配電系統総合解析ツール(CALDG)の開発

2020年1月31日掲載

開発者

上村 敏(うえむら さとし)

一般財団法人 電力中央研究所 エネルギーイノベーション創発センター 配電システムユニット

1992年
東京工業大学 電気・電子工学科 卒業
1994年
東京工業大学 理工学研究科 電気・電子工学専攻 修了
1998年
一般財団法人 電力中央研究所 狛江研究所 入所
現  在
一般財団法人 電力中央研究所 エネルギーイノベーション創発センター
配電システムユニットリーダー

はじめに

皆さんの家まで電気を送り届ける配電系統には、10年前頃から太陽光発電(PV)が接続され、地球環境問題の意識の高まりにより、PVの普及が開始しました。
特に、我が国では、住宅用PVの開発と普及が進み、配電系統は想定していない状況になりました。これまでの配電系統では、変電所から需要家に向かって電気が流れていましたが、大量の住宅用PVが接続されることにより、場所によっては需要家から変電所に向かって電気が流れる(逆潮流)が発生し始め、管理が難しくなりました。(図1)

図1 逆潮流(イメージ図)

この変化に伴い、電圧もPV接続前は変電所より需要家が低い状況から、逆に需要家より変電所が低い現象が発生し始めました。
PV接続前までの配電系統では、変電所よりも配電線の末端に向かって電圧が下がることを想定して、設備を構成してきたため、現状のように大量の住宅用PVが接続され、電圧の変化が逆になると、管理することが大変難しくなります。

また、同様に電圧の変化が逆になる要因は、もう一つあります。
それは、需要家が消費する電気の力率を1にするために設置されるコンデンサです。このコンデンサを過剰に設置してしまうと、需要家より変電所が低くなります。 

これらの現象は同じように見えますが、電気的には異なります。
PVの接続の場合には、有効電力の流れにより電圧が変化していますが、コンデンサの設置の場合には、無効電力の流れにより電圧が変化しています。
このような電圧の変化に対応するために、配電系統では、変電所の変圧器や長い配電線の途中に設置されている線路電圧調整器に自動的に変圧比を調整する機能を持たせ、電圧を適正な範囲に調整しています。
しかし、PVの発電量は天候に左右され、急激に変動しますので、調整が間に合わない場合が出てきています。

以上のように、近年、配電系統の電気の流れ(潮流)や電圧は、時々刻々変動し、複雑になってきており、状態の把握や調整が困難になってきています。
これに対応するために、配電系統の潮流や電圧を計算し、可視化できるツールを開発する必要が出てきまして、10年前頃に配電系統総合解析ツール(CALDG)を開発することになりました。

開発したツールの仕様と機能

図2 配電系統総合解析ツール(CALDG)の機能概要

図2 配電系統総合解析ツール(CALDG)の機能概要

図2 配電系統総合解析ツール(CALDG)の機能概要

ツール開発の方針として、汎用のパーソナルコンピュータ上で動作し、現状の配電系統および需要家を模擬できる仕様としています。
ユーザーインターフェイスとして、データ入力を自動入力またはマウスでの選択、操作をマウス操作で可能な仕様としました。
計算エンジンとして、ニュートンラプソン法を採用し、系統計算用に高速化と必要なメモリ量を減らす工夫をした潮流計算(電力中央研究所開発L法)を、1秒刻み24時間連続計算できるように改良したものを用いています。
表1~3に機能を示します。

表1 解析内容

項 目解析内容
系統電圧特別高圧:7kV以上、高圧:6.6kV、低圧:200V/100V
解析時間設定最小時間刻み1秒、1日(24時間)
解析内容三相平衡解析および三相不平衡解析

表2 模擬できるモデル

項 目モデル
配電線構成配電用変電所、変圧器、高圧配電線、柱上変圧器、低圧配電線
負荷設定配電用変電所変圧器の全体負荷、高圧需要家負荷、低圧需要家負荷
分散形電源設定高圧連系分散形電源、低圧連系分散形電源、住宅用蓄電池
模擬可能な制御機器配電用変電所変圧器プロコン、SVC、STATCOM、SVR、TVR
高圧需要家6kV、400V、200V三相負荷、200V単相負荷、力率改善用コンデンサ

表3 その他機能

項 目内 容
解析を使った検討機能SVRの最適整定値決定機能、メガソーラ連系評価機能、
電圧フリッカ発生判定機能
電圧・潮流以外の機能高調波解析、短絡容量解析、故障計算

(a) スケルトン表示

(b) 地図表示

図3 高圧配電系統の系統図表示

(a) 時間変化表示

(b) 変電所からの距離表示

図4 解析結果(グラフ)表示

(a) スケルトン表示(b) 地図表示

図5 解析結果(色)表示

(a) 配電線の周波数-インピーダンス特性
(コンデンサ量別)

(b) 各地点の短絡容量

図6 電圧・潮流以外の機能

開発に至るまでの道のり

10年前までの配電系統の解析プログラムでは、ある時刻の配電系統の潮流や電圧を計算し、その結果が数字で出力され、それをMicrosoft Excel等を使ってグラフを作成し、配電系統の状態を把握し、いろいろな検討を行ってきました。

しかし、PVは配電系統に広く分布し、それぞれの発電量が時々刻々変化する状況では、従来の解析プログラムでは配電系統の状態が十分把握できない状況でした。
そこで、1日(24時間)の変化を一度に解析でき、解析結果を配電系統図上で確認できるツールが必要なのではないかと思い、10年前に開発に着手いたしました。
その後、電力会社、制御機器製造メーカ、大学の方々に使用してもらい改良要望を調査しまして、使いやすさや機能の向上を進めました。

苦労した点

着手した当初は、まだまだPVの普及も少ないため、開発しているツールの必要性を理解してもらえず、改良要望を調査することができませんでした。
徐々に、PVの普及が進み、配電系統にて電圧の管理が難しくなり、ツールを使用してもらえる機会が増え、改良要望が集まり、開発が進むようになりました。

このツールは、ある時刻の潮流や電圧を計算できる「潮流計算」を、データを引き渡しながら連続実行し、現実の連続して起きている現象を模擬しています。
PVの発電出力の変化や変電所の変圧器や線路電圧調整器の動作を模擬するモデルの作成には工夫が必要であり、時間と労力がかかりました。

このツールは、現在、配電用変電所の規模(変圧器3台)の解析が可能となるように改良中です。
この規模になると、解析のノード数が膨大となり、パーソナルコンピュータのメモリを大量に必要とするとともに、計算時間も長くなります。これらを解消するための工夫を行っています。

成功のポイント

10年前に、「電気って見えないもの」という固定観念を捨てて、「電気が見えたらいいのにな~」という発想で、開発を進めてきたことにより、現在のスマートフォンやタブレット等のビジュアルを重視した時代に合ったツールにできたのではないかと思います。

夢・今後の目標

現在、いくつかの電力会社の配電業務システムとリンクして、配電系統の設備データや需要家の電力消費データやPVの発電データをツールに自動的に入力させ、解析できるシステムを導入中です。
また、このツールはもともと潮流や電圧を計算するものでしたが、現在、高調波の計算や事故時の計算もできるように改良中です。
さらには、配電線の途中に設置されるセンサ付開閉器のデータやスマートメータのデータを自動的に入力し、解析できるシステムを導入する計画です。

学生へのメッセージ

(1)今回の開発から得られたことで学生の皆さんに伝えたいこと
配電系統の運用・管理業務や研究開発では、これまで電力工学や電力機器の知識が必要とされてきましたが、近年では系統解析技術、パワーエレクトロニクス機器、通信技術、およびセンサ技術などの知識が必要となってきました。
さらに、今や、スマートメータデータの分析等に必要なビックデータ分析、AI等の知識が必要になっています。
是非、いろいろな技術をもった方々が電力関連企業で活躍してもらいたいと思っています。

(2)電気工学の担う役割
現代社会において、電気は欠かせないものとなっています。
電気工学を学んだ者の使命は、電気を供給する側(電力会社)で言えば安定供給であり、電気を消費する側(電気機器製造会社)で言えば豊かな生活を支えることではないでしょうか。
どちらにしても、電気工学は現在から将来にわたり社会を支える技術であり、まだまだ発展していかなければならない分野であります。

(3)技術者としての熱い思い
技術開発は、使命感をしっかり持ちながらも、楽しくなければ続けることは難しいと思います。
取り組む分野や仕事にどれだけ興味を持てるかが重要ではないかと思います。
信念をもって長く続けられれば、誰でもその分野の第一人者(プロフェッショナル)になれると思います。
皆さんも頑張ってください。


電気工学のヒトたち

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