vol.43 株式会社日立製作所
2019年10月31日掲載
「世の中に貢献できる仕事がしたい」という志で電気工学の道に進んだ宮原さん。学生時代に取り組んだ環境負荷の小さい絶縁媒体の研究成果を、現在の変圧器の設計・開発という業務にも反映させるなど、社会貢献と環境保護というテーマを貫いてこられました。今後もその歩みを続け、電力インフラの様々な課題を解決できる人材を目指したいとお考えです。
プロフィール
- 2005年3月
- 東京電機大学 工学部 電気工学科 卒業
- 2007年3月
- 東京電機大学大学院 工学研究科 電気工学専攻 修士課程修了
- 2007年4月
- 株式会社日本AEパワーシステムズ(日立製作所、富士電機、明電舎の合弁会社)入社
- 2012年4月
- 同社合弁解消による事業継承に伴い、日立製作所に転籍
- 2019年7月
- エネルギービジネスユニット エネルギー生産統括本部 送変電生産本部 変圧器設計部 中形変圧器設計グループ
※2019年7月現在。文章中の敬称は略させていただきました。
リンゴに落雷させる実験を見て研究者の道へ
宮原さんが電気工学を学ぼうと思われた動機を教えてください。
宮原:もともと理系科目が得意で、中学時代にはトランジスタラジオを作るなど、ものづくりに興味がありました。電気工学科なら電気、電子、情報、数学、物理、化学などを幅広く学べ、さらには文系の授業もあるということから、様々な学びを通じて将来に向けて興味を持てる何かが見つかるのではと考えました。
具体的にこんな仕事がしたいというイメージはお持ちでしたか。
宮原:いいえ、将来に対しては、世の中に貢献できる仕事がしたいという漠然とした想いでしたね。
学生時代はパワーシステム研究室に所属されていたそうですね。
宮原:ええ。大学3年生の時に研究室見学を行った際、ある研究室の実験を見て大変驚きました。インパルス発生装置で雷を発生させてリンゴに落雷させるというものでした。それまで電気というのは数式や検針でしか存在が確かめられないものだと思っていたのに、このとき、初めて電気を目にすることができたのです。そのインパクトは大きく、自分も高電圧工学を学びたいと思いました。その研究室が、送変電機器の基礎研究をしていたパワーシステム研究室だったのです。
環境負荷の少ない代替絶縁媒体の研究に取り組む
パワーシステム研究室ではどんな研究に取り組まれましたか。
宮原:研究室では主に電力機器の開閉装置や変圧器に使われる絶縁媒体の研究を行っており、環境負荷の少ない、新しい代替絶縁媒体の研究に取り組んでいました。その中で私は、シリコーン液(※1)を代替絶縁媒体として用いることを目的に、絶縁特性の評価を行いました。
(※1)合成高分子化合物の無色透明の液体で、耐熱性、耐寒性、酸化安定性に優れている。
非常に社会貢献性の高い研究ですね。
宮原:はい。液体の絶縁媒体として通常使われる絶縁油は土壌汚染や資源枯渇の懸念があり、また、気体の絶縁媒体として通常使われるSF6(六フッ化硫黄ガス)は地球温暖化への影響が心配されています。その点、シリコーン液は環境や動植物に無害で、かつ防災性に優れ、地下資源を用いない持続可能な絶縁媒体として注目されていました。電力インフラを支える送変電機器も環境問題や資源問題を抱えており、私はこの研究を通じてそうした問題の解決に貢献できることに喜びを感じていました。
研究室での思い出を教えてください。
宮原:学会発表でインドネシアへ10日間の旅をしたことが思い出に残っています。私にとって初めての海外でした。仲間と一緒にバリ島を観光したことは、いい思い出です。学会発表そのものは大変緊張し、慣れない英語にも苦労しました。それでも海外の多くの研究者から大変好評でした。
どんな点が評価されましたか。
宮原:シリコーン液の絶縁試験のデータ取得には非常に時間がかかり、1つのデータを取るために20時間も必要で、それを何回も繰り返す必要がありました。そのため研究室に泊まり込む毎日だったのですが、こんなに時間のかかるデータをまとめ上げた、という点が特に評価されたと思います。苦労した研究だっただけに、私も大きな達成感を得ることができました。
電気工学の専門家として、トータルなものづくりにも携わる
就職に際してはどのような思いをお持ちでしたか。
宮原:学生時代の研究成果を踏まえ、電力インフラを支える仕事に従事したいという想いがありました。同時に、子供の頃からものづくりが好きでしたから、電気工学の知識を活かしてものづくりに取り組みたいとも考えました。
現在のお仕事内容について教えてください。
宮原:主に100MVA以下の中容量の変圧器の設計・開発を担当しています。民間企業の工場や鉄道会社などで使用されるものが多いですね。変圧器の性能を決める電気設計を主に担当していますが、お客様の要望をヒアリングして仕様を決めたり提案したりする段階から設計作業、工場の製造の立ち会い、出荷前試験の立ち会い、現場での据え付けと、最初から最後まで携わることができています。
ものづくりに携わっているという手応えは大きいでしょうね。
宮原:まさにものづくりにトータルに関わることができているという達成感があります。これはとても大きなやりがいです。また、自分が設計した変圧器が工場や鉄道で今も稼働しているわけですから、社会に不可欠なものづくりができているという実感もあります。
変圧器そのものの進化にも貢献できるのではないでしょうか。
宮原:幸い、入社して1年後にはシリコーン液を用いた変圧器の開発にもチャレンジできました。変圧器そのものは古くからある機器ですが、絶縁媒体や材料など、まだまだ改良の余地は多くあります。変圧器をさらに進化させていくことは、私にとって大きなテーマです。
波の上に浮かぶ発電システムの実証研究事業に参画
これまでで一番印象に残っているのはどんな業務でしたか。
宮原:2013年に福島県沖の海上で運転を開始した浮体式洋上風力発電システムの実証研究事業において、その変圧器の設計に携わったことです。国内の有力企業が多数参画して進められた実証研究事業で、世界初の試みということもあって、私にとっても大変に誇らしい経験となりました。
浮体式ということは、海の上に浮かんでいる発電システムということですか。
宮原:その通りです。そのため、地上の発電システムと違って常に波の上で揺られており、そのような環境でどのような検証をすれば性能を保証できるか、その検証は実施可能かなど、まさに前例のない中での手探りの検証となりました。また、この変圧器にはシリコーン液を用いたのですが、海上においてもシリコーン液の環境への無害性や防災性などは担保されるか、検討を繰り返しました。
学生時代の研究の経験を活かすことができたのですね。
宮原:ええ、たいへん有り難い機会だと思いました。最終的には実際に変圧器が据え付けられた現場にも立ち会うことができ、大きな達成感を得ることができました。製品技術を学会で発表した際は、学生時代の学会発表の経験も活かすことができ、そうしたことも含めて、本当に有意義なプロジェクトでしたね。
“目に見えない”電気を学ぶことで“目に見える”他の分野の学びが有利に
学生時代に学んだ知識は、仕事の上でどのように活きていますか。
宮原:学生時代の勉強が毎日の仕事に不可欠なのはもちろんですが、むしろ社会人になってからも日々勉強が必要というのが実感です。今の担当分野だけならば電気工学の専門知識だけで十分かもしれませんが、業務を進めていく上では内外の他の専門家と関わらなくてはなりません。そのため電気工学に限らず、幅広い分野の知識が必要となります。情報工学や半導体、電子材料、化学、機械など、私も様々な分野の学びを続けています。
なるほど、電気工学の知識を核として、周辺の専門知識を増やしていくというイメージですね。
宮原:ええ。専門以外の話題になったときも“これは教科書の何ページに出ていた”という具合にパッとイメージの浮かぶことが大切だと思います。それに、電気という目に見えないものを苦労して学んできたことで、物理や機械などの目に見える分野を学ぶのには、さほど苦労しないというのが実感です。その意味で学生時代に電気工学をじっくり学んでおくことは、就職してからの勉強の力になると感じます。
将来の目標を教えてください。
宮原:やはり昔からずっと大切にしてきた“社会に貢献できる仕事をしたい”という志は持ち続けたいと思います。その上で、お客様の課題解決を通じて、インフラを支える仕事に携わっていきたいと考えています。その舞台がグローバルなものであるかもしれません。お客様の課題が海外にあるならば、そこまで飛んでいって解決に取り組みたいですね。IoTにより変電所の無人化ニーズも高まっていますから、その実現にもチャレンジしたいと思います。
最後に学生の皆さんにメッセージをお願いします。
宮原:社会に出ると自分の専門以外の専門家の人々とも関わることが多くなると申し上げましたが、その際にはヒューマンスキルも大切になります。リーダーシップに自信があるならまとめ役として、協調性があるなら人のサポート役として、といった具合に自分ならではの持ち味を活かして活躍して欲しいと思います。そのためにも学生時代には様々な経験を重ねて、ヒューマンスキルを磨いてください。
宮原さんのさらなる社会貢献に期待したいと思います。本日はありがとうございました。
バックナンバー
- vol.53 日々の確実な作業の積み重ねで、地下鉄というインフラを支えたい。
- vol.52 電気工学を活かして技術の発展に女性の視点を反映したい
- vol.51 東西日本間の電力融通を通じて安定した電力供給に貢献したい。
- vol.50 情報科学の知見を活かして電力業界のDX化に貢献したい。
- vol.49 電力業界の新たなルールへの対応の検討を通じ、カーボンニュートラルの実現に貢献したい。
- vol.48 変電技術者として変電所の運営に携わり、電気のある明るい生活を支えていきたい。
- vol.47 空港という重要施設を電気のスペシャリストとして守っていきたい
- vol.46 海底ケーブルのスペシャリストとして電力インフラを支えていきたい。
- vol.45 「ワクワクしつつ冷静に」をモットーに電力の安定供給に貢献したい。
- vol.44 “縁の下の力持ち”として測定器づくりによって社会を支えていきたい。
- vol.43 電力インフラを支える仕事を通じて、環境保護などの社会貢献を続けていきたい。
- vol.42 誰からも認められる女性技術者となり、 発展途上国の人々の暮らしに貢献したい。
- vol.41 電験1種取得者としての専門性を活かし、 電力業界で必要とされる人材であり続けたい。
- vol.40 電気工学の知識をもっと身につけ、 信頼される技術者になりたい。
- vol.39 大容量の電力貯蔵を実現するNAS電池の普及を通じてエネルギー問題の解決に貢献したい。
- vol.38 電気工学の知識を活かし、設備設計のプロとして活躍したい。
- vol.37 電動化が進むクルマの、これからの進歩を支えたい。
- vol.36 電力を支える使命を持った 信頼される存在になりたい。
- vol.35 世界に広がる活躍のステージ。 社会貢献への期待に応えたい。
- vol.34 四国の電力を支える使命を持って、火力発電の未来を拓きたい。
- vol.33 世界中のヒトに信頼される、建設機械を設計したい。
- vol.32 変電設備の最前線で、 電気の安定供給に尽くしたい。
- vol.31 都市レベルでものごとを考えられる、広い視野を持った電気設備設計者になりたい。
- vol.30 高電圧・高電界分野の技術開発で、 電力機器を進化させたい。
- vol.29 電力系統解析の研究者として、 社会や現場のニーズに応えたい。
- vol.28 電力・エネルギーの専門家として、社会に広く情報発信したい。
- vol.27 世界の海洋開発と海上物流を、最先端の電気技術で支えたい。
- vol.26 電力系統を守って人々の生活を支えたい。
- vol.25 新しい制御技術で、 環境にいいクルマを実現したい。
- vol.24 世界の産業を支える 技術者として活躍したい。
- vol.23 日本が誇る電力技術を、 世界に広めたい。
- vol.22 宇宙を駆ける、世界初のものづくりをしたい。
- vol.21 電気工学を活かして、交通安全を支えたい。
- vol.20 製鉄現場を電気技術者として支えたい。
- vol.19 エネルギー・環境問題の解決と、 日本の産業を強くしたい。
- vol.18 電力の安定供給を支えたい。
- vol.17 ものづくりの現場に、 電気の専門家として貢献したい。
- vol.16 社会の役に立つ、電気の研究をしたい。
- vol.15 電気工学で、地球環境を守りたい。
- vol.14 世界に広がる省エネ機器をつくりたい。
- vol.13 世界中の社会インフラを支えていきたい。
- vol.12 電気工学で、半導体の進化を支えたい。
- vol.11 電気工学で、日本の鉄道を支えたい。
- vol.10 世の中ではじめての電力機器をつくりたい
- vol.9 電気を広めて、紛争のない世界を実現したい。
- vol.8 宇宙空間で動く、究極の電源をつくりたい!
- vol.7 風力発電で、エコの輪を世界へ広めたい。
- vol.6 電気工学で、日本のケータイを世界へ広めたい。
- vol.5 夢の超電導ケーブルを、世界中で実現したい!住友電気工業株式会社 西村崇さん
- vol.4 エコキュートをもっと便利に。電気工学で地球環境を守る。
- vol.3 電気は、社会に不可欠なライフライン。だから、私は高電圧・大電流に向き合う。
- vol.2 電気工学を応用して、世界一のハイブリッドーカーを開発したい!
- vol.1 電気工学は一生の財産。どこへ行っても使える学問です。