電力系統を守って人々の生活を支えたい。

2014年8月29日掲載

今回ご紹介する堅田広司さんは、学生時代に光ファイバーや半導体の研究をされたあと、北陸電力へ入社されたという経歴を持ちます。入社後は、変電所や発電所勤務、電力中央研究所の出向などを経て、現在では電力系統の頭脳とも言うべき、中央給電指令所でご活躍中です。弱電から強電まで、まさに電気工学の幅広さ・奥深さを体験されている堅田さん。電気工学の大きな可能性が感じられるインタビューとなりました。

プロフィール

1995年4月
大阪大学 基礎工学部 電気工学科 入学
1999年3月
同上 卒
1999年4月
大阪大学大学院 基礎工学研究科 物理系専攻 電子光科学分野 博士前期課程入学
2001年3月
同上 修了
2001年4月
北陸電力(株)入社
2001年6月
高岡支社 電力部 変電保守課
2003年7月
石川支店 手取電力部 発変電保守課
2006年4月
電力中央研究所 出向
2008年7月
電力流通部 系統計画チーム
2012年7月
電力流通部 中央給電指令所 配属、現在に至る。

※2014年7月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

家電が大好きで電気工学の世界へ

堅田さんは、なぜ電気工学を学びたいと思われたのですか。

堅田:家電が好きだったこともあり、当時は電機メーカーにも興味を持っていましたし、高校の担任の先生に進路を相談したところ、得意科目が数学や物理だったので、電気工学科がいいとすすめられたことがきっかけです。

今、テレビでも家電好きのタレントさんが注目を浴びていますね。

堅田:そうですね。その方たちほど深く追求していたわけではないのですが、家電屋さんへ行って電気機器を見るのが大好きで、将来はつくってみたいと思っていました。ちなみに電力については、当時は考えていませんでした(笑)。

そして、大阪大学の基礎工学部の電気工学科へ進まれました。

堅田:はい。大阪大学の基礎工学部というのは、理学と工学双方の視点を備えた技術者や研究者を育成するという目的でつくられた学部です。当時の電気工学科で学べたのは電力工学や工場などで使う大きな電気機械・モーターに関するものではなく、通信等の主に小さい電力を扱う、いわゆる弱電と言われる分野に関することでした。今、申し上げたように家電に興味があったので、電気工学科へ進学したわけです。

どのような研究をされていましたか。

堅田:学部4年の時は、光ファイバーのスイッチング技術(光スイッチ※1)についての基礎研究をしていました。光ファイバーは中心部の「コア」と周辺部の「クラッド」で光の屈折率が違うので、光をコアに閉じ込められるという原理を持ちます。この原理を応用して、屈折率を変えることにより光スイッチをつくるという研究をしていました。

(※1)光ファイバーとは、情報を光の信号でやりとりする通信のこと。また光スイッチとは、光信号のオン/オフなど行うデバイスのこと。

細かい穴を掘って超音波マイクロセンサーをイチからつくる

大学院ではどのような研究をされていましたか。

堅田:大学院からは別の分野に移り、半導体ウェハーの微細加工技術を応用した、超音波マイクロセンサーの研究をしていました。超音波マイクロセンサーとは、超音波を用いた対物センサーです。超音波の周波数に共振するセンサーなので、センサーを作る際には微細な加工技術が求められます。半導体のCPUやメモリといったIC(集積回路)は、シリコンのウェハーを微細加工してつくられていることをご存じでしょうか?ひとつの例として非常に細かい穴をシリコンウェハーに掘っていくイメージと捉えていただければいいのですが、この加工技術を応用してセンサーを半導体基板上につくる研究をしていました。

細かい穴を掘っていく感じですか。超音波マイクロセンサーを半導体基板上につくることによって、どのようなメリットが期待されるのですか。

堅田:一つの半導体基板上に信号処理回路と超音波マイクロセンサーを作ることにより、システムの小型化が可能になります。この研究は、工場にあるプラントの中を検査するロボットへの応用を考えていました。当然、小型で高性能な感知能力を持つセンサーでなければならないので、超音波マイクロセンサーがピッタリなわけです。

なるほど。研究をされていて、一番印象に残っていることをお聞かせください。

堅田:やはり半導体デバイスの製造プロセスを、すべて自分で出来たことが印象に残っています。0.5mmぐらいの薄さのただのシリコンの結晶だったウェハーを私が加工して超音波マイクロセンサーが出来たときは感激しましたね。

イチからセンサーをつくったのですね!研究以外での研究室での思い出をお聞かせください。

堅田:他大学と交流が盛んな研究室で、毎年、合同で旅行に行っていたことが印象に残っています。大学でいえば3つ、研究室でいえば4つが合同で、60~70人あまりで旅行へ出かけていたのです。バス数台で動く一大ツアーでしたよ。私はその幹事・会計をやって、まるで旅行会社のツアーコンダクターのようで、本当に大変でした(笑)。

変電から発電、電中研、そして系統計画を体験する

大学入学時点では電機メーカー志望で半導体の研究されていた堅田さんがなぜ、北陸電力へ入社されたのですか。

堅田:大学院の授業で、工学部の先生が特別授業として電力工学の講義をしてくださったことがきっかけです。火力発電所の仕組みや、周波数は発電と負荷のバランスで変わってくることなど一般的な電力工学の話が中心だったと記憶していますが、とても面白く興味がわきました。

講義がきっかけで電力に興味を持ったんですね。

堅田:はい。元々電機メーカー志望だったわけですが、家電を含む電気機器は電気がなければ動作しないという思いにもなりました。そこで、電気を供給する電力会社に興味を持ちました。また、電力は人の生活を支える仕事ができるということもあり、地元企業である北陸電力に入社しました。

入社されてから現在までどのようなお仕事をされていたのですか。

堅田:入社後、最初の約2年間は、富山県の西部にある変電所の保守・メンテナンスを担当していました。続いて同じく約2年、石川県の山間部の手取川(てどりがわ)水系の水力発電所の保守・メンテナンスを行いました。

手取川第二発電所

堅田さんが保守・メンテナンスに携わった手取川第二発電所

新入社員の時は変電、続いて水力発電という流れで現場の機器の保守・メンテナンスを担当されたわけですね。

堅田:ええ。水力発電所は回転している機械も多いため、突発的に対応が必要になったこともありましたが、地域の皆さまへ電力を供給していると思うとやりがいがありましたね。その次はちょっと変わりまして、電力中央研究所へ出向しました。約2年、再生可能エネルギーが電力系統へ連系してきたときに起きる出力変動問題を研究していました。

その後、北陸電力へ戻られたということですね。

堅田:はい。本店の電力流通部で将来の電力系統を計画する系統計画チームに4年いました。系統計画チームでは、10ヵ年先までの送変電設備の新設などを計画する部署です。例えば、大口のお客さまへ新規に電力を供給する場合、既存の送電線の送電容量を上げた方がいいのか、または送電線を新設した方がいいのか、発電所を新設する場合では、送電するにはどういう設備構成が最適かなどを検討しています。

品質の高い電気を24時間365日安定供給する、中央給電指令所

では2012年に中央給電指令所に異動されていますが、どのようなお仕事をされていますか。

堅田中央給電指令所は電力の安定供給のため、時々刻々変化する電気の消費量に応じて各発電所の発電量を調整する「需給調整」、電気が流れる送電線等に故障や異常がないか監視しコントロールする「系統運用」の業務を行っています。3交替勤務の当直員と日勤勤務者で構成されています。

堅田さんは、どのような業務をされていますか。

堅田:最初の1年は、3交替勤務の当直員をやっていました。指令長と当直員2名の3人のチームです。当直員は需給調整と系統運用を交代で担当します。

24時間、3交替で日夜を問わず、電力をコントロールする業務ですよね。やはり緊張感が凄いんでしょうね。

堅田:そうですね。異動してすぐということもありましたが、夏場の電力需要の伸びにはびっくりしました。夏場の朝は電気の使用量が増加する勢いがびっくりするぐらい急なんです。皆さんが朝起きて活動を開始したり、会社や工場の操業が始まったり、生活リズムに合わせて電気の使用量が増えていくのですが、夏場はこれにエアコンの分が大きく加わるので、電気の使われる勢いに負けないよう、発電を調整するのが最初の頃は大変でした。電気は蓄えておくことが出来ませんから、時々刻々と変化する電気の使用量と発電を常に一致させておかないといけないんです。

急な電力消費量の伸びに対しても対応が求められるわけですね。現在はどのような業務をされていますか。

堅田:現在は、日勤業務で、電力系統に事故が発生した場合でも安定供給を維持できるように、必要な対策を検討するのが主な担当業務です。

具体的にはどのような方法で検討しているのでしょうか。

堅田:送電線に事故が起きた場合をシミュレーションして、電気の安定供給を維持できるか確認しています。そこで問題があったら、例えば、各発電所の出力を調整して、その送電線に流れる電気を抑制するなどの対策を立てています。

電力系統を安定に保つのは大変とうかがいましたが。

堅田:そうですね。電力系統の安定度を保って、電圧周波数を決められた範囲にする必要があります。電圧・周波数が決められた範囲を逸脱すれば、照明やモーターにも影響が出ますので、皆さまの生活だけでなく、工場で作っている製品の品質にも影響しますし、最悪の場合、停電になってしまいます。電気の使われ方は、天気によっても違うし、季節によっても違うし時間帯などでも違います。本当に生き物のように時々刻々と変化するのです。そのため、その時々で対応も変わってきますが、いかなる時でも安定した電力をお届けできるようがんばっています。(※2)。

(※2)電力系統の安定については下記の電力中央研究所の動画もご覧ください。
・電気を安定して届けるために ~電力系統と安定供給~
・電力系統の安定運用のために
http://criepi.denken.or.jp/research/video/delivery.html

現在の仕事に携わっている中で、一番印象に残っているエピソードをお聞かせください。

堅田:超高電圧(27万5千ボルト以上)系統で、トラブルがあり、その復旧にあたって、当直員と日勤が協力し合って解決に導いていったことが印象に残っています。これぞチームワークだと思いましたね。

24時間安心して電気を使っていただくために、巨大な電力系統監視盤などで3交替で日夜電力をコントロールするのが中央給電指令所です。

今後はどのような仕事に取り組みたい、または目指したいと思われていますか?

堅田:現在の仕事には大きな責任と同時にやりがいも感じていますので、引き続き電力の安定供給に直に関わる部署で仕事をしていきたいと思っています。具体的には、系統計画や系統運用等の仕事に携わっていきたいですね。系統計画は、長期のスパンで考える仕事ですし、設備を作るにも期間が必要ですので、系統計画チームで携わっていたときには、その効果を実感する機会は少なかったのですが、今、中央給電指令所で系統運用に携わっていると、すぐれた系統計画は、電力の安定供給に非常に役立っていると実感できます。皆さまに電気を安定してお届けできる系統計画をつくっていきたいと思います。

電気工学は自分が興味あることを探せる、受け入れてもらえる

学生時代に身につけた電気工学の知識や経験は、仕事の上でどのように活きていますか。

堅田:超音波マイクロセンサーの研究が直接結びつくことはありませんが、学生時代に身につけた電気工学の知識は現在の仕事をする上でのベースとなっています。例えば電気の授業(電磁気学、回路学など)は研究室へ配属される前に学びますが、電力会社の業務のベースとなっています。

電気工学の授業が現在のお仕事のベースになっているのですね。他には何かありますか。

堅田:研究は忍耐力が必要とされるので、そういうところは鍛えられたかもしれません。あとは理系の研究の仕方で、仮説を立てて検証し結論に導いていくという手法は今の業務にも役立っていると思います。

今振り返って、電気工学を学んで良かったと思うことをお聞かせください。

堅田:学生時代は主に「弱電」を学んでいた自分が、「強電」の仕事に就ける応用性でしょうか。ナノメートル、マイクロボルトから、電力会社の数十万ボルトというレンジの広いことを学べるのは大きな可能性があると思います。具体的には就職に有利になりますね。

電気工学はいろいろな可能性が持てる学問ということですね。

堅田:そうですね。実際に私の場合ですと、通信デバイスから半導体、就職は電力へと色々な経験をさせてもらいました。大変な幅広さ、奥深さがあると思います。電気工学は、自分が興味あることを探せる、受け入れてもらえる学問ではないでしょうか。

最後に電気工学系学科に在学中の学生、また進学や就職を控えた学生へ一言アドバイスをお願いします。

堅田:電気工学といえば成熟した技術というイメージを持たれる方もおられるかもしれません。しかし、電力関係で言えば再生可能エネルギーの導入拡大に伴う課題など新たな課題も多く、取り組み甲斐のある学問だと思います。エネルギー関係は日々変わっていくので、チャレンジしがいがありますよ!

本日は、半導体のものづくりの面白さから、電力系統の重要性までいろいろと勉強になりました。今後のご活躍を祈念しています。ありがとうございました。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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