電力の安定供給を支えたい。

2012年9月28日掲載

J-POWER(電源開発株式会社)は、北海道から沖縄まで、日本全国に発電所を持つ卸電気事業者です。また海外での電気事業も50年以上にわたって行っています。今回ご登場いただいた加藤 理さんは、入社以来、発電現場の最前線で活躍。東日本大震災も経験されました。現在は発変電設備の診断設備の開発に携わっており、電力の安定供給への使命が随所に感じられるインタビューとなりました。
※取材は、電源開発株式会社 茅ヶ崎研究所にて行いました。

プロフィール

2005年3月
名古屋工業大学 工学部(第一部) 電気情報工学科(現在:電気電子工学科)卒業
2005年4月
電源開発株式会社 入社
2005年8月
電源開発株式会社 東日本支店 奥清津電力所
2005年10月
株式会社JPハイテック 出向
2008年3月
電源開発株式会社 東日本支店 東地域制御所
2011年12月
電源開発株式会社 技術開発部 茅ヶ崎研究所 発変電・系統技術研究室

※2012年7月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

情報を志望したら、実際は電気でした(笑)

まず、加藤さんが電気工学を志された理由から教えてください。

加藤:進学を考えた時期が、ちょうどインターネットや携帯電話が急速に普及した頃でした。そこで、自分もこの流れに乗ろうと「情報工学」を志望しました。ところが入学したのが工学部の電気情報工学科で、「電気工学」と「情報工学」がセットになっている学科だったのです。これが電気工学との出会いです(笑)。

情報工学専門の学科には行かなかったのですか。

加藤:「情報工学」専門の学科もありましたが、なぜ選ばなかったのかは自分でもよく覚えていません(苦笑)。

実際には電気と情報、どのような割合で勉強されたのでしょうか。

加藤:実際にはほとんど電気を専門とする学科だったので、電気工学(電気回路、電磁気学など)をメインに学んでいました。情報系の勉強は言語を使ったプログラミング位でしたね。

いかがでしたか。正直いって失敗したと思われたとか(笑)。

加藤:いや、学んでみると意外と電気は面白いものだと思いました。というのは、電気は実験やシミュレーションの結果が測定したら、必ず出てくるものです。見えない電気が、形となって現れるのは刺激的でしたね。

電気工学と他学科との違いや共通点は下記をご覧ください。

国際色豊かな研究室で、太陽光発電の材料研究を行う

加藤さんは、学部卒ですから研究室は1年弱いらっしゃいましたか。

加藤:そうですね。大学4年のときです。電気工学に出会ったおかげでエネルギー分野に興味を持ち、太陽光発電の研究をしている研究室へ行きました。

それでは、どのような研究をされていましたか。

加藤:太陽光発電の材料研究です。具体的には、半導体などに用いられる「カーボンナノチューブ」の研究をしていました。カーボンナノチューブの性能をいかに向上させるかという研究です。

具体的に教えてください。

加藤:カーボンナノチューブは、細ければ細いほど半導体材料としては優秀です。簡単に言えば、どれだけ細いものをつくれるのかという実験をやっていました。シリコン基板を切って、プラズマCVD装置(発生装置)でカーボンナノチューブを作成し、評価を繰り返し行っていました。

研究で印象に残っていることはどんなことでしょう。

加藤:最初にカーボンナノチューブを電子顕微鏡で見たときは驚きました。肉眼ではシリコン基板というのは何も見えません。ただの板ですが、これを顕微鏡で見ると変な棒がたくさん生えているのです(笑)。その棒が、カーボンナノチューブなのですが、びっくりしましたね。

なるほど。材料研究ならではのエピソードですね。研究室生活ではどんなことが印象に残っていますか。

加藤:研究室内には、インドからの留学生が数名いらっしゃって、懇親会等ではたまにカレーを振舞っていただいたことがありました。とても辛いのですが美味しかったです(笑)。

国際的な研究室だったようですね。

加藤:そうですね。毎年2名ほど、インドから留学生が来て、英語が飛び交っていました。また、彼らは独特の香り(香水)も付けていました。シリコン基板を扱うときは、クリーンルームで作業をします。そのときに無塵服を着るのですが、研究室内では共用のものを使用しており、彼らの後に無塵服を着なければならないときの匂いが、私にはつらかったです(苦笑)。

入社後すぐに電力をつくる最前線の現場へ

J-POWERへ入社されたのが2005年。志望の理由を教えてください。

加藤:電気工学を学んだ自分が社会へどのような貢献ができるのかと考えたときに、電気を作る仕事なら根幹から貢献できると思ったからです。それから、他の電力会社は地域毎ですが、J-POWERは日本全国、そして海外にも電力を卸しているので色々なチャンスがあると思いました。

そして入社後、研修期間を経て、2005年8月に新潟県の奥清津電力所に着任されました。

奥清津発電所と奥清津第二発電所は、最大160万kWの発電を行なっています。

加藤:奥清津電力所は、奥清津発電所と奥清津第二発電所という、日本有数の揚水発電所を保守・管理しています。私は、すぐにJPハイテックという関連会社に出向となり、この発電所の機器の保守・管理や、更新などを行いました。

具体的な仕事の流れを教えてください。

加藤:色々ありますが、日常業務では、発電所を2週間に1回、機器に異常がないか隅々まで確認します。異音や異臭などもチェックします。これらが通常の点検です。また毎朝、配電盤のチェックも欠かさず行います。それから、発電所は定期的に長期の点検作業のため停止しますが、その点検作業も行っていました。特にオーバーホール作業は、機器をバラバラにするため、普段は見られない機器まで確認することができ、勉強になりましたね。

社会へ出て最初の現場が日本有数の揚水発電所ということで、色々と印象に残っていることも多いと思いますが。

加藤:そうですね。この奥清津発電所での勤務がこれまでで一番印象深いです。発電機が動き出す瞬間を目の当たりにしたときは、「数百トンもある機械を回転させる、水の力は凄い!」という驚きと同時に「ここ(山奥)で作られた電気が都心部に送られているんだなぁ」という感慨がありましたね。

電力の安定供給の使命感が、東日本大震災でさらに強くなる

続いて2008年3月に東地域制御所へ着任されます。

東日本地域の電力設備を運転制御する、東地域制御所の集中制御室です。

加藤:J-POWERは、東日本地域(東京電力、東北電力管内)で18の水力発電所と41の発電機を有しています。東地域制御所(埼玉県川越市)ではこれらの設備の運転制御を行っています。奥清津発電所も、こちらで遠方制御しています。

東地域制御所で、加藤さんは、どのようなお仕事をされていたのですか。

加藤:大きく分けて二つの仕事がありました。ひとつは、系統監視と言われる業務です。東日本地域の発電所や電力系統の状況に異常がないか毎日、監視制御画面や系統盤で監視していました。発電機や送電線に事故があった場合、電力会社や現場と連絡を密に行い、迅速な復旧が必要となります。

24時間365日、絶対に不可欠な監視業務ですね。

加藤:そうですね。1班5人体制、24時間3交代制でやっていました。また、もうひとつは水力発電所の運用です。水力発電は、ダムに雨や雪解けの水が流れ込んで、水が溜まります。この水を、どの時期にどれぐらい使って発電するかを計画して運用する業務です。

震災の発生はこの東地域制御所に勤務された時期ですね。どのような状況でしたか。

加藤:ご存知のように震災発生直後は、東北電力と東京電力の発電所が軒並み停止しました。しかし幸いなことに、J-POWERの発電所は、ほぼ正常に稼動していました。そのため、絶対にミスは許されないという緊張感を持って業務(発電機運用、系統運用)に取り組みましたね。

他の電力会社の発電所が停止した分、これまで以上の緊張感が走ったと。

加藤:はい。当然、これまでも使命感はありましたが、やはり非常時でしたから、私たちが電力を安定供給しなければならないという強い気持ちが生まれました。

今まさに、求められている発変電設備の診断技術

そして現在の職場である、茅ヶ崎研究所へ2011年12月に着任されました。

加藤:水力発変電設備(発電機、水車、変圧器、遮断器等)の診断技術開発の業務です。簡単にいうと、設備の寿命をできるだけ正確に導き出す手法についての研究です。実験と評価を繰り返し行っています。

具体的には、どのような実験と評価を行っているのですか。

加藤:大きく分けて、以下の3つです。①撤去された設備の寿命を評価した結果、今ある寿命診断技術が正しいかを確認します。②撤去された設備を用いて破壊に至るまでストレスを与え、その過程を確認します。③実機を模擬したテストピースに実機と同様のストレスを与え、設備の寿命と劣化過程を確認します。

写真は、撤去した発電機のコイル。「機械的ストレスを与え、コイルの絶縁層の寿命と劣化過程を確認しています。」

なぜ、このような設備の診断を行うのですか。

加藤:設備の寿命は、絶縁物の劣化による電気機器の絶縁破壊や繰り返しの応力による疲労破壊が起きるときです。発変電設備は大型の物が多く、作製に多くの時間とコストを要するため、設備の寿命を見極める診断技術の開発は、更新時期の適切化によって電力安定供給やコストダウンに寄与するからです。

コストダウンや電力安定供給に寄与するとは、どういうことでしょうか。

加藤:発電所の設備は、寿命を迎えると交換が必要となります。寿命より早い時期での交換は、不要なコストを掛けることになります。また寿命を超えて使用した場合、事故による発電機の停止リスクが高まります。そのため、適切な寿命診断が可能になれば、コストダウンや電力安定供給に寄与できるというわけです。

なるほど。特に今は、原発再稼動の問題などで電力供給が不安定なだけにすごく重要な技術ですね。

加藤:そうですね。現在の需給逼迫状況では設備を長期停止しての点検が困難なため、ますます診断技術の高度化が必要とされていると思います。

電気工学の知識を活かして活躍できる場は必ずある

学生時代の電気工学の勉強は、現在の仕事にどのように活かされているでしょう。

加藤:発変電の設備は電気工学が凝縮されていますので、基本的に電気工学で学んだことは全て活かされていますね。カーボンナノチューブの研究については現在の業務に関わりはありませんが、新しいものを追及するという精神は共通していると思います。

今後のお仕事のテーマを教えてください。

加藤:震災以降、需給逼迫のため、本来であれば稼動停止して点検しなければならない設備が稼動し続けています。私たち電気を供給する立場の者としては、今の状況は安定供給しているとは言い難い状況です。現在、携わっている業務の設備診断技術をさらに向上させて電力設備の信頼性を高めることにより、今後も電力の安定供給の責務を担っていきたいですね。

加藤さんが手をかけている礎石は、1965年に和歌山県と三重県の県境に建設された七色ダムのコンクリートの一部を用いたものです。

最後にこれから電気工学を学ぼうという方にメッセージをお願いします。

加藤:幅広い学問である電気工学を学ぶことだけでも素晴らしいことだと思います。また、電気工学は、他の工学との結びつきが特に強い学問です。化学、情報、機械、材料・・・仮に自分の目指す分野が途中で変わっても電気工学の知識を活かして活躍できる場は必ずあります。もちろん電気工学をそのまま追求しても、大きな財産になるはずです。

本日は臨場感溢れる電力の現場の話や電力設備の話を伺えて、とても勉強になりました。
どうもありがとうございました。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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