vol.24 株式会社日本製鋼所
2014年3月28日掲載
工学系の父の影響で電気工学への道を選んだ大谷さん。在学中のインターンシップがきっかけで日本製鋼所へ入社されました。現在は日本製鋼所の関連会社である株式会社サン・テクトロで、産業機械を制御するソフトの設計に携わっています。日本製鋼所と聞くと鉄鋼の会社を想像してしまいますが、売上の半分以上は産業機械であり、それを制御しているのは電気工学なのです。就職してからも勉強の日々を送っているという大谷さんが、ご自分の体験を振り返りながら、学生時代に学ぶことの大切さについて語ってくれました。
プロフィール
- 2010年3月
- 呉工業高等専門学校 電気情報工学科卒
- 2010年4月
- 株式会社日本製鋼所 入社
株式会社サン・テクトロに出向。技術部 技術グループに配属。
※2014年1月現在。文章中の敬称は略させていただきました。
早く働きたいので高専へ。電気を選んだのは父の勧めでした
大谷さんはなぜ電気工学の道を志望されたのでしょう。理由を教えていただけますか。
大谷:電気工学を学びたいと考えるようになったのは、高校を決めるときでした。私は早く社会に出て働きたいと思っていたので、高校で何か技術を身につけたいと考えたのです。父も工学系を専攻していたので、小さい頃から工学という分野があることも知っていました。それで私も父と同じ高専に入学して、工学を学ぼうと考えて地元の呉高専へ進みました。
電気工学でしたか。
大谷:はい。電気情報工学科でした。実は父が専攻していたのは土木で、私も当初は土木を考えていたのですが、父がなぜか「お前は電気の方に向いている」と言うので、私もそうなのかな?と(笑)。電気は自分の生活に身近な存在ですし、それで電気工学を選ぶことにしました。
高専は5年間ですね。どんな研究をされましたか。
大谷:基本的には、浅く広くといった感じです。その中で専門としたのは、電子や分子、量子力学でした。マグネシウムの分子構造の研究をやりましたが、とても難しくて理論的なことを理解するだけで1年過ぎてしまうような感じでしたね。シーケンス制御の実習はおもしろかったですね。
どんなことが印象に残っていますか。
大谷:今でも印象に残っているのは、シーケンス制御でLEDを点灯させるゲームを作成したことです。自分が考えたとおりに動かせることが楽しかったという記憶があります。呉高専はロボコン(※1)の常連として有名なので、今思えば私も関わっておけばよかったなと後悔しています(苦笑)。
(※1)ロボコンについては電気工学のイベントをご覧ください。
マグネシウムの研究もされていたそうですね。
大谷:はい。マグネシウムの未来について分子的な面から研究しました。マグネシウムは比較的手に入りやすい元素なので、そこからエネルギーが取り出せれば、小資源国の日本にとって有望なのではないか、という研究です。ただ、酸化還元するにはかなりの太陽光が必要なので、梅雨のある日本では難しいかもしれないという内容でした。とても広がりのある面白いテーマでしたね。
インターンシップで電子回路を目にして就職を決意
そして、早く社会に出たいと考えていたとおり、呉高専を卒業後に就職されたわけですが、日本製鋼所を選んだ理由は何だったのですか。
大谷:まずは、出産後も仕事を続けたいと思っていたので、両親にサポートしてもらうことが可能な地元の企業ということで選びました。会社には産休制度もあり、実際に出産後に復職している先輩もいたので、安心でした。
そういうモデルケースがあると心強いですね。
大谷:ええ。そしてもう一点が、呉高専在学中にインターンシップで働いたことです。制御機械を扱う部門で実習したのですが、そこで電子回路の基板を目にした時、授業で習っていたプログラミング言語がここで使われているということが分かったのです。自分の学んでいることが、こういうところで役に立つと知り、働きたいという気持ちになりました。
基板検査用のソフト開発からシステム設計まで
2010年に日本製鋼所に入社され、現在は株式会社サン・テクトロに出向されていますね。
大谷:はい、入社1年目に日本製鋼所の社員として出向しました。サン・テクトロは日本製鋼所広島製作所の部門が分社して設立された会社で、電子機器の開発・設計・製造を手がけています。
大谷さんはどんなお仕事を担当されてきましたか。
大谷:当社には基板製造の部門があり、ラインでは基板製造、組み立て、検査を行っています。私は入社以来、その検査工程について、基板検査ソフトやシステムの設計を行ってきました。そこでプログラムの基礎や機器間通信、電子回路についての知識を身につけました。最近では、実際の基板に組み込まれるソフトの設計も行っています。
基板とおっしゃいますと?
大谷:射出成形機には、機械を操作するためのコントロールボックスがあります。その中にはスイッチやLEDなどが入っていて、それらを制御する基板が組み込まれています。例えばスタートボタンを押したらスタート信号を他の制御装置出力する機能を備えた基板のことです。
基板の検査システムを設計されていたということですか。
大谷:ええ、そうです。コントロールボックスに組み込まれる前に、基板が正常かどうかを検査する工程があります。この検査を自動で行う検査システムも同時に設計しました。
検査用と実際に基板に組み込まれるプログラムでは、違いますか。
大谷:はい。検査用と組み込み用のプログラムですが、検査用はパソコン側に表示するものなので、組み込み用とは仕組みが違います。組み込み用がC言語だったら検査用はC++だったり(※2)。
開発のお仕事ですと、忙しい時は残業もありそうですね。
大谷:そうですね。仕事だけでなく、学ばなければならないことがたくさんありますので、終業後に社内で開催される研修会などに出席し、勉強しています。
(※2)C言語、C++は、コンピューター上で動作するソフトウェアを作るためのプログラミング言語のひとつ。
「理系でもセンスが大切だから」という言葉を教訓に
では、入社して今までで一番印象に残っているのはどういうことですか。
大谷:それはやはり初めて設計したソフトが実際に現場で使用されたときでしたね。人が直接操作する部分を設計したので、実際にそれを使っている場面を見たのは印象に残っています。検査ラインの担当者から、使いながら「ここは使いにくい」「ここはいい」と直接言ってもらったので、すぐに修正しました。
現場の方の意見は、自分の思い込みや固定観念を正してくれるので、とても勉強になりました。
今のお仕事のやりがいは、どういうところにありますか。
大谷:人と接するよりも基板と向き合っている時間の方が長い仕事なので、一人で集中できるところが気に入っています。また、正しい方法で動作させれば自分が考えたとおりに動かせるわけで、そこに達成感が得られます。
お仕事でこだわっているのは、どんな点でしょう。
大谷:センスですね。
センスとおっしゃいますと?
大谷:最初に部長に「センスが大切だから」と言われたのがずっと頭にあります。例えばプログラムのコードの書き方でも、回路の設計でも、後々メンテナンスしやすいように書くといったセンスのことです。人にわかってもらえるようにするセンスですね。「理系だからセンスなんて関係ないと思ってはいけない」という言葉がすごく印象に残っています。
学生時代には電気工学の基礎をしっかり学んでおくこと
学生時代の電気工学の研究は、現在のお仕事にどう役立っていますか。
大谷:というか、むしろ後悔の方が大きいですよ(笑)。
とおっしゃいますと?
大谷:数式をもっと身につけておけばよかったと思うのです。例えばお客さまから「この設計の根拠を教えて欲しい」と言われることがあって、説明するためには数式がどうしても必要になります。ですから、もっと勉強しておくべきだったと。そのため、実家に昔の教科書を探しに行くこともあります。
なるほど。そのあたりは今電気工学を学んでいる学生の皆さんにぜひ伝えたいことですね。
大谷:そう思います。
では、今後お仕事でどんなことに取り組みたいですか。
大谷:当社はインバーター技術がメインの会社ですので、モーター制御のソフト設計に携わりたいと思っています。モーター制御のソフト設計は、産業機械の生命線を握っていると言っても過言ではありませんから。
やはり相当に難しい分野なのでしょうね。
大谷:はい、そうですね。今はメンテナンスのために携わるのが精一杯で、設計はまだです。ソフトの知識はもちろんのこと、モーターやその周辺回路の特性もしっかり身につけなくてはなりませんから。今は先輩たちに教わっているところですが、いずれは自分が後輩たちに指導できるぐらいまで知識を身につけなければと思っています。
生活の身近なところで役に立っているのが電気
最後に、これから電気工学を学ぼうという学生の皆さんにメッセージをお願いします。
大谷:家電や車などでも電気工学が使われていて、これらを製造する機械も電気で動いているなど、生活している中でいろんなものが電気と関わっています。そのものを自分の手で動かせることが、電気工学の一番面白いところだと思います。
身近なものというと。
大谷:例えば扇風機ですね。昔は3段階ぐらいの風速しかなかったのが、今は赤ちゃん用とか、そよ風とか、微調整ができるようになっていますね。そういうところにも電気工学は役立っています。電気の原理は万国共通ですから、学生時代に基礎を身につけておけば、将来必ず役に立つと思います。
なるほど。今日はどうもありがとうございました。これからもシステム設計の分野での大谷さんのご活躍をお祈りします。
バックナンバー
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