vol.11 東日本旅客鉄道株式会社
2010年12月28日掲載
東京電気システム開発工事事務所は、JR東日本の様々な電気設備工事を担当している部署です。今回、インタビューを受けて頂いた赤穂光城さんは、主に電車の運行に欠かせない「電車線」の施工・管理を行っています。
プロフィール
- 2006年3月
- 北海道大学 工学部 システム工学科 卒業
- 2008年3月
- 北海道大学大学院 情報科学研究科 システム情報科学専攻 修士課程修了(北研究室)
- 2008年4月
- 東日本旅客鉄道株式会社 入社
- 2008年9月
- 電力設備の建設工事に関わる業務に従事、現在に至る。
※2010年9月現在。
福祉施設の支援も行う、新しい電力システムの構築
電気工学を志望した理由を教えてください。
赤穂:まず工学部を選んだのは、単純に理系科目が得意だったからです。その中で電気工学を選んだのは、社会基盤を支えている学問だと思ったからです。コンピューター、自動車などは電気がなければ動きません。従って、電気工学は絶対に必要な技術であると思い興味を持ちました。
学部から大学院へ進まれた理由を教えてください。
赤穂:大学院でもっと技術を身につけたかったのと、電力関係の勉強をしてみたかったことが理由です。電気工学を極めたいという思いがありました。
大学院での研究内容を教えてください。
赤穂:分かりやすくいうと、最近よく言われる、スマートグリッドに似たようなもので、新しい電力システムの構築に関する研究です。
具体的に教えてください。
赤穂:これまでの電力システムでは、電気が発電所から送電線、配電線を通じて需要家に送られる一方通行の流れしかありませんでした。ところが、太陽光発電や風力発電などが需要家に設置されると、電気が需要家から配電線、送電線へと逆方向にも流れるので、複雑なシステムを構築する必要がでてきます。また、ネットワークが大規模なものから地産地消の小規模ネットワークへと変化していったときに、どうすれば電力を効率よく供給することができるのかなどの研究をしていました。
具体的にどのように研究をされていましたか。
赤穂:研究はほとんど概念的な段階だったので、パソコンによるシミュレーションでした。基本的な電力制御やシステム構築などの最適化について研究をしていました。
研究において印象に残ったエピソードがあれば教えてください。
赤穂:この電力システムでは、様々な品質の電気を作り出す機能があります。例えば、「停電しない」、「電圧変動しない」といった、需要家ニーズに応じた品質の電気を送ることができます。これは、品質別の電力供給という考え方なのですが、この実証試験が印象に残っています。
実証試験はどこで行ったのですか。
赤穂:仙台の福祉施設で実証試験をやりました。福祉施設は、身体の不自由な方などがいらっしゃるので、停電ができない場所です。最適な品質の電気を送るために私の研究が役立っていると思い、感慨深いものがありました。
電車の安全を守る根幹「電車線」をつくる
JR東日本に入社したきっかけを教えてください。
赤穂:私は、物作りをするメーカーよりは、インフラ整備などのエンジニアリングをする、鉄道、ガス、プラント関係などの仕事に興味がありました。そこで、学部3年生のときにJR東日本でインターンシップを受けたところ、鉄道会社は電車線、変電所、照明などの設計・工事といった電気関連の仕事がたくさんあることに特に興味を持ちました。
現在の仕事内容を教えてください。
赤穂:私は、電車に電気を供給する設備「電車線」を建設する工事の監督業務を行っています。電車線とは、電車の上にある線(パンタグラフと接触する線)と考えて頂いて結構です。
具体的には、どういう業務ですか?
赤穂:はい。例えば、既設設備の改造工事や線路の高架化に伴う工事の工程や安全の管理をしています。
仕事の流れを教えてください。
赤穂:出社して、まず前日の作業実績などを確認します。次に、翌日以降の作業に必要な様々な手続きを行った後、工事請負業者と作業手順の確認、夜になってから作業を開始するという流れです。列車が運行していない終電と初電までの間に作業を行います。
これまでに関わったプロジェクトを教えてください。
赤穂:関東甲信越の地域でさまざまなプロジェクトに関わりました。例えば、電車線設備の簡素・統合化工事や武蔵野線の新駅設置工事などです。いずれもまだ完成しておらず、現在も工事中です。
やはり、プロジェクトの完成を見届けたいですよね。
赤穂:そうですね。先輩の話を聞きますと、プロジェクトが終わると感慨に浸るそうです。ただ、今の私としては、無事に工事が終わることが第一の思いです。
安全第一ということですよね。
赤穂:はい。毎日の安全と安定輸送が大前提です。特に電車線は、安全、安定の根幹に関わる部分ですので、我々が専門職として工事をしているのです。このことはJR東日本の技術力のひとつだと思っています。日本の鉄道を支える仕事だとよく言われます。
今の仕事に、学生時代に勉強した電気工学はどのように役に立っていますか。
赤穂:直感的に危険な場所、例えば「こういう経路で電気が通るからここが充電されている」などが分かります。安全面で特に貢献していると思います。
学生時代に学んだ電気工学は、人生の基礎になる
これから電気工学を学ぼうとする学生へアドバイスをお願いします。
赤穂:電気工学の技術者は社会で数多く必要とされています。世の中に電気は必要不可欠なものですから。
最後に、これからの目標や夢を教えてください。
赤穂:民間の鉄道会社としてはJR東日本が世界で一番大きい会社で、1日のお客様の数や、列車本数なども世界トップクラスです。東京電気システム開発工事事務所は電気工事に関連するプロジェクトを専門的に推進しており、様々な技術や知見が蓄積されています。そう考えると、ここで決めたルールがそのまま世界基準になる可能性があります。JR東日本の電車線をつくることを誇りに思って、これからも安全に仕事をしていきたいですね。
鉄道を支えるための仕事についてお話を聞けて大変勉強になりました。どうもありがとうございました。
- 国立/北海道
- 北海道大学大学院 情報科学研究科 システム情報科学専攻
北 裕幸 教授(きた ひろゆき)
当研究室は、1925年に北海道帝国大学に設置された「電力及び電力応用学講座」にその起源を置いています。以来、小串孝治教授、小池東一郎教授、長谷川淳教授が研究室を担任され、現在、北がこの伝統ある研究室を担当しています。幾度かの組織改編を経て、2004年度からは「システム統合学」という研究室名となっていますが、研究室の伝統はしっかりと受け継がれており、電力工学・電力系統工学の教育・研究を担っております。2010年度は、スタッフ5名、博士課程学生4名、修士課程学生8名、学部生4名の総勢21名が活動しています。
バックナンバー
- vol.53 日々の確実な作業の積み重ねで、地下鉄というインフラを支えたい。
- vol.52 電気工学を活かして技術の発展に女性の視点を反映したい
- vol.51 東西日本間の電力融通を通じて安定した電力供給に貢献したい。
- vol.50 情報科学の知見を活かして電力業界のDX化に貢献したい。
- vol.49 電力業界の新たなルールへの対応の検討を通じ、カーボンニュートラルの実現に貢献したい。
- vol.48 変電技術者として変電所の運営に携わり、電気のある明るい生活を支えていきたい。
- vol.47 空港という重要施設を電気のスペシャリストとして守っていきたい
- vol.46 海底ケーブルのスペシャリストとして電力インフラを支えていきたい。
- vol.45 「ワクワクしつつ冷静に」をモットーに電力の安定供給に貢献したい。
- vol.44 “縁の下の力持ち”として測定器づくりによって社会を支えていきたい。
- vol.43 電力インフラを支える仕事を通じて、環境保護などの社会貢献を続けていきたい。
- vol.42 誰からも認められる女性技術者となり、 発展途上国の人々の暮らしに貢献したい。
- vol.41 電験1種取得者としての専門性を活かし、 電力業界で必要とされる人材であり続けたい。
- vol.40 電気工学の知識をもっと身につけ、 信頼される技術者になりたい。
- vol.39 大容量の電力貯蔵を実現するNAS電池の普及を通じてエネルギー問題の解決に貢献したい。
- vol.38 電気工学の知識を活かし、設備設計のプロとして活躍したい。
- vol.37 電動化が進むクルマの、これからの進歩を支えたい。
- vol.36 電力を支える使命を持った 信頼される存在になりたい。
- vol.35 世界に広がる活躍のステージ。 社会貢献への期待に応えたい。
- vol.34 四国の電力を支える使命を持って、火力発電の未来を拓きたい。
- vol.33 世界中のヒトに信頼される、建設機械を設計したい。
- vol.32 変電設備の最前線で、 電気の安定供給に尽くしたい。
- vol.31 都市レベルでものごとを考えられる、広い視野を持った電気設備設計者になりたい。
- vol.30 高電圧・高電界分野の技術開発で、 電力機器を進化させたい。
- vol.29 電力系統解析の研究者として、 社会や現場のニーズに応えたい。
- vol.28 電力・エネルギーの専門家として、社会に広く情報発信したい。
- vol.27 世界の海洋開発と海上物流を、最先端の電気技術で支えたい。
- vol.26 電力系統を守って人々の生活を支えたい。
- vol.25 新しい制御技術で、 環境にいいクルマを実現したい。
- vol.24 世界の産業を支える 技術者として活躍したい。
- vol.23 日本が誇る電力技術を、 世界に広めたい。
- vol.22 宇宙を駆ける、世界初のものづくりをしたい。
- vol.21 電気工学を活かして、交通安全を支えたい。
- vol.20 製鉄現場を電気技術者として支えたい。
- vol.19 エネルギー・環境問題の解決と、 日本の産業を強くしたい。
- vol.18 電力の安定供給を支えたい。
- vol.17 ものづくりの現場に、 電気の専門家として貢献したい。
- vol.16 社会の役に立つ、電気の研究をしたい。
- vol.15 電気工学で、地球環境を守りたい。
- vol.14 世界に広がる省エネ機器をつくりたい。
- vol.13 世界中の社会インフラを支えていきたい。
- vol.12 電気工学で、半導体の進化を支えたい。
- vol.11 電気工学で、日本の鉄道を支えたい。
- vol.10 世の中ではじめての電力機器をつくりたい
- vol.9 電気を広めて、紛争のない世界を実現したい。
- vol.8 宇宙空間で動く、究極の電源をつくりたい!
- vol.7 風力発電で、エコの輪を世界へ広めたい。
- vol.6 電気工学で、日本のケータイを世界へ広めたい。
- vol.5 夢の超電導ケーブルを、世界中で実現したい!住友電気工業株式会社 西村崇さん
- vol.4 エコキュートをもっと便利に。電気工学で地球環境を守る。
- vol.3 電気は、社会に不可欠なライフライン。だから、私は高電圧・大電流に向き合う。
- vol.2 電気工学を応用して、世界一のハイブリッドーカーを開発したい!
- vol.1 電気工学は一生の財産。どこへ行っても使える学問です。