電気工学で社会インフラを支えたい。

2013年2月28日掲載

名古屋工業大学の鵜飼・青木研究室は、「電力システム研究室」の異名を持ち、セキュリティーを考慮した次世代の環境調和型電力システムを目指した研究を行っています。電力の発生から消費まで、幅広く電力流通システムのマネジメント研究を行っており、30人以上の教員、学生が切磋琢磨の日々を送っています。

※2012年11月現在。本文中の敬称は略させていただきました。

電力という巨大なインフラを手掛けられることが魅力

皆さん、電気工学を志望された理由を教えてください。

関崎:高校から理系クラスでしたが、どちらかというと、化学よりも物理が好きだったので、工学系へ進みたいと思いました。そして当時、ハイブリッドカーが話題だったことも含めて、電気工学に将来性があると感じて志望しました。

本多:私は、関崎さんとは逆で高校時代、物理が苦手科目でした(苦笑)。化学を重点的に勉強していたので、入試科目として化学が選択できる電気電子工学科を志望しました。また正直に言うと、偏差値との兼ね合いもありました(笑)。

小寺:私も物理が特別得意だったわけではないのですが(笑)。生活を支える電気機器などに興味があり、志望しました。また、親が電気工学科出身だったこともありました。

電力システム研究室に入られた理由も教えてください。

関崎:電気電子工学科は、2年時に、エネルギーデザイン系、通信系、機能電子系と3つのプログラムに分かれます。その中で、私たち3人はエネルギーデザイン系へ進みました。エネルギー系へ進むと、モーター、制御、電力などがあり、私は電力が一番面白そうだと思ったので、電力システム研究室に入りました。

本多:大学へ入ってからは、物理もだんだんと好きになりましたね(笑)。そこ で研究室に入って、より専門的なことを学びたいと考えました。また電力という巨大なインフラが手掛けられることが魅力でこの研究室に進みました。

小寺:私の場合、電気電子工学科を選んだ時にすでにインフラ系のイメージがあって、もっと追求したいと思って電力システム研究室へ進みました。

再生可能エネルギーをインフラとして定着させるための研究

関崎さんの研究を教えてください。

関崎:太陽光発電や風力発電といった、再生可能エネルギーを国全体で増やそうとしているのはご存じだと思います。例えば太陽光発電については、政府は2030年には2005年の約40倍の53ギガワットに拡大することを目標にしています(※)。

震災以来、さらに拍車がかかりましたね。

関崎:はい。それで電力はインフラという特性上、お金がかかるのは良くないわけです。また、電力インフラは建設などに何十年もかかりますので、それを見越した上で再生可能エネルギーの大量導入を行うというのがまず前提としてあります。

インフラは、低コストでなおかつ長期間を見越した上で開発する必要があると。

関崎:そこで再生可能エネルギーを用いた分散型電源が配電系統に大量導入された場合、天候に応じて電圧が不規則に変動するので、適正範囲に電圧を管理する必要があります。私は、IT技術を用いて分散型電源の普及に伴う電圧を、低コストで効率良く管理することを目標に研究を行なっています。

何と比較して低コストなのですか。

関崎:蓄電池ですね。蓄電池を大量に使えば、再生可能エネルギーの変動分の電力を補えるので、制御自体はそんなに難しくはありません。ですが、現在は大変高価です。そこで、IT技術を使用して、現在の電力機器(コンデンサ、SVR(自動電圧調整器)等)でしっかりと管理できるようにするのが私の研究です。PCによるシミュレーションを行っています。

企業との共同研究ですか。

関崎:ええ。電力会社と共同研究を行っています。月1回、データを提出して、向こうの意見を伺います。実際に業務に携わっている方達なので、非常に参考になりますね。

家庭用太陽光発電が大量に普及した場合に起こる課題を解決する

本多さんの研究を教えてください。

本多:今後、家庭用太陽光発電システムが電力系統に大量に接続され、さまざまな問題が発生すると言われています。その中でも「電圧不平衡(※)の改善」をキーワードにした研究をしています。

※電圧不平衡とは・・・三相交流は、電圧が等しく、位相が互いに 120°づつ異なる、3つの相から成る。だが、負荷の状況 (相による負荷の違い) などにより、相によって電圧が異なったり、位相の差が 120°からずれたりすることがある。 これを電圧不平衡と呼ぶ。

なぜ、太陽光発電システムを大量に接続すると、電圧不平衡になるのですか。

本多:電力系統では三相で送電しますが、家庭用太陽光発電システムは単相で連系されるため、電圧が“相”毎にアンバランスになってしまう問題が発生します。この問題は電気自動車でも発生するため、今後の高品質な電力系統を支える重要な研究テーマだと思っています。

そうなんですか。どのようにアンバランスを防ぐのですか。

本多:元々、SVR(自動電圧調整器)などの電力機器は、三相平衡を仮定してつくられています。しかし、不平衡になった場合は、制御がうまくいかなくなる恐れがあります。そこで、STATCOM(※)などのパワーエレクトロニクス機器を使用して、アンバランス分だけを補償して、従来の制御ができないかと研究しています。

企業との共同研究ですか。

本多:いいえ。今後、太陽光発電が増えてきたときに課題になることをやりたくて、私が独自で考えて研究しています。学校に太陽光パネルがありますので、基本的に自分で計測して、PCによるシミュレーションで研究をしています。1秒間隔で計測して、その細かい変動をシミュレーションに反映させています。

※STATCOMとは・・・自励式無効電力補償装置といい、交流式のアーク炉によるフリッカ(照明のちらつき)対策で使われ、負荷の無効電力変動分を補償する機器。詳しくは、学生インタビューvol.18 北海道大学

企業や工場が求める、高品質な電力を実現する研究

小寺さんの研究を教えてください。

小寺:電力品質改善のための進相コンデンサの制御手法について研究しています。進相コンデンサというのは交流回路において力率を改善するために使用されていますが、私は、力率だけでなく、高調波や電圧不平衡率の改善も考慮した制御手法の研究を行っています。

力率とは何でしょうか。

小寺:工場などには、力率という入力された電力をどれだけ効率よく使用できているかを表す指標があります。その力率は、0から1までで評価されて、1に近づくほど電気料金が割引となる制度があります。そこで力率を改善するために、進相コンデンサがほとんどの工場などで使用されています。

なるほど。

小寺:ただ現状では、進相コンデンサが過剰に投入されていて、電力品質が劣化する状況になっているのです。その品質の劣化を解決するための研究です。具体的には、進相コンデンサ以外の電力機器(STATCOM等)にも着目して、コストや効率を考えながら制御を行ってより高品質な電力を実現しようとしています。

高品質な電力とはどういうものでしょうか。

小寺:例えば、24時間クリーンルームで稼働している精密機器や電子部品の工場などは、絶対に電力を止められません。電力品質が劣化したら、たとえ瞬停(一瞬、電圧が下がる現象)でも、工場の規模によっては、何十億円の損害になる重大な問題なのです。だからこそ電力の高品質化は重要で、電気設備を手掛けている企業と共同で研究を行っています。

研究や学会など、研究室は授業とはまったく違う感動や経験がある

これまでで印象に残った研究のエピソードを教えてください。

小寺:初めて制御器のプログラムを書いた時です。どうもパソコンにだまされたようで(笑)、エラーが1つだけ解消できなくて、かなり長い時間原因を探しました。それが解決して、プログラム通りに動いた時はとても嬉しかったですね。研究室は授業より深いところをやるので、驚きの連続です。

「制御器は小寺君に協力してもらい製作しました」本多さん。

本多:私も授業と研究室は全然違うことですね。研究室に入る前は教科書の勉強でしたが、研究室に入ると急に専門的になります(笑)。また、研究テーマが学部時代、苦手なパワーエレクトロニクスだっただめ、先輩にシミュレーションモデルを頂いても、回路や制御などが全く理解できませんでした。そこで実際の制御器を動かして、自分で制御できた時は非常に嬉しかったです。

PCだけでなく、実機もイメージ通りに動くと面白いですよね。関崎さんはいかがですか。

関崎:学会ですね。修士のときから数えると20弱の学会に参加しています。うち国際学会は4つ行かせていただきました。特に、海外の学会(上海)は、初の一人海外旅行だったので良い経験になりました。

何かエピソードはありますか。

「パワーアカデミーのGPAN(学生交流会)にも参加して賞をもらいました」関崎さん。

関崎:タイへ行ったときですが、発表はうまくいったのですが、質問が全然答えられないという失敗がありました。ネイティブの方なら分かるのですが、アジア系の方の英語は何を言っているのか分かりませんでした(苦笑)。

皆さんは学会へ行かれましたか。

本多:私は、大学院から行くようになりましたね。韓国の大学との交流会などで学外発表もやりました。韓国のときは、初の学外発表でしたが、すごく緊張して、自分の貧乏ゆすりで机が揺れていました(笑)。

小寺:電気関係学会東海支部連合大会という学会に、1回だけ出ました。緊張しましたし、大学院の入試と重なっていたので、スケジュール的にもつらかったです(苦笑)。

広い研究室で先輩・後輩垣根なくのびのびと研究しています

研究室の特徴を教えてください。

全員:広いことですね。

一致しましたね(笑)。具体的にはどんな感じですか。

関崎:私たちの研究室は、研究テーマ毎に学生がバラバラになることは無く、違う研究チーム同士でも日常的に交流や議論が盛んです。部屋が分かれることや、机の間にパーテーションもなく、一体感を感じますね。

設備面はいかがですか。

関崎:研究対象が電力系統であるという都合上、研究はシミュレーションメインとなるため、一人一台シミュレーション用のPCが与えられます。

本多:ディスプレイも含めると二台ですが、これは上級生優先でもらえます(笑)。机が広いので、充分置けます。

小寺:あとは、コンビニが近くにあります(笑)。

では研究室の方々とどんなコミュニケーションをとっていますか。

小寺:月に1度か2度のペースで研究の進捗を先生に報告しています。先輩や同期とは、普段からよく話していますし、飲みや遊びに行ったりもしています。

本多:全員参加の鍋会が楽しいです。鍋会後はボーリングになり、終わったのが夜中3時過ぎになって研究室へ泊まりましたね(苦笑)。学会発表などの後も、毎回、飲み会をやっていますよ。

関崎:先生とは打ち合わせを定期的に行なっています。またドクターなので、同じ研究テーマの後輩が数人いるため、後輩へアドバイスや質問に答えたりすることは日常です。ちなみに飲み会は、社会人ドクターの方に飲みに連れて行っていただくこともあります。社会人とはいえ、一応、後輩になるのですが(笑)。

1日のスケジュールと、アルバイトやサークルについて教えてください。

小寺:基本的に研究室にいるのは18時位です。アルバイトは、以前、飲食店でやっていました。サークル(バスケット)は気分転換も兼ねて、できるだけ参加するようにしています。

本多:朝10時前に来て1日の目標を決めてから研究をはじめます。長期的な打ち合わせが3週間に1回位あるので、その日までに1日何をやるのか考えます。アルバイトは、時間の都合のつく、塾講師と家庭教師をやっています。

関崎:私は朝9時頃に来て、一日中シミュレーションの結果をまとめたり、論文を作成したりします。博士課程なので、サークルやアルバイトはやっていませんが、大学から奨学金はいただいています。

最後列、右から3番目が青木睦准教授です。

全員が同じ部屋なので、研究についても議論しやすい環境が整っています。

スマートグリットを日本へ、世界へ広めたい

電気工学を学んで良かったと思うことを教えてください。

関崎:電気なしに我々の生活は成り立たないので、電気工学は社会への貢献が非常に大きいと思います。また、電気工学は応用範囲も広く、電子機器、パワエレ、通信、電力、モーター、最近注目のスマートグリッド、太陽光・風力発電、ハイブリッドカーや電気自動車はすべて電気工学が中心となっているため、社会を支える知識を学べたのは嬉しいです。

本多:今年、就職をしたのですが、就職活動を行った際に電気に関わらない企業はなく、様々な職種・業種を検討できたので、電気工学を学んで良かったと思いました。高校の時は物理嫌いでしたが(笑)。

小寺:正直なところ、研究室に入ってからはじめて、実際の電気設備などを学ぶようになったので、これからだと思います。

将来の夢や目標を教えてください。

小寺:これから修士課程に進むのですが、より多くの知識をつけ、また大勢の人にわかりやすく伝えることができるようになりたいです。そして、希望する企業に行けたらと考えています。

関崎:同じ研究分野の方々と研究内容で渡り合えるようになることが目標です。また、研究において自分の提唱したもの(理論や制御方式)が実際に応用されるなど、実社会で役立つようになりたいです。電力インフラの場合、動く金が莫大なのでなかなか難しいですが。。。

関崎さんは博士課程なので、進路としては教員か就職でしょうか。

関崎:恐らく就職活動をすると思います。やはりせっかく学んだ電気工学の知識を活かせる企業へ行きたいと思います。いわゆるポスドク問題(※)は名古屋工大に関しては、実感はないです。私の知る限りですが、就職はできています。

(※)ポスドク問題とは・・・大学の博士号取得者の就職が年々深刻化している問題。大学院進学者が増加する一方、博士号取得後の大学での雇用が増えず、企業等への就職先も少ない状況であること。

本多さんは就職が決まったそうですが、それも含めてお話していただければ。

本多:私は設計会社へ就職が決まりました。将来の夢として、再生可能エネルギーを積極的に導入した都市で、省エネルギーを実現するためのエネルギーマネジメントを行うこと(スマートグリッド)を目標としています。

スマートグリッドをやりたいので、設計会社を志望されたわけですね。

本多:そうですね。私は、今の大規模に発電し長距離を送電する電力システムは、省エネルギーの観点から疑問があります。そこで、建物のCO2排出量をゼロにするゼロエネルギービルディングなどをやってみたいと考えました。最終的には、スマートグリッドを実現した都市をパッケージのような形で、海外も含めて各地へ売るようなことをしたいですね。

世界を変える素晴らしい夢ですね!今日は興味深い話をたくさん聞かせていただきました。
ありがとうございます。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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