電気工学で世界を舞台に活躍したい。

2011年4月22日掲載

東京電機大学 加藤研究室は、"エネルギー、環境"をテーマに、2006年に開設された研究室です。「エネルギー環境システム研究室」という異名をもち、若い研究室らしく既成概念にとらわれない発想で、人類が直面する環境問題に取り組んでいます。

※2011年1月現在。文章中の敬称は略させて頂きました。

地球環境問題を電気工学で解決したい!

皆さんは、なぜ電気工学を志望されましたか。

井上:私は、主に2つの理由があります。一つは、中学のときに電気の実験で「面白いなぁ」と思って興味を持ったことです。「直列や並列で豆電球がどう点くか」といった実験です。もう一つは、環境問題を解決する切り札として、電気にスポットが当たっていたので、電気工学へ進学しました。

児島:私の場合は、工学部には行こうと思っていたのですが、電気工学科は特に決めていたわけではありません。ではなぜ電気にしたかというと、ちょうど高校2年~3年のときに、太陽光や風力発電、電気自動車などが話題になっていたため、電気工学科に入ろうと思いました。

2005年頃の話ですね。坂本さんは学部4年ですね。

坂本:はい。私の場合は、物理が好きだったので、工学部へ行こうとは決めたのですが、最初は、機械工学科と電気工学科で迷っていました。なぜ電気を選んだかというと、祖父と父が電気関係の仕事をしていて、父親に「電気はウソをつかないぞ」と言われた事がきっかけです(笑)。

もっとも新しい、エネルギー環境システムの研究

井上さんの研究内容を教えてください。

井上:私は、「太陽光発電出力の電圧制御手法」を研究しています。まず、太陽光発電というのは、短時間で大きく出力が変動しやすいものです。例えば、雲が1個、太陽を横切るだけで、出力が変化します。

雲が少し通っただけで太陽光の出力変動というのは、変わるものなのですか。

井上:変わりますね。70~80%ぐらい変動します。多いときは80%ぐらい出力が落ちるときもあります。

そんなに出力が落ちるのですか!

井上:ええ。このように出力が大きく変動するものですから、従来の電圧制御方法では、この先、さらに普及していくと電力系統での対応がなかなかできないと言われています。一方で、需要側は時間によって、電力の消費量も変わっていきます。そこで私は、この時間的変化も考慮した、太陽光発電出力の電圧制御手法を研究しています。

具体的にどのように研究されているのですか。

井上:太陽光の出力に関しては、東京・神田キャンパスの屋上で実測してデータ取りをしています。季節によっても変わるのですが、週1回、2~3時間ぐらい実測します。そして、このデータを基にPCでシミュレーションを行うという流れです。時々、校舎の前にある警察署によって、太陽が遮られて困る時もありますね(笑)。

児島さんの研究内容を教えてください。

児島:オフィスや学校、病院、ホテルなどの施設は、どうしても暖房、冷房、お湯などで、膨大な電気やガスを使用します。これは環境にも経済的にも良くないですね。そこで、こうした施設に対して、「コージェネレーションシステム(CGS※)や、蓄電池(※)貯湯(※)氷蓄熱(※)などのシステムで、エネルギーを有効活用する」研究を行っています。

どのシステムも新しいものですね。

児島:そうですね。私は、これらの新システムの最適な組合せや運用計画などを検討して、経済性評価も行っています。

具体的にどのように研究するのですか。

児島:PCによるシミュレーションです。ただ、オフィスや学校、病院、ホテルなどの施設のエネルギーデータを手に入れることが大変で(苦笑)。

普通、公表されないものですね。

児島:はい。数少ない文献を探したり、ホームページで見たり、自分でゼロからデータをとってシミュレーションしています。だから、データ収集が大変です。特に他人を納得させるまでのレベルに持っていくことが難しいですね。

※コージェネレーションシステム(CGS)
1種類のエネルギー源から複数のエネルギーを取り出して利用するシステムのこと。一般的には石油燃料・ガス等を用い、発電と排熱利用を行うシステム。 詳細は、電気工学用語集

※蓄電池
繰り返し使える二次電池のこと。詳細は、電気工学キーワード

※貯湯
貯めたお湯で、日中の冷暖房などに使用するシステム。

※氷蓄熱
電力消費の少ない夜間に製氷して、それを溶かして冷房などに利用するシステム。

自由な発想と若い感性で、環境問題に挑む

坂本さんの研究を教えてください。

坂本:私は、「風力発電や太陽光発電などの再生可能電源の経済性を評価する」研究です。風力発電や太陽光発電は、出力が天候に左右されます。そのため、現在の電力系統に組み込んだ場合、周波数や電圧、潮流などに乱れがあると予想されます。これを電力品質の低下といいます。

電力品質が低下するとどうなるのですか。

坂本:停電や、電力機器への悪影響、需要家に質のいい電気が送られなくなるなど、多くの問題が発生します。そこで、下がった電力品質を正常な状態へ戻す場合、どれくらい対策費がかかるのかを計算することが私の研究です。

再生可能電源の場合、どうやって、電力品質の低下を戻すのですか。

坂本:再生可能電源の場合、出力の調整が難しいので、既存の火力発電所で調整していきます。これにより、調整分の燃料費がかかってしまうわけです。その燃料費がどれくらいかかるのかを研究しています。

具体的にどのように研究するのですか。

坂本:文献を元データに、PCによるシミュレーションです。加藤研究室は、ほとんどの人が、マトラボ(MATLAB)という数値解析ソフトウェアを使用しています。

みなさん、とてもユニークな研究ですが、これは先輩の研究を引き継いだものなのですか。

坂本:私は先生からすすめられたテーマですが、自分で考えて決めた研究です。

井上:私も同じです。先生からアドバイスは頂きましたが、基本的に自分でつくった研究テーマです。

児島:私もそうです。うちの研究室の特徴は、研究内容が個々人で違うことだと思います。「エネルギー環境研究室」のテーマに沿う内容であれば、基本的に自由にやりたい研究がやれます。ですから、みんなの研究がすごく刺激になりますね。

これまで研究していて、一番印象に残っていることを教えてください。

坂本:私は、研究室へ入る前は、地球環境問題を解決するためには、太陽光や風力といった再生可能エネルギーは絶対的なものだと思っていました。でも、研究するようになってから、デメリットや課題を知りました。このことが一番の驚きでしたね。

児島:私も同じで、エネルギー・環境問題に対して視野が広がったと思います。それから、シミュレーションが、計算の積み重ねによって成立することを知った時は驚きました。シミュレーションは、失礼な話ですが単純作業だと思っていました(苦笑)。

井上:自分で実測してみて、太陽光とはこんなにも扱いにくい電力なのか痛感しました。だから、ふたりと同じですが、地球環境問題というのは大変なものだと改めて感じましたね。

はじめての海外が、国際学会でした

企業と提携されて研究をされていますか。

井上:私は電力会社と共同でデータ開発をしています。打合せのとき、社会人の方から「このデータは、ここが違うと思う」といった実務に近い観点でアドバイスを頂くと非常に勉強になります。また、企業の方から「今こういう課題があるからやってみないか」という感じで提案を頂くこともあります。

学会活動について教えてください。

井上:私たちの研究室は、院1年のときに電気学会・全国大会へ。2年のときに国際大会へ参加しています。私は、昨年、児島君とともに韓国で開かれた大会へ参加しました。

参加されて、印象に残ったことがあれば教えてください。

児島:まず、初めての海外旅行でした。それが一番印象深いことですね(笑)。それから、他大学や企業の研究者の方達と交流できることですね。自分が気づかなかった課題などを質問していただいて新しい発見があります。ただ英語が苦手なので、相手に自分の思いが伝わったかどうか、今でも不安です(苦笑)。


井上さんは、いかがですか。

井上:私は、実は工学部を志望した理由のひとつとして、英語が嫌いだったということがありました(笑)。

「まさか海外へ行かされるなんて!」という感じですか(笑)。

井上:そうですね。加藤先生に「英語なんとかしろよ!」って言われながら発表しましたが、結局、先生に質問の対応などを全部やっていただいて、悔しかったです(苦笑)。ただし、すごくいい経験をしたことは確かです。

のびのびと自由に研究できる環境です

普段のコミュニケーションについて教えてください。

児島:飲み会は、定期的にテスト前や発表後に開催します。最近ようやくOB会をやりはじめました。

坂本:うちの研究室は、2006年開設とまだ日が浅いので、OBの人も、歳が近く話しやすいですね。OB会では、社会人、学生、先生と様々な立場の人と話すことがとても有意義です。

設備面はいかがですか。

井上:パソコンは、一人一台です。それから、大容量データを保管・保存できるストレージシステム(NAS)を構築しています。

すごいですね!企業並みです。

井上:今の研究室は、データが命ですから。PCでの研究が思う存分できる環境だと思います。

一日のスケジュールや、余暇の過ごし方についても教えてください。

井上:うちの研究室は、しっかりと研究結果を出して先生に報告すれば、あとは自由です。先輩の中には、アルバイトで月十何万稼いだ方もいました(笑)。逆に、研究室へずっと入り浸っている人もいます。やることをしっかりやれば、自由に色々なことができます。私も、学生生協でバイトをしています。

学部4年の坂本さんはいかがですか。

坂本:アルバイトは、研究に影響が出ないように短期のものをやっています。一日のスケジュールは、私の場合、午前中は英語や電気関係の資格の勉強をして、昼ぐらいから研究を始める感じです。最後、帰るときに、院生の方へその日の研究結果を報告して終わります。学部生の研究は、院生のフォローがあるので心強いです。

児島:私は特にサークルもアルバイトもやっていませんが、やることさえしっかりすれば自由な研究室だと思います。

電気工学は就職に強く、国際的に活躍できるスキルです

電気工学を学んでよかったと思うことを教えてください。

井上:やはり、このご時世なので、電力会社に就職できたことです。

児島:私も自動車会社へ就職が決まりました。「電気工学科は就職には強い」とよく聞きますが、実際に就職活動をやってみると、電気工学科を募集してない会社がほとんどありませんでした。

井上:私も、極端な言い方ですが「どこに行ったらいいのかな」と迷うぐらいでしたね。

坂本さんは、電気工学を学んでよかったと思うことは何ですか。

坂本:二つあります。一つ目は、現代社会が電気で支えられていることに気づけたことです。もう一つは、就職です。発電所建設に携わる会社で、国際的に活躍できる仕事に就けました。電気工学は国際的に仕事ができるスキルですね。

最後にこれからの夢を教えてください。

坂本:今の就職の話の続きですが、まずは国内で力をつけて、将来的に海外で仕事ができたらいいなと思っていいます。先進国、途上国問わず、発電所を建設して電気を供給することによってその国を豊かにできればと考えています。そして、日本の技術を世界へ証明していきたいです。

児島:私は、電気自動車や燃料電池自動車など、次世代の自動車開発に携わりたいです。ですから、電気工学科出身であるということは大きなアドバンテージだと思っています。

井上:あくまで夢ですが、日本だけでなく世界で活躍できる電力会社をつくれたらなと考えています。そして、アフリカなど発展途上国へ電力を供給したいと思っています。

皆さん、4月からの社会人としての活躍を楽しみにしています。ありがとうございました。

加藤 政一  教授(かとう まさかず)

私立/東京都
東京電機大学 工学部 電気電子工学科

加藤 政一 教授(かとう まさかず)
当研究室は、2006年に開設された非常に「若い」研究室です。エネルギー、環境というテーマを対象としているだけに、新しい発想で研究を進めています。2010年度は、大学院生13名(うち留学生2名)、学部生12名の、総勢25名で活動しています。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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  • 風力発電
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