vol.4 九州大学
2009年8月30日掲載
九州大学の末廣研究室は、静電気工学や高電圧パルスパワー工学のバイオテクノロジーおよびナノテクノロジーへの応用に関する研究に取り組んでいます。これらの最先端テクノロジーは、私たちの身近な生活や暮らしを豊かにしてくれます。
※2009年6月現在。インタビュー中の敬称は略させて頂きました。
きっかけは、ロボットや家電が好き
小手川さんは、大学受験のとき、なぜ電気工学を専攻されたのですか。
小手川 誠(以下、小手川):私は、九州大学工学部の「電気情報工学科」という名前ですね(笑)。元々、私は自分でホームページを作成していました。また、将来はロボットをつくりたいなぁという夢も持っていました。それで、「インターネット=情報」「ロボット=電気」ということで、各々に関わる研究ができると思い「電気情報工学科」という名前に惹かれて進学しました(笑)。
舞さんはいかがですか。
舞 香織(以下、舞):私の実家は、父親と母親と妹の4人家族なのですが、家でPCの修理や配線をつなげるのが私の担当だったというのがきっかけです。父親が仕事へ行くと女3人が残りますよね。それでなぜか私がやるようになって、だんだんと家電が好きになってきたというわけです(笑)。
それから大学院へ進まれるわけですが、末廣研究室を志望された理由は?
小手川:末廣研究室を志望したのは、「カーボンナノチューブ」という最先端の研究をやっていたからです。新しいことをやりたいと思っていました。
舞さんは?
舞:私は学部時代、電力系統のシミュレーションなどをやっていました。ちょうど、このインタビューの大阪大学の方と全く同じ研究です。それで、電力の勉強を活かせる研究室が、九州大学では末廣研究室だったというのが大きな理由です。あとは、実験にも興味がありました。
ナノテクノロジー=10億分の1メートルを操る技術
おふたりとも同じ研究をされているのですか。
舞:はい。私たちを含めて3人でチームを組んで、小手川さんがリーダーです。
では、小手川さんに研究内容を伺います。簡単に言うと、どのような研究をなさっているのですか。
小手川:一言で言えば、電気の力を利用してカーボンナノチューブを使ったガスセンサをつくるという研究です。今まで誰もがやっていない、新しい研究です。
カーボンナノチューブとは何ですか。
小手川:カーボンナノチューブとは、カーボン(炭素)でできた、直径がナノメートル(10億分の1メートル、髪の毛でいうと1万分の1のサイズ)のチューブ状の物質です。カーボンナノチューブは、これだけの細さでありながら、ダイヤモンドと同等の強さを持ち、銅の約1000倍の電流を流すことができます。その他にも電気抵抗が少なく、銅の10倍の熱伝導率を持つなど、多くの優れた性質を持っています。そのため、様々な分野に応用が期待されている、新物質です。
凄いですね。例えば今、多くの電気機器には銅が使用されていますが、それがカーボンナノチューブになれば大きな進化が期待されますね。ガスセンサとは何ですか。
小手川:ガスセンサとは、特定の気体の濃度に反応するセンサのことを指します。私たちの身近なところですと、ガス漏れを感知すると警報音で知らせるセンサがありますね。でもそれだけではなく、例えば、汚染物質の検出や麻薬・地雷の探知、個人認証や食品開発など、多くの用途で活用が期待されています。
なるほど。それでは、どのようにカーボンナノチューブを使ってガスセンサをつくっているのですか。
小手川:カーボンナノチューブは小さすぎて、そのままだとセンサに応用ができないのです。そこで私たちは誘電泳動(※)という現象を利用して、カーボンナノチューブをガスセンサに利用しています。誘電泳動で微弱な力を利用することで、ナノサイズの微粒子をコントロールできるのです。
最終的には、どのようなガスセンサが生まれるのですか。
小手川:例えば、アンモニアや二酸化窒素などの環境汚染ガスを、ppmレベル(100万分の1)で高感度に検出できる性能を持つガスセンサの開発に成功しています。ナノレベルに感知ができるガスセンサです。
つまり、皆さんが手掛けている研究は、ナノテクロジーということですね。
小手川:そうです。元々、末廣先生は、誘電泳動を使って、食物から細菌を検出する研究をしていたそうです。今、騒がれている食の安全を守るためです。そこで今度はガスセンサに誘電泳動を応用したというわけです。
※誘電泳動とは、電気力学現象の一種で、不均一な電界中に置かれた浮遊粒子が電界の強い領域もしくは弱い領域に駆動される現象を言う。
留学生との交流、オン・オフを大事にする研究室
ナノメートルオーダーの研究は想像がつかないのですが、実験が多いのですか。
舞:はい、実験がほとんどです。実験は、先ほども言ったように3人のグループでやっています。名前はガスセンサチームです(笑)。
小手川:(笑)。私たちの研究は基本的に出来上がった材料の応用なので、ゼロから新しい材料そのものをつくるのではありません。応用研究ですね。一週間の流れとしては、毎週1回、研究進捗状況を報告するゼミを全員参加で行い、あとはグループで実験を行うという感じです。
アルバイトやサークルなどをする時間は、ありますか。
小手川:大丈夫です(笑)。私は、今アルバイトと実験の日々です。アルバイトは、学部生の情報処理の授業で、TA(ティーチング・アシスタント)を週1回努めています。それから、大学で学んだ知識を生かして電気工学関係の専門学校で実験の指導も行っています。
舞:私は学部時代から続けている、テニスサークルをやっています。九州大学は最近、工学部が伊都キャンパスに集約したので、色々なテニスサークルが集まっています。新しい友達が増えてうれしいです(笑)。
なるほど。では、末廣研究室の特徴を教えて下さい。
小手川:研究室の特徴というと、PCが全てMacということですかね。末廣先生のこだわりです。
舞:だから図形を描くことについては、先生、結構厳しいです(笑)。
Macはデザイナーがよく使うPCですからね(笑)。他に何かありますか。
舞:留学生の方が多いことですね。私が以前いた学部には、外国の方はいなかったのでビックリしました。うちの研究室の半分が、外国人です。それも、多国籍でエジプト、インドネシア、中国の方がいらっしゃいます。
コミュニケーションはどのようにされるのですか。
舞:英語です。私は、そんなに英語がしゃべれないので、とにかくジェスチャーも交えて、気持ちでコミュニケーションをしています。はじめはとまどいましたけど、最近はようやく慣れてきましたね。他の国の方と一緒に生活をする機会はなかなかないので、すごく勉強になります。英語でコミュニケーションをとる大切さを実感しました。
研究室全体で、何かコミュニケーションをとることはありますか。
舞:研究室全員で定期的に旅行や飲み会をやっています。ですから、自然とコミュニケーションがとれますね。この春は、福岡市にある海の中道海浜公園に他の研究室の方たちと合同で行きました、
住宅設備を電気でもっと魅力的なモノに(小手川)
結婚して子供を生んでも、電気に関わりたい(舞)
それでは、電気工学を学んでよかったことを教えて下さい。
舞:電気工学ってすごく幅が広い学問だと思います。PCでシミュレーションをすることもあれば、電気回路をつくることもある。化学的な研究をすることもあります。だから、本当に自分がやりたいことを見つけられる分野ではないでしょうか。
小手川:色々な生活をしている中で、モノの本質が見えることですね。蛍光灯ひとつとっても、どうやって光るのかが分かる。社会で生活をしていく上で、様々なことが見えてきます。
おふたりの将来の夢や目標を教えて下さい。
舞:やはり電気系の会社に就職したいです。女の人が少ない業界ですが、結婚して子供を産んでもずっとやっていける職場で働きたいです。そして自分が携わった製品を世に出したいです。
小手川さんはいかがですか。
小手川:実は、私は住宅設備関連の会社に就職が決まっています。具体的に言うと、トイレやキッチン、バスなどを扱っている会社です。どうして、その会社を志望したかというと、私は、自分の周りの人達を、電気で喜ばせたいのです。トイレひとつとっても、今は便座を温めたり、ウォシュレットがあったりしますね。これらは全て電気で制御されています。私は、電気を使って、身近なモノをもっと便利で楽しいモノにしたいという夢を持っています。
身近な生活を電気でより良くしたいというわけですね。
小手川:そうですね。人それぞれ使命があると思うのですが、自分の場合は電気を使って世の中に貢献することだと考えています。
ありがとうございました。おふたりの夢をぜひ実現して、電気工学の魅力を社会に伝えてください。
末廣 純也 教授(すえひろ じゅんや)
当研究室では、静電気工学や高電圧パルスパワー工学のバイオテクノロジーおよびナノテクノロジーへの応用に関する研究に取り組んでいます。特に近年は、誘電泳動やマイクロプラズマを利用した生体物質やナノ物質の操作・改質、ならびにBio-MEMSデバイス、ナノデバイス、ナノコンポジット材料などへの応用を目指しています。2009年度は、教職員2名、博士課程2名、修士課程5名、学部生4名で活動しています。
バックナンバー
- vol.55 地球にやさしい先進的な研究で電気工学の可能性を広げたい。
- vol.54 多様な研究を通じて、電気工学の可能性に挑戦したい。
- vol.53 電気工学の研究を通じて、本格的な再エネ時代に貢献したい。
- vol.52 モータの研究を通じて、電気の新しい可能性を拓きたい。
- vol.51 身近なテーマの研究に打ち込み、より快適な社会づくりに貢献したい。
- vol.50 逆風の中でも志を高く持ち、研究活動に打ち込みたい。
- vol.49 技術力で地球にやさしい社会づくりに貢献できるエンジニアを目指したい。
- vol.48 太陽光発電出力予測シミュレーションなどを通じて、再生可能エネルギーの普及に貢献したい。
- vol.47 自由な研究環境の中、自分ならではの研究テーマを通じて成長したい。
- vol.46 高温超電導の研究を通じて、さまざまな社会課題を解決したい。
- vol.45 幅広い電気エネルギーの研究を活かして、 未来の可能性を大きくしたい。
- vol.44 自由な環境で研究に打ち込み、社会からの期待に応えたい。
- vol.43 "雷"の研究を通じて、快適で安心な生活を支えたい。
- vol.42 先進のモーター研究を通じて、 将来の夢を叶えたい。
- vol.41 高専で専門性を磨いて、将来の選択肢をひろげたい。
- vol.40 グローバルな視点を持ちながら、 日本の電力を発展させたい。
- vol.39 風通しのよい自由な研究室で、電気の幅広い魅力を追求したい。
- vol.38 先駆的な研究テーマで、 太陽電池をもっと進化させたい。
- vol.37 生活に身近な研究を通じて、社会のために貢献したい。
- vol.36 パワエレの専門性を武器に社会のニーズにこたえたい。
- vol.35 電磁界を応用した先進研究で 暮らしを便利にするものづくりに貢献したい。
- vol.34 パワーデバイスの先進研究で、省エネ社会を目指したい。
- vol.33 高電圧・大電流を学んで 社会に大きな貢献をしたい。
- vol.32 電気の研究を通じて交流を広げ、 日本の未来に役立ちたい。
- vol.31 風力発電の未来を、もっと広げたい。
- vol.30 電力技術で世界の エネルギー問題を解決したい。
- vol.29 超電導技術で、 未来の社会を支えたい
- vol.28 先進の技術と知識で、 これからの電力を支えたい。
- vol.27 パワエレ技術を活用して、 社会に貢献したい。
- vol.26 放電プラズマで、 夢の技術を実現させたい。
- vol.25 電力システムの研究を活かし 社会の第一線で活躍したい。
- vol.24 自分たちが開発した技術を、世の中へ出したい。
- vol.23 電力を学んで安定供給を支えたい。
- vol.22 世界中の人の生活を支える技術者になりたい。
- vol.21 電気工学で社会インフラを支えたい。
- vol.20 世界に通用するエンジニアになりたい。
- vol.19 電気工学で様々な社会問題を解決したい。
- vol.18 太陽光発電・風力発電を、普及させたい。
- vol.17 日本に新たな電力システムをつくりたい。
- vol.16 電気を上手に使う、省エネ社会を実現したい。
- vol.15 電気で土壌汚染を解決したい。 CVケーブルを守りたい。
- vol.14 電気工学で世界を舞台に活躍したい。
- vol.13 日本、そして世界の電力・エネルギー分野に貢献したい。
- vol.12 送電設備の建設にかかわりたい。電気の面白さを子供たちに伝えたい。
- vol.11 発展途上国を助けたい、 地元に貢献したい、日本の電力を支えたい。
- vol.10 生活を豊かにする製品をつくりたい。 社会インフラを支えたい。
- vol.9 電気工学で環境問題を解決したい!
- vol.8 将来の夢へ、電気工学の知識を活かしたい
- vol.7 これからの日本の電気を私たちが支えたい!
- vol.6 世界中のインフラを、システム工学で支えたい。
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- vol.3 最先端プラズマ技術で、社会に貢献をしたい!
- vol.2 夢は、海外で暮らしたい。世の中に新しい 仕組みを創りたい。電気工学が役に立つ!
- vol.1 電気工学は、社会に役立つ研究であり、手に職がつく学問だと実感しています。
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