先駆的な研究テーマで、 太陽電池をもっと進化させたい。

2016年8月31日掲載

今回は立命館大学の峯元研究室におじゃましました。充実した装置を取りそろえ、太陽電池の作製と屋外環境評価を主として行っている研究室です。特徴はなんといっても活気あふれる雰囲気と、学生の主体性を重んじるカルチャー。一人ひとりが自分のスタイルで研究に取り組んでいます。レクリエーションなどオフタイムの活動も盛んです。

※2016年6月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

活気あふれる雰囲気に惹かれて、迷わず選んだ研究室

皆さんが電気工学を志望された理由について教えてください。眞野さん、いかがですか。

眞野:中学の頃、理科の実験が大好きでした。大学進学の際、太陽光などの再生可能エネルギーが注目されていて、当時の電子光情報工学科(現・電気電子工学科)の“光”というワードに強く惹かれたんです。それで電気系の中でも光に特化した勉強ができるのではと考えて志望しました。電気の勉強をしておけば将来の仕事も何とかなるかな、という漠然とした思いもありました。

峯元研究室を選ばれたのはどうしてでしょう。

眞野:大学院に進んだのは、学部の勉強は座学が中心だったので、せっかくだから研究・実験に打ち込みたいという理由です。その中で峯元研究室を選んだのは、太陽光発電の研究ができるということと、先輩方がすごく元気で、研究室全体に活気があふれていたことに魅力を感じたからです。

平山さんにも同じことを伺いたいのですが。

平山:私も小学校の頃から理科の実験が好きで、乾電池をつないで豆電球を光らせては、すごいな、どうして光るんだろうと不思議に思ったりしていました。高校時代は数学や物理が得意だったので理系に行こうとは決めていました。機械か、電気かで迷ったんですが、機械はどんなことを学ぶのか、想像がつきにくかったので、最終的に電気を選びました。

大学院へは最初から進むつもりでしたか。

平山:進学を決めたのは学部の3年生の時でした。研究室見学があって、いろんな研究室を見せてもらううちに、自分も大学院に進んでじっくりと時間をかけて今まで不思議に感じていたことを一つひとつ解き明かしていけたらいいな、と思うようになったのです。峯元研究室を選んだのも眞野さんと同じで、研究室に足を踏み入れた瞬間の印象が、明らかに他の研究室と違っていたんです。

ひとめ惚れみたいな感じですか?

平山:ええ、まさに第一印象で決めてしまいました。

今井さんはいかがでしょうか。

今井:私は高校時代に一番得意だった科目が物理で、たとえば自由落下でものが落ちていく状況を数式で表していくようなことに、とても面白みを感じていました。その物理の中で一番難しいと感じたのが電気だったので、大学では電気工学について詳しく学ぼうと思ったんです。

電気って目に見えないから難しいってよく言われますね。

今井:まさしくそうです。ただ、電気も磁界も目に見えない難解なものですが、それゆえに興味をそそられます。

研究室についてはいかがでしょう。

今井:今お二人が話されたのと同じですが、私も各研究室を見学させてもらって、峯元研究室の先輩方が一番熱心に研究に打ち込んでいるという印象を受けました。そこが一番魅力的でしたね。

圧巻!屋上に並べられた太陽電池にびっくり

眞野さんと今井さんは同じグループで同じ研究をされているそうですね。

今井:ええ。太陽電池の新しい評価方法の確立を目標に、フィールドテストグループに所属しています。

眞野:現在、太陽電池は屋内環境での出力によって性能評価されています。屋外ですと日射量やパネルの温度、光の質などによって発電性能が変化するため、容易に測定することが困難なんです。そこで屋外でも高精度かつ容易に発電性能を評価できる技術が求められており、私たちは太陽光の色の分布を高精度に測定する技術の開発を行っています。また、太陽光の色の分布が太陽電池の発電性能に与える影響の解析も行っています。

フィールドテストというと?

眞野:太陽電池関連の研究の中でも地味な分野なんですが、屋外に太陽電池を設置して実データを取ってくる、という研究です。国家プロジェクトのメンバーとして携わっています。

なるほど。データが取得できる太陽光パネルが校内にあるわけですか。

眞野:ええ。テクノコンプレクス・ハイテクリサーチセンターや、ローム記念館の屋上に設置されています。太陽の光の質が変わると太陽電池の発電効率が2~3%変わってくるので、屋上のパネルで毎日データを取ってどんな質の光が最も効率がよいか、調べています。

今井:研究室に入って初めて屋上に並べられている太陽電池を見たときは、自分が通っていた大学にこんなシステムがあったなんて、と驚きました。近くで見るとすごく迫力があって、こんな素晴らしい環境で研究できることに感謝しています。

眞野:データの収集は1998年から継続して行っていますので、もう20年分近くの蓄積データがあるんです。ただ学会でも発表していますが、フィールドテストというのがかなり地味な分野なので、太陽光の研究を追求されている方には、熱心に聞いてもらえますが、少し人気がないかもしれませんね。

基礎研究の難しさですね。眞野さんは、研究室に入ってから印象的だったエピソードはありますか。

眞野:最初、とても厳しい研究室だと聞いていたのですが、実際はそんなことはまったくなくて、自分で研究の計画を立て、やることさえやっておけばかなり自由だと感じました。

テクノコンプレクス・ハイテクリサーチセンターの屋上に設置されている太陽光パネルでは、このようにパネルの裏側に機器を設置してデータをとります。

こちらは、ローム記念館の屋上に設置されている太陽光パネルです。

次世代太陽電池「ペロブスカイト」をつくり上げる

平山さんの研究について教えていただけますか。

平山:私は、有機と無機のハイブリッド型のペロブスカイト太陽電池(※1)の作製と評価を行っています。現在は20%以上の変換効率を達成していますが、時間が経過すると劣化することが明らかになっているため、劣化の少ないものを実現するために研究しています。

ペロブスカイト太陽電池は、圧倒的な低コストで作製できる点が非常に魅力的ですね。

こちらが、ペロブスカイト太陽電池を作製する装置です。

平山:現在、市場に出ている太陽電池は真空装置に入れて2時間かけて膜を1枚つけるなど、とても時間がかかるんです。その点、ペロブスカイト太陽電池は作製方法がまったく違って、簡単にすぐできてしまいます。ただ、水に弱いなど、まだまだ問題点が多いんです。現在は様々な条件を変えて実験してデータを取り、検証して、改善していくという繰り返しですね。

これは学部の頃から研究されているんですか。

平山:学部の途中から、先生に「やってみないか」って言われて始めました。新しいテーマで先行例が少ないので、とても面白いですよ。

(※1)ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造を用いた、次世代の太陽電池のこと。廉価な材料溶液を塗布して大量生産できるため、生産コストの大幅な低減ができると言われている。

オンとオフのメリハリのある研究生活です

研究室の特徴について教えてください。

今井:とてもメリハリのある研究室だと思います。皆さん、とても研究に対して熱心ですよ。にぎやかにしゃべっているなあと思ったら、実は研究についての話で盛り上がっていたり。

平山:特に私が学部生だった頃の先輩方はメリハリある人ばかりでした。ふざけるときは騒がしいほどなんですが、いったん研究を始めると周りの声が聞こえなくなるぐらい集中して、その姿はとても印象に残っています。

眞野:研究設備がとても充実しているのも大きな特徴で、薄膜の電気特性を測定する装置や屋外において高速に太陽電池特性を測定できる装置など多くの測定器が新たに導入されたため、研究にもますます張り合いがでてきます。装置のメンテナンスや管理も学生がリーダーとなって行っており、一人ひとりが責任感を持って装置を取り扱っています。自分たちの手に余るような不具合が出たらメーカーさんに来てもらって修理しますが、企業とのやりとりも、学生が責任を持って担当します。

研究室内のコミュニケーションはいかがでしょう。飲み会などもありますか?

今井:2週間に一度はグループ別でゼミがあって、研究報告や改善策などの議論をします。

眞野:飲み会は、中間発表などの節目にありますね。レクリエーションも多いです。また、研究室内にコーヒー部やラーメン部なんていう部活をつくったり。私がラーメン部の部長で、コーヒー部は平山君が部長です。

平山:香り高いコーヒーを研究室の中で飲めるよう取り組んでいるのがコーヒー部、ラーメンの名店を巡るのがラーメン部です。

眞野:最近では筋トレがはやっているので私も研究室のメンバーと大学のジムでよく汗を流しています。

ホームページを拝見したらイベント関係の写真も多く載っていましたね。

眞野:イベント係があって、バスケットボールなどを企画して息抜きをしています。去年はバーベキューもしました。

当日、研究室にいた皆さんに集まっていただきました。後列一番左が、峯元高志教授です。

社会人に備えて、朝早く来て夜早く帰る生活が基本

普段の生活についても教えてください。平均的な一日はどんな感じですか。

平山:朝9時に学校に出てきて、20時頃に帰るのが基本的なパターンですね。忙しいときは23時過ぎることも、たまにはありますが。

眞野:研究室のコンセプトが「朝早く来て、夜早く帰る」なんです。これは「社会に出たら朝来て夜帰る生活が基本だから」という先生の考え方によるものです。ただ、厳格なルールというわけではなくて、各自が自分のペースで研究を進めています。そのあたりは自由ですね。だから平日に遊びに行きたいときは、他の日に遅くまで頑張る、という工夫ができます。そういうバランスの取り方は、全部学生の自主性に任されているんです。

今井さんはまだ学部生だから授業もありますね。

今井:ええ。9時頃出てきて研究して、午後は授業を受けて、その後また研究するという感じです。帰りは、早い日で17時頃、ちょっと頑張ろうという日は19時頃ですね。

時間の管理が学生の自主性に任されているからでしょうか、皆さん、研究以外の生活も充実していますね。今井さんは塾講師のアルバイトをされているとか。

今井:ええ、週に2回程度、無理のない範囲でやっています。中学生に教えることが多いんですが、理科が苦手で、特に電気は嫌いという子も少なくなく、その辺はやっぱり少しでも電気の楽しさを伝えたいと思っています。

ぜひお願いします。平山さんは大学のウィンドサーフィン部に所属ですか。

平山:そうです、体育会のウィンドサーフィン部です。年に数回、全国各地の仲間と一緒に大会に出場しています。

そして眞野さんは国際ボランティア活動を続けていらっしゃるとか。

先輩・後輩が助け合って研究をすすめていきます。

眞野:学部時代から東南アジアの国々に出かけて住居建築のお手伝いをするというボランティアで、今年の夏もスリランカに行ってくる予定です。計画をしっかり立てて研究を進めておけば、こんなふうに長い休みもしっかり取れるのが、この研究室のいいところだと思います。

活躍の場の広さに、企業からの期待の大きさを実感

電気工学を学んでよかったと思うことはありますか?

眞野:最近実感するのは、太陽光発電についての話題がとても多く、たいていの話題には答えられるようになったことですね。あと、就職に強く、活躍の場が幅広いことも、電気工学の魅力だと思います。実際、就職活動をしていると、電気系の学生は企業の選択肢の幅が広いと感じます。

平山:私は現時点では特によかったと実感することはないんですが、卒業して社会に出たときにはこれまで学んできた電気工学の知識を活かせる機会にでくわすのでないかと感じています。眞野さんが言うように、就職活動の時期を迎えると実感するのかもしれませんね。

今井:電気は私たちの生活にとても身近で、いろんな場面で人々を支えています。その知識が身につくのはとても有意義なことですし、1本の電柱を目にしても構造や仕組みがわかるから、街を歩くだけでも面白さを感じます。

就職のことなど、意識されますか。

今井:一度は就職しようと電力会社のインターンに参加したことがあります。ただ、改めて自分の未熟さを感じて、その時点で大学院への進学に切り替えました。一方、メーカーのインターンシップに参加したときは、電気分野の知識がどんな企業でも必要とされることを実感し、電気工学の出身者はやはり活躍の場が広いと感じました。

眞野:実際、物理系の私の友人は、企業によってはエントリーを受け付けてもらうことさえできなかったようです。募集枠そのものがなかったのでしょう。電気系は、そういうことはまずないですね。

では最後に皆さんの将来の夢を教えてください。

眞野:私はプラントエンジニアリング会社への就職が決まっているので、今後はさらに電気の知識を深めて、巨大なプラントづくりに携わりたいと思います。日本国内だけでなく、世界をフィールドに活躍するエンジニアになりたいですね。ボランティアをしていたので海外に出て行くことには抵抗はないので、チャンスがあればどんどん世界に飛び出していきたいと思います。

平山:私は車が好きなので、自動車関係の仕事に就きたいと思っています。

やはり電気工学の専門家としての強みを活かして?

平山:ええ、今後、排気ガスの規制はさらに厳しくなっていくと思うので、燃料電池などの素材の開発に携わって、そうした規制をクリアするような仕事をしたいと考えています。

眞野:実はラーメン部の活動には、運転手になってくれる車好きの平山君の協力が不可欠なんです(笑)。

なるほど(笑)。今井さんは学部生ですから、当面の目標は大学院への進学ですか。

今井:はい、そうです。進学後は、太陽電池だけでなく、幅広い知識を吸収して研究に取り組みたいと思います。将来についてはまだ決まっていないので、様々な可能性を見つけられたらいいですね。

皆さんのご活躍を応援しています。今日はどうもありがとうございました。

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