vol.1 東京大学
2008年9月4日掲載
東京大学工学部の馬場研究室は、電力の安定供給を支える"電力系統機器"の研究を行っています。次世代の電力系統機器として期待されている、"超電導限流器"や"マイクログリッド"など最先端の技術開発を企業と合同で行っており、まさに日本のエネルギーを陰で支えている存在です。
※2008年7月現在。インタビュー中の敬称は略させて頂きました
きっかけは「就職に有利」「家電が好き」
みなさんは、電気工学をなぜ専攻されたのですか?
西岡英祥(以下、西岡):正直に言えば、就職が見えやすかったことですね。現代社会の中で、電気が使われていないところってないですよね。だから、どんな業界・職種でも就職上、有利になるのではと思いました。
菊池卓郎(以下、菊池):私も同じような理由です。社会を支えるエネルギーというものに物凄く興味がありました。エネルギーあっての現代社会ですから、就職には困らないでしょう。
Mark Douglas Ainslie(以下、マーク):私は、父が電気技術者だった関係で、子供の頃から電気に興味を持っていました。オーディオプレイヤー、ゲーム機器などのエレクトロニクス機器も大変好きでよく遊んでいたのですが、ある時、日本製のものはすばらしいと気がつきました。そこで、日本で電気工学を学びたいと思い、オーストラリアから留学してきました。オーストラリアにいた時は電気と電子の両方の研究をしていましたが、電気がやりたいという気持ちが強くなり、馬場研究室へ来ました。
産学合同研究の面白さ
馬場研究室では、日々どのような研究をされていますか。
マーク:私は、主に「超電導限流器」を扱っています。限流器とは、簡単に言えば電流を抑制する電力機器のことです。電力系統において、落雷等で故障が発生した場合に、送電線には通常よりも大きな電流が流れてしまい、大事故につながる恐れがあります。電流を抑制する限流器があるおかげで、電力系統における事故の拡大を防ぐことができます。
西岡:超電導体を応用することで、より有利な限流器を制作可能です。研究が成功し実用化され人々の暮らしを支えることを想像すると非常にやりがいがありますね。
これまでの研究で印象深かったことを教えて下さい。
マーク:やはり企業との共同研究ですね。特に、光ファイバーや電線を扱う、日本の大手メーカーの研究所へ行ったときはうれしかったです。他大学の学生とも交流があります。
西岡:私は研究の過程で電力系統の研究背景がどんどん分かってくることが大変面白いです。「電気ってこんなふうに供給されているのか」「こんな工夫が成されていたのか」とか、そんな知識が日々増えていくのが楽しいです。
菊池:私は、ある大手建設会社で、マイクログリッドの研究を共同で行っていた時ですね。
マイクログリットとは何ですか?
西岡:マイクログリッドとは、太陽光発電や風力発電など、複数の発電・蓄電設備をネットワーク化して、安定的に電力を供給するシステムのことです。太陽光や風力などCO2排出量の少ない新エネルギー の活用や、様々な発電・蓄電設備を組み合わせるので環境負荷を小さくでき、次世代の電力系統として期待されています。2005年の愛知万博でもマイクログリッドの実証試験が行われています。
菊池:ある大手建設会社の研究所で、マイクログリッドに関する大規模な実験をしていた時です。確か5階ぐらいのビルだったと思います。実験途中に失敗して、ビルを丸ごと停電させてしまいました。一生忘れられない経験ですね(苦笑)。
研究はチームワーク。だから仲がいい。
研究室の雰囲気を教えて下さい。
マーク:オープンです。みんな同僚ではなく友達だと思っています。週末にはよく飲み会を行っていますし、すごく交流が深いですね。もちろん馬場先生も参加してくれます。他研究室とのつながりも深く、合同での飲み会も多いです。酔っぱらって、たまに研究室のソファーで、寝てしまうこともあります (笑)。
菊池:西岡さんは料理が好きで、よく鍋をつくってくれます。
西岡:(笑)。研究というのはチームワークですから。ひとりではできないものです。みんなでうまくコミュニケーションをとらないと、なかなかスムーズに行きません。だから、自然と仲良くなるのではないでしょうか。研究室のメンバーは本当に仲間という存在ですね。
では、一日のスケジュールを教えて下さい。
菊池:人にもよりますが、だいたい朝10:00ぐらいに研究室に来て、午前中はメールをチェックしたりして、一日のスケジュールを練ります。昼は、だいたいみんなで一緒に食べに行きます。午後は文献を調べたり、実験や研究をしたり、授業に出たり。忙しい時は夜遅くまで研究室にいますね。
西岡:みんな同じような感じだと思います。夕食も研究室のみんなと食べに行くことが多いですね。
マーク:私も似た毎日を過ごしていますが、"クリケット"のサークルに入っています。サークルと研究の両立も充分可能ですよ。
人生の指針となる電気工学
最後に電気工学を学んで良かったと思うことをお教え下さい。
西岡:そうですね。日常生活では、電気にしろ、テレビにしろ、パソコンにしろ、やはり見る目が変わりましたね。トリビア的な知識ではないのですが、"電灯"ひとつとっても、どうやって電気が供給されているのかが分かりますし、人に伝えられます。社会の中で生きていく上でのバックグラウンドが増えた感じがします。それから、先輩達を見ていてもやはり就職には困らなさそうですし。
菊池:私は実際に自動車関係の会社へ就職が決まっていて、それが良かったことだと率直に思います。さらに、電気の基礎を知っているということは大きな財産ですね。自動車というのは、今やほとんどECU(電子制御装置)で動いています。しかし、自動車関連の技術者は、機械工学の出身者が多く、電気の基礎が分かっていることは、私にとって大きなアドバンテージになっていると考えています。私はたまたま自動車でしたが、電気は応用範囲が広いので、業界を問わず就職の時には有利な知識だと実感しています。
マーク:世界には色々な理由で電気が使用できない国がまだまだたくさんあります。その国々に電気を安全に届けたいという夢を私は思っています。ですから、電気工学を学ぶことにより、電気がどのように生まれるのか、その基礎知識が身についたことが一番の財産です。そして、もっと電気工学の研究を追及し、いつか必ずこの夢を達成したいと考えています。
みなさんにとって電気工学を学んだということは、かけがえのない財産や経験になったということですね。本日はどうもありがとうございました。馬場研究室の詳細な情報は下記のホームページよりご確認ください。
- 国立/東京都
- 東京大学 工学部 電気電子工学科
馬場 旬平 准教授(ばば じゅんぺい)
当研究室は、2007年に仁田研究室を引き継ぐ形で開設されました。超電導とパワーエレクトロニクスの電力応用の研究をしております。まだ開設されて間もない研究室なので卒業生はまだ少数でありますが、仁田研究室時代からの卒業生は50名弱おり、各界で活躍しています。2009年度は、スタッフ2名、大学院生4名、学部生3名の、総勢9名が活動しています。
※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。
バックナンバー
- vol.55 地球にやさしい先進的な研究で電気工学の可能性を広げたい。
- vol.54 多様な研究を通じて、電気工学の可能性に挑戦したい。
- vol.53 電気工学の研究を通じて、本格的な再エネ時代に貢献したい。
- vol.52 モータの研究を通じて、電気の新しい可能性を拓きたい。
- vol.51 身近なテーマの研究に打ち込み、より快適な社会づくりに貢献したい。
- vol.50 逆風の中でも志を高く持ち、研究活動に打ち込みたい。
- vol.49 技術力で地球にやさしい社会づくりに貢献できるエンジニアを目指したい。
- vol.48 太陽光発電出力予測シミュレーションなどを通じて、再生可能エネルギーの普及に貢献したい。
- vol.47 自由な研究環境の中、自分ならではの研究テーマを通じて成長したい。
- vol.46 高温超電導の研究を通じて、さまざまな社会課題を解決したい。
- vol.45 幅広い電気エネルギーの研究を活かして、 未来の可能性を大きくしたい。
- vol.44 自由な環境で研究に打ち込み、社会からの期待に応えたい。
- vol.43 "雷"の研究を通じて、快適で安心な生活を支えたい。
- vol.42 先進のモーター研究を通じて、 将来の夢を叶えたい。
- vol.41 高専で専門性を磨いて、将来の選択肢をひろげたい。
- vol.40 グローバルな視点を持ちながら、 日本の電力を発展させたい。
- vol.39 風通しのよい自由な研究室で、電気の幅広い魅力を追求したい。
- vol.38 先駆的な研究テーマで、 太陽電池をもっと進化させたい。
- vol.37 生活に身近な研究を通じて、社会のために貢献したい。
- vol.36 パワエレの専門性を武器に社会のニーズにこたえたい。
- vol.35 電磁界を応用した先進研究で 暮らしを便利にするものづくりに貢献したい。
- vol.34 パワーデバイスの先進研究で、省エネ社会を目指したい。
- vol.33 高電圧・大電流を学んで 社会に大きな貢献をしたい。
- vol.32 電気の研究を通じて交流を広げ、 日本の未来に役立ちたい。
- vol.31 風力発電の未来を、もっと広げたい。
- vol.30 電力技術で世界の エネルギー問題を解決したい。
- vol.29 超電導技術で、 未来の社会を支えたい
- vol.28 先進の技術と知識で、 これからの電力を支えたい。
- vol.27 パワエレ技術を活用して、 社会に貢献したい。
- vol.26 放電プラズマで、 夢の技術を実現させたい。
- vol.25 電力システムの研究を活かし 社会の第一線で活躍したい。
- vol.24 自分たちが開発した技術を、世の中へ出したい。
- vol.23 電力を学んで安定供給を支えたい。
- vol.22 世界中の人の生活を支える技術者になりたい。
- vol.21 電気工学で社会インフラを支えたい。
- vol.20 世界に通用するエンジニアになりたい。
- vol.19 電気工学で様々な社会問題を解決したい。
- vol.18 太陽光発電・風力発電を、普及させたい。
- vol.17 日本に新たな電力システムをつくりたい。
- vol.16 電気を上手に使う、省エネ社会を実現したい。
- vol.15 電気で土壌汚染を解決したい。 CVケーブルを守りたい。
- vol.14 電気工学で世界を舞台に活躍したい。
- vol.13 日本、そして世界の電力・エネルギー分野に貢献したい。
- vol.12 送電設備の建設にかかわりたい。電気の面白さを子供たちに伝えたい。
- vol.11 発展途上国を助けたい、 地元に貢献したい、日本の電力を支えたい。
- vol.10 生活を豊かにする製品をつくりたい。 社会インフラを支えたい。
- vol.9 電気工学で環境問題を解決したい!
- vol.8 将来の夢へ、電気工学の知識を活かしたい
- vol.7 これからの日本の電気を私たちが支えたい!
- vol.6 世界中のインフラを、システム工学で支えたい。
- vol.5 超伝導で、がん治療に貢献したい。省エネルギーを実現したい。
- vol.4 電気で、身近な暮らしを楽しくしたい。女性技術者として活躍したい。
- vol.3 最先端プラズマ技術で、社会に貢献をしたい!
- vol.2 夢は、海外で暮らしたい。世の中に新しい 仕組みを創りたい。電気工学が役に立つ!
- vol.1 電気工学は、社会に役立つ研究であり、手に職がつく学問だと実感しています。
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