風力発電の未来を、もっと広げたい。

2014年11月28日掲載

今回は北海道・北見工業大学電気電子工学科の電気機械研究室に在籍の皆さんにお話を伺いました。田村淳二教授と高橋理音准教授のもと、主に電力系統内の電力機器・パワーエレクトロニクス装置の挙動解析を研究しています。特に近年は、風力発電の研究に力を入れており、研究室全員が風力発電を研究テーマにしているというユニークな研究室です。そのせいかコミュニケーションが非常に密で、一体感の強さが印象的でした。

※2014年10月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

志望動機は、震災で知った電気のありがたみ

皆さんはなぜ電気工学を学ぼうと思われたのですか。井口さん、いかがでしょうか。

井口:私の場合、小学校5年生の時、電力会社の方が発電所プラントの模型を使った特別授業をしてくれたことがきっかけになりました。どのように発電所が電気を発電しているのか、わかりやすく教えてくれた授業だったんです。模型の中に豆粒ぐらいの燃料を入れるとタービンが回り出し、発電中を示すランプが強く光ることに圧倒されました。

それが電気に興味を持ったきっかけだったのですね。

井口:はい。高校時代には化学か物理かで迷って物理を選択し、進学時も機械科か電気科かで迷ったのですが、最終的に電気を選びました。実は大学3年の時に東日本大震災が起きて、その時ちょうど私は仙台の兄のところにいたんです。地震の影響で仙台市内は数日間停電してしまい、改めて電気のありがたみを実感しました。そこで電気は私たちの生活を支えており、あらゆる場面で活躍できると考えて、電気工学を学ぶことにしました。そして再生可能エネルギーの風力発電に力を入れている研究室ということで、電気機械研究室を志望しました。

田原さんはいかがでしょう。

田原:私の場合、電気系は就職に強いと聞いたことが一番の理由ですね。実際に学んでみると、電気は私たちの生活になくてはならないもので、学んだことをそのまま社会で活かせる学問だと感じました。だから就職に強いといわれるのでしょうね。

もともと理科系は得意だったんですか。

田原:はい、数学や理科は好きでしたね。だから、自分の好きなことを学んで社会に役立てれば、という思いはありました。

電気機械研究室を志望された理由も教えてください。

田原:大学に入学して、将来は電力会社に就職しようと決めました。その点、電気機械研究室は主に電力系統の研究に取り組んでおり、研究内容がそのまま企業での仕事につながるというのが魅力でした。

なるほど。では猪部さん、同じ質問ですが、いかがでしょう。

猪部:私は中学時代から理数系が得意だったので、高校は情報技術科という工業系の学科に進学しました。そして、電気基礎の勉強をするうちにもっと知識を深めたいと思い、電気電子工学科に入学しました。

高校時代、電気を勉強して、どんなところが楽しいと思ったのですか。

猪部:パズルを解く感覚に近いところですね。回路関係の式を使ってみて、問題を自分で解けたときの達成感とか、とても楽しかったです。

電気機械研究室に入られた理由はなんでしょうか。

猪部:一番の理由は、学部3年生の時に田村先生と高橋先生の授業を受けたことです。とてもわかりやすく教えてくださって、ああ、この先生のもとで研究したいな、と思ったんです。あとは、研究内容が電力会社で取り組んでいるものに近かったことも理由の一つでした。

発電から送配電まで、風力発電の模擬モデルをつくる

学部4年の猪部さんは研究室に入られてちょうど半年ですね。どのような研究をされていますか。

猪部:現在は、PSCADというソフトを使って、回路を作成しています。これは電気回路の振る舞いをシミュレートしながら電力系統を設計するのに適したソフトです。最初の頃は操作に慣れるため簡単なパワーエレクトロニクス回路を作成していましたが、最近はだいぶ慣れてきたのでそれらを系統連系させて正常に動作するよう、挑戦しています。

どんな回路をつくっているのですか。

猪部:風力発電のモデルをつくって、発電された電力をインバーター、コンバーター(※1)で変換して、実際に安定的に家庭まで電力を送れるようにするといった回路ですね。

実際の風力発電機の中身を模擬しているんですか。

猪部:そうです。とりあえず今はこのモデルをつくることに取り組んでいます。ずっとパソコンにかじりついてやっていて、最初は操作に戸惑いましたね。

研究をしていて印象的だったエピソードはありますか。

猪部:インバーター回路が正常に動作しなかった時のことなのですが、田村先生が「失敗してみなければどこが間違っているかわからないから、失敗も大事だ」とおっしゃったんです。私は正常に動けばそれでいいと思っていたのですが、失敗も成功につながるんだと知りました。今は、正常に動作している回路でも、あえていろいろなところを変えてみて、確かめています。こうすると新しい発見があって、楽しいですよ。

(※1)インバーターとは、直流電力を交流電力に変換する装置。逆にコンバーターは、交流電力を直流電力に変換する装置。

風力発電導入における周波数変動を抑制するために

田原さん、現在の研究について教えてください。

田原:風力発電導入時の電力系統の周波数変動解析を行っています。風力発電は風速によって出力が変化する非常に不安定な電源なので、電力系統に大量に接続した際には、周波数変動や電圧変動など様々な問題が発生します。

出力が不安定というのは、再生可能エネルギーの一番悩ましいところですね。

田原:その通りです。そこでコストを抑えながらこれを解決するには、どのような制御手法が有効なのか、シミュレーションを用いて解析しています。

具体的にはどのようなシミュレーションを行っているのですか。

田原:周波数変動や電圧変動などを抑制するために蓄電池が用いられているのは、ご存じだと思います。ただし蓄電池は非常にコストが高いのです。そこで今、取り組んでいるのは、その蓄電池をできるだけ少なくするために、電力系統の周波数特性を明らかにする研究です。周波数変動を自動的に抑制する方法があるのですが、中には抑制できない特定の周期があるのです。その周期を明らかにして、そこの帯域を抑制する蓄電池を設計することが最終目標となります。以前はいろいろな変動電力をシミュレーションして、周波数の増え方を何百パターンも記録していたんですが、今は理論だけで進められるよう、数式ベースで進めています。

なるほど。コストの高い蓄電池を効率よく使用するために周波数帯域を解析しているわけですね。これまで研究をしていて、印象的だったことはどんなことですか。

田原:学部の卒業時に国際学会へ論文を投稿する機会があったことです。内容は、水素エネルギーを利用することで安定的に電力供給できる風力発電システムについての研究でした。一番苦労したのが英語で論文を書くということでしたが、無事に論文が採択されて、自分の研究が国際的に認められた時はとても興奮しました。

国際学会で認められたのはすごいですね!

田原:はい。それで、会場がイタリアだったので海外の学会発表をとても楽しみにしていました。ところが、航空会社のストライキで搭乗予定の便が欠航になってしまい、結局行けなくなってしまったのが、とても残念でした。今は別の論文を書いていて、これがもし採択されればモナコでの発表となります。今度こそは海外で発表したいですね。そのあとの観光も楽しみですし(笑)。

風力発電大量導入時の電力系統を短時間で解析する

井口さんの研究内容について教えてください。

井口:私は自然エネルギー発電を有する電力系統の解析を行っています。さきほど田原君から説明がありましたが、風力発電や太陽光発電の導入量の増大は、連系する電力系統に周波数変動や電圧変動などの悪影響を与えることが懸念されています。そこで、これらの発電を有する大規模な電力系統の周波数・電圧変動に関して、シミュレーションの計算時間を短縮でき、実規模系統で解析できるモデルを開発中です。

具体的にはどれくらいの規模の電力系統の解析を行ったのですか。

井口:風力発電機を数十台含む電力系統の解析を行ったときは、大きな達成感がありましたね。猪部君がつくっているのは瞬時値(※2)解析のモデルなのですが、それでは、これだけの大規模な電力系統の解析には適さないという課題があります。私がつくったものは計算時間を短縮する、実規模系統の周波数解析を大規模に行えるモデルとなっています。

すごいですね!井口さんの前には、こういったモデルはなかったのですか。

井口:今までも挑戦された先輩はいらっしゃいました。ただ、風力発電機というのは発電機や電力変換器で電気損失が生じるのですが、そのあたりが考慮されていませんでした。その電気損失を考慮しつつ、解析モデルの精度を上げることに成功したわけです。

今後、学会などで発表の予定はあるのですか。

井口:そうですね。日本国内の学会ですが、札幌や大阪で発表する予定です。どのような反応があるのか不安でもあり、楽しみです。

(※2)交流の任意の時刻における電圧や電流の値。

二次会は先生のご自宅で、風通しの良さが自慢

皆さんの所属されている電気機械研究室は、どんな雰囲気の研究室ですか。

左から2番目が、高橋理音准教授です。

井口:設備が充実しているのがありがたいですね。1人1台PCが与えられているほか、屋内小型風車や、屋上には小型風力発電機が設置されています。雰囲気としては、とにかく自由です。コアタイムもないですし、とろうと思えば長期休暇も自由に取ることができます。

その分、自主性が求められるのでは?

井口:そうなんですよ。自由な分、メンバーそれぞれ工夫してメリハリのある生活を送っています。

田原:研究にしっかり取り組み、論文作成などやるべきことをちゃんと済ませておけば、アルバイトや部活などへの時間も比較的自由に取ることができますね。もっとも実際は思った通りに研究が進むわけではないので、研究室に縛られていることの方が多いです。それこそ国際学会の前ともなると大変です(笑)。

研究室の全員が風力発電に取り組まれているそうですが、研究報告会はいかがですか。

井口:2週間に1回、院生の研究報告が行われています。これが白熱して、時間がかかるんですよ。風力発電の事故があったときの解析をしている人がいたり、蓄電池を研究している人がいたり、ピッチ角制御を専門にしている人がいたりと、同じ風力発電でもそれぞれ専門が異なるので、とても勉強になりますね。

井口さん、田原さんは院生ですが、猪部さんは学部生ですね。学部生の方の雰囲気はいかがですか。

教員と学生の垣根がないのが研究室の自慢。高橋准教授から直接教わることも、もちろんあります。

猪部:お互いにわからないところを教えあったり、他愛もない会話をしたり、研究室の雰囲気はとても居心地がいいです。お昼は先輩と一緒にご飯を食べることが多いですね。ずいぶんとコミュニケーションのいい研究室だと感じています。

井口:あと、4月の歓迎会と10月の決起会、そして卒業式の後に飲み会があります。卒業式後の飲み会では、研究室でのパーティーの後、田村先生のご自宅で二次会が開かれるんですよ。先生の奥様の手料理が素晴らしくて、いつも楽しみです。それ以外では、メンバーの誕生日のお祝いの飲み会や突発的な鍋パーティーなどがあります。

メリハリのある生活で、部活やアルバイトもしっかり

皆さん研究でお忙しそうですが、部活やアルバイトとの両立はできていますか。

猪部:私は、フットサルサークルに所属していて、アルバイトは夕方から焼肉屋のキッチンスタッフをしています。サークルでは先輩や後輩との交流ができ、アルバイトでは社会人としての常識を身につけることができました。どちらも有意義ですので、このまましっかり両立させたいと思います。最近は卒論も迫っているので、アルバイトの回数は減ってきましたが。

就職活動中は、時間のやりくりに苦労されたのでは。

猪部:そうですね。平日は札幌や東京に行って会社説明会に出席し、土日はアルバイトに集中、という感じでした。ただ、交通費が大変で、この時期は完全に赤字でした(笑)。

田原さんは、さきほどは研究室に縛られているとおっしゃいましたが。

田原:はい。でも部活はトランポリン競技部で、今も現役で大会にも出ています。バイトは、ファストフード店です。マスターになってからは研究が忙しくなってアルバイトの時間はかなり減りましたが。

トランポリンの練習はいつやっているのですか。

屋内小型風車や、屋上には小型風力発電機が設置されています。

田原:だいたい夜の6時半から9時までですね。その後、研究室に戻って研究を続けることもあります。土日の練習は朝ですね。週に4~5回は練習しています。まあ、まだ若いので、やろうと思えばこういうスケジュールでも平気ですよ(笑)。むしろメリハリつけて過ごせるので、研究も集中できるんだと思います。

井口さんはいかがですか。

井口:週に1回程度、卓球部で練習をしています。練習後は後輩と雑談したり、ご飯を食べに行ったりと、いい気分転換になります。また、大学の付属図書館で週に2回程度、アルバイトをしています。心がけているのは、メリハリのある生活を送ることですね。

世界中の人々の暮らしを支えるエンジニアへ

電気工学を学んでよかったと思うのはどういうことですか。

田原:就職にとても強いということですね。とにかく間口が広いというか、あらゆる分野で電気の専門家が必要とされているわけです。実際の就職活動で、それは実感しました。あと、私たちの身の回りには電気製品や鉄道など、電気を使った様々な設備があって、そういったものの仕組みがわかるようになったおかげで、生活する際の視野が広がったと感じています。

猪部:私はもともと電気回路の授業が大好きだったので、自分の好きなことを学べるというのは単純に嬉しいです。他の分野を専攻すればよかったと思ったことは、一度もないですね。

井口:冒頭にお話しした小学5年生の時に受けた授業の中身が、今ではよくわかるというのが嬉しいですね。あとは実家に帰って地元の友人に会ったとき、電気のことなら任せろみたいな感じでうんちくをしゃべったり(笑)。そうしたら「DVDレコーダーが壊れたから直してくれ」みたいな無茶振りをされてしまいましたが(笑)。

最後に将来の夢をお聞かせください。

井口:計測機器のメーカーに就職が決まりましたので、自分の専門知識を活かして頑張りたいと思います。計測制御機器は電気やガス、通信関連などのインフラから心電図検査機器などの医療分野まで、幅広く使われています。日本はもちろん、世界の人々の暮らしを、計測機器を通じて支えられる技術者を目指していきます。

猪部:電力会社が使用する機器を製造しているメーカーに入社が決まりました。今まで学んだことを少しでも活かして、いずれは後輩をしっかり指導できるようなエンジニアになりたいと思います。

田原:電力会社に就職することを考えています。今、電力会社はとても厳しい状況に置かれていますが、大学で学んだ知識、研究を通して培った応用力や問題解決能力を活かして、企業やその地域の人たちの生活を支えるために働くことが目標です。この先、もっと電気を勉強して、その知識を今の電力会社が抱えている課題の解決に役立てたいと思います。

皆さんのこれからのご活躍に期待しています。今日はありがとうございました。

田村 淳二教授(たむら じゅんじ)

国公立/北海道
北見工業大学

田村 淳二教授(たむら じゅんじ)
当研究室は、電気機器に関する研究・教育に携わってきた伝統ある研究室で、近年は主に風力発電を系統に安定して連系する技術に関する研究をしています。平成25年度は、院生13名、学部生10名総勢23名が活動しています。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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