vol.45 中部電力株式会社
2020年8月31日掲載
中部電力にて電気エネルギーの安定供給のための研究開発に携わっていらっしゃる吉田さん。IoTやAIなどのテクノロジーに積極的に取り組みつつも、現場で培われた人間の感覚を大切にすることにこだわっていらっしゃいます。「電気工学の可能性は無限大」と語る吉田さんに、オンラインにてインタビューいたしました。
プロフィール
- 1995年3月
- 名城大学理工学部 電気電子工学科卒業
- 1997年3月
- 名古屋大学大学院 工学研究科 博士課程前期課程 電気工学専攻 修了
- 1997年4月
- 中部電力株式会社 入社
- 2009年4月
- 名古屋大学大学院 工学研究科 博士課程後期課程 電子情報システム専攻 入学
- 2012年3月
- 同 修了
- 2015年7月
- 本店 技術開発本部 技術企画室 企画グループ 配属
- 2017年9月
- 本店 電力技術研究所 配属
現在に至る
※2020年7月現在。文章中の敬称は省略させていただきました。
発電効率を上げたいと志していた小学生時代
吉田さんは幼い頃から電気に興味をお持ちでしたか。
吉田:自分では覚えていないのですが、小学生の頃、火力発電の発電効率について紹介するテレビ番組を見て「将来は自分の力で発電効率を上げたい」というようなことを言っていたそうです。自分の仕事として意識するようになったのは高校時代ですね。ちょうどバブルの頃で、自動車をはじめとする機械産業が全盛だけれど、自分が就職する頃には次の産業として電気・電力が注目されるようになると考えました。
学生時代はどんな研究に打ち込まれましたか。
吉田:変電設備の一つであるSF6ガス絶縁開閉装置(GIS)を対象として、製造不良や老朽化などによる機器内部の絶縁異常を早期発見・診断することを目的とした「部分放電測定に基づくGIS内部診断」に関する研究に取り組みました。
外からでは見えないGIS内部を診断しようというわけですね。
吉田:そうです。部分放電の検出手段としては電磁波を測定する方法が主流ですが、電磁ノイズレベルが高い実変電所環境においては、部分放電信号とノイズの分離が実用上不可欠でした。また、内部異常の種類や規模によって絶縁破壊に至る危険性が異なるため、異常の状態を診断することも重要でした。こうした課題を解決するために、SF6ガス中における部分放電の発生特性を、部分放電の物理的メカニズムの観点から理解し、そのうえでGIS内部の状態診断を実現する方法を検討しました。もともと放電現象に興味があったので、好きなことを研究できるという喜びがありました。
研究活動で感じた仲間との一体感
研究で印象に残っているのはどんなことでしょう。
吉田:学術的な側面だけでなく、高電圧・高ガス圧力実験における安全指導、企業との共同研究や学会発表等を通した社会教育など、広い視野で学ぶことができたと感じています。現在、研究者である私は、部分放電診断・サージ(瞬時現象)測定・変圧器診断の3つの分野を基軸とし、最近はIoTなども積極的に取り組んでいます。このように幅広い領域に目を向け、専門外のことにも意識的に取り組む姿勢は、学生時代に培われたと思います。さらには社会常識や人との接し方なども、先生・先輩から教わりました。
研究室での思い出を教えてください。
吉田:研究室では毎週1回、研究成果報告会が開かれていました。報告資料の作成に向け、学生みんなで必死になってデータ整理に取り組んだことは忘れられません。想定される実験成果が得られなかった仲間がいたら、全員で原因を検討したり、追加実験を行ったりしました。
チームとしての一体感があったわけですね。
吉田:ええ。互いに支えあう連帯感は素晴らしかったです。報告資料の作成中は先輩が研究室でJ-POPを流していたのですが、今でもそのバンドの音楽を聞くと、当時の気持ちや研究室の空気が懐かしく甦ってきます。
社会人となって、再び大学院で学ぶ
中部電力に入社された動機を教えてください。
吉田:研究テーマが変電機器に関するものであったことと、それに関連して中部電力と共同研究を行ったことなどから、自然に就職先として中部電力を選んでいました。重電に興味がありましたから、好きなことをして生活できるのは幸せだという思いがありました。
入社後、10年以上たってから再び母校の大学院に、今度はドクターを目指して入学されましたね。
吉田:ええ。会社が電力の専門家を育成したいと考えていたこと、私自身が将来のキャリアを考えてドクターを取得したいと思ったこと、さらには研究室の恩師が私を快く迎え入れてくださったことで、再入学がかないました。大学院での研究は、企業内という枠にとらわれない自由なものでしたから、とても有意義でした。また、かつて私が先生や先輩に指導していただいたように今度は私が後輩に指導したのですが、これも新鮮な経験でした。
現場試験を基軸に研究を進める
現場経験を経て電力技術研究所に配属となりました。
吉田:実は中部電力に入社したときには、研究職を志望したわけではありませんでした。むしろ現場で汗を流す方が性に合っていると感じ、実際、長く変電部門で仕事を続けてきました。ですから電力技術研究所への異動は想定外ではあったのです。ただ、現場で経験を重ねた上で研究部門に異動したということで、現場が困っていることを解決するために尽くしたいと思いました。今はとてもやりがいのある仕事だと感じています。
何十年も前からIoTに取り組んできたという自負
現在のお仕事について教えてください。
吉田:現在はプレーイングマネージャー的な立場で、ライフラインとしての電気エネルギーの安定供給に資する研究開発に携わっています。また、電力システム改革による電力事業のあり方が大きく変わる中で、人々の暮らしに新たな価値を提供することを目的とした技術研究開発にも取り組んでいます。モットーは、ワクワク感をもちつつ、頭の中は冷静に、です。
新技術の適用研究の様子
心はホットに、頭はクールに、ということですね。
吉田:今、IoTやAIが技術研究開発のキーワードとなっており、当社でも積極的に取り組んでいます。一方で、これまでにも、水力発電所や変電所に無数のセンサ(リレー)を取付けて遠隔監視することで、無人運転化に取り組んできたことから、実は電力業界は何十年も前から広義のIoTを実現してきたともいえますし、送られてきたデータの解析も、ビッグデータという言葉のなかった時代から行ってきました。新しい技術、キーワードに対してワクワクする気持ちは大切ですが、一方で我々は既に思想的にはその先を行っているという冷静な判断も重要だと思います。さらにすべてをAIに置き換えていくと、いざというときに人間が何も判断できなくなってしまう可能性もあります。ベテラン作業員が長い経験で培ってきた感覚・感性も大切に継承していかなければならないと考えています。
お仕事で印象に残っていることを教えてください。
吉田:安全かつ安定的にエネルギーをお届けする上で、落雷をはじめとする自然現象は大きな障害です。とりわけ落雷に起因する事象は再現試験ができませんから、雷が侵入してきたルートの特定や、再発させないための設備対策の立案は困難です。そこで小規模モデル試験や、実測データ・シミュレーション等の結果をもとに、可能性の高い雷侵入ルートを導き出し、その対策を実施したところ、その後に大規模な落雷が発生しても、不具合が再発しなくなりました。これは非常に大きな達成感を得ることができました。
インパルス電圧発生装置による実験を行う
学生時代の学びのすべてが今の自分を支えている
学生時代に学んだ電気工学の知識は、お仕事の上でどのように活かされていますか。
吉田:当時は「こんな勉強が本当に役立つのだろうか」と思ったこともありましたが、電気回路論、電磁気学、電子回路、高電圧工学など、学生時代に学んだ電気工学の“基本の基”は、仕事においてすべて活用しているといって過言ではありません。当時使っていた教科書は大切に取ってありますよ。
学生時代に使った教科書は、
今も手放せません
学生時代の教科書が今もお手元にあるんですか。
吉田:ええ。仕事で疑問がわいたら、教科書を手に取ってページを開くことも珍しくありません。大切なのは、誘電率、透磁率、周波数など、教科書に出てくる単語がどのような現象を意味しているかをイメージできることで、それによって技術開発の可能性や不具合の想定原因について、おおまかなふるいわけができるのです。また、高電圧・大電流を扱う電力機器の計測を行う場合、高い電界・磁界・電磁界への配慮が不可欠です。そのために学生時代に学んだ計測技術も、大いに役立っています。
リミッターを外して限界まで学んで欲しい
今後はどのような仕事に取り組みたいとお考えですか。
吉田:先ほどもお話ししたように、当社も近年はIoT、AI、ビッグデータ等、情報処理技術の分野を視野に入れた技術研究開発や新たなサービスの開発に取り組んでいます。しかしこうしたキーワードにとらわれすぎず、電力設備を扱う人間として、モノ(ハード)やコト(現象)と向き合うことを忘れないようにしたいと思っています。そして、これまで培ってきた理念や技術、技能に基づく、人間としての感覚をしっかり保持し、進化・深化させていくことが大切だと考えています。
電気工学を学ぶ魅力とは何でしょうか。
吉田:電気工学を学ぶことで社会に必要とされる人材になれる、という点ではないでしょうか。再生可能エネルギーの普及や自動車の電化、蓄電池の汎用化など、電気(強電)が活用される場面は今後も広がっていきます。電子産業や情報産業(弱電)も同様でしょう。産業の発展に伴って優秀な人材に対するニーズは高まっていきますから、活躍の場はますます広がっていくと思います。とても夢のある分野だといえるでしょう。
その活躍を支える基礎が、学生時代の学びというわけですね。
吉田:はい。学生の皆さんには、ぜひ今のうちに学びのリミッターを外して、自分の限界までとことん学びを突き詰めるという体験をして欲しいと思います。社会人になってからはなかなかできないことですから、自分の限界を知っておくのは、意義深いことです。
では、電気工学を学ぶ後輩の皆さんにメッセージをお願いします。
吉田:電気工学に無限の可能性があるように、皆さん自身も可能性の塊です。決められたルートなんて一つもありません。ご自分の置かれた環境を俯瞰的に見て、これからの選択肢は無限にあるということを知っていただけたらと思います。
本日はありがとうございました。
※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。
バックナンバー
- vol.54 放送事故は絶対に起こさない。強い覚悟でテレビ局を支えたい。
- vol.53 日々の確実な作業の積み重ねで、地下鉄というインフラを支えたい。
- vol.52 電気工学を活かして技術の発展に女性の視点を反映したい
- vol.51 東西日本間の電力融通を通じて安定した電力供給に貢献したい。
- vol.50 情報科学の知見を活かして電力業界のDX化に貢献したい。
- vol.49 電力業界の新たなルールへの対応の検討を通じ、カーボンニュートラルの実現に貢献したい。
- vol.48 変電技術者として変電所の運営に携わり、電気のある明るい生活を支えていきたい。
- vol.47 空港という重要施設を電気のスペシャリストとして守っていきたい
- vol.46 海底ケーブルのスペシャリストとして電力インフラを支えていきたい。
- vol.45 「ワクワクしつつ冷静に」をモットーに電力の安定供給に貢献したい。
- vol.44 “縁の下の力持ち”として測定器づくりによって社会を支えていきたい。
- vol.43 電力インフラを支える仕事を通じて、環境保護などの社会貢献を続けていきたい。
- vol.42 誰からも認められる女性技術者となり、 発展途上国の人々の暮らしに貢献したい。
- vol.41 電験1種取得者としての専門性を活かし、 電力業界で必要とされる人材であり続けたい。
- vol.40 電気工学の知識をもっと身につけ、 信頼される技術者になりたい。
- vol.39 大容量の電力貯蔵を実現するNAS電池の普及を通じてエネルギー問題の解決に貢献したい。
- vol.38 電気工学の知識を活かし、設備設計のプロとして活躍したい。
- vol.37 電動化が進むクルマの、これからの進歩を支えたい。
- vol.36 電力を支える使命を持った 信頼される存在になりたい。
- vol.35 世界に広がる活躍のステージ。 社会貢献への期待に応えたい。
- vol.34 四国の電力を支える使命を持って、火力発電の未来を拓きたい。
- vol.33 世界中のヒトに信頼される、建設機械を設計したい。
- vol.32 変電設備の最前線で、 電気の安定供給に尽くしたい。
- vol.31 都市レベルでものごとを考えられる、広い視野を持った電気設備設計者になりたい。
- vol.30 高電圧・高電界分野の技術開発で、 電力機器を進化させたい。
- vol.29 電力系統解析の研究者として、 社会や現場のニーズに応えたい。
- vol.28 電力・エネルギーの専門家として、社会に広く情報発信したい。
- vol.27 世界の海洋開発と海上物流を、最先端の電気技術で支えたい。
- vol.26 電力系統を守って人々の生活を支えたい。
- vol.25 新しい制御技術で、 環境にいいクルマを実現したい。
- vol.24 世界の産業を支える 技術者として活躍したい。
- vol.23 日本が誇る電力技術を、 世界に広めたい。
- vol.22 宇宙を駆ける、世界初のものづくりをしたい。
- vol.21 電気工学を活かして、交通安全を支えたい。
- vol.20 製鉄現場を電気技術者として支えたい。
- vol.19 エネルギー・環境問題の解決と、 日本の産業を強くしたい。
- vol.18 電力の安定供給を支えたい。
- vol.17 ものづくりの現場に、 電気の専門家として貢献したい。
- vol.16 社会の役に立つ、電気の研究をしたい。
- vol.15 電気工学で、地球環境を守りたい。
- vol.14 世界に広がる省エネ機器をつくりたい。
- vol.13 世界中の社会インフラを支えていきたい。
- vol.12 電気工学で、半導体の進化を支えたい。
- vol.11 電気工学で、日本の鉄道を支えたい。
- vol.10 世の中ではじめての電力機器をつくりたい
- vol.9 電気を広めて、紛争のない世界を実現したい。
- vol.8 宇宙空間で動く、究極の電源をつくりたい!
- vol.7 風力発電で、エコの輪を世界へ広めたい。
- vol.6 電気工学で、日本のケータイを世界へ広めたい。
- vol.5 夢の超電導ケーブルを、世界中で実現したい!住友電気工業株式会社 西村崇さん
- vol.4 エコキュートをもっと便利に。電気工学で地球環境を守る。
- vol.3 電気は、社会に不可欠なライフライン。だから、私は高電圧・大電流に向き合う。
- vol.2 電気工学を応用して、世界一のハイブリッドーカーを開発したい!
- vol.1 電気工学は一生の財産。どこへ行っても使える学問です。