vol.46 古河電気工業株式会社
2020年11月30日掲載
学生時代に学んだ電気工学の知識を活かして、現在は送電ケーブルの設計者として活躍する石川さん。若い人材に責任ある仕事を任せてくれる環境の中、洋上風力発電に使用される海底ケーブルの設計という重要プロジェクトに携わっています。「将来は海底ケーブルのスペシャリストに」という石川さんに、オンラインにてインタビューしました。
プロフィール
- 2016年3月
- 名古屋工業大学 工学部 電気・電子情報工学科 卒業
- 2018年3月
- 名古屋工業大学大学院 工学研究科 電気機械工学専攻 修了
- 2018年4月
- 古河電気工業株式会社 入社
- 2018年6月
- 電力事業部門 電力技術統括部 電力技術部 第1課配属
※2020年9月現在。文章中の敬称は略させていただきました。
小学生時代に見た火力発電所が原点
石川さんが電気工学の道を選ばれた理由を教えてください。
石川:高校時代に進路を決めるとき、幅広い分野で活躍できる人間になりたいと考えて選んだのが電気工学でした。当初は機械工学と電気工学のどちらにしようかと迷ったのですが、機械も含めて生活の中には電気でなければ動かないものが多く、電気工学の方がより社会に対して与える影響が大きいと思いました。
もともと電気には興味がおありでしたか。
石川:そうですね。私は愛知県碧南市の出身で、小学生の頃、地元の火力発電所を見学したことをよく覚えています。とてもスケールが大きくて、地域の電力を支えている施設だということに感銘を受けました。この体験が電気に興味を抱くきっかけになったと思います。
“がいし”にまつわる研究に取り組む
学生時代はどのような研究に打ち込まれましたか。
石川:架空送電線の“がいし”で発生するフラッシオーバ確率(“がいし”表面で放電が発生する確率)をシミュレートする研究を行いました。フラッシオーバ確率は“がいし”を設置する環境によって異なり、この研究では設置する場所の特定の環境データからフラッシオーバ確率をシミュレートすることで、最適な“がいし”設計を可能にすることを目的としています。私は放電実験の結果とシミュレーションの結果を比較して、実際の実験結果に近づけるような計算手法のアレンジを担当しました。過去の計算式を見ながら新しいパラメータを設定して計算手法を編み出していく過程は、とても面白いものでした。
どんなことが印象に残っていますか。
石川:研究室の仲間と協力して、Excelのマクロを組んだことです。それまで試験結果の集計は手作業で行っていたのですが、作業時間の短縮を目的にExcelのマクロを組んでみました。プログラミングは高校時代に少し触れた程度で、Excelのマクロの経験はまったくなかったのですが、なんとか組むことができました。その結果、1日がかりだった作業が数10分で終わるなど劇的な成果を上げることができたのです。「時間に余裕ができたのはいいけれど、やることがなくなったな」と仲間たちと苦笑したことを覚えています。
仲のいい研究室だったのですね。
石川:ええ。10人ほどの研究室で、雰囲気はとてもよかったです。時々研究室でパーティーを開いたのは、いい思い出ですね。特にインドからの留学生3人が家でつくったカレーを持ってきてくれたのは、非常に印象に残っています。本場のカレーとチャパティはびっくりするほど美味しくて、いまだにあれを超える味のカレーに出会ったことはありません。
責任ある仕事を任せて成長を促す社風
メーカーを選ばれた理由について教えてください。
石川:“がいし”に関する研究をしていたことから、電力インフラに携わりたいと思いました。同時に、ものづくりにも興味があったので、メーカーという立場で電力インフラを支えたいと考えました。
その中で古河電工を選ばれたのはなぜでしょう。
石川:重電メーカー、ケーブルメーカーといろいろ見たのですが、最終的な決め手となったのは、古河電工の先輩社員の姿です。会社説明会でお目にかかった人たちは、誰もが仕事について楽しそうに話してくれて、その様子に強く惹かれました。加えて優しい人柄の社員が多く、こういう先輩方と一緒に仕事がしたいと思い、入社を決めました。
お仕事の内容について教えてください。
石川:送電ケーブルに関する技術窓口として、国内の電力事業者に向け、ケーブルの設計や技術計算を担当しています。社内では製造部と研究部からの情報をとりまとめ、顧客からの要望を勘案しつつ、方針を決める役割を担っています。
入社3年目ということですが、責任あるお仕事を担当されていますね。
石川:若い人材に責任ある仕事を任せ、成長を促すというのが、当社の社風です。特に私の所属する電力技術部は若手の割合が高く、かつ案件が多いことから、若手にどんどん仕事を任せてくれています。もちろん先輩がしっかりフォローしてくれますが、主体的に仕事に取り組み、自ら学んで育つことが求められますので、自分でも成長が実感できる、素晴らしい環境だと感じています。
洋上風力発電の着床式海底ケーブルの設計を担当
現在はどんなプロジェクトに取り組んでいらっしゃいますか。
石川:洋上風力発電の海底ケーブルの設計に携わっています。洋上風力では浮遊式ケーブルが一般的ですが、現在私が担当しているのは着床式のケーブルです。着床式ケーブルは海底に敷設することになるため強靱さが求められ、例えば地引き網などの漁具に巻き込まれても耐えられるようでなくてはなりません。そのために光ファイバーなどと一緒に鉄線も巻き付けてあり、太さは20センチほどにもなります。私は、過去に設計されてきた国内・海外向けの海底ケーブルについて勉強しながら、最適な設計を目指しています。
やりがいのあるお仕事ですね。
石川:はい、大きなやりがいを感じています。というのも、海底ケーブルに関しては明確な規格や法律が制定されていないため、私の進めている設計が今後の基準になる可能性があるからです。まさに先頭を走っているという実感があり、入社3年目でありながらこのような責任ある業務を任されていることに大きな喜びを感じています。実際に海底ケーブルが敷設されるのは数年後ですが、そのときが楽しみです。
洋上風力発電の海底ケーブルのフロンティアですね。
石川:そういう自覚で取り組んでいます。
これまで印象に残っているのはどんなことですか。
石川:入社2年目に同期の仲間と2人で、社外の技術講演会で講師を担当したことです。他社の講師は管理職クラスのベテランの方々ばかりでしたから、唯一の若手として非常に緊張したのですが、無事に成功させることができました。
これも若手に責任ある仕事を任せてくれた一例ですね。
石川:海底ケーブルの基本知識に関する講義ということで、上司に「社内でも一番詳しいのは君だから、勉強の意味も込めて、ぜひ挑戦して欲しい」と言われて担当することになりました。講演会当日に向けて質疑対応も含めて資料を用意し、前日は遅くまでリハーサルを繰り返しました。海底ケーブルに関して勉強することができ、また、人前で発表するスキルも学べたということで、大変有意義な経験となりました。
電気の知識を強みに、信頼感を得る
学生時代に身につけた電気工学の知識は、お仕事の上でどのように活かされていますか。
石川:絶縁工学や電磁気学の基本的知識は、現在の日常業務で大いに活用しています。特に顧客である電力事業者の方々とお話をするときは、それを痛感します。というのも、先方は電気の専門家、こちらはケーブルの専門家として仕事をするわけですが、打ち合わせの際、電気の専門用語が出ても、改めて私から説明を求めることはないため、話がスムーズに進められるのです。
顧客からの信頼も厚くなりますね。
石川:はい。「こちらの言ったことをちゃんと理解していますね」という表情をされますし、コミュニケーションも密になるので、顧客と仲よくなれます。学生時代に電気工学を学んでいてよかったと感じる点です。また、電気工学とは関係ないのですが、Excelでマクロを組んだ経験も、社会人としてのPCスキルという点で役に立っています。
“新しい当たり前”の創造にチャレンジ
電気工学の魅力とは何でしょうか。
石川:やはりどんな場所でも活躍できるという点ではないでしょうか。高校時代に電気工学か機械工学で迷ったというお話をしましたが、機械も電気がなければ動かないのはもちろんのこと、今や自動車も電気で動く時代です。電気工学の専門家が活躍する場所は、今後さらに増えていくでしょう。電気工学を学んでおけば、社会のどこでも活躍でき、社会に影響を与える人材になれると思います。
石川さんの今後の目標について教えてください。
石川:まずは、先ほどもお話ししたように、現在設計に取り組んでいる海底ケーブルが無事に敷設されることが目標です。その結果、洋上風力の風車が回る姿をぜひ見届けたいですね。こうした実績を重ねて、将来は海底ケーブルのスペシャリストとして活躍できたらと思います。一方で、洋上風力だけでなく、古河電工の強みを活かせる再生可能エネルギー関連の分野全般に携わり、社会に貢献していきたいという思いも持っています。
電気工学を学ぶ後輩の皆さんに一言お願いします。
石川:電気や通信など、あって当たり前と思われるインフラについて、その本質を学べるのが電気工学です。社会に出れば、専門性を活かして活躍する場所は大きく開かれています。そして、“新しい当たり前”を創造できるチャンスを手にできるのも電気工学の魅力です。ぜひ学生時代に知識を磨き、将来に向けてチャレンジしてください。
本日はありがとうございました。
バックナンバー
- vol.53 日々の確実な作業の積み重ねで、地下鉄というインフラを支えたい。
- vol.52 電気工学を活かして技術の発展に女性の視点を反映したい
- vol.51 東西日本間の電力融通を通じて安定した電力供給に貢献したい。
- vol.50 情報科学の知見を活かして電力業界のDX化に貢献したい。
- vol.49 電力業界の新たなルールへの対応の検討を通じ、カーボンニュートラルの実現に貢献したい。
- vol.48 変電技術者として変電所の運営に携わり、電気のある明るい生活を支えていきたい。
- vol.47 空港という重要施設を電気のスペシャリストとして守っていきたい
- vol.46 海底ケーブルのスペシャリストとして電力インフラを支えていきたい。
- vol.45 「ワクワクしつつ冷静に」をモットーに電力の安定供給に貢献したい。
- vol.44 “縁の下の力持ち”として測定器づくりによって社会を支えていきたい。
- vol.43 電力インフラを支える仕事を通じて、環境保護などの社会貢献を続けていきたい。
- vol.42 誰からも認められる女性技術者となり、 発展途上国の人々の暮らしに貢献したい。
- vol.41 電験1種取得者としての専門性を活かし、 電力業界で必要とされる人材であり続けたい。
- vol.40 電気工学の知識をもっと身につけ、 信頼される技術者になりたい。
- vol.39 大容量の電力貯蔵を実現するNAS電池の普及を通じてエネルギー問題の解決に貢献したい。
- vol.38 電気工学の知識を活かし、設備設計のプロとして活躍したい。
- vol.37 電動化が進むクルマの、これからの進歩を支えたい。
- vol.36 電力を支える使命を持った 信頼される存在になりたい。
- vol.35 世界に広がる活躍のステージ。 社会貢献への期待に応えたい。
- vol.34 四国の電力を支える使命を持って、火力発電の未来を拓きたい。
- vol.33 世界中のヒトに信頼される、建設機械を設計したい。
- vol.32 変電設備の最前線で、 電気の安定供給に尽くしたい。
- vol.31 都市レベルでものごとを考えられる、広い視野を持った電気設備設計者になりたい。
- vol.30 高電圧・高電界分野の技術開発で、 電力機器を進化させたい。
- vol.29 電力系統解析の研究者として、 社会や現場のニーズに応えたい。
- vol.28 電力・エネルギーの専門家として、社会に広く情報発信したい。
- vol.27 世界の海洋開発と海上物流を、最先端の電気技術で支えたい。
- vol.26 電力系統を守って人々の生活を支えたい。
- vol.25 新しい制御技術で、 環境にいいクルマを実現したい。
- vol.24 世界の産業を支える 技術者として活躍したい。
- vol.23 日本が誇る電力技術を、 世界に広めたい。
- vol.22 宇宙を駆ける、世界初のものづくりをしたい。
- vol.21 電気工学を活かして、交通安全を支えたい。
- vol.20 製鉄現場を電気技術者として支えたい。
- vol.19 エネルギー・環境問題の解決と、 日本の産業を強くしたい。
- vol.18 電力の安定供給を支えたい。
- vol.17 ものづくりの現場に、 電気の専門家として貢献したい。
- vol.16 社会の役に立つ、電気の研究をしたい。
- vol.15 電気工学で、地球環境を守りたい。
- vol.14 世界に広がる省エネ機器をつくりたい。
- vol.13 世界中の社会インフラを支えていきたい。
- vol.12 電気工学で、半導体の進化を支えたい。
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- vol.2 電気工学を応用して、世界一のハイブリッドーカーを開発したい!
- vol.1 電気工学は一生の財産。どこへ行っても使える学問です。