世界中の人の生活を支える技術者になりたい。

2013年2月28日掲載

九州工業大学 大塚研究室は、電気工学から安全安心な社会を構築することを理念に、「電気エネルギー機器の環境調和と高度化・新機能創出」を研究テーマとして、電力・エネルギーに関する基盤的な技術から次世代の電力システム・機器に至る先端技術に関する研究を実施しています。理論と実験、基礎と応用の両輪を目指し、独創性を重視したユニークな研究を追及しています。

※2012年12月現在。本文中の敬称は略させていただきました。

きっかけは“ミニ四駆”“テレビはなぜ動く”“電気の仕事をしたい”

電気工学を志望された理由を教えてください。

清末:小学生の頃、ミニ四駆を改造して、みんなで速さを競い合うのが流行っていました。モーターを取り替えたりもしました。そういう流れで、電気に興味を持ったと思います。勉強も理系科目が得意でした。大学では、私たちの一番身近な電気を扱うことで、人の役に立ちたいと思って電気工学を志望しました。

:小さい頃、おもちゃ、携帯電話やテレビなど身の周りにあるものの多くが電気で動いているのが不思議でした。どういう仕組みで動いているのかを知りたいと思ったのが電気に興味を持ったきっかけですね。大学は、モノづくりに関わりたいと思って工学系へ進みました。

福崎:私の父は電力会社の配電部門で働いていて、小さい頃にエネルギー館に連れて行ってもらいました。また、父が台風のあとの停電の復旧作業に出かける姿などを見ていました。そこで父と同じ人の役に立つ電気の仕事をしたいと思って高専の電気電子工学科へ進学しました。高専は就職が有利というのも魅力でした。

福崎さんは高専から電気工学だったんですね。

福崎:はい。高専で5年間学んで、大学3年から九工大へ編入しました。

大塚研究室へ進んだ理由も教えてください。

福崎:高専の研究室では高電圧の研究をやっていました。大塚研究室が同じ高電圧の分野の研究室であることも理由の一つですが、決め手となったのは編入学をした先輩たちから、大塚研究室は論理的思考力やプレゼンテーション能力が鍛えられ、自分が成長できる環境と機会がある研究室と紹介されたことです。また、ソフトボール大会や学祭などイベント事に積極的に参加していることも魅力でした(笑)。

清末:研究室を選ぶ際は、就職先を考えて選ぶ人が大半だと思います。私は、就職先を電力会社や電力機器メーカーにしたいと考えていました。電力・高電圧に関するプロジェクトや企業との共同研究を実施し、設備見学や技術者との交流を積極的に行っているなど、電力会社や電力機器メーカーと関係が深い大塚研究室を選びました。また、積極的に学会参加できることや思考能力などが養われることも決め手でしたね。

:学会などに積極的に参加していること。また、研究だけでなくマラソンやソフトボール大会などの行事にも積極的な雰囲気に魅力を感じました。

2万分の1秒で自己回復する、新型ヒューズの開発

清末さんの研究を教えてください。

清末:ほとんどの電気機器には、過電流による故障や火災を防止し、安心安全に使えるように用いられているヒューズがあるのはご存知だと思います。ヒューズはヒューズエレメント(ヒューズの可溶体)を溶断して電流を遮断するため、繰り返しの使用が出来ません。ヒューズエレメントが溶断した場合には、新しいヒューズと取り替える必要があるので、宇宙や深海など人が容易に対応できない場所で使われる機器には、ヒューズを用いることは難しいのが実態です。

そのような場合には、ヒューズの代わりに何が電気機器に用いられているのですか。

清末:PTCサーミスター(周辺温度によって抵抗値が変化する素子)が用いられることもありますが、採用できる電圧では、ヒューズの方が高く、優れています。PTCサーミスターやヒューズの問題点を解決するため、溶断したヒューズの金属粒子が誘導泳動力(※)で集まって溶断前の状態に戻る、自己回復性ヒューズ(SRF:Self-Recovering micro Fuse)の開発を行っています。

どれぐらいの時間で自己回復するのですか。

清末:回復する時間は条件によっても異なりますが、2万分の1秒で回復するものもあります。また、ヒューズの素子の形状や材料選定により、ゆっくりと回復させることや自己回復をさせないこともできます。

すごいですね。この自己回復性ヒューズは、いろいろな可能性を感じますね。

こちらの装置で、自己回復性ヒューズの研究を行っています。

清末:そうですね。簡単に言えば、あらゆる電気機器の信頼性向上に貢献する可能性を秘めていると思います。また、自己回復ヒューズの開発には、自己回復する過程における金属粒子の挙動を理解する必要があります。金属粒子の挙動を理解することは、例えば、電気集塵機内での金属粉体の挙動や、変電所で用いられているGIS(ガス絶縁開閉装置)や変圧器内部の異常や事故の原因となる金属異物の挙動の理解にもつながります。

※誘電泳動とは、電気力学現象の一種で、不均一な電界中に置かれた浮遊粒子が電界の強い領域もしくは弱い領域に駆動される現象を言う。誘電泳動現象を利用した研究は、学生インタビューvol.4 九州大学 末廣研究室でも行われています。

世界初!部分放電の超広帯域電流パルス波形測定装置をつくる

福崎さんの研究を教えてください。

福崎:電力用油入変圧器を対象にして、新しい電力機器の絶縁診断技術を研究しています。油入変圧器には、1960年代後半以降に製造されたものもあります。これらはメンテナンスを重ねることで設備の信頼度を維持しながら運用されています。信頼度を維持するためには、性能・寿命を評価する技術は欠かせません。

変圧器は電力の供給に欠かせない設備ですから、信頼度の維持はとても大切ですね。

福崎:そうです。その変圧器の寿命が決まる主な要因は、絶縁材料といわれています。そのため、異常の兆候や内容を的確に検出できる絶縁診断技術を開発することで、一層の電力の安定供給が可能となります。

絶縁診断技術の重要性は、社会人インタビューのJ-POWERの方もおっしゃっていました。

福崎:それで変圧器の絶縁診断技術として、変圧器の内部で部分放電(PD)(※)が起きた際に放射される電磁波をUHF帯(Ultra High Frequency:300MHz~3GHz)で検出するUHF法というものがあります。このUHF法は、通信・放送などで使われる電波(VHF帯:30MHz~300MHz)などの影響を受けにくく、感度よく広範囲の測定ができるといった利点を持っているので、変圧器だけでなく、電力機器全般の絶縁診断技術として注目されています。
絶縁診断技術をさらに高度化するためには、PD放射電磁波の放射源であるPD電流パルス(短い時間幅の短圧波形)を正確に計測することが重要となるのです。

※部分放電とは、電力機器内部で絶縁体の劣化や、あるいは異物混入や欠陥などで高い電界部が形成されることで部分的に絶縁が壊れ、微弱な放電が発生すること。

PD電流パルスを正確に測定するには、どのようにすればいいのでしょう。

福崎:はい。そこで私たちは、UHF帯よりもさらに高い周波数であるSHF帯(Super High Frequency:3GHz~30GHz)と呼ばれる周波数帯域までPD電流パルス波形を測定できる装置を世界で初めてつくりました。SHF帯までの超広帯域測定では、広い周波数帯域と1兆分の1秒オーダの高い時間分解の計測ができるため、放電現象によるパルス電流波形をより正確に、実際の現象に限りなく近い状態で取得できます。なお、この装置は、油入機器だけなく、ガス絶縁機器中のPD電流パルス波形も正確に計測することができます。

世界初ですか!福崎さんはこの装置の開発に関わっているのですか。

変電所での実験風景。電磁環境を測定しています。

福崎:ガス絶縁機器用の装置は先輩がつくったものですが、油入機器用装置は自分がつくりました。油入機器用装置は計測実験を最初から立ち上げて、注油時の脱気処理装置も含めて、設計から装置作りまで、油漏れなど苦労も多かったですがやり遂げました。この他、この装置には、微量混合物の存在を評価できる可能性から、環境評価やバイオセンシングなど多方面に応用できる可能性があり、今後の応用展開にも期待しています。

カメラのように、電磁波放射源を写して評価する測定機器をつくる

淵さんの研究を教えてください。

:電力機器の早期異常発見に不可欠な測定機器の研究を行っています。具体的には、電力機器で発生する部分放電に伴って放射される電磁波を検出・評価して、異常の早期発見につなげる技術です。この電磁波放射源を可視化し、部分放電が発生している位置を視覚的にとらえることが出来るようにする装置の開発を行っています。この装置は、EMC(Electromagnetic Compatibility)と呼ばれる電磁環境両立性の対策にも役立てることができます。

部分放電は最終的には、電力機器の絶縁破壊の原因になるかもしれないものですよね。

:そうですね。最終的には、機器の診断結果の理解や妥当性の判断が簡単に行えるような装置の開発につながる研究になります。

技術者が助かりそうな画期的な装置ですね!
現在、どの程度、完成しているのですか。

変電所での実験風景。電磁波を測定し、部分放電の有無を調べています。

:先輩たちの研究で模擬試験でも電磁波の放射源の位置を把握できるようになっており、現在、現場への適用を考えて、変電所でも実験を開始しています。課題として、大きなノイズ環境下での信号検出の性能向上などがありますが、現場で使える測定機器となるように、日々研究しています。

充実の産学共同研究と学会参加で、本物の実力をつける

研究で印象に残っている出来事はありますか。

清末:実験中のことですが、電極間にある金属粒子に高電圧を印加すると、電極間で往復運動をする現象が観測されました。この不思議な現象は「どんな原理で発生するのか」と仮説を立て、実験・検証を行って、最終的に理論的に説明できた時は嬉しかったですね。論文も書きました。

福崎:UHF法では分からなかったことが、SHF帯までの超広帯域計測により初めて観測されるようになったり、理解できるようになって、研究すればするほど面白くなってきました。

:電力会社に入社しないと立ち入れない変電所で実験が出来たことが印象深いです。電磁気学の授業で、「○アンペアが流れる□Vの電線から△mの距離にある金属に誘導される電圧は何Vでしょう?」といった問題があるのですが、その応用的なことを実験で直に体験できましたね。

研究室の特徴を教えてください。

清末:国内外の学会参加、学術論文投稿、特許取得を数多く行っていて、挑戦的でスキル向上が望める研究室だと思います。

福崎:共同研究が盛んなので、変電所や実験設備等、大学だけでは体験できない場所で実験をすることができます。また、研究室で地元の電力会社の発変電設備や企業の工場などを見学しており、実際の機器や現場を直に目にする機会があります。

:私も二人と同じです。行動や挑戦することが奨励されていて、付け加えると実験だけでなくシミュレーション設備も充実しています。

学会の参加について詳しく教えてください。

清末:電気学会の全国大会や支部大会、研究会などに参加しました。学部4年生の夏に初めて参加した九州支部大会では、すごく緊張したことを覚えています。

福崎:自分も電気学会の全国大会と支部大会に参加しました。また、インドネシアのバリ島で開催された診断技術に関する国際会議CMD2012(IEEE International Conference on Condition Monitoring and Diagnosis 2012)にも参加しました。

国際学会は、いかがでしたか。

福崎:口頭発表という貴重な経験をしました。語学力の必要性を痛感しましたが、自分の発表に対して質問やコメントをいただき充実感がありました。学会以外では、空港で多額のチップを要求され、その額の多さに気付かずに支払ってしまったという痛い体験をしました(苦笑)。はじめての海外旅行で、日本語が通じた瞬間で安心したのが失敗でしたが、異文化の一端に触れる貴重な体験でしたね(笑)。

インドネシアのバリ島で開催された国際会議「CMD2012」にて。

福崎さんの国際会議での口頭発表風景です。

「みんなの研究を自分の研究と思え」一致団結の研究室です

研究室内の交流はどんな感じですか。

清末:研究に対しては、各自の研究についても研究室全体で共有し、みんなで協力しあいながら研究を行っていける雰囲気です。学年毎やグループ毎でよく相談しています。

:思いついたことや疑問に思ったことはその都度、先輩に相談したり、同期同士で議論したりしています。そういうことがしやすい雰囲気があります。

自分以外の研究をご存知なのですか。

清末:ええ。ですから、研究や実験、卒論などをアドバイスしたり、相談できるわけです。先生からは「みんなの研究を自分の研究と思え」と言われています。

研究室でつくったオリジナルジャンパーです。一致団結の証です。

それは素晴らしいですね。

清末:はい。研究以外では、研究室内でボウリング大会などを企画し、また、文化祭やマラソン大会などの行事に積極的に参加しています。

:あとは小倉の街中まで行って、みんなと飲んだりもします(笑)。

福崎:ちなみにソフトボール大会は現在3連覇中です!先生も応援に来てくれます。あと、今年の学祭の模擬店で人気店ランキング1位も取りましたよ。

ソフトボール大会で大塚研究室3連覇中!

筑後川マラソン42.195km完走!

どんな模擬店を出したのですか。

学祭の模擬店人気ランキングで揚げアイスが1位をとりました。

福崎:アイスを揚げる、揚げアイスの店です。1個100円・4種類位で毎年かなり売れます(笑)。

(笑)。皆さんの毎日の生活はどんな感じですか。

清末:私は修士1年時に卒業に必要な単位を全て履修しているので、現在は研究と後輩への指導に集中しています。以前はアルバイトもやっていました。研究の計画を立てているので、サークルやアルバイトとは両立はできていますよ。

福崎:平日は学業や研究に集中し、休日はサッカーサークルに参加したり、アルバイトもやっています。

:授業と研究が中心ですが、息抜きもしています(笑)。基本的に10~16時のコアタイムは研究室に来ています。私もアルバイトをやっています。

電気は就職先の分野が広く、社会に貢献できる機会が多い

電気工学を学んで良かったことを教えてください。

清末:実験で初めて発見した現象など、説明が難しいものに関して仮説を立て、理論的に説明できる力が身についたことです。特に、私たちの研究は他ではやらないことをやっているので、パイオニアとしての自負と喜びはあります。

福崎:講義や研究で、電気の専門知識を深めることができたことですね。実験中は、感電の危険が伴うことも理解できるようになりましたし、生活面では静電気対策や電気代の節約、節電などに役立てることができました。

:電気工学を学ぶまでは電気が使えることを当たり前に感じていました。その電気の当たり前が、高度で重要な技術で支えられていることに気づけたのは良かったと思います。

最後に将来の夢を教えてください。

清末:私は電線やケーブルなどを扱うメーカーに就職が決まりました。将来は自らが開発した電線やケーブルで社会基盤を構築し、世界の人々の生活を支える開発者になりたいと思っています。途上国や新興国などに役立つ仕事をしたいですね。

:大学院へ進学後、就職を考えています。就職先としてはやはり電機メーカーです。将来の夢としては、社会的に必要不可欠な技術、人々の生活の中で存在することがあたりまえだと思われるくらい重要な技術を開発したいですね。

福崎:就職を考えています。どの企業かはまだ決めていませんが、メーカーを希望しています。これまでの自分の研究を活かして、新たな電力機器の絶縁診断技術を提案し、それが国際標準となるように技術を向上させたいです。また、絶縁診断に関して、日本の技術力の素晴らしさを世界に知らしめたいですね。

素晴らしい夢ですね。電気工学はやはり就職は強いですか。

福崎:そうですね。高専から見ていますが、就職先の分野が広く、将来社会に貢献できる機会が多いと思います。自分の知り合いも、電力会社、電機メーカー、鉄鋼業はもちろんですが、ちょっと意外と思うようなところではパン工場で働いている人もいます。パン工場も電気設備が必要ですから。

ぜひ皆さんも素敵な夢をかなえてください。本日はありがとうございました。

大塚 信也

国公立/福岡県
九州工業大学 大学院 工学研究院 電気電子工学研究系電気エネルギー部門

大塚 信也准教授(おおつか しんや)
大塚研究室は電気工学的アプローチによる安全安心な社会構築を理念に、「電気エネルギー機器の環境調和と高度化・新機能創出」を研究室テーマとして、研究および学生教育を行っております。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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