世界の海洋開発と海上物流を、最先端の電気技術で支えたい。

2014年12月25日掲載

船と電気。一見、無縁のようですが、実は電気があってこそ船も世界の海を航海できるのです。今回登場いただくのは、日本造船業界のリーディングカンパニー「ジャパン マリンユナイテッド株式会社」で、電気の専門家として活躍する渡邉晋さん。学生時代に没頭した核融合の研究や世界の海を旅した経験など、心躍るお話をうかがうことができました。

プロフィール

2007年3月
九州大学大学院 総合理工学府 先端エネルギー理工学専攻
炉心理工学講座 修了
2007年4月
ユニバーサル造船株式会社入社
艦船・特機事業本部 舞鶴事業所 艦船設計部 電装設計室に配属
2010年10月
商船・海洋事業本部 本社 基本設計部 電気設計室に異動
2013年1月
株式会社 アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッドと経営統合
2013年1月
ジャパン マリンユナイテッド株式会社 商船事業本部 基本設計部 電気グループ
商船・特殊船の開発・基本設計及び商談対応に従事。現在に至る。

※2014年9月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

機械や工作が大好きで、電気工学の道へ

渡邉さんが電気工学の道に進まれたのは、電気関係の研究職に就いておられたお父様の影響が大きかったとか。

渡邉:ええ。子どもの頃から電気関係に親しむ機会が多く、機械や工作なども大好きでした。子供の頃はよく時計や電気製品を分解して遊んだものです。 父には「電気を専攻すれば将来は何にでもなれるぞ」と言われました。

学部時代は電気工学科で超電導の研究室に所属されていましたね。

渡邉:研究テーマは、ビスマス系高温超電導線材の接続部の特性評価でした。ここで超電導の応用技術として核融合という分野を知り、非常に興味がわいてきて、プラズマ核融合炉を持っている大学の大学院に進み、核融合の研究に取り組むことにしたんです。
太陽の燃える原理が核融合ですから、「地上に太陽を」というスローガンを掲げて世界各国で研究が行われています。

地上に太陽を!確かに魅力的ですね。

渡邉:はい。国内には大学も含めて大きな核融合関係の研究機関が4つありますが、私の所属した「九州大学応用力学研究所 炉心理工学研究センター」という核融合実験施設は、核融合プラズマの長時間維持で世界最長記録を持っていることでよく知られていました。

実験炉の中で時間を忘れて取り組んだ、核融合の研究

大学院ではどのような研究をされていましたか。

渡邉:ここでの私の研究テーマは、核融合反応に不可欠な1億℃という高密度プラズマを、磁場を使って閉じ込める方式の一つである「トカマク型核融合炉」のための基礎研究です。

1億℃と聞くだけでも驚きですが、その制御や計測は大変だったでしょうね。

渡邉:私が入学した当初は新型の実験炉が竣工したばかりで、膨大な数の計測機器や計測素子、プログラムなど、すべて一からつくる必要がありました。 例えば非常に高温の真空容器の中でも使えるようにセラミック製のロゴスキーコイルという計測器を自作したり、計測のためのソフトウェアも自分で開発したり。

前例のまったくない研究なので、ゼロからつくったんですね!

渡邉:そうなんですよ。ありがたかったのは、指導教官が機器の選定・設計・配置から発注に至るまで「いざという時は責任を取ってやるから思いっきりやってみろ」と、全部任せてくれたことです。前例がないからこそ、自由な発想で取り組んでみろ、と。
試行錯誤の連続でしたが、これは非常によい勉強になりました。核融合実験炉というのは巨大なプラントですので、計測機器も巨大かつ特殊なものとなり、金額も非常に大きく、本来であれば一学生が扱うようなレベルではありませんでしたが、それでも当時の教官は全て任せてくれました。当時の教官には今でも非常に感謝しています。

研究をされていて、印象に残っていることはありますか。

渡邉:これはよく覚えているんですが、炉心の真空容器の中に防護服を着て入って、自分の開発した計測機器を自分で溶接して取り付けていました。 実験炉は、放射線管理区域内の体育館のような大きな建物中に設置されているので、中に入ると外の様子はまったくわかりません。だからいったん中で作業を始めると、自分の世界に没頭して時間を忘れてしまい、外に出たらいつの間にか朝になっていたということがよくありました。

大変な実験だったんですね。

渡邉:でも、先ほどもお話ししたように私は子どもの頃から手を動かすのが好きでしたから、巨大プラントを相手に実験に明け暮れる日々はとても楽しかったですよ。
実験装置の性格上、大学の他の研究室とは離れた場所に建屋がありましたが、それだけに同じ研究室の学生同士の結束は固く、みんなで何日も夜を明かして実験に没頭しました。

“船”の世界で活躍する、電気の専門家として

大学院修了後、ユニバーサル造船、現在のジャパン マリンユナイテッドに入社されました。造船会社なのですが、船がお好きだったんですか。

渡邉:ええ、子供の頃に父親の出張にくっついて上京した際、お台場にある『船の科学館』を見たことが一つのきっかけになっています。また、学生時代に南極観測船『しらせ』の一般公開を見て、こんなに大きな船が電気推進で動いているということに感動しました。
ユニバーサル造船に入社したのも、その『しらせ』を建造した会社だということが決め手でした。まあ、周囲の学生は電力会社、電機メーカーや原子力関連企業ばかりでしたから、就職課からは変わり者扱いされましたが(笑)。

入社して最初に配属されたのが、京都府舞鶴市にある舞鶴事業所でしたね。

渡邉:はい。もともとは旧海軍の軍需工場で、100年以上の歴史を持つ造船所です。現在は日本海側で唯一の大型造船所で、商船に加えて艦艇の建造・修理も盛んに行っています。

5000DWT型PSV

5000トン型のPlatform Supply Vessel (PSV※プラットフォーム補給船)の外観写真です。渡邉さんは、設計、建造対応、試運転を担当されて2014年5月に引き渡しを行いました。

当時はどのようなお仕事をされていましたか。

渡邉:私の配属当時は、ちょうど南極観測船『しらせ』の代替船を建造している真っ最中で、その設計・建造にわずかながらでも関われたのは、とても幸運でした。
そのほか、造船所で8万トン型バラ積み船(バルクキャリア)とオフショア作業船の機能設計をメインに、建造から試運転を経て引き渡しに至るまで、担当することができました。バラ積み船というのは石炭や鉄鉱石などを運ぶ貨物船で、オフショア作業船というのは洋上で石油掘削を行う海底油田プラットフォームの作業支援などに用いられる作業船のことです。

造船会社での電気の専門家というのは、どういう立ち位置なのでしょうか。

推進器据え付け状態(船尾部左舷側から)

POD型電気推進器を船体後方に取り付けた様子です。真ん中下に人がいます。大きさが想像できるでしょうか?

渡邉:造船会社には船舶工学の専門家がたくさんいて、どういう形状にしたら抵抗なく進めるか、どんな構造にすれば強度が得られるか、といったことに取り組んでいます。 でも、それだけで船は建造できないわけで、例えばエンジンを考える人や居住区画の内装のインテリアを考える人など、非常に幅広い分野の専門家が必要です。そうした広い分野の専門家の一人として、電気の専門家がいるんです。
例えば、今ご説明したオフショア作業船などは電動モーターで推進器を駆動する「電気推進方式」を採用しており、洋上で定点保持や横移動などの自由自在な操船を可能とするDPS(Dynamic Positioning System)と呼ばれるコンピューター制御の操船制御システムを搭載した、正に電気づくしの船です。

船はエンジンで動くものと思っていましたが、電気推進方式となると電気がなくては、船は動かせませんね。

渡邉:電気推進船でなくても、船内には様々な電気設備があります。
例えば、ディーゼルエンジンを動かすために必要な各種の補機類、荷役に必要なクレーンやウインチ、船員の居住に必要な造水装置や汚水処理設備、その他のモーター類をはじめとした動力機器などが挙げられます。
その他にも、船内電話や放送設備などの通信機器、居住用・作業用の照明設備、船の安全運航に必要なレーダーやジャイロコンパスなどの航海計器、陸上や他船と連絡を取るための各種無線設備など、重電から精密機械に至るまで多岐にわたる電気機器が装備されています。
加えて、海上を航行しますから自前で発電機を持たなくてはなりません。つまり、陸上での発電所から一般家庭の家電まで、すべてが船内にそろっているわけです。
また、洋上では故障時に簡単に修理などは出来ませんので、陸上の設備よりも高い信頼性が求められます。

つまり、学生時代に学んだ電気工学の知識が活かされているわけですね。

渡邉:もちろんです。今申し上げたこれらの設備を、船という一つの空間にうまく調和させつつ、給電や制御まで含めて組み合わせる必要もあります。 例えばエンジンにしても、3階建てのビルぐらいの巨大なディーゼルエンジンでプロペラを回す為には、エンジン本体と付帯する補機類を全て完璧に制御する必要があります。このようなシステムづくりも電気の領分になります。
ですから大学で学んだ電気工学はもちろんのこと、私の場合は核融合の研究を通じて得た大型プラントの計測系構築などの経験が非常に役立っています。

自分が設計した船に乗り込み、世界の海を航海する

現在の担当は設計ですか。

渡邉:はい。2010年から現在の所属である本社の基本設計部に所属し、新たに建造する船の開発や、国内外の海運会社へ行って船の仕様を決めるといった業務を行っています。海運会社の多いギリシャやイタリア、ノルウェーなど、打ち合わせのためによく出かけていきます。

現在のお仕事で特に印象に残っているエピソードはどんなことでしょう。

保証技師乗船中(航海中)

インド洋を航行中の8万トン型バルクキャリア、保証技師として三ヶ月に渡って乗船中のある日、船の行く先に突然虹が出てきました。(渡邉さん)

渡邉:今までで一番印象に残っているのは、自分の設計した8万トン型バラ積み船に、保証技師として乗り組んで、3ヵ月にわたって旅をしたことです。 具体的には京都の舞鶴を出発して、韓国で燃料を入れ、そのままずっと南下してオーストラリアで石炭を積みました。続けて、インド洋を渡って喜望峰を回ってコートジボワールで燃料を入れ、次にスペインのカナリア諸島でまた燃料を入れて、イギリスからスウェーデンへ。
最後はスウェーデンから飛行機で帰ってきました。他の26人の乗員はすべてフィリピン人で、そこに日本人は私ひとり。陸との通信も極端に制限された環境で、最初は打ち解けるのに非常に苦労しました。

船の操舵室の様子

船の操舵室には安全航行に必要なレーダーや無線機器、船の進路を定める操舵装置やオートパイロットシステムなど、様々な電気機器が所狭しと配置されています。隣に立っているのは船長(フィリピン人)、アフリカ沖合にて。

日本人ひとりで、他は全てフィリピン人ですか!それは大変な経験でしたね。

渡邉:そうですね。フィリピン人と私とでは、食べるものも、言葉も、生活習慣も違いますから、不安は大きかったです。ただ、フィリピン人というのは陽気な性格で人当たりがよく、割と世界のどの国の人ともうまくやっていける上に、全員が英語も堪能なので、船乗りには打って付けとされているんですよ。だから、次第に打ち解けて仲よくなることができました。

それは良かったですね。

渡邉:ただ、彼らから見れば造船所のエンジニアである私は“船のプロ”なんです。そのため電気関係のトラブルはもちろんのこと、電気に関係のないトラブルでも容赦なく解決することが要求されました。
例えばパイプから油が漏れたとか、蒸気が漏れたとか、果てはドアの建てつけが悪くて開かなくなったとか(笑)。「何とかしろ」と怒鳴られながら、必死で何でもやりましたね。非常に苦労しましたが、おかげで自分の守備範囲外のこともわかるようになり、よかったと思います。

造船所にはいろいろな仕事があるものですね。

渡邉:基本的に船というのは一旦引き渡したら乗員だけで運用します。ただ、船主さんによっては「何かあったら不安だから、トラブル対応のため保証技師を乗せてくれないか」と言われる場合があり、造船所の人間が引き渡した船に一緒に乗っていく事があります。最後、スウェーデンで降りるときは「みんなで写真を撮ろう」と寄ってきてくれましたよ。貴重な経験になりました。

電気は自分の将来の可能性を大きく広げてくれる

船の世界では、今後さらに電気の専門家が必要になってくるのでしょうか。

渡邉:そう思います。船の形やエンジン、係船機械、造水機などの機械は、昔に比べて性能は上がっていても、見た目や原理は何十年も大きく変わっていません。しかし、電気機器に限っては日進月歩、ものすごい速さで進化しており、10年前と現在とでは大きく変わっています。
また、船全体がプラントのようなものですから、省エネ・省力化・安全運航をより一層進めるためにも、我々のような電気の専門家の重要性は今後一層増していくでしょうね。

今後はどのようなお仕事に取り組みたいとお考えですか。

渡邉:今重要性が増しているのが、環境負荷を抑えたエコ・シップです。実際、これまでは重油を用いたディーゼル推進が主流だった船にも、CO2排出を抑えたガス炊きディーゼルや、電気推進船、果てはディーゼルエンジンの排気熱を回収して発電し、電気推進を組み合わせた、いわば“ハイブリッド推進船”までもが採用され始めています。このような“電気リッチな船”は今後より一層増えていくでしょう。
また、海底資源探査が非常に活発に行われていることから、海底資源を掘削するドリルシップやFPSO(海洋上で石油や天然ガスを生産・貯蔵・積出する浮体式施設)、これらのサポートをするオフショア作業船などの分野でも、電気推進は必須の技術となります。
今は船の世界が大きく変わろうとしている時で、今後は電気推進の技術を極めて、日本の造船業界をリードするような船を造れる電気技術者になりたいと考えています。

最後に電気工学を学んでいる学生の皆さんにメッセージをお願いします。

渡邉:どの分野でも、電気工学なくして成り立つものはないといっても過言ではありません。電気工学を習得していればどのような分野にも進むことができるでしょう。いわゆる“つぶしがきく”分野だと思います。
「造船」という仕事は、一見すると地味で、普段の生活にはあまり馴染みがないように思われるかもしれません。しかしながら日本は、食料品も衣料品もガスや石油も、ほぼ全てが船で運ばれているのです。人々の暮らしを支える大事な仕事であり、大きなやりがいを感じることができます。
皆さんの中には、自分のやりたいことや興味を持てることが見つかっていない人もいるかもしれませんが、電気工学は自分の将来の可能性を大きく広げてくれる学問です。一見して地味に見える分野にも、このようなやりがいと、活躍の場があるのだということを思い出して、将来活躍したい分野を見つけてみてください。

日本の造船業界をリードする電気技術者として、これからのご活躍を祈念しております。本日はどうもありがとうございました。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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