえ、なぜか受かりました。たまたま解ける問題が出たのでしょうか...。

27歳、5年遅れで大学院に入学した後は、とってもうれしいことに、モータ制御の研究を行える大熊研究室に入ることができました。研究室では、数学があまり得意でないことが幸いしてから、普通だったら、思いつかないモータ制御法を思いついて、提案してみたところ、「そんなことを考えるのは、お前くらいなもんだ。でも、一回やってみろ」という指導教官からのありがたい一言で始めることができた研究が、「博士の学位取得」に、また、それが、この分野では結構有名な「同期モータの拡張誘起電圧」の提案に、さらに、この提案が、「電気学会論文賞受賞」に繋がっていきました。まさか、数学嫌いな私が同期モータ制御の歴史に名を刻むことになるなんて...と夢のようでした。また、高校教員を辞めるときには何の就職の保証もなかったのですが、32歳の大学院修了時には、今の岐阜高専電気情報工学科に就職でき、現在に至るまで、やりたいモータの研究を続けて『電気工学を究める』ことを目指せる、また、将来『電気工学を究める』ことになるかもしれない学生を教育する立場にいます。以上のようなことができたのは、もちろん、お世話になった先生方や先輩や後輩の皆様など周囲の皆様のご指導の賜なのですが、運がよかったこともあるのだと思います。

図5 大学院時代の学会にて(奥さんをgetした見合い写真)

余計なことかもしれませんが、27歳から32歳まで大学院にいたおかげで、大学院修了後に見合いを始めて34歳で奥さんと結婚できました。(図4は、大学院在学中の学会での発表時の写真で、これをお見合い写真にして奥さんをgetしました。)これは、絶対運がよかったのに違いない!!ねぇ、奥さん!?

かなり回りくどくなってしまいましたが、以上述べた私の経験から、『電気工学を究めようとがんばっている学生の皆様』に私が言えることは、もし、大学院に進学するかどうか選択するときがきて、進学が可能な状況にあるのであれば、私のように運良くことが運ぶ方が珍しいと思いますし、たとえ、「研究なんてたぶん面白くない」とか「勉強はもういいいや」とか「自分にはそんな難しいことはできないだろう」とか「気づいてみたら自分は数学が苦手だった」とか、その時思っていたりしても、とりあえず大学院に進学して、博士の取得までいかなくても、博士前期課程(修士課程)2年間で修士の学位まででもいいので、研究遂行能力を身につけることをお勧めします。その能力は、その後、どんな進路に進むにしても、きっと役に立つと思います。電気工学の研究を始めれば、辛いこともあるかもしれませんが、こつこつやっていれば、新しい発見が必ずあり、その度、それはとっても楽しいですし、その発見が将来の電気工学を動かし、「電気工学を究める」ことに繋がることになるかもしれません。

最後に、中学生の皆さんへ!!岐阜高専電気情報工学科に進学して、冨田睦雄研究室に入って、大学に編入学もしくは、専攻科に進学して、その後、大学院に進学して、『電気工学を究めてみませんか!?』


電気工学のヒトたち

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