ものづくりの現場に、 電気の専門家として貢献したい。

2012年6月29日掲載

中学時代に電気の面白さに目覚め、高専から大学へと勉強を続けた、木下遥さん。仕事として選んだのは、製造現場の近くで量産のサポート役として貢献する道でした。現在、電気の専門家として最前線で活躍中です。
※取材は、兵庫県尼崎市にある三菱電機株式会社・生産技術センターで行いました。

プロフィール

2006年3月
福井工業高等専門学校 電気工学科卒業
2008年3月
千葉大学 工学部 電子機械工学科卒業(劉研究室)
2010年3月
千葉大学大学院 工学研究科 人工システム科学専攻 電気電子系コース修了(劉研究室)
2010年4月
三菱電機株式会社 入社
2010年7月
三菱電機株式会社 生産技術センター パワーモジュール・システム技術推進部 システム実装グループ配属
2012年4月現在
三菱電機株式会社 生産技術センター システム実装技術推進部 パワエレ機器技術グループに勤務(LED照明、エレベーターなどの電源回路設計業務)

※2012年2月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

電気は子どもの頃からの夢、史上最年少で技術士一次試験に合格

まず、木下さんが電気工学に興味を持ったきっかけを教えてください。

木下:電気との出会いは、小学生の時に読んだ『発明超人ニコラ・テスラ』というマンガでした。電気の魔術師と呼ばれた発明家のニコラ・テスラ(※)を描いたもので、学研の雑誌『科学』に掲載されていました。これを読んで、電気という分野は面白そうだと思ったのが最初でした。

※ニコラ・テスラ/19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍した科学者。磁束密度の単位テスラ(記号T)の由来として有名。

学研のマンガから入ったのですか。

木下:はい。次が中学校の技術課程の授業で、モーターや蛍光灯について学んだことです。先生がかなりユニークな方で、蛍光灯を電子レンジに入れたりして、電気のことを楽しく教えてくださいました。抵抗のカラーコードなども全部覚えさせられて、電気のことをずいぶん教わりました。

その後、高専の電気工学科に進学されましたね。

木下:ええ。手に職をつけよう、それには電気がいい、と考えて進みました。私の地元は、ほとんどの人が公立学校に進むという地域でしたから、高専というのは異色でした。

高専は女性が少ないですが。

木下:はい。親はずいぶん心配しましたね。でも押し切りました(苦笑)。

高専の3年生で技術士の一次試験に合格されていますね。

木下:ええ。これは今の仕事を志すことにもつながっています。そもそも技術士一次試験を受けたのは、中学時代に図書館で手にした本に「技術士はレベルの高い資格」とあったことです。そして次に、書店で買った本にも「高校生では技術士一次試験には受からない」と書いてありました。それなら高専で勉強して受けたら、最年少の合格者になれるかなって思ったのです。そういう自信を根拠もなく持てる年頃でした(笑)。

でも、その夢を実現されたのですから、素晴らしいですね。

木下:ちょうど試験制度が変わって記述式からマークシート方式になったこともあり、高専3年生の時に合格できました(当時の史上最年少)。そして、そのお祝いの席で出会ったのが、港湾で電気設備管理の仕事をしている技術士の方でした。その方が、私を職場へ連れて電気設備を見せてくれたのです。石炭を積み上げるクレーンなどですね。その中で一番感動したのが“アクティブフィルター(※)”でした。

アクティブフィルターですか。

木下:石炭を積み上げるクレーンはモーターを回して動かしているのですが、その時に、ものすごい高調波が出て、周辺の変電所や電気設備で「ビーン」という音が鳴っていたそうです。そこでアクティブフィルターを導入したところ、その音がぴたっと消え、設備の力率も1になったと聞きました。私はそれまで、電源は機械が普通に動けば良いと思っていましたが、機械の正常動作のために安定した電源がいかに重要であるかがわかりました。パワーエレクトロニクスを志すきっかけになりましたね。

※アクティブフィルターとは・・・特定の電気信号を取り出す能動型のフィルター回路。

学生時代はパワエレ研究に没頭しました

高専時代はどんな研究をされていましたか。

木下:制御工学の研究室に入り、倒立振子や、コラボ電卓という海外の電卓を使ってラジコンを動かすというようなことをやっていました。

高専を卒業後、千葉大学の電子機械工学科に入られましたね。

木下:はい。当時の千葉大は、電子機械工学科という名称で電気と機械がくっついていました。電気の勉強を続けるなら機械のことも知っておいたほうがいいかなと思い、好きな電気をメインにして機械も一緒に学べる学校を選びました。

千葉大学ではどのような研究をされていましたか。

木下:千葉大学でも制御系の研究室に入り、昇圧型DC-DCコンバーター(※)のリップル低減と、起動の高速化の理論研究に取り組みました。昇圧型DC-DCコンバーターは自動車をはじめ様々な機器に使われており、その電流の中に含まれるリップル、つまり脈動をいかに低減するかという研究です。一方、起動の高速化とは、機器のスイッチを入れた時、電圧が上がりすぎないようにしながら起動時間をいかに短くしていくかという研究です。

※DC-DCコンバーターとは・・・直流電源を別の電圧の直流電源に変換する装置。昇圧は電圧を上げ、逆に降圧は電圧を下げること。

研究室時代で印象に残っているのはどんなことでしょう。

木下:当初は指導教官の指示で降圧コンバーターと同じ制御方法を用いて昇圧コンバーターを制御しようとしたのですがうまくいかず、出発点に立ち返ってオリジナルの制御方法を考えてやってみたら、うまくいったことがありました。ただ、指導教官とはよくもめました(苦笑)。喧嘩に近い感じで、先生とディスカッションしていました。

いまどき、珍しい学生ですね(笑)。

木下:ええ。でも、なぜか先生には気に入られて面倒を見ていただきました。また、時々自分の研究室を抜け出して、隣のパワエレ系の研究室(千葉大学 佐藤研究室)に入り浸っていたのもいい思い出です。いつの間にかそっちの研究室にもなじんでしまって、飲み会にも毎回誘われるようになっていました(笑)。

製造現場をサポートするプロフェッショナルとして

三菱電機へ入社された2010年。リーマンショック後の就職氷河期ということで、就職活動は大変だったようですね。

木下:パワエレで大電力を扱う企業を志望していたので、東芝三菱電機産業システムさんを第一志望にしていました。ところがリーマンショック後ということで採用がはっきりせず、求人が出ませんでした。そこで、今のうちに親会社の研究所も見ておこうと思って三菱電機を訪問し、今の私が所属する部署を見学しました。すると翌日に「よかったら来ませんか」と(笑)。

すごい!予想外の展開でしたね。

木下:ええ。後でたずねたら「最初は硬かった表情が、実験室に入った瞬間にものすごく嬉しそうに変わったのがよかった」などと、評価されたそうです。私はというと、小型でも電源を扱っている部署だったことと、工場の現場から仕事をもらっていること、実験室でははんだごても握れるといったところがいいなと思いました。

現在のお仕事を教えてください。

木下:主な仕事は、LED照明用電源の開発です。私たちが直接に製品を作るのではなく、三菱電機の各事業所や関係会社からの依頼で開発を行っています。実際に量産化するためのサポートですね。

三菱電機さんの各事業所のお仕事となると、出張も多そうですね。

木下:はい、普通は1~2週間に1度ですが、多い時は週のうち4日間も行くこともあります。行き先は日本全国ほとんどです。工場へ行って、技術者の皆さんとどうやって量産化にもっていくかを、打ち合わせします。内容によっては数日間滞在して詰めていきます。

今までお仕事をされていて、印象に残っているエピソードを教えてください。

木下:弊社にはトレーナー制度があり、入社して3年間は先輩からマンツーマンで指導を受けることになっています。ところが私が2年目の時、その先輩が他の仕事に忙殺されてしまって、LED照明の電源を一人で設計することになってしまったのです。

それは大変ですね!

木下:はい。お客様の前ですから、たとえ経験がなくても、「電源設計の専門家です」という顔をしなくてはなりません。出張も私一人で行き、依頼元の事業所でベテランの技術者の方と打ち合わせをしました。まわりの方の力添えがあって、何とか仕事は遂行できましたが、自分の作った回路がそのまま製品となって量産されるプレッシャーは、忘れられません。設計資料を残すことの大切さや納得するまで考え尽くすことの重要さなどを学ぶことができましたね。

自分の携わったものが製品となって市場に出るというのは、やりがいがありますか。

木下:はい、あります。ただ、製品作りの主役はそれぞれの事業所や工場ですので、私たちはあくまで陰ながらお手伝いさせていただく立場です。そこが難しいと同時に面白さでもありますね。

三菱電機のLED照明製品「EL-G3000WM」の外観です。

LED照明製品「EL-G3000WM」を開けると、木下さんが手掛けた電源が入っています(赤線で囲っている箇所です)。

電源内の回路を特別に見せていただきました。
電気回路は電気工学の基本です。

数式にくじけないで!ある日突然、電気がわかる日が来る

学生時代の電気工学の勉強は、現在の仕事にどのように活かされているでしょう。

木下:一つはDC-DCコンバーターの研究をしていたため、電源回路動作の理解がスムーズにできたということですね。そしてもう一つが、電子工作やマイコンプログラミングをやっていたため、ソフトウェア関係の仕事に1年目から携われたことです。そんなふうに、私の場合は学生時代の勉強が幸運にも今の仕事に直結していると感じます。

電気工学を学んでいてよかったと思うことはありますか。

木下:電気は数式で表せますから、論理的思考力が鍛えられます。例えば何かの機械が動かなかったら、これだからこうと論理的に順序立てて考えられると思います。また電気に限った話ではないのですが、学生時代から日本技術士会という団体に所属していたことが、私にとってはプラスでした。向上心あふれる技術者の方々にたくさんお会いできたからです。

東日本大震災によって、お仕事上での変化はありましたか。

木下:直接的には部品が入手困難になって、手に入る部品に置き換えて製造する事態に直面しました。環境面では、太陽パネルなどを置いて事業所内のスマートグリッドを進めたり、ディーゼル発電気の設置台数が増加したことなどがあげられます。

今後のお仕事のテーマを教えてください。

木下:まずは、今手掛けている、リアクトルの設計ができるようになって、今年中に一人前の電源技術者の仲間入りをすることです。それから、モノを見ただけでコストや加工法、よりよい設計や製造法について即答できるようになりたいと思います。あとは機械設計技術者の資格も取得したいですね。やはり機械あっての電源ですから、機械のことも知っておかないと。

最後にこれから電気工学を学ぼうという方にメッセージをお願いします。

木下:電気って、よくわからない数式がいっぱいあって、取っつきにくいんです。私もそうでした。でも、2年、3年と続けているうちに、ある日、突然面白くなるんです。機械だったらどう動くかが目に見えますが、電気というのは頭の中でわかります。それがものすごく面白く感じられる瞬間が来ます。だからあきらめずに、ぜひ続けて欲しいと思います。

これからも常に前向きの姿勢を忘れずに目標に向かって頑張っていただきたいと思います。
今日はどうもありがとうございました。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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