最先端プラズマ技術で、社会に貢献をしたい!

2009年4月9日掲載

金沢大学の環境電力工学研究室は、「環境」、「核融合プラズマ」、「熱プラズマ」などのキーワードにおいて、様々なプラズマ研究をメインに行っています。プラズマという媒体を対象に最先端技術を手掛け、未来の産業発展に貢献している研究室です。

※2009年3月現在。インタビュー中の敬称は略させて頂きました。

モノづくりが好きで、プラズマ研究への道に

坪川さんは、電気工学をなぜ専攻されたのですか。

坪川 祐樹(以下、坪川):元々、電化製品が好きだったからですね。特に配線をいじるのが得意でした。実家では、LANやプリンターをつないだり、PCを選ぶのは私の役目です(笑)。あと、電気屋さんで1時間2時間、ウィンドウショッピングをしても飽きないですね。

坪川さんは高専出身ですよね?

坪川:そうです。高専も電気系の学校でした。モノづくりに関わることをやりたかったからです。高専の時は、ソーラーカーをつくって産業展示会へ出品したりしていました。そして高専の5年間を終えて、金沢大学工学部3年に編入しました。

京さんはどういう理由ですか。

京 真観(以下、京):まず、一番の理由は、文化系の勉強が苦手だったということです(笑)。ただし、将来はモノづくりに関わる仕事をやりたいというのは、元々希望を持っていました。建築も考えていましたが、活躍の幅の広さを考えて電気にしました。

建築から電気ですか(笑)

:そうですね。建築の方は、趣味の日曜大工でいいかなぁと思ったので、電気にしました(笑)。でも今から考えると、高校の時に先生が人工太陽(核融合プラズマ)の話をしてくださって、それで興味を持ったというのが大きいですね。

世界初のプラズマ発生装置で、新技術を生み出す

学部を卒業後、環境電力工学研究室に進んだ理由をお教え下さい。

坪川:金沢大学は、学部4年のときに研究訪問があるのですが、その時に田中先生から「うちの研究室は、世界ではじめて、任意に温度コントロールできるプラズマ発生装置(変調誘導熱プラズマ発生装置)をつくった研究室だよ」と言われて、環境電力工学研究室に決めました。

それは心が動かされますね。坪川さんが今研究しているのも、そのプラズマ発生装置に関するものですか。

坪川:はい。私は、「プラズマ制御に関する研究」を行っています。具体的に言うと、熱プラズマに関する研究です。

熱プラズマとは何ですか?

坪川:熱プラズマとは、高温高密度状態のプラズマのことを言います。大気圧で発生させた熱プラズマは、温度が数千から数万℃と高温で優れた特性を持つため、高融点金属、セラミックなどの切断、表面処理、産業廃棄物分解処理など様々な分野で応用されています。

プラズマの応用技術ですね。

坪川:そうですね。熱プラズマを発生させる方法は色々あるのですが、私達が手掛けているのは"誘導熱プラズマ"というものです。約400 kHzの高周波磁場をコイルに加えることによって、大気圧下で1万℃の熱プラズマを発生する方法です。

1万℃!太陽の表面温度は6000℃と言われていますから、それは凄いですね。

坪川:また、誘電熱プラズマは他の方法と違って、電極がないため、不純物の少ないクリーンな熱プラズマを形成できます。ただ、誘電熱プラズマは高温なので、基板や生成物に熱的な損害を与えてしまうのです。そこで、任意に温度をコントロールできる「変調誘導熱プラズマ発生装置」によって、高温場を制御しようとする研究です。「変調誘導熱プラズマ発生装置」は、田中先生や先輩達がつくった、世界初の技術です。

新しい発明が色々生まれそうですね。

坪川:はい。私がやっている研究も、この技術を応用した新材料の生成です。誘導熱プラズマを利用することによって、様々な新材料の生成方法が得られます。具体的には、誘電熱プラズマによって、たとえば金属チタン(Ti)の表面を高速で改質する研究を行っています。

なるほど。何か他に分かりやすい応用例はありますか。

坪川:私の研究とは違いますが、うちの研究室では、誘電熱プラズマを利用して、ナノパウダーを生成する研究を行っています。ナノパウダーとは、文字通りナノ(10万分の1ミリメートル)領域の粉体のことです。あるメーカーさんと共同で開発を行っています。

歴史上解明されていない、核融合の謎を解く

京さんは今、どんな研究をされていますか。

:私は核融合プラズマ関連の研究です。核融合は、太陽や星のエネルギー源となっており、ほぼ無尽蔵のエネルギー源として、実用化が期待される新エネルギーです。具体的には、「高熱流プラズマ照射によるカーボンダスト生成に関する研究」を行っています。

どのような研究ですか。

:核融合装置の内側(もっとも熱負荷が大きいところ)には、炭素材が使用されて壁をつくっています。ところがそこに、プラズマの燃料である重水素とトリチウム(三重水素)という物質が当たると化学反応し、炭化水素のガスになって壁が損耗していくという現象が起きるのです。また、壁が消耗するだけではなく、炭素の微粒子(カーボンダスト)を生成します。このカーボンダストも核融合装置にとって良くないのです。

その微粒子はどうしてできるのですか。

:実は、まだまだ分かっていない部分が多いのです(笑)。私の研究は、ダスト粒子形成のメカニズムを解明して、最終的にこの微粒子を生み出さないようにすることです。

歴史上、解明されていない謎に挑んでいるわけですね。

:かっこよく言えばそうですね(笑)。簡単に言えば、現在の核融合が持つ課題を解決しようとしている研究です。

産学共同研究、優秀論文発表賞、目標を持って研究に取り組む!

研究は実験が多いのですか。

坪川・京:はい。実験がメインで、基本は週2~3回となります。

実験はこもりっきりになるのですか。

坪川:いや、私の場合、大体1回の実験で4~5時間ぐらいです。実験そのものよりも実験結果のデータ整理に時間を費やしますね。

:私も同じです。実験自体は3時間ぐらいですが、実験後のデータ整理に時間が掛かります。電子顕微鏡で試料表面を見て、データを整理していく作業が一番大変ですね。グラフに実験結果を一つプロットするのに7時間掛かったこともあります。完成したときは、嬉しかったですね(笑)。

研究者らしいですね(笑)。坪川さんは実験で思い出に残っているエピソードは?

坪川:私の場合、「変調誘導熱プラズマ発生装置」に不具合があった時に、外部の業者さんと一緒に直したことです。業者さんと、設備の修復や性能の向上を取り組んでいる時に、モノづくりをしているなぁって実感できます。

なるほど。それ以外にも外部の方とのやり取りはあるのですか。

:私はまだ関わっていませんが、環境電力工学研究室はたくさんの企業と共同研究を行っています。その範囲も幅広く、電力会社、電機・機械メーカー、研究所などはもちろん、材料メーカーにまで及んでいます。私達の研究も芽が出れば、いずれ各企業と共同研究が出来るので、励みになります。

それは目標になりますね。その他には何かありますか。

坪川:環境電力工学研究室では、電気学会の学会発表を対象とした"優秀論文発表賞"という賞を2001年~2008年まで全部で17名の先輩が連続して受賞しています。こうした賞も日々の研究の目標になります。

毎日の研究が成果となってカタチになる。それは嬉しいことですよね。

プラズマの知識・考え方を社会へ活かしたい

では最後に電気工学を学んで良かったと思うことをお教え下さい。

坪川:やはり、電化製品の原理が分かることですね。プラズマと液晶の違いなんて、おそらく普通の人は、原理まで理解できていないと思います。理解できると電気屋さんへ行くことが楽しいですよ(笑)。

:私のやっている研究では、物理や化学の知識も必要になっていくので、これらが勉強できたことは良かったなぁと思います。電気というと何か狭い分野に感じると思いますが、研究を進めていくと幅広い知識が自然と身についていく学問です。

なるほど。ではこれからの夢や目標を教えて下さい。

坪川:今、就職活動をやっていて、志望しているのは、インフラ系の企業です。具体的に言うと、交通や電力インフラです。人の目に見えないところで役に立つ仕事をやりたいですね。

:私も同じ感じですが、社会への貢献度が大きい仕事をやりたいです。具体的に言うと、エネルギー関係や分析装置などの研究・開発にも興味があります。

それらの目標にプラズマの知識は活かせますか。

坪川:もちろん。プラズマは基礎物理に通じる研究なので、応用できるはずです。様々な課題解決の糸口に活かしていきたいと思います。

:社会へ出て、直接プラズマに関わるかどうかは分かりませんが、少なくともその考え方のアプローチは役に立つはずです。何しろ誰もまだやっていない最先端の研究を私達はやっているわけですから(笑)。

今日は貴重なプラズマ研究の現場を伺って、大変勉強になりました。ありがとうございました。

田中 康規  教授(たなか やすのり)

国立/石川県
金沢大学 理工学域 電子情報学系

田中 康規 教授(たなか やすのり)
当研究室では、「高密度プラズマによる環境・エネルギー・材料問題への取り組み」というキーワードのもと、現在は特に「高密度プラズマの革新コントロールと他材料間複合相互作用の解明と応用」に取り組んでいます。2010年度においては、スタッフ2名(上杉教授と協力)、博士後期課程学生5名(うち社会人3名)、博士前期課程学生9名、学部生9名の、計25名が活動しています。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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