高電圧・高電界分野の技術開発で、 電力機器を進化させたい。

2015年9月30日掲載

「将来はメーカーに進みたい」という思いをかなえて、現在は東芝の電力・社会システム技術開発センターで研究者として活躍する安岡さん。学生時代の研究体験を活かし、入社以来一貫して高電圧絶縁分野の研究開発に取り組んでいらっしゃいます。まさに研究一筋の人生を歩んでこられた安岡さんに、電気工学の魅力についてうかがいました。

プロフィール

2006年3月
名古屋大学 工学部 電気電子・情報工学科 卒業
2008年3月
名古屋大学大学院 工学研究科 電子情報システム専攻 博士前期課程修了
2008年4月
株式会社東芝入社
現在
送変電機器開発部高電圧技術担当 主務

※2015年7月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

なぜだろう?という純粋な好奇心がすべての出発点

安岡さんが電気工学を専攻された動機は何でしたか。

安岡:小学生の頃から電気製品に興味があって、なぜテレビが映るのか、パソコンの仕組みは、といった漠然とした好奇心が原点でしたね。なぜかクルマより電化製品の方に興味を持ちました(笑)。

やはりこどもの頃から、理科系の勉強が得意だったのですか。

安岡:いや、中学・高校では特に理科が得意だったわけではありません。大学進学の際に工学部を志望したのは、将来、メーカーへ行きたいと思ったからです。それで、名古屋大学の電気電子・情報工学科に進みました。

大学と大学院では、高電圧分野を専門とする大久保仁先生の研究室(現・早川直樹研究室)に所属されたそうですね。

安岡:はい、単純に大久保先生は授業が面白かったことが理由でした。それから私は、電力インフラに関わりたかったので、パワーエレクトロニクスやモーターといった研究よりも、高電圧の方が適していると思ったのも大久保研究室を選んだ動機でした。

企業と共同で真空遮断器の高電圧化について研究

研究室ではどのような研究に取り組まれましたか。

安岡:学部4年から修士の2年にかけて高電圧・高電界分野の研究、具体的には変電所等に設置する電力用のスイッチである真空遮断器の高電圧化の研究を行いました。

もう少し詳しく教えていただけますか。

安岡:一般的に、高電圧用の電力用遮断器はSF6ガスを絶縁・電流遮断媒体として使用しています。このSF6ガスは非常に優れた性能を有するガスなのですが、一方で温室効果ガスであることが知られていて、1995年のCOP3、いわゆる京都会議(第3回気候変動枠組条約締約国会議)で排出規制対象ガスに指定されました。そこで、環境低負荷である真空遮断器の高電圧化のニーズが高まりました。

真空遮断器を高電圧化することでSF6ガスに置き換えようというわけですね。

安岡:はい。真空遮断器の高電圧化を達成するためには、真空中の絶縁破壊現象を詳細に把握することが必要不可欠です。真空中の絶縁破壊現象では「コンディショニング効果」という特有の現象があり、この「コンディショニング効果」のメカニズムを解明し、定量的に評価する研究を進めていました。

研究の成果はいかがでしたか。

安岡:この研究はある企業との共同研究でしたので、最終的な成果となると企業の方でどう活かされたかということになり、学生としては分からない部分が多かったです。打ち合わせの席では、企業の方でも理解していない物理現象もあるんだ、ということが分かり、こうした基礎的な研究を共同で行うのは意義があることだと感じたのを覚えています。

研究で一番印象に残っているのはどういうことでしょう。

安岡:真空中の「コンディショニング効果」の解明には、真空ギャップ間を流れる微小な電流を測定、評価することがキーでした。修士1年の冬に、この微小電流を初めて測定できたことが最も印象に残っています。研究室の実験設備は学生でシェアしていましたので、使える日は限られているんです。ですから実験設備が使えるときは夜遅くまで、何度も実験を繰り返して、ようやく測定に成功したときはうれしかったですね。

電力ブレーカー“GIS”の高電圧絶縁分野を進化させる

大学入学の時点ですでに将来はメーカーに行きたいと思っていたとのことでしたから、東芝に就職されたのは自然な流れでしたね。

安岡:そうですね。電力という社会インフラを支える分野で働きたいと思い、高電圧分野の研究職に就職することを決めていました。東芝は、この分野での日本のリーディングカンパニーです。入社に際してはジョブマッチング制度を利用しました。

ジョブマッチング制度とは?

安岡:あらかじめ配属される部署を決めた上で入社する制度です。その為、入社後にどこに配属されるかわからないという懸念がありません。

なるほど。では入社された時点でご希望の仕事に就くことができたというわけですね。

安岡:そうです。入社から現在まで、この浜川崎工場で同じ仕事を担当しています。具体的には、電力流通で重要な役割を担う「ガス絶縁開閉装置(GIS)」の高電圧絶縁分野の研究開発を行っています。

具体的な研究テーマはどのようなものですか。

安岡:GISは変電所等に設置してある電力用の大きなスイッチなどからなる電力機器で、50万ボルトを超える高電圧条件下でも絶対に放電しない絶縁信頼性が必要とされています。私はこのGISのコンパクト化や環境負荷低減、信頼性向上を目的に、新しい絶縁材料の開発や、SF6ガス中の絶縁現象の解明、SF6代替ガス機器の開発、直流絶縁特性の評価などに取り組んでいます。研究範囲は多肢にわたりますが、共通するキーワードは“高電圧・高電界現象”ですね。ほぼ毎日、実験室で研究に取り組んでおり、そこで得られたデータをもとに、GISの絶縁設計がなされます。

特にSF6代替ガス機器の開発というテーマは学生時代の研究にも通じますね。

安岡:ええ。具体的にはCO2ガスに注目しており、CO2の絶縁特性を詳細に調査して、CO2の高電圧・高電界現象や性能向上のための新技術について研究しています。SF6ガスのように人工的に合成したガスではなく、自然由来のCO2を使えないかというのが、東芝の考えです。

なるほど。興味深いですね。これまで安岡さんが研究された機器は世に出ていますか。

安岡:それがなかなか足の長い研究なので、残念ながらまだ実用化された経験がありません。そろそろ世に出るのではないかと期待しています。

こうした研究活動の中で、学生時代に身につけた知識や経験はどう活かされていますか。

安岡:電磁気や電気回路などの知識は、毎日のように活用しています。また、研究室で学んだ研究の進め方、プレゼンの仕方や論文の書き方なども、今の仕事をする上で大いに役立っています。むしろ大学で学んだことで今役立っていないことは、ほとんどないですね。

現在のお仕事をしていて最も印象に残っているエピソードはありますか。

安岡:入社3年目に、ミュンヘン工科大学を訪問して、HVDC(高圧直流送電※1)の絶縁についてディスカッションをしたことです。一人での海外出張は初めてで不安は大きかったのですが、私たちの先を行く研究者と直接議論できたことで、モチベーションが高まりました。ミュンヘン工科大学は高電圧の分野ではヨーロッパでトップレベルにあり、いろいろとストレートにお話を聞かせていただくことができました。相手は同い年のドクターの学生でしたが、レベルの高い研究をされていると感じて、大きな刺激を受けましたね。

(※1)高圧直流送電(HVDC:High Voltage Direct Current Transmission)とは大容量で長距離の送電に適した方式と言われている。

このかまぼこ型の建物が、高電圧大電力試験場の全景です。

全長20m以上に及ぶ、雷を模擬したインパルス電圧を発生する装置による絶縁研究も行っています。

身近だけど解明されていない点が多いことが、電気の魅力

今後はどのような研究に取り組みたいですか。

安岡:私は研究職ですので、新しい技術を生み出したいですね。GIS用の新材料の開発、新たな絶縁現象の解明や新たな高電圧機器の開発などをしたいと思っています。現時点ではまだまだ具体的なテーマには落とし込めていませんが。

材料とは意外ですね。

安岡:よく言われることなのですが、材料が変われば設計が変わり、機器も変わって、最終的には電力のネットワークも変わっていきます。個人的には材料の開発に強い思い入れや憧れがあります。

今、振り返ってみて、電気工学を学んでよかったと思うのはどういう点ですか。

安岡:私は電気工学しか勉強してこなかったので他の分野のことはわからないのですが、社会と非常に密接に結びついていて、大きく貢献できることが、電気工学の一番の魅力ではないでしょうか。一方で、まだよくわかっていないことがたくさんあるというのも、私にとっては大きな魅力です。研究をしていると課題が見つかって、それを何とか解き明かしていきたいという点が、一番面白いですね。

では最後に、電気工学を学んでいる学生の皆さんにアドバイスをお願いします。

安岡:私は電気工学を専攻し、現在は高電圧分野の研究職に就いていますが、進学も就職も、「電気について知りたい」という純粋な好奇心が出発点でした。皆さんもご自分が何に心惹かれるか、一度じっくりと考えてみてはいかがでしょうか。

ぜひ安岡さんの手掛けた電力機器が世に出ることを期待しております。本日はどうもありがとうございました。

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