地球にやさしい先進的な研究で電気工学の可能性を広げたい。

2023年3月31日掲載

2020年に完成したばかりのキレイな研究室・実験棟で、大規模な実験を中心にのびのびと研究活動に取り組んでいる名城大学 村本・村上研究室。環境に優しい電気絶縁材料の開発や、電界を使った殺菌・植物成長促進というユニークな研究が特長の研究室です。

※2023年2月現在。文章中の敬称は略させていただきました。取材は十分な感染症対策のもとで行いました。

高電圧のようなスケールの大きい研究をやりたい

皆さんが電気工学を学ぼうと思われたきっかけを教えてください。

渡邉:はじめは自動車など大きいものをつくりたいと漠然と思って機械工学の道に進もうと考えていましたが、自らにとってあまり身近な分野ではなかったので、電子レンジや携帯電話など、家族や友人が使っている身近なものについて学びたいと考え、それならば電気だと思い名城大学の理工学部の電気・電子工学科へ進みました。

稲生さんが電気工学を学ぼうと思われたきっかけを教えてください。

稲生:父が電力会社に勤めており、身近で社会貢献度の大きさを感じ、大学へ進学する際に私も電力会社で働きたいと思いました。父は配電部門に勤めていて、災害などで停電が起きた際に時間帯問わずに出勤しているのを見て、いつでも必要とされていると感じました。そのために、電気工学の知識は最低限必要だと考えたのです。また今後どんな時代になっても電気は人々に求められ続けると思ったことも理由です。

仙田さんは学部4年生ですね。電気工学を学ぼうと思われたきっかけを教えてください。

仙田:数学は子どもの頃から得意でした。高校へ入ってから物理を習って、とても面白いと思ったので、理系コースへ進学しました。

理系クラスは女子が少ないといわれています。

仙田:確かに少なかったのですが、そういうことは気にせず、自分がやりたいことをやるという感じで、物理が好きなので自然と理工学部に進みました。電気・電子工学科に決めたのは、名城の理工学部の学科の中で名前だけで内容が分かる学科を選んだからです(笑)。そんな感じで決めたのですが、学んでみると電気は身近な存在でどんどん面白くなりましたね。

皆さん、村本・村上研究室へ進まれたのはなぜですか?

渡邉:名城大学の電気・電子工学科では、最初は電気一般の知識習得からはじまって、その後に電気または電子を専攻するのですが、私はエネルギー分野のように大きなものを扱う領域を学びたいと思い電気を選びました。村本・村上研究室は、研究室へ進む際の「研究室紹介」で、今、自分が取り組んでいる研究テーマである「食品の殺菌」が面白そうだと思って進みました。

稲生:やっぱり電力会社で働きたいという気持ちがあったので、電力分野に関連する研究室を志望し、村本・村上研究室を選びました。また、3年生の時に4年生の卒業論文発表会を聞いた際に、新たな絶縁油を開発中という話があって、自分のアイデアで新しいものを世の中に出せるというところに魅力を感じたのも志望理由です。

仙田:私は研究室見学が決め手になりました。一番大きい理由は実験がしたいと思ったことです。また、今研究をしている「絶縁油」が面白そうだなと思って決めました。

食品の殺菌を電気で行う先進的な研究テーマ

渡邉さんの研究をお教えください。食品の殺菌について研究しているということですね?

渡邉:はい。まず背景からご説明します。現在は冷凍することで菌の活動を抑制し、食品の腐敗を防ぐ方法が一般的ですが、実は冷凍しただけでは100%食品を殺菌することはできないのです。冷凍食品でも食中毒などが発生しているという報告があります。そこで、冷凍した食品に電界を印加することで殺菌を行い、これまで以上に食の安全を確保できないかと研究しています。この研究は、まだ確立されていない真新しいものであるため、少しでも多くのデータを集め、殺菌原理の解明を目指して基礎研究を行っています。

食品を電気で殺菌できるというのは、もう証明されているのですか。

渡邉:電気を印加することで菌が殺せることは研究報告されています。実際にオレンジジュースや牛乳といった液体食品で実用化されています。 冷凍食品の殺菌方法はこれまでも色々と研究されているようですが、電界での殺菌を始めたのは、村本・村上研究室です。この電界印加の一番のメリットは、非加熱の常温でおいしさも変えずに殺菌できるということです。

基礎研究ということですが、研究をしていて印象に残ったことは何ですか。

渡邉:研究は、一筋縄でいかないということです。実際に研究で、うまくいかず嫌になったことも多々あります。そこでくじけずに試していき、少しでも研究が進んだ時にはゲームのステージをクリアしたような楽しさがあり、こうすれば殺菌できるという手法を解明できました。

素晴らしいですね。IEEE Nagoya Section Excellent Student Awardを受賞されたのはこの研究が評価されたからですか。

渡邉:そうですね。自分がやってきたことが認められて、表彰につながったのはすごくうれしかったです。

大腸菌を入れた試料に電界を印加する研究を行っています。

環境にやさしい廃食油で絶縁油を代替する

稲生さんと仙田さんは絶縁油の研究をされているそうですね。ご説明をお願いします。

稲生:はい。植物系電気絶縁油に関する研究を行っています。絶縁油とは、電力機器のひとつである変圧器の内部に使用されている液体で、電気機器の絶縁と冷却を行うものです。今は環境負荷の高い鉱油が使われているのですが、脱炭素社会への動きもあり、より環境負荷の小さい植物油へ代替するための研究を行っています。変圧器は、日本中の電力系統に使用されているため、そこで使用されている絶縁油を植物油にできたら大きなエコになります。私たちの研究はその中でも、よりコスト削減と環境調和を目的に「廃食油」由来の電気絶縁油の開発を試みています。

廃食油とは、料理で使った後の油とかですか。

稲生:そうです。私の場合、2つ試料を用意していて、1つは自分の家庭から排出された普通の廃食油。もう1つは、少し劣化が進んでいるであろう、アルバイトをしている飲食店の廃食油を使わせていただいています。

仙田さんはどんな研究ですか。

仙田:研究目的は稲生さんと同じで、米油由来の電気絶縁油に関する研究をしています。稲生さんは廃食油というくくりになるのですが、私は米油にターゲットを絞っています。家庭から出た油だと、家庭によって条件がバラバラなので、普通に市販されている「米油」を使用することで一定の条件で研究をしています。いわば模擬した廃食油です。

廃食油を使うとコスト削減にもなるのですか?

稲生:はい。新品で作った植物由来の絶縁油と、廃食油で作った絶縁油の材料費を比較すると、おおよそ半額程度に抑えることできました。
ただ課題もあり、絶縁油は変圧器の中で長期的に使用されるのですが、廃食油は劣化するスピードが、鉱油に比べて早いので改善していく必要があります。

研究をしていて印象的だったエピソードを教えてください。

稲生:よくあることですが、自分の予想に反した結果が得られた時に面白いと感じます。例えば、液体の実験試料の抵抗値と絶縁性能を測定した際に、実験を行う前は抵抗値が高いほど絶縁性能も単純に高くなると思っていました。しかし測定してみると抵抗値が低下しても絶縁性能が向上する結果が得られました。

仙田:今まで触れたことのない機械を使って実験ができたことです。授業の実験では数回で終わってしまうことが多かったので、高電圧を扱う大きな機械を使いこなすまで実験できて面白かったです。私たちの研究では電気事業で言う特別高圧といわれる、工場などで使用されている、20キロボルトぐらいの規模の高電圧を扱っています。

充実の研究環境で自由に研究できるのが特長

研究室はどんな特徴がありますか。

高電圧の機器が充実している研究室です。

仙田:自由度が高いことですね。やりたいと思ったことは、よっぽど見当違いでなければやらせてもらえます。学部生でも学会に出させてもらい、すごく勉強になりました。

稲生:私たちの研究室がある実験棟は、2020年頃にできたばかりですごくきれいです。実験装置も多くあり、多くの特性を測定できると思います。完成したばかりの時は、新型コロナの影響で大学自体に入れなかったのですが、今ではしっかり使用しています。

渡邉:とにかく何でも規模感が大きいことと教授のおもいきりの良さです。絶縁材料の研究を主に行っている研究室なので高電圧を使っていたり、それに必要な機材は大きなものが多いです。機材が大きいから教授の心も寛大なのか(笑)、研究でこれが欲しいとしっかり伝えたら、多少高くても購入を検討してくれます。

稲生:私の場合、水分計や抵抗値を測れる装置などを購入してくれました。実験に関して、必要なものは購入を検討してくれるので、実験に集中できる環境だと思います。

先生や仲間とどのようなコミュニケーションを取っていますか。

仙田:毎週水曜日にミーティングがあるので、その時にほかのメンバーの進捗を聞いたりしますが、基本的には各自研究に取り組んでいます。同じ研究テーマのメンバーとは機械の使用や実験結果について話をしますね。女性は私以外に、殺菌チームに修士2年生の方が1名在籍しています。

稲生:そうですね。そのミーティングで、研究の進捗報告ができ、教授からコメントやアドバイスをいただけます。院生、学部生合わせて19人。油チーム、殺菌チーム、絶縁材料チームと分かれて研究しています。

渡邉:教授は、ふらっと学生のところに来て僕らの話に混ざっているので、気付いたら一緒に話しているくらい壁のない先生です。また、研究のやりとりの基本ベースは先輩後輩で進めており、とてもいい雰囲気の研究室だと思います。

同じチームで相談し合いながら、先輩・後輩助け合って研究に取り組みます。

健康的な学生生活でプライベートを楽しめる

一日のスケジュールはどんな感じですか。

仙田:最近は卒論を書くことが中心なのですが、午前中は基本的に実験、昼は他の研究室の子とご飯を食べに行き、午後からは実験データの整理をしています。普段は週に2~3日程度しか登校していなかったので、大学にいる時にやれることをやっておくことを心がけていました。正直、研究室に入るときは、古い時代のイメージで徹夜のような話が頭の中にあったのですが、そんなことは全然なかったです。

稲生:午前・午後は研究室が多くて、その間に研究やデータ整理を行います。その後、さきほど言った、油を分けてもらった飲食店でアルバイトしていることが多いです。

渡邉:ほぼ、稲生君と同じですね。研究室にコアタイムがないので、明日予定があるから今日はたくさん頑張ろうとか、スケジュールも比較的自由に立てられています。

研究以外ではどんなことに打ち込んでいますか。

仙田:研究以外では、YouTubeのゲーム実況グループを応援しています。休みの日は動画を見たり雑談配信を聞いたりしています。最近名古屋でイベントがあったので、行きました。

稲生:研究以外でも釣りを趣味にして、週に1回程度は釣りに行きます。

渡邉:最近はサウナにはまっています。基本的に、みんな健康的な生活をしていると思います。高電圧の設備を使うということもあり、学生だけで夜中まで研究をすることはないですね。

社会から電気工学は求められていると強く実感

電気工学を学んで良かったと思うことを教えてくださいと。

渡邉:SDGsのような社会問題についての理解が深まったことです。自分たちが中高生の時よりも環境問題の深刻化が進んでいますが、電気工学を学んだ今はその問題に対してどう対処したら改善できるのかまで具体的に考えられます。家族や友達にもニュースで見ながら詳しく一緒に話せたりします。

稲生:私は電力会社の内定をもらったのですが、就職後の研修では、電気の基礎(電験3種の理論レベル)の内容は理解している前提で進められると聞きました。就職後の負担を減らすことができ、電気工学を学んで良かったと思いました。

仙田:電気工学を学ぶまでは「電気」と聞いてイメージできるのは電力関係くらいでしたが、今ではほとんどのものは電気で動いていることを知り、物性から制御まで幅広く学ぶことができました。例えば、コンピューターの電気信号も電気で制御していることを知って、電気で世界が動いていると分かって良かったです。

皆さん、就職活動で電気工学出身者は求められていると思われましたか?

仙田:今年就職活動をしたのですが、理系向けの合同企業説明会に参加した時は、電気系の学生を募集するシールが貼られていないブースはほぼありませんでした。また、実際の募集の際も技術系職種は早期選考や一般選考も早く始まっていました。選ぶ方が大変だった気がします(笑)。

稲生:自分自身は電力・自動車・半導体関連の会社のインターンに参加しましたが、いずれも電気系は必要という話を聞きました。友人も自動車関連や情報系の企業に就職したので電気系であればどの業界への就職も可能であると感じました。

渡邉:求められると思いました。私は自動車業界の企業に内定をもらいましたが、電動化が進んでいるため、昔に比べてかなり電気工学出身者の採用は増えていると思います。自動車業界でも電気採用枠は多いと感じました。

これからのモノづくりの中核は電気が担う

将来の夢や目標をお教えください。渡邉さんは、自動車業界に内定がきまったのですか。

渡邉:はい。今まで学んだ知識とこれから得る知識の両方を使って自動車に乗る人々の理想を作っていけたらうれしいです。具体的には、自動車のシートづくりに関わるので、快適なシートに電気の知識を活かしていきたいです。

稲生さんは、電力会社でどんな仕事をされるんですか。

稲生:発電所で作られた「電気」をお客さまのもとに届ける送電部門に決まっています。まずは送電をしっかりと保守・保全して貢献したいです。将来は、より効率的な長距離送電を実現して再生可能エネルギーの普及に貢献していけたらと考えています。

仙田さんは、どのような会社へ就職されましたか。

仙田:FA機器という、工場で動く機械の電気系技術者として内定が決まっています。女性が少ない職場と聞いていますが、性別に関係なく信頼してもらえるように責任を持って仕事をしていきたいと思っています。

最後に、これから電気工学を学ぼうとされる方にメッセージをください。

稲生:おそらく今のモノづくりは、一つの工学ではできないと思います。いろいろな工学を組み合わせることが重要で、電気は間違いなくどこでも必要になってくるものなので、電気を選べば正解!って言いたいです。

仙田:現実的な話になりますが、就職に困らないよ、というのは一番言いたいです。女性が少ない学科ですが団結して仲良くなれますし、女性に優しい環境というのも実情です。

渡邉:確実に電気はお勧めします。自動車を例にすると、今までは機械が中心になって電気は付随のような存在したが、今後は電気が中核になると思うので、これからは電気をお勧めします。

渡邉さんは、第3回の電気工学教材企画コンテストで電気自動車をつくられましたね?

渡邉:そうですね。「環境問題を考える」というテーマだったので、何が子どもに一番分かりやすいかなと思った時にクルマだと思いました。そして現在の子どもがクルマに乗るようになる時代は、今よりも電気自動車の普及が進んでいるのではとチーム3名で話し合って決めました。あの時は、電気電子工学科内で、研究室の垣根を超えて取り組んだので、いい経験になりました。何の縁か就職は自動車会社になりました(笑)。

パワーアカデミーの活動にも貢献してくださり、ありがとうございました。社会へ出た後の皆さんのご活躍を祈念しています。今日はありがとうございました。

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