株式会社 三菱総合研究所
2013年2月28日掲載
『リング』や『マトリックス』で
未来社会への形成に
興味を持ちました。
渡邊 裕美子さんは、三菱総合研究所の現役研究員でありながら、研究員としてさらなるスキルアップを図るため、2012年に東京大学の博士課程に入り、エネルギー関連の研究もされている、とても研究熱心な女性です。「三菱総合研究所では、社会人大学院生を学費面で支援する制度があって多くの社員が私と同じようにこの制度を利用しています」とのこと。
まさに現役バリバリの女性研究者の渡邊さん。理系へ進んだきっかけを尋ねると「数学や理科はなんとなく好きでした。中学時代にWINDOWS 95が発売され、話題になっていたので流行を追った感じです」という意外な答えが返ってきました。
技術者・研究者としてのビジョンを持ちはじめたのは、高校に入ってからだそうです。
「工学部に進もうと思ったのは、進学を意識した高校2年の頃です。当時、SF映画『マトリックス』や、ホラー小説『リング』、SFアニメ『エヴァンゲリオン』などが流行していて、自分も未来の人工知能や人工生命体といった話に興味があって、工学部へ進みました」。
水力発電所に感銘。
電力・エネルギーを学びたい!
未来社会に思いをはせた渡邊さんは、東京大学工学部に入学されました。学部3年生からの専攻を考える際に、渡邊さんは、電子情報工学で人工知能を研究・開発したいと考えていました。ところが、専攻を選択する直前に、学校の設備見学ツアーで訪れた電源開発(株)の奥只見発電所を見てとても衝撃を受けて、電気工学の道へ進まれたそうです。
「水力発電所のダムの大きさに圧倒されたのが率直な感想でした。それ以上に、自然を電気エネルギーに変換する水力発電所の機器を見て、大きな感銘を受け、電気など現代社会を支えるエネルギーを学びたい!と閃いたのです」という渡邊さん。これをキッカケに電気工学科を選択。学部4年生では、山地研究室に入り、エネルギーシステムについて研究されました。「エネルギーシステムの研究とは、簡単に言えば、電気だけでなく石油などの化石燃料も含めたエネルギーをいろいろ組み合わせて、社会にとって最適になるように考えることです」。
電気工学科は
女性が少ないけど、
メリットもたくさんあります。
さて、電気工学科を選択された渡邊さんですが、女性の少なさに驚かれたそうです。
「電気系3学科(電気工学科、電子情報工学科、電子工学科)を専攻した女性は100人中6~7人。留学生の方がそのうち4~5人でした。山地研究室では女性1人でした。高校までずっと男女共学だったこともあり、本当にびっくりしました。」。
その女性の少なさがメリットとなる面もあります。「クラスでも研究室でもOBの方でも、とにかく覚えてもらえますし、注目もされます。これは結構、得だと思います。」。また、「毎年の研究室旅行や山地先生のお宅でのバーベキューパーティーというイベントなどもあり、みんなと仲良くなるきっかけは、沢山ありました。また、大学には授業やサークルなど女性との接点も、色々とあります。女性でも安心して電気工学科へ来ていただけますよ」とお話されていました。
そしてもうひとつ驚いたこととして、「授業の一環で、秋葉原へ行って電子部品を買って電気工作をしたことです。今となっては、かなり貴重な経験でした。」とのご体験も披露してくれました。
エネルギー問題を
研究する、
社会人研究員として
そして、現在のお仕事である三菱総合研究所でのお仕事について、教えていただきました。「2008年より再生可能エネルギー(太陽光、風力発電、バイオマス等)の導入拡大を中心に調査・研究しています。海外の再生可能エネルギー関係の政策調査や導入のシミュレーションなどを行い、提言を行っています」。
「再生可能エネルギー関連の調査は、学生時代の研究にもつながり、三菱総合研究所が2009年に発表した『エネルギー環境ビジョン』というプロジェクトに参加できたのも、私が学生時代に研究していたモデルを使ってシミュレーションするプロジェクトだったからです」。この『エネルギー環境ビジョン』は、2050年のエネルギー需給のシミュレーションを民間のシンクタンクが行うという画期的なものでした。
学生時代と異なることは、「学生の時は色々と問題点を指摘されるだけで、褒められることはほとんどありませんでしたが、仕事では、お客様から直接褒められることがあり、とてもうれしいですね」。
環境・エネルギー問題から、再生可能エネルギーが注目されていますが、この再生可能エネルギー導入を進めるためには、我々の覚悟や負担も必要だとお話されていました。今後の渡邊さんの研究に、目が離せません。
“電気工学が分かる"ことは
自信につながる
渡邊さんは、現在、東京大学の博士課程に入られ、岩船由美子准教授の研究室を選ばれました。「東大の博士課程へ入ったのは、海外では学位(博士課程修了)を習得していることが研究員のスタンダードと言われていることも目的のひとつでした」とのこと。岩船研究室を選ばれたのは、岩船先生も山地研究室の出身者で、エネルギー関連の研究をされているからだそうです。
「岩船研究室は、女性の先生の研究室らしく、清潔感があります。また、私が学生だったときは考えられない位、女性が多く所属しています」。
最後に電気工学へ進む女性へアドバイスをいただきました。「電気は他の工学分野と比べると、長い歴史を持つ学問です。そういう伝統のある分野で頑張っていると、“電気工学が分かるんだ”という自信につながると思いますよ」。そして「目に見えるもの、動くものを作るのも楽しいですが、電気工学は、その先にある“ひとがより良く暮らす未来を思い描く”こともできます。ですから男性だけでなく、もっと多くの女性の皆さんに活躍してほしいと思います」と力強く話してくれました。渡邊さんの今後の活躍が一層期待されます。
わたしの研究
卒業論文
私は、「確率計画による国際的エネルギーセキュリティ向上に関する研究」をしていました。世界全体のエネルギー需給をテーマにしたシミュレーションによる研究です。例えば日本は、中東から化石燃料の8割ぐらい頼っているわけですが、その中東で紛争が起きると日本のエネルギー需給はどうなるのか。
こういったことをシミュレーションで評価します。確率計画とは手法の名前で、震災や戦争、事故などのリスクが起こることを確率的に表して、それをシミュレーションに取り込みました。この研究は、2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件に発する、アフガニスタン紛争やイラク戦争が背景にありました。
修士論文
「マルチエージェント強化学習による長期電力需給モデルの構築」です。1995年より日本でも電力供給の自由化が始まりましたが、これにより、小さな発電事業者が参入することが想定されます。そのあたりの制度が整ったときに発電事業者がどう参入行動するのかシミュレーションを行いました。マルチエージェント強化学習とは、参入するエージェント(発電事業者)が、どんな行動が最適なのかをシミュレーションを通して学習することです。簡単に言えば、自分の利益を最大にするように行動せよということをプログラミングしたわけです。
現在の博士課程の研究
研究テーマは、「地域のエネルギー需給の在り方」です。ここでいう地域とは、地方の小都市を想定しています。今は過疎化までにはなっていない都市ですが、今後少子高齢化の大きな影響を受ける地域です。こうした課題を抱える中、どのようなエネルギー需給が実現すれば最適なのかを都市単位、地区単位のシミュレーションを組み合わせて研究しています。このテーマは、私の故郷がこうした地域でなんとか解決できないかと思って設定しました。
渡邉さんのある一日
7:00 | 起床。朝ご飯とメールチェックです。TOEICの試験を受けるため、勉強をしています。 |
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9:30 | 出社。メールチェック。 |
11:00 | 社内会議。明日は、お客様のところで打合せ。打合せが非常に多い仕事です。 |
12:00 | ランチ。赤坂は韓国やタイなどの辛くて美味しい料理がいっぱいです♪ |
14:00 | 社外会議。有識者の方と色々と意見を伺いました。 |
17:00 | 有識者の意見を報告書へ反映。 |
18:00 | 各国の政府が出している公式資料や、国内外の研究機関が出しているレポートを調査。プロジェクトは、通常、短いもので2~3ヶ月。長いもので約1年かけて報告書を作成します。 |
20:30 | 退社。基本的にスケジュール管理は任されています。本日は早めに帰社して友達とディナー。今日のディナーのカロリーは、明日のマラソンで消費します。 |
渡邊 裕美子さんのこれまでの歩み
2000年 | 東京大学理Ⅰ入学 |
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2004年 | 東京大学電気工学科卒業 |
2006年 | 東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻修士課程修了 |
2006年 | 株式会社三菱総合研究所入社(在籍中) |
2011年10月 | 東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻博士課程入学 今に至る |
関連リンク
- 株式会社 三菱総合研究所公式HP
http://www.mri.co.jp/ - 東京大学 岩船研究室公式HP
http://www.iwafunelab.iis.u-tokyo.ac.jp/ - 東京大学工学部 旧山地研究室公式HP
http://www.iwafunelab.iis.u-tokyo.ac.jp/yamaji/index_j.html
バックナンバー
- 工学系女性が普通になる社会へ変えていきたい
- 人を驚かせるようなものづくりに挑戦したい。
- 電気工学を活かして技術の発展に女性の視点を反映したい
- 変電技術者として変電所の運営に携わり、電気のある明るい生活を支えていきたい。
- 誰からも認められる女性技術者となり、 発展途上国の人々の暮らしに貢献したい。
- 電気工学の知識をもっと身につけ、 信頼される技術者になりたい。
- 世界中のヒトに信頼される、建設機械を設計したい。
- 新しい制御技術で、 環境にいいクルマを実現したい。
- 世界の産業を支える 技術者として活躍したい。
- 宇宙を駆ける、世界初のものづくりをしたい。
- ひとがより良く暮らす未来を電気工学でつくりたい。
- 結婚しても、大好きな研究をつづけたい
- ものづくりの現場に、 電気の専門家として貢献したい。
- 電気工学で、地球環境を守りたい。