vol.16 函館工業高等専門学校 三栗 祐己 助教
2013年5月31日掲載
三栗 祐己
函館工業高等専門学校 生産システム工学科 助教
- 2001年 3月
- 北海道大学工学部システム工学科卒業
- 2003年 3月
- 北海道大学大学院工学研究科システム情報工学専攻修士課程修了
- 2003年 4月
- 東京電力株式会社入社 東京支店荻窪支社練馬制御所に配属
- 2009年 7月
- 東京電力株式会社 技術開発研究所配電技術グループに異動
- 2010年10月
- 北海道大学大学院情報科学研究科システム情報科学専攻 社会人博士後期課程入学
- 2012年 3月
- 東京電力株式会社を退社
- 2013年 3月
- 北海道大学大学院情報科学研究科システム情報科学専攻 博士後期課程修了、博士(工学)
- 2013年 4月
- 函館工業高等専門学校生産システム工学科助教、現在に至る
東日本大震災により被災されました方々に、謹んでお見舞い申し上げます。
震災と原発事故以来、節電や自然エネルギーに対する意識が高まっています。家の屋根すべてに太陽光発電を設置して、百パーセント自然エネルギーでできないのか、といった声も聞かれます。節電については、数%程度は工夫してどうにか減らすこともできますが、使う量を半分にするなどの劇的な節電はなかなか難しいのが現状です。そんな中、全体から見た規模は小さいながらもこの節電と自然エネルギーについて実践している例を2点程、紹介させていただきます。
タイのタコメパイ
2013年1月、家族でタイへ旅行に行きました。訪問した場所は、タイのチェンマイよりバスで北に3時間走ったところにある、パイ(Pai)という人口3000人ほどの小さな町。私たちはゲストハウスに宿泊していましたが、現地に住む日本人に、タコメパイ(Tacomepai)(図1)というおもしろい村があるとの情報を聞きました。そこでは、20年以上前からこつこつとジャングルを切り開き、コメや果物を育て、身の回りにあるものだけで家や道具を作って森とともに生活しているとのことです。当初私はそれほど関心がありませんでしたが、妻の方が強く興味を持ったので、見にいくことにしました。
すると、村に入って最初に目に入ったのが、太陽光パネルをこれから設置しようとしている若い男性。ここには電気もガスも水道も、ライフラインがまったくありません。食料だけでなく電力も自給しているのか!と思い、私の興味が一気に高まりました。その男性に色々と質問をしていると、村長さんが現れ、村を案内してくれるとのこと。豚や鶏が飼われていたり、土や木や葉っぱだけで作られた家が建っていたりと、驚きの連続でした。中でも一番驚いたのが、太陽光発電による水の供給システムです。この村には水道も通っていないため、水はどうしているのかと思っていました。システムといっても非常にシンプルなもので、図2がその外観であり、屋根の下には井戸が掘られています。屋根の上には太陽光パネルがあり、屋根裏には太陽光パネルで作られた電力を貯蔵するバッテリーが設置されています(図3)。そのバッテリーで井戸のポンプを動かし(図4,5)、50メートルほど離れた場所にあるキッチンに水を補給しているのです。
実際にそのキッチンで水を使わせてもらいましたが、水圧も特に弱いことはなく蛇口もあるため、キッチンだけを見ればこの村に水道が通っていないことは意識しないと思います。こんなに簡単な方法で水道が作れること、そしてそれを動かすための太陽光パネルやポンプが思ったよりも小さくてすむことに、そして何よりもそれを実際に使って生活していることに感動してしまいました。ほかにも土や木や竹で手作りした家の中には小さな照明もあり、最低限の灯りには困らないようになっていました。中にはノートパソコンで音楽をかけている人もいて、ジャングルの家の中にあるハイテク機器という光景が、なんとも新鮮さを感じたものでした。
日本に帰ってきてからしばらくはその興奮が冷めやらず、自分も太陽光発電をやってみたいとも思っていました。しかし当時アパート暮らしのわが家では、屋根の上に太陽光パネルを設置することはできません。そもそも太陽光発電といえば、通常は一軒家の屋根の上に設置するもので100万円は最低でもかかるというイメージがあります。やはり自分には無理と思っていたところ、同じ年の2013年3月に、おもしろい本を見つけました。そのタイトルは…
「できた!電気代600円生活」はらみづほ著
電気代600円などということが可能なのか!?しかも著者のはらさんは、偶然にも当時私が住んでいた札幌在住とのこと。なぜこんな寒いところでそんな生活が可能なの!?タコメパイを訪問した時に感じた興奮が再びよみがえってきました。その方のことを調べていくと偶然にも当時私が通っていた北海道大学の近くのカフェで、講演をするとのこと。すぐに申し込み、本を読むよりも先に著者のはらさんに会うことができました。驚いたことに本を出したときには600円だった電気代が、電力の契約をさらに変更したことにより200円台まで下がったとのことでした。そんなはらさんの行った工夫の一例は以下の通りです。
- ベランダに太陽光パネルを設置し、部屋の中にバッテリーをおき、その電力でどうしても使いたい電化製品(洗濯機など)を動かす
- 掃除機の代わりにほうきを使う
- テレビを見ない代わりに友人知人から情報を得る
- 夕食時には照明を消してキャンドルの照明でキャンドルディナー
- 冷蔵庫を使わず、食品を乾燥・発酵させて保存させる
- 電子レンジ・炊飯器・オーブントースターなどは使わずに、土鍋と火で調理する
文字にしてみると、こんなけちけちするのはいやだという印象を受ける方もいらっしゃるかもしれません。しかしながらはらさんは、意外にもほうきの方が掃除機よりもじゅうたんのごみが取れて気持ちがいい、友人と会う機会を意識的に増やすので毎日が楽しい、ただの夕食がキャンドルによって豪華な雰囲気になるなど、これらのことを「必死に」ではなく、とても楽しくやっている様子がその講演で伝わってきました。「ベランダ太陽光」に至っては、一軒家ではなくマンション住まいにもかかわらず設置していること、すべてのシステムを10万円かからずに構築したとのことに、非常に驚きました。最低100万円は必要と思っていた太陽光発電も、工夫次第ではできるということを実感できました。
そして私も…
これらの体験に触発された単純な私は、自分にできる範囲でとにかく試してみることが重要と、自分にも手を出せる太陽光パネルを探して購入してみました。
図6がその太陽光パネル(ポータブルソーラー)です。ボールペンと比較すると分かる通り、かなりコンパクトです。最大出力は7ワットと非常に小さいですが、パネルの裏面にある部分で単三電池4本を充電でき、その充電器自体が小さな懐中電灯にもなっています(図7)。実用性は低いですが、3歳の息子がその懐中電灯を持って暗いトイレの中で用を足すなどして、はしゃいでいます。その間、通常はつけるはずの照明をつけないということで、非常にわずかですがエネルギー自給により節電ができたことに、ささやかな喜びを感じました。ここで得られたのは、けちけちとしたマイナスイメージの感覚ではなく、はらさんの言う「楽しい」という感覚でした。家庭菜園をする人が、野菜を買わずに済んだこと以上に自分で作ったものを食べること自体に喜びを感じるように、私もそれに似た感覚を得ることができたのです。
さて、私は2013年の4月から函館工業高等学校、生産システム工学科の助教として赴任しております。まだ赴任して間もないために不慣れな部分は否めませんが、講義をし、研究室のメンバー(図8)が配属されて、就職活動中の学生が相談に来てくれるなど、徐々に教員生活が本格化してきております(2013年5月執筆)。本研究室は、同じ電力分野の三島先生と私の合同で「三島・三栗研究室」として3名の専攻科生、9名の本科生、フランスからのインターンシップ生1名から構成され、新しい電力システムについての研究をしています。電力に興味のある方は、お気軽に三島・三栗研究室へご連絡ください。よろしくお願いいたします。