世界中のインフラを、システム工学で支えたい。

2009年11月30日掲載

首都大学東京の安田研究室は、システム工学(最適化と制御)とエネルギーシステム・電気機器の応用に関する研究をしています。システム工学は、高度に複雑化していく現代社会において、必要不可欠な学問です。

※2009年10月現在。文中の敬称は略させて頂きました。

理系は論理立てて物事を考えられる

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それぞれ、電気工学を専攻した理由を教えてください。

田中:私は電化製品の中にある仕組みに興味があって、それをもっと知りたいと思ったのがきっかけです。そして、電化製品といったら電気というイメージを持っていたのが大きかったですね。あと、父親が電気系の仕事をやっていて、いつも家に、ハンダや回路基板などがあったことも理由です。

金田さんはいかがですか。

金田:私は、最初に理系か文系か迷いました。理系を選んだ理由は、論理立てて物事を考えていく力が養われることです。父親から、ものごとを考える力というのは大切だよと、よく言われていましたので、それで理系に行こうと決めました。その中で電気を選んだのは、電気は扱う範囲が広いので、その中で自分の興味がある分野が絶対あるだろうと思ったからですね。また、最新の電化製品にも興味があり、それについても勉強できたらいいなと思っていました。

新幹線の最適なカタチは何?最新型システム工学

分かりました。それでは、皆さんの研究内容を教えて欲しいのですが、院生の田中さんからお願いします。

田中:はい。私たちの研究室は電気工学の中でもシステム最適化の研究をしています。システムには、性能を最大限に発揮できる変数というのが必ずあります。その変数の中で最適な組み合わせを探し出す手法を研究しています。最適な変数を探し出すためには、膨大な試行錯誤が必要なのですが、それを出来るだけ抑えるやり方を考えています。

一番、最適な変数を探し求めている研究であると。具体例を教えてください。

田中:例えば、新幹線の形状を考えるときに、縦、横、高さ、先端の曲がり具合といったものがありますが、これらはすべて変数として扱われます。縦が何センチ、横が何センチ、奥行き何センチとか。これらの縦・横・高さなどの組み合わせによって、空気抵抗・騒音・振動など様々なものに影響が生じます。そこに、最適な変数の組み合わせがあるわけです。

なるほど。他に何か具体例がありますか。

田中:「巡回セールスマン問題」というのがあります。セールスマンが、東京や横浜などの日本の都市を一周して戻ってくるときの最短ルートを見つけ出す問題です。そこでも最適化手法が使われています。

新幹線は形状。セールスマンは距離。それらを最適化する変数の値を探し出す研究をされているわけですか。

田中:そうですね。

あまり電気工学と関係ないように思えるのですが、どういうふうに結びついているのですか。

田中:私も研究室に入る前はつながりが分からなかったのですが、電気を学ぶうえではシステムという概念は絶対に不可欠なのです。身近でいえば携帯電話を例にとると、ケータイにカメラなど便利な機能がついたとしても、本体の重量が重かったりしたら使いづらいですよね。

あるいは電池の消耗が早くなってしまうとか。

田中:そうですね。こういうふうに、単体だけで考えてしまうと全体として見たときに色々な問題が生じてきます。それをシステム的にとらえることによって最適化をする必要性が生まれるわけです。そういう意味で、システムという概念は電気工学の中で重要な分野なのです。最終的には、すべての電気工学分野のシステム全体を最適化できる仕組みにすることが究極の目標です。

何か、経済学などに通じる研究ですね。

田中:確かにそうかもしれません。
工学のみならず経済学、社会学などの幅広い分野に応用が可能だと思います。私たちの研究は、設計などに多く応用されます。例えば、先ほど例に挙げた「巡回セールスマン問題」は回路基板を製造するときに応用できます。基板の穴空け加工をできるだけ短い時間でこなしていくためにはどうするのかといった感じです。

製造工程などに役に立つわけですね。

田中:ええ。基板の例の他にも、開発した最適化手法をモーターの形状設計に応用する研究もしています。私たちが考えもしなかった最適な形状が出てきたときは驚きましたね。

オンとオフのメリハリをつけて、のびのびと研究する

実際の研究としては、基本的にパソコンでシミュレーションを行うと考えていいのですか。

田中:はい。私たちは、1人1台のパソコンで、主に数値シミュレーションによる研究を行っています。数値実験をしている間は、お互いの研究の相談や雑談などをして過ごしています。

金田:私は、研究室と大学の授業でふたつのことを学んでいます。ひとつは、システムの最適化問題を扱えるようになるためのプログラミング。もうひとつは、システム的に考える力を養うため電力システム工学を学んでいます。電力は、凄くシステマティックに構築されている分野です。

プログラミングと電力システムの思考方法を学んでいるわけですね。電力システムを学んで、何か印象に残っていることはありますか。

金田:電気はすごく身近で、スイッチをつけるだけで簡単に利用できますが、その電気が自分のところに届くまでに、膨大な距離や時間がかかり、安全性の面で色々な対策が想像以上に深く考えられていたことに驚きましたね。授業の一貫として、川崎にある東京電力の電気の史料館も訪れました。

そうですか。では、研究室の雰囲気はどんな感じですか。

金田:先生や上級生の方とすごく距離が近い研究室と感じています。研究の内容について、自分で調べたり考えたりすることはもちろんですが、それ以上に気を遣ってくれて、ちょっと何か分からないことがあり悩んでいると声を掛けてくれます。それがうれしいですね。

田中:また研究生活は、縛られる感じではなくて、学生の自由にやらせてもらえます。自由な時間に来て、自分の好きなペースで研究ができます。こういう雰囲気の中で学生がのびのびやっている点が、この研究室のいいところだと私は思っています。

金田:今年の9月12~14日には、河口湖へゼミ合宿に行きました。

田中:ゼミ合宿は毎年の恒例行事ですね。まず初日は普通にゼミで発表とかまじめにやって、その後は研究なしで、自由にみんながやりたいことをやりましょうという感じです。ほとんど観光か飲みですが(笑)。今年はたまたま富士山にみんなで登ってきました。

金田:歓迎会とかお祝い事があるときは、みんなでお祝いをしますね。研究室にピザやお寿司を頼んだりします。つい最近は、誕生日パーティをしました。結構盛り上がりましたよ(笑)。

研究室の設備関係で特徴はありますか。

田中:パソコンですね。基本的に1人1台ですが、大学院生は結構大がかりな数値計算を行うことが多いので1人2台あるのです。

そうですか。院生は2台!

田中:ええ。その他に誰でも使える共有パソコンが8台ぐらいあります。だから数値計算したいなと思ったときは、いつでもパソコンが使用できる状態が整っています。

学会での活動はいかがですか。

田中:学会は基本的に必ず発表しろというスタンスじゃなくて、発表したい人が発表できるようになっています。

本当に自由な雰囲気なのですね。サークルやアルバイトはしていますか。

2009年度のゼミ合宿※富士山頂にて

田中:私は、サークル自体は学部のときにもう引退しましたが、古典ギター部をやっていました。今は、地元の吹奏楽団でドラムをたたいています。それからアルバイトは、大学でTA(ティーチング・アシスタント)をやっています。

金田:サークルはテニスサークルで部長をやっていて、週3日ほど練習をやっています。アルバイトは、今年は夏に週5でビアガーデンのアルバイトをしていました。夏季限定なので、少し時給が高いバイトです(笑)。

電気工学はやりたいことが必ず見つかる(田中)
発展途上国のインフラを整備したい(金田)

電気工学を学んで良かったと思うことを教えてください。金田さんは、電力機器を扱う大手メーカーに就職が決まっているそうですが、そのあたりも含めてお話頂ければと思います。

金田:はい。就職先を考えたときに、海外で働きたいなという思いがよぎりました。というのは、10年ぐらい前まで、インドネシアで暮らしていました。インドネシアは発展途上国で、その当時はインフラの整備が日本ほど進んでいませんでした。私が住んでいる地区では、近隣で工事をする場合、工事用に電力を確保するためその地区全部を3日間停電させてしまうこともよくありました。

3日間もですか!

金田:ええ。結構ありました。それで自分も生活していて電気は必要だなと痛感したのです。一方、日本の場合、停電はほとんどないですから、そういう日本の技術力を海外の発展途上国に活かしたいなと思って就職先を決めました。それから、発展途上国に電力技術を提供するということは、その土地の事情や国民性を考えなければいけないので、その点でシステム的に考える力を電気工学で養えたことは良かったなと思います。

分かりました。田中さんはいかがですか。

田中:電気工学には、多くの選択肢があることですね。私は電気に興味を持って電気工学を選択したのですが、具体的にやってみたいことは明確になっていなかったのです。ところが、電気工学を専攻して、いろいろな学問分野があることに気づかされました。デバイスであったり電気回路であったり、ましてやこのシステムであったり。

そうですね。物理や化学の授業で電気を学びますけれども、システムは教わりませんよね。

田中:ええ。だから、色々な選択肢がある中で、自分がこれだと思うものに行きやすい分野だと思うのです。まだ進路で迷っているような人には最適だと思います。

では、これからの夢や目標を教えて下さい。

金田:海外で、特にアジアの発展途上国の電力インフラを支えていきたいです。そして、いつかは自分でプラントや変電所をつくって、その国の発展を手助けしたいです。

田中:私は、インフラ関係の仕事に興味があります。インフラは多くの人々が生活する上で、その基盤を支える重要な仕事だと思っています。人々が安心して暮らせるようなインフラを作る仕事にぜひとも携わりたいです。

本日は、最先端のシステム工学の研究実態から、海外の電力事情まで貴重な話を聞けて大変勉強になりました。ありがとうございました。

安田 恵一郎  教授(やすだ けいいちろう)

国公立/東京都
首都大学東京 理工学研究科 電気電子工学専攻

安田 恵一郎 教授(やすだ けいいちろう)
当研究室では、システム工学(最適化と制御)とエネルギーシステム・電気機器への応用に関する研究を中心に行っています。1991年以来、80名を超える学部生・大学院生が当研究室で学び、さまざまな分野で活躍しています。本学は少人数教育のため、密度の濃い教育・研究環境が提供されています。2010年度は、スタッフ3名、博士前期課程5名、学部生3名の総勢11名で活発な研究活動を行っています。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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