vol.21 日本信号株式会社
2013年7月31日掲載
日本信号株式会社は、鉄道信号技術の国有化と発展を担って1928年に創立した会社です。現在では、鉄道信号や道路交通信号の制御装置、自動改札機、券売機、空港の搭乗ゲートの改札機など、私たちの身近なあらゆる社会インフラに、日本信号の製品が使用されています。今回、インタビューにご登場いただいた田村大樹さんは入社以来、交通情報システム事業に携わり、設計を経験された後、現在では営業のお仕事に携わっています。※本取材は、福岡県福岡市にある日本信号株式会社九州支店にて行いました。
プロフィール
- 2005年3月
- 茨城大学工学部電気電子工学科卒業
- 2007年3月
- 茨城大学大学院理工学研究科電気電子工学専攻修了(鵜殿研究室)
- 2007年4月
- 日本信号株式会社入社
- 2007年7月
- 日本信号株式会社久喜事業所交通情報システム技術部
- 2010年4月
- 日本信号株式会社久喜事業所生産設計部
- 2012年4月
- 日本信号株式会社九州支店
※2013年4月現在。文章中の敬称は略させていただきました。
オーディオ好きの友達に影響されて、電気に興味を持ちました
電気工学を志望された理由を教えてください。
田村:私の場合、大学進学時、ほとんど迷わないで電気に決めました。高校時代に「電気とオーディオが好き」な友人が何人かいまして、彼らに影響を受けて自然と電気にひかれた感じです。家族はみんな文系でしたが(笑)。
高校時代のお友達の影響ですか。
田村:ええ。それで目に見えない電気を操れるようになりたい、という願望が生まれたと思います。また、電気は現代の生活に欠かせないものというイメージがあって、電気工学を学べば就職の際にも選択肢が広がるのではないかと考えました。
鵜殿研究室へ進んだ理由を教えてください。
田村:鵜殿研究室は、半導体研究室とも呼ばれています。半導体は、今やほとんどの電気製品に使用されるほど重要な役割を果しているのはご存知かと思いますが、その知識を研究を通して身につけたいという理由で選びました。
光学的観点から見たシリサイド系半導体の研究
鵜殿研究室での研究内容を教えてください。
田村:環境にやさしい半導体材料であるシリサイド系半導体(※1)の結晶成長と光吸収測定による特性評価を行い、受光デバイスへの応用に向けた基礎研究を行いました。
※1 シリサイド系半導体:
簡単に言えば、将来、様々な電気デバイスへ使用するための研究として、シリサイド系半導体の特性評価を行ったというわけですか。
田村:そうです。私の研究テーマであったマグネシウムシリサイド(Mg2Si)は、近赤外という範囲の光を当てると吸収して、それ以外の波長の光は透過するという特性を持っています。その光の吸収量が相対的に変化する波長を特定するために、波長ごとの吸収の度合い(吸収係数)を求めて、半導体の性質を表す指標の一つであるバンドギャップの値を導き出しました。
素晴らしいですね。今後、マグネシウムシリサイドを普及させるために、田村さんの研究成果が重要になるというわけですね。
田村:そうですね。実用化するには、まず良質な結晶を作ってその特性を評価しなければなりません。良質な結晶を得る方法を確立して、その特性を明確にすることができれば、デバイスへの応用の道が開かれるのです。
研究をされていて、印象に残った出来事を教えてください。
田村:原料の純度を変えて結晶を作る実験で、結晶の一つがとてもよく成長していて、断面が鏡のように輝いていたことが印象に残っています。また、原料の純度によって特性の違いが顕著に見られたことも興味深く感じました。成長というと、ひよこがニワトリになるイメージだと思われるかもしれませんが、マグネシウムシリサイドの結晶は、シリコンとマグネシウムを1000度以上の熱で溶かして、それを徐々に冷やして固化させながら成長します。この方法は“融液成長”と呼ばれています。
化学的な要素もある研究ですね。研究室自体の思い出はどんなことがありますか。
田村:鵜殿先生が、若くてアクティブな方だったので、非常に明るい雰囲気の研究室でした。学会へ向けて徹夜で論文を仕上げたことや、みんなで鍋を囲んだことなどが思い出に残っています。お酒で失敗したこともありましたね(苦笑)。研究室には数年に一度訪問しますが、鵜殿先生と話をする度に当時の思い出がよみがえりますよ。
なぜ渋滞は起きるのか?信号機に注目しました
半導体の研究をされていた田村さんが、なぜ日本信号に入社されたのですか。
田村:きっかけは、学生時代に『そもそも渋滞はなぜ起こるのか?』ということに興味を持ったことです。当時、大学のキャンパスがある日立市に住んでいたのですが、車ででかけるときによく通った国道の渋滞がひどくて(苦笑)。
交通信号というところに注目されたのはどうしてですか。
田村:どのように車の流れが制御されているのかを知りたかったのです。例えば、交通信号は一定の時間で青、黄、赤を繰り返していますが、その時間がどのように決められているのか、普通は分かりませんよね。
確かに分からないですね。
田村:それで交通信号機器を扱っている当社のインターンシップに応募したのです。インターンシップでは、光ビーコン(※2)を使った実験を行ったのですが、普段の生活で何気なく利用しているものを間近で見て触れたことに感動したことを覚えています。そして、インターンシップでお世話になった方々と仕事がしたいと思って入社の意思を固めました。
※2 光ビーコン:
交通信号機器の設計と営業は、こんな仕事です
日本信号に入社されてからは、設計を担当されていたのですね。
田村:はい。埼玉県にある久喜事業所で、交通信号制御機、交通情報板、車両感知器などの製品を各都道府県警察本部の仕様に合わせて設計する業務を担当していました。
お客様からの、「こういう製品をつくってくれないか」といった要望に対してお応えするということですか。
田村:そうですね。各地の仕様に適合していて、かつ他社より優れた製品を設計することがミッションの一つでした。この設計業務を通じて習得した知識は、今でもお客様への製品説明などに役立っています。
そして昨年(2012年7月)、営業部門へ赴任されます。
田村:はい。現在は営業として交通信号機器の販売をしています。当社はジョブローテーションとして、設計をやっている人間も営業へ転勤する場合がありますので特に違和感はありませんでした。
交通信号機器の営業とは、具体的にどういう仕事の流れになるのですか。
田村:主なお客様は、各県の警察本部様、および工事を請け負っている業者様です。仕事の流れは、一般的な営業と変わらないと思います。自社製品の紹介・提案、見積、契約から、機器の手配、納品後のサポートまで業務の幅は広いです。
震災で再認識した交通信号機器の重要性と責任の重さ
営業をされていて印象に残ったことを教えてください。
田村:失敗談ですが、ある交差点に納品した機器が原因で渋滞を引き起こしてしまったことです。たった一つの機器で、交通状況が大きく変化することがあるので、改めて責任の重さを感じるとともに、とても興味深い仕事だと感じました。
たった一つの機器が原因で渋滞が起きるものなのですね。
田村:そうです。納品した交差点では、感知器の下を車が通過すると、進行方向に設置されている信号機の“青”時間が延長される制御(ギャップ感応制御)を行っていました。その時は、延長する時間の設定が間違っていたのです。秒単位の設定ミスでしたが、どんどん信号待ちの車列が増えていきました。「何かおかしいぞ」と思い、すぐに設定秒数を修正したところ、渋滞は解消されました。
東日本大震災がお仕事にどのような影響があったのかも教えてください。
田村:震災の後、計画停電を実施した地域では、警察官の方が手信号で交通整理をしていたり、幹線道路の大きな交差点では、小型発電機を持ってきて信号機を作動させていたりしました。こうしたことから、災害時の交通運輸インフラの早期整備も重要課題であると認識しました。当社では、災害対策および電力事情に対応すべく、「非常用電源内蔵型交通信号制御機」や低消費電力タイプの「LED式交通信号灯器」を開発し、全国へ販売しています。
それらの製品は震災時に、どのように活用できるものですか。
田村:「非常用電源内蔵型交通信号制御機」は、停電が発生しても信号機を動作させることができるので、交差点の安全確保に貢献できます。また、従来から使用してきた自動起動式発動発電機とは異なり、電源が落ちることなく動作を継続できるのも本製品の特徴の一つです。
「LED式交通信号灯器」は、従来のLED灯器よりさらに省エネ化したことで、計画停電等への対応だけでなく、環境負荷低減にも貢献できる製品となっています。
機器単体からシステム全体まで、電気工学が基礎知識です
学生時代の電気工学の研究は、現在の仕事にどのように生かされていますか。
田村:私が行った研究は、半導体材料を受光デバイスへ応用するための基礎研究でしたので、センサーに興味を持つきっかけとなりました。道路交通では、幹線道路の交通状況の監視や、車の有無により青信号を出すタイミングと時間を変更させる制御などにセンサーが使用されており、円滑な車の流れを作るために不可欠なものとなっています。
センサーは電気工学の中でも重要な位置を占めますね。
田村:はい。ですから、大学での電気工学の講義や半導体の研究と今の仕事は、意外なところでつながっていました。また、交通信号機器は単体で動作する装置、交通管制センターと通信を行って動作する装置など、様々なものが存在します。お客様のご要望に応じた提案を行うためには、機器単体だけでなくシステム全体を理解する必要があるので、その基礎知識として電気工学がとても役に立っていると思います。
これから電気工学を学ぼうとする学生へメッセージをお願いします。
田村:今の生活に電気は欠かせないものですので、電気工学を学べば就職の際にも選択肢が広がります。また、就職後もその知識が役に立つ日が必ず来ます。実際に、私の場合は設計部門、営業部門の両方で役に立っていますし。もし迷っている方がいるとしたら、幅広い分野から興味のあることを見つけて勉強ができる電気工学を選択することをお薦めしたいですね。
それでは最後に、今後、田村さんが目指されることを教えてください。
田村:営業活動を通して、顧客満足度の高い製品開発につながる知識を習得していきたいです。まずは、お客様の求めるものをしっかりと把握していくことですね。そして、その知識を生かして、より快適な人間社会に向けた製品開発に携わりながら社会に貢献していきたいです。
本日は交通信号機器の重要性が大変よく分かりました。どうもありがとうございました。
バックナンバー
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- vol.52 電気工学を活かして技術の発展に女性の視点を反映したい
- vol.51 東西日本間の電力融通を通じて安定した電力供給に貢献したい。
- vol.50 情報科学の知見を活かして電力業界のDX化に貢献したい。
- vol.49 電力業界の新たなルールへの対応の検討を通じ、カーボンニュートラルの実現に貢献したい。
- vol.48 変電技術者として変電所の運営に携わり、電気のある明るい生活を支えていきたい。
- vol.47 空港という重要施設を電気のスペシャリストとして守っていきたい
- vol.46 海底ケーブルのスペシャリストとして電力インフラを支えていきたい。
- vol.45 「ワクワクしつつ冷静に」をモットーに電力の安定供給に貢献したい。
- vol.44 “縁の下の力持ち”として測定器づくりによって社会を支えていきたい。
- vol.43 電力インフラを支える仕事を通じて、環境保護などの社会貢献を続けていきたい。
- vol.42 誰からも認められる女性技術者となり、 発展途上国の人々の暮らしに貢献したい。
- vol.41 電験1種取得者としての専門性を活かし、 電力業界で必要とされる人材であり続けたい。
- vol.40 電気工学の知識をもっと身につけ、 信頼される技術者になりたい。
- vol.39 大容量の電力貯蔵を実現するNAS電池の普及を通じてエネルギー問題の解決に貢献したい。
- vol.38 電気工学の知識を活かし、設備設計のプロとして活躍したい。
- vol.37 電動化が進むクルマの、これからの進歩を支えたい。
- vol.36 電力を支える使命を持った 信頼される存在になりたい。
- vol.35 世界に広がる活躍のステージ。 社会貢献への期待に応えたい。
- vol.34 四国の電力を支える使命を持って、火力発電の未来を拓きたい。
- vol.33 世界中のヒトに信頼される、建設機械を設計したい。
- vol.32 変電設備の最前線で、 電気の安定供給に尽くしたい。
- vol.31 都市レベルでものごとを考えられる、広い視野を持った電気設備設計者になりたい。
- vol.30 高電圧・高電界分野の技術開発で、 電力機器を進化させたい。
- vol.29 電力系統解析の研究者として、 社会や現場のニーズに応えたい。
- vol.28 電力・エネルギーの専門家として、社会に広く情報発信したい。
- vol.27 世界の海洋開発と海上物流を、最先端の電気技術で支えたい。
- vol.26 電力系統を守って人々の生活を支えたい。
- vol.25 新しい制御技術で、 環境にいいクルマを実現したい。
- vol.24 世界の産業を支える 技術者として活躍したい。
- vol.23 日本が誇る電力技術を、 世界に広めたい。
- vol.22 宇宙を駆ける、世界初のものづくりをしたい。
- vol.21 電気工学を活かして、交通安全を支えたい。
- vol.20 製鉄現場を電気技術者として支えたい。
- vol.19 エネルギー・環境問題の解決と、 日本の産業を強くしたい。
- vol.18 電力の安定供給を支えたい。
- vol.17 ものづくりの現場に、 電気の専門家として貢献したい。
- vol.16 社会の役に立つ、電気の研究をしたい。
- vol.15 電気工学で、地球環境を守りたい。
- vol.14 世界に広がる省エネ機器をつくりたい。
- vol.13 世界中の社会インフラを支えていきたい。
- vol.12 電気工学で、半導体の進化を支えたい。
- vol.11 電気工学で、日本の鉄道を支えたい。
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- vol.1 電気工学は一生の財産。どこへ行っても使える学問です。