高圧応急用電源車用「電圧・電流センサ」の高度化

2025年2月28日掲載

開発者

宮古 尚(みやこ たかし)

東北電力ネットワーク株式会社 配電部 配電技術

1990年3月
東北電力学園卒業
1990年4月
東北電力株式会社 入社 配電部門に配属、現在に至る

はじめに

東北電力ネットワーク株式会社(開発当時、東北電力株式会社)では、非常災害時の応急送電および配電線工事における無停電対策として、高圧応急用電源車(以下、電源車)を各事業所に配備しています。従来の電源車は平成16年度から導入しており、配電線側に商用側電源の電気的条件を検定するための装置である同期制御装置(以下、制御器)を取り付け、同期調整に必要なデータを制御器と電源車との間で無線により送受信することで、工事用開閉器等の無停電関連機材の大幅な削減や作業時間の短縮によるコスト削減に大きく寄与してきました。
一方、電源車の同期調整に必要なデータを取得するための電圧・電流センサは、制御ケーブルを介して通信しており、制御ケーブルの構造上、間接活線用工具でのセンサ取り付け取り外しによりストレスが蓄積されるため、センサ本体および制御ケーブルの破損や故障が顕著になってきており、耐久性が課題となっていました。また、制御ケーブルを接続したままセンサを電線へ取り付け取り外しする必要があることから、作業性の向上が求められていました。
以上のことから、耐久性と作業性の向上およびさらなる高度化を目的に、新たな「電圧・電流センサ」を開発しました。

高圧応急用電源車の概要

1.高圧応急用電源車の性能

6,600V/400kVAの三相交流同期発電機を搭載し、自走で現地まで移動して応急送電を行う。

図1.高圧応急用電源車

表1.高圧応急用電源車仕様

2.無停電切替方式の概要

当社の電源車の無停電切替方式は、配電線の電気データを検出するセンサ、データ解析と同期操作を行う制御器、そして区分開閉器の非同期投入を防止する誤操作防止装置で構成されています。センサと制御器は制御ケーブルを介して通信している。

図2.無停電切替方式の概要

従来品の課題

耐久性の課題

⇒間接活線用工具(棒状のスティック)での取付け・取外しにより、センサ本体および制御ケーブルが破損しやすい。

雨水混入による動作不良

⇒雨水が混入すると動作不良が発生し、切替不能になることがある。

作業性の問題

⇒センサを電線に取付け・取外しする際、制御ケーブルが他の配電設備に干渉し、作業性が悪い。

センサ電圧センサの電源スイッチ操作

⇒電源車稼働前と停電作業後の同期復電時にON・OFF操作が必要で、操作頻度が多く故障しやすい。

図3.従来の電圧・電流センサと制御ケーブル

図4.従来のセンサ取付け作業風景

開発品の概要

1.電圧,電流センサと制御器の無線通信化

本体の形状を変更し、通信装置を内蔵しました。無線通信は920MHz帯を使用しており、Bluetoothなどの多くの機器に影響されにくく、安定した通信が可能です。また、同じ920MHz帯を使用するスマートメーターの近傍でも混信することなく通信できます。
電圧・電流センサの取り付け・取り外し作業においては、電線取り付け部を締め付け式からクリップ式に変更し、制御ケーブルが不要になることで、作業性が飛躍的に向上しました。
さらに、雨天時用のシートを追加しました。センサを取り付けた後に上からかぶせて養生することで、雨水の侵入を抑制します。

図5.システム概要図(左:従来 右:開発後)

図6.開発した電圧・電流センサ

図7.作業風景

2.電圧センサ電源自動ON・OFF機能

電圧センサの電源スイッチは、電源車稼働前にON・OFF操作が必要であり、停電作業後の同期復電時にも再度ON・OFFが必要なため、操作頻度が多くなります。間接活線工具によるボタン操作のため故障しやすい箇所であったことから、取り付ける電線から電圧を検出して自動的に電源スイッチが入る機構としました。
また、同期復電まで長時間電圧センサを使用しない場合、電圧センサは制御器の停止状態を検知して待機状態となることでバッテリーの消費を抑えます。

図8.自動電源投入機能

3.導入効果

電圧・電流センサと制御器間の通信を無線化し、電圧センサに電源自動ON・OFF機能を追加することで、構造上ストレスがかかりやすいセンサ本体などの破損や故障が抑制され、修理などのネガティブコストが削減されています。
若年層から熟練者まで、作業の習熟度に関わらず、電圧・電流センサの取り付け・取り外し作業が可能となり、作業性が大幅に向上しました。これにより、作業の効率化に寄与しています。

開発結果と今後の目標

今回の「電圧・電流センサの高度化」は、2014年度から開発を開始し、幅広い年齢層による作業検証と試行錯誤を経て、2016年に実用化しました。加えて,電源車操作盤のタッチパネルを導入し、本センサの取り付け作業のガイダンス機能を追加することで、運転操作員の利便性を高めています。2025年度には、当社配電部門が保有する全ての高圧応急用電源車に本機能が搭載される予定です。
今後、高圧応急用電源車の運転状況をリアルタイムで監視し、運転員がいない場合でも安全かつ効率的に運転管理できる遠隔監視システムの開発に挑戦したいと考えています。

学生へのメッセージ

今回の開発から得られたことで学生の皆さんに伝えたいことは、以下の点です。

挑戦と試行錯誤の重要性

⇒新しい技術やシステムの開発には、多くの挑戦と試行錯誤が伴います。失敗を恐れず、何度も試みることで、最終的に成功に繋がります。

チームワークの力

⇒幅広い年齢層や異なる専門分野の人々と協力することで、多角的な視点から問題を解決し、より優れた成果を生み出すことができます。

実用化への道のり

⇒アイデアを実際の製品やシステムにするためには、綿密な計画と継続的な改善が必要です。2014年から始まった開発が2016年に実用化されたように、粘り強さが重要です。

技術の進化と適応

⇒技術は常に進化しています。新しい技術を取り入れ、既存のシステムを改善することで、より効率的で便利なソリューションを提供できます。
これらの経験を通じて、学生の皆さんには、技術開発の魅力とその過程で得られる貴重な学びを感じていただきたいと思います。


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