電動化が進むクルマの、これからの進歩を支えたい。

2017年6月30日掲載

ハイブリッド車や電気自動車など、自動車の中で電気の重要度は大きくなる一方です。自動車の進化に電気工学の専門家として貢献したいと考え、その夢を実現されたのが大平さん。現在はゲストエンジニアとして、自動車メーカーの拠点内でワイヤーハーネスの開発に携わっています。自動車づくりの現場で、電気の専門家がどのように活躍されているのか、うかがいました。

プロフィール

2010年3月
信州大学 工学部電気電子工学科 卒業
2010年4月
住友電装株式会社 入社
2010年8月
特品事業本部 第1事業部 開発技術統轄部 第2開発設計部
2012年9月
自動車メーカー ゲストエンジニア
2015年10月
米国駐在(自動車メーカー ゲストエンジニア)
2016年4月
帰国、自動車メーカー ゲストエンジニア 開発設計担当

※2017年4月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

いっぷう変わった音響の研究室で、モノづくりの面白さを味わう

大平さんが電気工学に関心を持つようになったのはいつ頃からですか。

大平:高校の頃ですね。もともと理系の人間で、モノづくりなどは好きでした。特に自動車が好きだったのですが、自動車の電動化が本格化すると言われていたので、将来、自動車の仕事をするには電気工学を学ばないといけないと思いました。さらに、自動車だけにとどまらず、社会のあらゆる場面で、電気電子工学で得られる工学技術が重要になっていくと考え、電気工学を志望しました。

信州大学の電気電子工学科ではどんな研究に打ち込まれましたか。

大平:ちょっと珍しい研究室ですが、音響の研究室に入りました。車が好きだし、車のオーディオも好きだったので、音響の研究には興味があったのです。

電気工学で音響の研究というのはちょっと珍しいですね。

大平:そうですよね。でも、例えばスピーカーは電気の音信号を振動に変えていますから、電気と音響は案外つながりがあるのです。その中で私が研究していたのは、バイクの走行時にどれだけの音量が出ているかを測定することでした。音のベクトルをインテンシティと呼んでおり、バイクの音をマイクで拾って音響インテンシティの式に当てはめると、どこから一番大きな音が出ているかがわかるのです。バイクの騒音を規制するために必要なシステムを開発する先駆けでした。

バイクの騒音の規制とは、それ位、厳しいものですか。

大平:はい。その当時は、通常の走行時は72dB以下でなければダメというものでした。72dBは、電話のベルぐらいの音です。

なるほど。実際にバイクを走らせて計測していたのですか。

大平:ええ。自分のバイクを持ち込んで河川敷を何度も走って測定していました。その測定に使うマイクもホームセンターからアルミパイプを買ってきて自作しました。もちろん音響インテンシティマイクは市販されているんですが、研究室の予算ではちょっと高くて買えないので、自分で作ってしまったわけです。楽しかったですよ。収録した音源は計算ソフトで解析しました。自分でモノづくりをして、測定して、解析までやれたということで、非常に充実した研究生活だったと思います。

研究以外では、どんなことが思い出に残っていますか。

大平:音響の研究室ということで、やはり音楽好きな仲間ばかりでした。楽器も得意で、ギターやバイオリンを弾く人間もいました。私はドラムだったのですが、そういう仲間が夕方になると研究を止めて、セッションを始めるのです。誰かが音を出し始めると次第に他の仲間も始めて、最後は歌まで始まっちゃうような。研究室には無響室があったので、外に音が漏れる心配もありませんでした。先生は呆れて見ていて、たまにふらっと顔を出して「やってるか」って声かけて、そのまま自分の部屋に帰っていく感じでした。そんな音響研究室独特の文化がありましたね。もちろん研究はサボっていないですよ。

自動車の重要部品であるワイヤーハーネスの開発に携わる

住友電装に入社されたのは、やはり自動車に関連した仕事がしたいという思いがあったからですか。

大平:ええ。電気工学の知識を活かして自動車の電動化技術に貢献したいと考えていたので、ワイヤーハーネスで実績のある住友電装に決めました。

自動車の電動化によって搭載される電子機器が増えていくため、それらをつなぐワイヤーハーネスは非常に重要な部品ですね。

大平:ワイヤーハーネスは人間で言えば血管や神経に相当する伝送システムですから、現代の自動車において不可欠な存在です。部品をつなぐ複雑な回路の効率的な設計・配置を可能にするのが住友電装のワイヤーハーネスです。私は入社以来、自動車メーカー向けに床下高圧ハーネスの開発設計を担当しています。

床下ハーネスについて教えてください。

大平:床下高圧ハーネスは、主にハイブリッド車、電気自動車、燃料電池自動車などのエコカーに搭載されています。私が担当しているのは、その中でPCU(パワーコントロールユニット)とバッテリーをつなぐハーネスを担当しています。電動化が進んで自動車の中には高圧回路がどんどん増えてきており、私の担当している製品はそれらをつなぐ生命線だと思います。

具体的にはどういうお仕事をされているのですか。

大平:床下を中心に、モデリングから図面作成、評価試験、実車検証、製品化まで、要するにゼロから作り上げていく仕事をしています。だいたい4、5年先を見据えて作っているという実感です。その間に求められる性能の目標も変化しますので、それに対応するのがけっこう大変です。

図面作成もおやりになるということですが、それは大学の電気工学では学ばなかったスキルですよね。

大平:私が担当している高圧ハーネスの設計にはパソコンでは補えないところもあって、自分の手で図面を描かなくてはなりません。だから手描きの作業がけっこう多いのです。これには苦労しましたね。製図の本を手に、かなり勉強しました。今ではある程度の機械図面というのは自分一人でも読めるようになりました。

そんなふうに苦労を重ねて設計された部品が形になることが一番喜びでしょうか。

大平:そうですね。初めて設計した部品が搭載された量産車を見たときは、やはり感動しました。お客様と一緒に開発中の苦労や反省点を振り返りながら熱く語り合ったことで、大きなやりがいを感じました。

≪製品例≫(左)ハイブリッド車用パイプハーネス(右)ハイブリッド車用モーターケーブル

日米の仕事に対する価値観の違いに衝撃を受ける

入社3年目からはゲストエンジニアという形で活躍されていますが、これはどういうポジションなのでしょうか。

大平:お客様である自動車メーカーの中で、当社の仕事をしています。いわゆる出向に近いカタチですね。これは、ハーネス開発の設計段階から参画することを目的としているものです。ここで判断を間違うと後で取り返しがつかなくなるという意味で、非常に責任の重い立ち位置だと思っています。

アメリカにも駐在されていますね。

大平:その頃、当社では北米開発力強化が急務となっていました。そこでゲストエンジニアで培った作図やモデリングといった開発経験を持つ私が抜擢されました。

半年という限られた期間でしたが、二つの目標を持って渡米しました。一つ目は、顧客密着と北米拠点の開発力強化を行い、北米での住友高圧スタンダードを確立すること。二つ目は、海外業務の知識・経験を得ることで今後のグローバル開発の中核を担える人材になることでした。

具体的には、現地でモデリングを行うとともに、現地ローカルスタッフに高圧部品とは何か、どうやって設計するか、といった基礎的なことを教育しました。日本との時差が大きいので日米での打ち合わせの時間を調整するのに苦労したり、異文化の中で協力する難しさを味わったり、貴重な経験を多くさせていただきました。

どんなことが印象に残っていますか。

大平:やはり仕事に対する価値観の違いでしょうか。日本だと仕事があれば定時を超える事もありますが、ローカルスタッフは定時になると帰宅される方が大半です。もう、ためらいなく、きっぱり帰るのです。あれはけっこう衝撃的でした。また、仕事を進める中では意見・考え方の相違も多く、ローカルスタッフは自分の意見や考え方を明確に伝えてきます。やはり日本のやり方を押しつけるのではなくて、アメリカならアメリカならではの実施方法や価値観を尊重し、こちらから歩み寄っていくという姿勢が大切だと思いました。

電気工学を学んだ私たちが、これからの日本のクルマを担う

学生時代に身につけた電気工学の知識や経験は、仕事の上でどのように活きていると感じますか。

大平:今の仕事に対しては、ケーブルに流れる電流値や電圧など、専門外の人からすればまったくわからないことが、私にはすぐわかるということですね。車の配線図やシステム図を見ても、すぐにわかります。これから自動車の電動化はますます進んでいって、“走るコンピュータ”になっていくと思います。それを支える上ではソフトの技術も重要ですが、ハードを担う我々も重要な存在ですので、電気工学を学んだ我々がもっと頑張りたいですね。

では、将来はどのような仕事に取り組みたいとお考えですか。

大平:次世代の高圧部品ということで、特に電線を銅からアルミに変えて軽量化するというチャレンジをしたいと思います。また、ワイヤーハーネスだけでなく、新しい部品の設計などにも取り組みたいと考えています。やはり常に新しいものを作っていきたいという気持ちは強いですね。

学生時代にマイクを作られたことでもわかりますが、やはりモノづくりへの想いは強いですね。

大平:新しいものを作らないと、自分が生きている実感が得られないような気がするのです。私の場合、電気工学の知識を活かし、クルマのECU(エンジンコントロールユニット)の修理やグレードアップを実施したことがあります。

今振り返って、電気工学の魅力についてはどう感じていらっしゃいますか。

大平:冒頭にもお話しした通り、自動車に代表されるように電気工学というのは現代の産業において非常に重要な位置づけにあります。まさに仕事を通じてそのことを実感しているので、学んでおいてよかったと思います。

電気工学を学んでいる学生の皆さんに、アドバイスをお願いします。

大平:電気工学を学ぶ上でまず迷うのが、幅広い分野の中で何を専攻するかということだと思います。選択肢の幅が広いのは電気工学の魅力ですが、それが迷いの一因にもなります。ただ、なんとなく電気工学を学んで終わりというのではなく、やはり自分はこれを極めたいんだということを考えて、それを貫き通して欲しいと思います。そのためには電化製品なら何でもいいので、どんなふうに電気が使われているのか、興味を持つことが重要でしょう。

電気工学を学ぶ上で、目的を持つことが大切ということですね。

大平:はい。あと、電気工学だけでなくこれからは機械設計や化学分野も重要になってくると思うので、それらの基礎知識はぜひ身につけておいていただきたいですね。例えば部品設計をする際も、どんな材料の部品を使うかということが重要になってきます。そのような隣接する分野の知識も得ておくといいと思います。

今日は大平さんのモノづくりにかける思いに感銘を受けました。非常に興味深い話をありがとうございました。

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