高専で専門性を磨いて、将来の選択肢をひろげたい。

2017年5月31日掲載

高専(高等専門学校)生としてパワーアカデミー初登場となったのが、岡山県津山市の津山工業高等専門学校。太陽光発電について研究を行っている電気電子システム系・桶研究室の3人にお話を伺いました。本科の5年間に加え、専攻科の2年間も合わせると計7年間の一貫教育を受けることが可能になるのが高専の特徴。人より一足先に専門性を磨こうと決めて進学されただけあって、皆さん、とても前向きに研究生活に取り組んでいらっしゃいます。

※2017年2月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

幅広い知識を身につけようと高専の電気系を選ぶ。

パワーアカデミー初の高専生インタビューということで、まずは皆さんに、普通高校ではなくて高専に進学された理由を伺いたいと思います。

安東:私の場合、最初は工業高校も考えていましたが、モノづくりが好きなこともあって、工学知識を身につけようと高専を選択しました。5年制と期間が長く、より深く工学の基礎・応用知識を身につけられると思ったわけです。就職率がほぼ100%であることも魅力的でしたね。

春日:私には3歳上の兄がいて、大学受験の勉強で苦労するのを見て、普通科だとこんなに勉強しないといけないのか、と思ったことがきっかけでした(笑)。ただ、もともとモノづくりに興味がありましたし、行くなら高専だなと決めていました。

青田:私は小学生の頃から工作などのモノづくりが好きで、モーターに電池をつないでみたりしていました。祖父が調理関係の機械の製作所を経営していた影響もあったと思います。それで将来、モノづくりに携わるには高専がいいと考えました。また津山高専は自宅から近かったこともありました。

電気系の学科を選んだのはなぜですか。

安東:私は電気エネルギー、特に太陽電池そのものに興味があったからです。また、津山高専はロボコンでも有名ですが、ロボットを動かすということにも興味がありました。

春日:モノづくりだけでなく、機械を動かしている仕組みや原理に関心があったためです。あと、機械と情報、電気のことをまんべんなく学べるというのも理由の一つです。幅広い知識を身につけておけば、将来の選択肢が広がると思いました。

青田:私も春日さんと似たような理由で、中学時代は将来の道を決められなかったので、将来の選択肢は多い方がいいと考えて電子制御工学科(注:平成28年度に総合理工学科・電気電子システム系ほかに改組)を選びました。浅く広く、いろんなことを学べるんじゃないかと。

春日:実際に入ってみたら、3年生の頃から専門的な学びが増えましたね。

なるほど。安東さんと春日さんは専攻科に進まれましたね。

安東:もう少し研究を続けたかったので専攻科に進学しました。

春日:確かにこれで終わるのはもったいないし、もうちょっと何かできないかなという思いはありましたね。

桶先生の研究室を選ばれた理由についてはいかがでしょう。

青田:桶先生の授業を受けて、とても面倒見のいい先生という印象があったからです。

春日:桶先生は信頼できる、頼りになるという感じがありました。あとは電子制御についてもっと深く学びたいという思いも強かったです。

安東:私も桶先生の研究室の雰囲気はとてもいいと感じました。それから、集光式太陽光発電システムの研究ができるというのが、一番の決め手になりましたね。

学校のシンボル「集光式太陽光発電システム」の研究

皆さんの研究について教えてください。安東さん、いかがですか。

安東:レンズを用いて太陽光を小型の高効率太陽電池に集めて発電する集光式太陽光発電システム(※1)の研究に携わっています。その中でレンズの内側に発生する結露が発電に及ぼす影響についての分析を行っています。実際、結露によって12%ほど発電量が低下することがわかりました。

この集光式太陽光発電システムは、学校の噴水前に設置されていますね。

安東:ええ、そこからプレハブ小屋の中にケーブルを引いてデータを採取しています。現在は気象のデータと日射のデータを採って、発電電力を計算する式をつくっているところです。今後は結露の影響を検討したり、モデルの精度を上げたりといったことが課題です。鳥のふんや黄砂、カビなどでレンズが汚れることもあって、そのあたりも考えなければと思います。集光式太陽光発電は国内では現在、宮崎大学と津山高専が主に研究しているようです。

研究で印象的だったのはどんなことですか。

安東:私がこの研究室を選んだ動機でもあるのですが、集光式太陽光発電システムを初めて見たときに、あまりに大きくて驚いたことですね。縦3メートル、横5メートルもあって、大きなガラス張りの部屋みたいな感じです。

世界各国の研究者と競いながら天気予報の日射量を予測

春日さん、いかがでしょう。

春日:私も太陽光発電について研究しています。太陽光発電は出力が安定しないために発電した電力が余ることもあります。こうした無駄をなくすために日射量を予測して電力系統の安定的な運用を行うことが必要ですが、私は数値計算を用いた日射量予測について研究しています。言うならば、天気予報の日射量予測版ですかね。

日射データはどのように採られていますか。

春日:過去のある時点における気象データの予報値と、電力会社からいただいた実際の日射量のデータから計算して、予測しています。データ量はかなり膨大になるので、パソコンを使った計算にもかなり時間はかかりますね。

待ち時間がかなりあると?

春日:ええ、プログラムをつくったら、あとは結果か出るまでパソコンを走らせるだけです。その結果、得られたデータが予測と違ったりするから、なぜだろうと考える時間もかかります。かなり地味だと思います。ただ同じような研究をしているヒトは世界中にいて、それは驚きでしたね。世界各国で必要とされている研究という自負はあります。

オリジナルの家庭用・集光式太陽光発電をつくる

青田さんの研究について教えてください。

青田:先ほど安東さんが言ったように、集光式太陽光発電システムはかなり大型の設備となります。そのためなかなか普及には至っていません。そこで私は家庭用集光式太陽光発電システムのため、一般住宅の使用を想定した小型の太陽追尾装置の試作に取り組んでいます。

家庭でも集光式太陽光発電システムを使えるようにするということですね。

青田:簡単に言うとそうですね。マンションでもベランダなどに置いて、ほんの少しの太陽光でも有効利用できれば、売電収入が得られたりするのではないかと思っています。

試作ということは、実際にモノづくりもやられているのですか。

青田:そうです。最初は世界にないものをつくろうと考えて、アイデアを出すところから始めました。それから設計して、現在、製作段階です。ただ、実際にやってみると、何から手をつければいいんだろうという感じでかなり苦労しました。機械の製作所を経営していた祖父の姿を近くで見ていたときは簡単そうに思えたのですが。やっていることは、機械系に近いかもしれませんね。

それだけ電気工学の幅は広いということでしょう。どんなものができるか、楽しみですね。

青田さんオリジナルの小型の太陽追尾装置の試作機です。

社会に出て即戦力となるよう、遊びも勉強も一生懸命

皆さんの研究室の特徴について教えてください。

青田:きれいに片付いていて、欲しいものがあるときにどこにあるのかがわかりやすいようになっています。平日はコアタイムがあり、17時までが研究時間ですが、それ以外は比較的自由に過ごせます。

安東:学生同士はもちろんのこと、先生とも仲がいいと思います。先輩、後輩の垣根なく力を合わせて研究に取り組み、先生は親身になってアドバイスをしてくれています。

青田:先生とは毎週、月曜日と金曜日に研究の進捗状況を確認するミーティングがあって、プレゼンを通して報告を行っています。意見も活発に出されて、みんなでよい研究成果を出そうとしていますね。

春日:発表を大事にする研究室なので、その練習が大事ですね。私も毎週パワーポイントで資料を作成して、発表しています。たぶん学内でもっとも多い方じゃないでしょうか。平成28年電気学会電力・エネルギー部門大会ではYPC奨励賞をいただきました。

青田:レクリエーションや忘年会など、企画も多いですね。バーベキューとか、よくやります。

安東:年に3回ほど懇親会を開き、普段話せないような話で盛り上がっています。合宿にも行きましたし。

学校のシンボル「集光式太陽光発電」の前で、先生を囲んで研究室メンバーでガッツポーズ。(写真右から三番目が桶 真一郎准教授)。

合宿では、何をするんですか。

モノづくりの現場となる工場も校内にあります。実験設備などをこの工場へ発注して製作することもあります。

春日:遊びもしますが、メガソーラーの見学へ行くなどしっかり勉強もしています。ただ、あまり先生は口出しをしないですね。研究も我々の主体性を尊重してくれるし、私たちが社会に出ても即戦力として活躍できるよう、先生が配慮してくれていると感じます。

安東:あと、印象に残っているのは小学生に向けた公開講座ですね。具体的には、小学校に出向いて風車づくりの授業を行いました。けっこう楽しめました。逆に高専へ来てもらって、太陽電池に触れてもらうという講座もしました。

青田:出前授業もあります。これは地域の方にテーマを選んでいただいて、こちらから出向いて授業を行うというものです。いわば社会貢献活動ですね。

趣味や、バイトなど、アフターファイブの生活も充実。

普段はどんな生活を送っていらっしゃいますか。

青田:1限目が8時50分に始まり、6限の終わりが14時半です。その後、17時までが研究時間です。

春日:高専は大学よりも単位数が多いので、5年生になっても毎日授業に出ていますね。

安東:専攻科の2年生になると、授業がない日もあります。そのときは9時から17時まで研究ですね。

青田:私は5年生になってから勉強と研究が忙しくなったのですが、以前から興味のあった登山や釣りなど新しいことも始めることができました。メリハリのある生活を送っています。

17時に研究が終わってから釣りに行くのですか?

青田:ええ。夏だと17時でもまだ十分明るいですし。

春日:私は歌唱部の部活を1年生から続けています。あとはアルバイトですね。塾で月曜と木曜日に2時間、採点の仕事をしています。時間が決まっているので、研究に支障がないんです。

安東さんは就職を控えているということなので、その準備に忙しいでしょうね。

安東:ええ。入社に向けた事前学習としてTOEIC®の勉強を続けています。あとは社会人としてのマナーの勉強ですね。

電気に携わる人がいるから、私たちの普段の生活がある

電気工学を選んでよかったと思うのは、どんなことですか。

安東:エネルギーは地域に根付いている存在なので、研究を通じてその大切さを改めて感じました。あとは、就職に強いことですね。

春日:私は電気に関する知識が増えたことで。人と話すときの幅がずいぶん広がりました。街を歩いていて太陽光パネルが目に入ると、単結晶シリコンタイプは黒で多結晶シリコンタイプは青とか、話のネタになります。

青田:太陽光パネルを目にすると、確かに増えてきたなって感じますね。どんなパネルを使っているのか、やはり気になります。

就職についてはいかがですか。

春日:企業は、専門知識はもちろんのこと、幅広い知識を持って様々な人と話すことができる人を望んでいると感じます。

青田:私は5年で卒業する予定ですが、実は公務員志望です。具体的には救急救命士を目指してこれから専門学校に通う予定です。

高専というのは勉強に対して厳しい環境ですから、そうした中で頑張ってきたという経験は、どんな職業に就いても必ず活きるでしょう。

安東:私は発電プラントの仕事に就く予定です。社会に貢献できるエンジニアになりたいと思います。

楽しみですね。

安東:海外での仕事も多いようで、そこが楽しみです。アジアやヨーロッパなどで活躍してみたいですね。

春日:やはり電気に代表されるエネルギーというのは、世の中の人全員にとって不可欠のものだと思うんですよ。そういうものに携われるのは、大きなやりがいにつながると思います。

おっしゃるとおりですね。そういう分野で仕事に取り組む方がいるからこそ、私たちは生活ができているのだと思います。ぜひ頑張ってください。今日はありがとうございました。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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