「ひらめきの式」をひらめく!

2015年12月25日掲載

岩尾  徹

東京都市大学 工学部 電気電子工学科 准教授

2000年3月
中央大学大学院 理工学研究科 博士課程後期課程 電気電子工学専攻 修了
2000年4月
中央大学 理工学研究所 リサーチアソシエイト
2001年4月
日本学術振興会 特別研究員(PD)
2001年9月
Texas Tech University, Center for Pulsed Power and Electronics, Visiting Scientist
2002年8月
University of Minnesota, High Temperature and Plasma Lab., Postdoctoral Research Fellow
2004年4月
武蔵工業大学 工学部電気電子情報工学科 講師
2009年4月
東京都市大学 工学部電気電子工学科 准教授

電力の発生と輸送を支える大電流技術,並びに,大電流を用いた放電プラズマの研究に従事
(遮断器、系統保護、照明、電気推進、金属加工など)

はじめに

最近、ドラマ、ドキュメンタリー、クイズ、お笑いなどのテレビ番組で、科学を扱うことが増えています。こうした番組の制作には、必ず科学監修や実験監修として専門家が助言をしています。実は私も、その専門家として、テレビ番組を陰で支えている一人です。

テレビ局の方々からの依頼は、毎日のようにあります。依頼内容は、質問、調査、台本のチェック、セリフの提案、シーンでの裏設定の提案、大道具や小道具のチェック、実験の提案、演技指導、クイズ番組の問題作成など、多岐にわたります。テレビ番組は、多くの人が視聴しており、作品も後世に残ることから、その社会的影響はとても大きいです。このため、細心の注意を払い取り組んでいます。

「ひらめきの式」の考案

私の代表的な科学監修や実験監修の作品は、フジテレビ系列の大人気!月9ドラマ「ガリレオ」です。謎解きの理論的根拠となる「ひらめきの式」のほとんどは、私が考案しました。

「ひらめきの式」は、基本的に複数の数式で構成しています。決して式変形を羅列するだけの数式ではなく、それぞれの式に意味を持たせています。

「ひらめきの式」を「ひらめく」ためには、まず、原作や台本を読み、物語の流れを把握し、物理現象を踏まえながら、個々に独立した複数の数式を生み出していきます。特に、複数の異なる現象をお互いの影響を考慮しながら解析(連成解析)することで、1つのトリックを明らかにする(ひらめく!)ようにしています。また、主人公の心の動きや葛藤、さらには、物語のキーワードなどを数式にする工夫もしています。このようにして、物語を数式で表現できた時の喜びは、忘れることができません。

単純な式変形ではなく、「ひらめき式」の各々の数式にはしっかり意味を持たせてあります。

また、テレビドラマですので、視聴者にも楽しんでもらいたい、という思いもあります。このため、簡単すぎず、難しすぎず、見る人が楽しみながらも、なるほどと思えるような数式や法則も盛り込むようにしています。最近は、インターネットの普及により、「ひらめきの式」を解説されている方もいらっしゃり、その解説を楽しみにしている一般の方もいらっしゃいます。したがって、物理的に間違いのない数式にすることを心がけています。しかし、天才物理学者の湯川先生(福山雅治さん)がひらめき、数式を書いていきます。このため、数式が天才的でかっこういい形にすることも心がけています。

湯川先生が書いている数式はどんな意味なのだろう?と興味をもってくれて、それを入口に電気や物理や数学に興味をもってくれる人が増えてくれたら、とてもうれしいです。

人の上に立つのではなく、人の前に出る人間に

私には、人の役に立ちたい、人を楽しませたい、人をワクワクさせたい、という使命感があります。毎日の生活の中に当たり前にある人々の喜怒哀楽を、見えないところで支えるのが工学のプロだと考えます。そして、私は、私しか持っていない経験があり、私だからできる役割があると考えています。私たちの世の中や組織の中では、2人として同じ役割の人間は必要ないと考えます。決して優秀ではない私が、テレビ番組の監修をしているのも、明朗快活でチャレンジ精神旺盛な性格の賜物であり、そして、大切な仲間のおかげだと思っています。

若かった頃、科学監修や実験監修などをした際は、自分自身に実力が無く、また自信もないため、満足いく仕事ができませんでした。しかし、壁にぶつかりながらも監修を続けていくと、学ぶことが多くなり自分が成長することを実感していきました。そして、このことで自分に自信がつき、どんどん提案ができるようになっていきました。どんな時でも、明るく笑顔でチャレンジし、前向きに継続して前進していくことが、結果を生み出す原動力になります。そして、監修者として壁を乗り越えた今、「立場が人をつくる」とはこのことかと実感しています。

海外の学会発表にも積極的にチャレンジ
(アメリカ物理学会 プラズマ物理分科会年会)

このような経験から、最近の私は、「人の上に立つのではなく、人の前に出る人間に。」という理念の下、「使命感」と「協働」を忘れず、「笑顔」を絶やさず、「ポジティブ」に行動しています。人の上に立つのは、プレッシャーや不安のため、恐れ逃げ出したくなることや、遠慮したり、迷い悩んだりすることもあります。そんな時は肩の力を抜きプライドを捨てて、一歩でも人の前に出ることにしています。この時、謙虚で、先入観なく、見返りを求めず、常に周りに「応援」と「感謝」をしていくと、知らぬ間に、ポジティブで楽しい仲間が集まってきます。

実際に監修を行う際は、私の楽しい大切な仲間(テレビ局の方、研究仲間、同僚、研究室の学生など)と協働しながら、練り上げていきます。このような仲間とは、信頼と友情で結ばれ、お互いに「応援」と「感謝」でつながっています。困った時はお互い様、ということで、電話一本で相談に乗ってくれ、皆で協働しながら一緒に考え解決してくれる、心強い仲間です。相手に信頼される、ということは、いつでも見返りを求めず相手のために最善を尽くすことで得られると考えています。まずは、自分が最初に動き、変わることです。笑顔を絶やさず、ポジティブに行動し、応援と感謝をする。このことで相手に気持ちが伝わり、相手や環境が変わり、信頼関係が構築されていきます。常にこのことを肝に銘じたいものです。

このように、人の前に出て、人を巻き込み、組織を巻き込み前進し、社会を動かしていく。これからの社会は、こんな人材を求めていると考えます。

毎年、電気や電力に関する設備の見学を行っています。
技術を学ぶことは、現場を知ることから始まる!

皆で「協働」しながら一緒に考え解決する。都市をテーマとしたジオラマも、大切な仲間とともに作り上げていきます。

おわりに

大学は、学生が主人公だと考えています。学生は、どんどん挑戦し、失敗し、壁を乗り越えて欲しいです。次がある、そう思っていると、次はありません。石橋をたたき過ぎて橋を壊してしまうのでは意味がありません。恐れることや遠慮することなく、どんどん手を挙げ前に進んでいくことをお勧めします。そして、自分が成長したことを実感しながら、使命感を持って世界のために立ち上がり、そして、ワクワクする未来を創る。私自身そんな人間になりたいし、私はそんな人材の育成に力を入れていきたいと考えています。

人の上に立つのではなく、人の前に出る人間になって欲しい。(2014年度卒業生送別会)


電気工学のヒトたち

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