幅広い電気エネルギーの研究を活かして、 未来の可能性を大きくしたい。

2018年9月28日掲載

今回は、プラズマ推進、核融合関連、パワーエレクトロニクスという幅広いテーマに取り組む、神戸大学の電磁エネルギー物理学研究室にお邪魔しました。高電圧を扱えるといった設備環境が非常に充実した研究室で、皆さん、規則正しい生活を送りながらそれぞれのテーマに打ち込んでいらっしゃいました。

※2018年7月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

就職の強さと、ロケットへの憧れから電気工学の道へ

まず乾さんからお伺いしたいと思います。電気工学を学ぼうと思われた動機を教えてください。

:やはり就職に強いというイメージが大きかったですね。大学進学時、電気工学に対する社会のニーズは今後さらに伸びていくのではないかと思っていました。

電磁エネルギー物理学研究室に進まれたのはどうしてでしょうか。

:学部4年生の時に、電気自動車メーカー「テスラ」のイーン・マスク最高経営責任者(CEO)の火星に移住する構想が話題になり、私も宇宙やロケットに関心を持つようになったのです。それでロケットに関連する研究を行っていたこの研究室を選びました。

明確な目標をお持ちだったわけですね。続いて橋口さんはいかがですか。

橋口:理系を選んだのは、高校時代、国語があまり得意ではなくて理系科目が好きだったからでした。工学部を選んだのは、モノづくりが好きだったことと、工学部は就職に強いと聞いたからです。その中でも特に電気関係は就職に有利だというので、電気工学系に進みました。もちろん電力のスケールの大きさにも魅力を感じました。

電磁エネルギー物理学研究室を選ばれた理由はいかがでしょう。

橋口:神戸大学の電気電子工学科の研究室は、プログラミングなどのソフト系のS系と、半導体などを実際につくって検証するP系と、2つに分かれています。私は電気に興味があったので、電気を専門にしている唯一の研究室である電磁エネルギー物理学研究室に入ることにしました。

では吉岡さん、お願いします。吉岡さんはこの中で唯一の学部生ですね。

吉岡:ええ、4年生です。私の場合は、兄が工学系の大学に進学したので、自分もなんとなく工学系がいいと思っていました。けれど実際に進学先を選ぶときになって、モノづくりをやるのか、あるいはソフトウェアの研究をするのか、専攻がギリギリまで決められなくて、本当に直感で、神戸大学のホームペーシを見て電気電子にしようと決めました。

直感だったのですね。では、電磁エネルギー物理学研究室を選ばれたのは。

吉岡:4年生になってから決めたのですが、各研究室の説明会を聞いて、私は太陽光発電に関する研究に心惹かれまして、エネルギー問題などを考えたときに非常に重要な分野になるだろうと思い、電磁エネルギー物理学研究室に決めました。

宇宙ロケットにおける「電気推進エンジン」を小型化するために

皆さんの研究内容について教えていただけますか。乾さん、お願いします。

:ロケットにおける、電気推進エンジンの小型化について研究しています。ロケットのエンジンには化学燃料を燃焼・噴射して進む化学推進と、推進剤をプラズマ化し、電磁エネルギーで加速・噴射して進む電気推進の2種類があるのですが、その中で私は電気推進エンジンを対象として、その小型化に関する研究を行っています。その電気推進エンジンに、電気をより効率よく使うVASIMRエンジン(※1)というものがあるのですが、難点は装置が大型になってしまうということです。そこでVASIMRエンジンを何とか小型化できないかという研究に取り組んでいます。

大型だと燃費がよくないのですか。

:その通りです。それに、エンジンが大きければ人や荷物を載せられる余裕も少なくなります。人を火星まで運べるような宇宙船に搭載されるエンジンなので、できるだけ小型化する必要があるわけです。実際に模擬実験装置をつくって実現可能かを確認しながら、研究を進めています。

シミュレーションではないのですか。

:ええ。模擬実験装置を使い、推進剤であるプラズマに与える磁場を変えることで比推力をどう調整するかという実験をしています。

研究において、エピソードを教えてください。

:冷却水が漏れたという事件がありました。プラズマを加熱する際には電気が必要となるので、電力を上げれば上げるほど冷却水も必要となるのですが、ちょっと高めの電圧に設定した際、いつもより多めに冷却水を流したことがあったのです。そのとき、あれっ、冷却水が漏れているぞ、と…。でも、みんなでぞうきんを持ち寄って大慌てで拭いて難を逃れました。

(※1)VASIMR/VAriable Specific Impulse Magneto-plasma Rocketの略。比推力可変型プラズマ推進機。

電気推進エンジンの模擬実験装置です。プラズマを加熱して動かすことができます。

核融合発電の実用化を目指した、エネルギー変換の研究

橋口さん、研究内容について教えてください。

橋口:重水素とヘリウム3を用いた核融合発電は環境に優しく、また長期的で大規模な発電であることから発電方法として注目されています。そこで私は、核融合発電において発生する粒子の運動エネルギーを電気エネルギーに変換する直接エネルギー変換器と呼ばれるもののエネルギー変換効率の向上改善について研究しています。

核融合発電は実用化されておらず、実験段階ですね。

橋口:そうですね。核融合発電では熱化イオンと電子、陽子が発生しますが、その運動エネルギーを減速させて、失われた運動エネルギーを電気エネルギーに変換します。エネルギー変換器には2種類あって、私は熱化イオンと電子のエネルギーを回収した後に残った陽子を回収するTWDEC(※2)という変換器を研究しています。

変換効率はどの程度ですか。

橋口:TWDECの変換効率は、理論的には75%ぐらいと高くなっています。

今までで印象に残っているエピソードは何でしょう。

橋口:研究結果の考察で行き詰まったとき、先生方や先輩からアドバイスをしていただいたことです。私には思いつかなかった考えを指摘していただき、先輩たちの偉大さを知りました。やはり皆さん失敗を重ねてこられたわけですが、その経験の積み重ねが私とは大きく違うと思いました。

(※2)TWDEC/Traveling-Wave Direct Energy Converterの略。進行波型直接エネルギー変換器。

TWDECを使って、実験を行おうとしているところです。

太陽光発電が、一般家庭に普及するための課題解決に取り組む

吉岡さん、お願いします。研究を始めてまだ3ヵ月ということですが。

吉岡:はい。私は太陽光発電の一般家庭での普及に伴って生じる諸問題の改善をテーマに研究を進めています。太陽光発電がこれから各家庭にどんどん普及していくと、使い切れずに余ってしまう電力が生じます。すると、例えば200ボルトを超えてはいけない条件のところなのに電力が余ることによって電圧が上がってしまい、条件を超えてしまうようなケースが出てきます。そうならないようにどう対処すべきか研究しています。

太陽光発電が普及しても問題が生じるわけですね。

吉岡:そうですね。ただ実際には発電所からの距離が家庭によって異なり、遠い家庭ほど電圧が上がるリスクが高くなるので、そうならないよう出力を抑制するなどの制御が必要になります。すると、本来使えるはずのエネルギーが無駄になるようなケースも出てきて、不平等が生じてしまいます。そうしたことを避けるための研究です。PCでのシミュレーションによる研究になります。

研究室でのエピソードを教えてください。

先輩たちから直接、さまざまなことを教えてもらえるのが研究室の魅力です。

吉岡:研究室を選ぶ際に各研究室の説明を聞いたのですが、そのときに先輩方が自分の論文を発表している様子を見て、とても大変そうで自分には無理じゃないかと驚きました。実際、今もデータを取るのに苦労するなど、改めて研究の大変さを痛感し、先輩方の偉大さに敬服しています。

規則正しい生活を送りながら、充実の設備環境で研究に打ち込む

研究室の特徴について教えてください。

:高電圧を扱える研究室というのは、すごいことだと思います。それだけにとどまらず、機器はとても充実していて、何だかわからないような設備が実験室にはたくさん置いてあります(笑)。その分、機器の扱いには大変厳しくて高電圧を扱うときは絶対に先生が立ち会っていないとダメですね。

吉岡:他の研究室と具体的に比較したわけではありませんが、確かに設備は充実していると感じます。

TWDEC(進行波型直接エネルギー変換器)(写真左)と、電気推進エンジンの模擬実験装置(写真右)

雰囲気はいかがですか。

橋口:とてもにぎやかですね。ゲームが置いてあって、そこで息抜きをしています。対戦系のゲームで、みんなでワイワイ盛り上がりますよ。

:先輩たちがお金を出し合って買ったゲームらしいですよ。先生とは部屋が別なので、遠慮なく盛り上がれます(笑)。

普段のコミュニケーションはいかがですか。

:毎週ウィークリーレポートで研究活動内容を先生に報告しているほか、ミーティングも週に1回行ってお互いの研究の進捗状況を報告しています。

橋口:2~3ヵ月ごとに飲み会もしています。期末が多いですね。飲み会には先生も参加されますよ。

吉岡:私はまだ学部生ですから本格的に皆さんの前で発表するような内容もないので、随時、先生や先輩とコミュニケーションを取っている感じです。先輩は皆さん優しくて、いつも気軽に声をかけてくれます。私は自分から積極的にコミュニケーションを取るのが苦手なので、とても感謝しています。

普段の生活ぶりについて教えてください。

:私は10時から17時頃まで研究をしています。夕方まで研究をやって、それが終わってから、アルバイトに行くというのがいつものパターンです。論文の締め切り前や学会の発表前などをのぞけば、基本的に日が出ているうちに帰ります。

橋口:そうですね、だいたい遅くても17時には終わっていますね。

:先ほども言ったように先生の立ち会いがなければ触れない設備もあるので、遅くなっても先生が帰られる18時頃がギリギリですね。

橋口:研究が途中でも、もう今日はやめて明日に回そうか、という感じです。

研究室の集合写真。
3列目右端から順に竹野 裕正 教授、市村 和也 技術職員、米森 秀登 助教、中本 聡 助手

金融業界でも、電気工学など理系人材への期待が高まっている

皆さん、電気工学を学んでよかったと思うのはどんな点でしょうか。

:IoTやフィンテック(※3)などが盛り上がる中、電気工学の知識を持っていることは有利だと感じています。就職に関しては特にそう思います。私は金融系の内定をいただいたのですが、私自身フィンテックに興味がありましたし、金融業界も理系の人材に大きく期待しているというのを感じます。

吉岡:電気というのは非常に身近な存在ですが、一方で目に見えない存在でもあります。私は、電気工学を学ぶようになってからは、そんな電気について普段から意識して考えるようになりました。例えば歩いていて電柱が目に入ったら、この電柱を見守る人がいて、ちゃんとメンテナンスする人もいるんだ、という感じです。

橋口:私も電気や電力について以前より、強く関心を持つようになりました。原子力発電所などについても深く考えるようになったことで、知識の幅が広がりました。

電気工学を学んでいると就職にかなり有利と感じますか。

:それは確かですね。私は違いますが、他の人はだいたい推薦を使って応募して早い段階で内定をもらっていたようです。

橋口:何社か内定をもらって、どれにしようか迷っているという話も聞きますし、OBも就活が早めに終わったと言っていました。電気工学が就職に強いというのは確かだと感じます。

最後に皆さんの将来の夢を聞かせてください。

:内定が出て将来の進路が決まりましたので、まずは就職先でしっかりと頑張りたいと思います。

橋口:まだ具体的なことは決めていないのですが、まずはやはり電気関係の企業に就職したいと考えています。

吉岡:私は大学院への進学を考えており、今はそのための準備に集中しています。将来は、大学院で研究した内容を活かせるような仕事であれば、どんな職業に就いたとしても全力で頑張りたいと思っています。

ぜひ電気工学を学んだ経験を生かして、それぞれの進路先で活躍してください。
今日はどうもありがとうございました。

(※3)IoTは、モノのインターネットのことで、「Internet of Things」の略。フィンテックは、IT(情報技術)を駆使した金融サービスの創出のことで、「金融(Financial)」と「技術(Technology)」を組み合わせた造語。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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