vol.33 埼玉大学
2015年4月27日掲載
今回は埼玉大学の山納研究室におじゃましてお話を伺いました。非常に充実した設備をお持ちの研究室で、研究時間も自由という伸び伸びとした雰囲気が特徴です。山納康准教授のご指導のもと、自由な研究環境の中、社会貢献度の高いテーマに挑まれています。メンバーのチームワークの良さも印象的でした。
※2015年3月現在。文章中の敬称は略させていただきました。
社会を支える仕事に就きたいという思いで
皆さんがなぜ電気工学を志望されたのか、その動機から教えください。草野さん、いかがでしょう。
草野:私は昔から理科が好きで、中学生の頃、停電をきっかけに発電、送電、停電について調べたことで電気に興味を持つようになりました。10分程度の停電でしたが、夜だったのでとても不安だったことを覚えています。それまで当たり前のように使っていた電気について、使えなくなって初めてその重要性に気づかされて調べてみたいなという思いが浮かんできました。
中学生時代の体験がルーツだったわけですね。その延長で山納研究室を選ばれたわけですか。
草野:ええ。電気の中でも高電圧、大電流は派手なイメージがあったので、その研究に取り組みたいと考えて選びました。
草野さんが中学時代の体験がきっかけだったのに対して、細野さんは高校時代にきっかけがあったとか。
細野:はい。高校物理の中で、問題が解けて一番嬉しかったのが電気でした。そして、自分の得意な分野の知識を活かして社会に貢献したいと考えて、電気工学の道に進む決意をしました。電気というのは私たちの生活を支える重要な存在ですから、この分野で活躍できたらと思ったんです。
山納先生の研究室を選ばれたのはどうしてですか。
細野:学部の時に放電の実験をやって面白いと思ったからです。あとは山納先生が優しそうだったので、ここなら自分もやっていけるかなと(笑)。
では、続けて佐藤さん、電気工学を志望された理由を教えてください。
佐藤:細野さんと同じで、私も物理と数学が得意だったということが理由の一つです。あとは、電力会社に勤めている親戚から「電力会社に入りなよ」とずっと言われ続けていたので、自分も将来は電力会社で働きたいと思うようになったことも動機としてありました。
電力会社でどんなことをしたいと思ったのでしょう。
佐藤:漠然と入りたいと思っただけですから、特に具体的なイメージはなかったですね。電気はどんな業界でも必要とされるから、産業を支える重要な仕事に就きたい、といった感じでした。
山納研究室を選ばれた理由は。
佐藤:学部時代に電気工学を学んで、絶縁破壊現象(※1)というのが、電気が目に見えるということで興味を持ちまして、この研究室を選びました。
(※1)絶縁体に加わる電圧を増してゆくと、ある限度以上で突然、絶縁性を失って大電流が流れる現象のこと。
電気のブレーカー・真空遮断器の性能向上のために
現在の研究内容について教えてください。最初に細野さん、いかがでしょう。
細野:私は真空の電気絶縁に関する研究を行っています。真空遮断器などの真空を用いた機器の性能・信頼性向上において問題となるのが、真空中放電です。真空では放電しないはずなのに、真空にわずかながら何かの物質があると放電すると考えられます。その原因の一つが、陰極から放出された電子が陽極に照射されることで放出される気体の脱離です。そこで私は、電子照射により電極から放出する気体の成分・量と真空中放電の関係を調べています。
真空遮断器というのはブレーカーのようなもので、重要な電力機器ですね。真空だと放電しないはずなのになぜか放電してしまうので、その原因について調べていると。
細野:ええ、電子銃を用いた電子照射を行うと電極から気体が放出されるのですが、それを「四重極質量分析計」という機器で測定しています。
研究室にはすごい実験器具が並んでいますね。メンテナンスも大変そうですが。
細野:真空装置ですので、空気の漏れがあっては正しく機能しませんから、真空を維持するためのメンテナンスを行っています。真空容器を一度大気にさらしてメンテナンスし、その後、ベーキングといって加熱をします。けっこう大変な作業ですよ。
やはり最初はそういったメンテナンスや装置の扱いから覚えていくものですか。
細野:そうですね。研究室に配属されたばかりの学部4年生の時は、何もわからずに先輩に言われるままにメンテナンス作業を行いました。その先輩が丁寧に指導してくれたおかげで、メンテナンスを通じて実験装置の構造や原理を詳しく知ることができたんです。試行錯誤の連続でしたが、ようやく実験装置が正しく機能したときは嬉しかったです。
機械的な視点も入れて、電気自動車用ヒューズの研究
続いて草野さんですが、電気自動車用ヒューズの研究を行っているそうですね。これは過熱や発火などを防止するものですか。
草野:簡単に言えばそうです。車載用電池の高エネルギー密度化や大容量化が進んだことで、駆動回路を保護するヒューズもそれに対応していかなくてはならないわけです。ただ、駆動回路には直流区間があって、一般的に直流の保護は困難です。そこで私は、半導体保護用として用いられているサブストレートヒューズを電気自動車用に適用できないかと考えて研究を行っています。
サブストレートヒューズとは何ですか?
草野:セラミックスの基板上に導電路を結成したヒューズです。ヒューズというのは遮断部を細かくすればするほど短時間に電流を遮断できることが、私たちの研究でわかっています。ただ、従来のヒューズは銅や銀の板をプレス加工して作られていて、遮断部を細かくすると支えがないのですぐに壊れてしまうんです。それに対してサブストレートヒューズは基板の支えがあるために強いものができるというわけです。細かいものだと遮断部の幅が0.08ミリというものも作りました。
研究で印象的だったエピソードがありましたら教えてください。
草野:研究は、ヒューズ専門メーカーと共同研究という形で進めています。普段私は電気工学を専門に扱う集団の中にいるため、どうしても電気的な視点にとらわれてしまいがちですが、企業との共同研究を通じて違う分野の専門家の方から指摘を受けることができ、とても有意義に感じています。
どういう分野の専門家の方ですか。
草野:機械系の方です。我々はどうしても電気の流れを中心に考えがちですが、機械系の方はヒューズ自体の構造や強度についても考えるわけです。そうした指摘は大変勉強になりました。これは学外での発表でも同じで、自動車関連の企業の方から鋭い突っ込みがあったことなどはすごく印象に残っています。専門外の視点を持つことの大切さを学びました。
真空内で絶縁破壊を行える実験装置を扱う
佐藤さん、研究内容について教えてください。
佐藤:電力系統で使用されている真空遮断器の適応電圧拡大に向けて、電極ギャップでの絶縁破壊現象を抑制するために、電極ギャップの絶縁破壊耐力向上を目的とした研究を行っています。そのために研究室のin-situ実験装置を使って絶縁破壊を繰り返しています。
in-situ実験装置というのは?
佐藤:試料電極の表面分析、表面処理、絶縁破壊試験などを行う際、試料を大気にさらさずに同一の真空系内で測定できる装置です。
なるほど。その装置を使って、電極ギャップの絶縁破壊ができないよう、どこまで耐えられるかを測定しているわけですね。印象的なエピソードはありますか。
佐藤:共同研究の企業に研究報告をする際、英語で発表したことが印象に残っています。私は英語がとても苦手ですので、準備も含めて、本当に苦労しました。
海外の企業との共同研究だったんですか。
佐藤:ええ。真空遮断器の電極絶縁材料に用いられている特殊金属材料の絶縁耐力の性能について、海外メーカーと共同で研究しています。そちらの社長と副社長に向けて発表しました。まだ研究室に入ったばかりで、英語の論文を読んだことすらあまりなかったですから、とても大変でした。
自由な研究環境の中、最先端の実験設備に奮闘
山納研究室の特徴について教えてください。佐藤さん、いかがですか。
佐藤:先ほどお話ししたin-situ実験装置のような超高真空設備を有しているのは、すごいと思います。装置内は10-7~10-8Paと超高真空状態となっており、大気にさらすことなく帯電分布測定や加熱処理、XPS(X線光電子分光分析法)表面分析、絶縁破壊試験などを行うことができます。
草野:高電圧発生装置での絶縁耐力試験に加えて、直流・交流の大電流発生装置での大電流遮断試験も実施できるという点も特徴ですね。
他の研究室ではなかなかできないことなんですか。
佐藤:超高真空中での高電圧実験やXPS表面分析のできる研究室は、おそらくあまりないと思います。
装置がすごいとメンテナンスも大変そうですね。
佐藤:先ほど細野さんがベーキングについて話していましたが、容器を熱するのに24時間もかかるので、その温度を測ったり異常がないかを見ていなくてはならなかったりするのが大変です。
細野:夜中は誰が担当するんだということで、ジャンケンで決めたり(笑)。
研究の時間は決まっているんですか。
細野:いいえ、コアタイムがないのもこの研究室の特徴です。メンバー全員、好きな時間に来て好きな時間に帰ることができますから、自分のペースで研究に取り組めます。同じ実験装置を使うときは、お互いに調整する感じですね。
ということは、皆さん、かなりコミュニケーションがちゃんと取れているということですね。
佐藤:週に1回ずつ輪講と進展報告会があり、自分以外の研究の進展状況が把握できます。その際の質問やアドバイスなどを通じて、研究の方針が決定されます。
草野:研究についての議論ではつい白熱することもありますが、普段は和やかな雰囲気ですね。後輩が先輩に話しにくいと感じることもあまりないと思います。研究室全体での飲み会が定期的に行われているほか、研究室主催の学科対抗ソフトボール大会もあります。
ソフトボール大会というと?
草野:以前は伝統的に行われていたそうですが、ここ数年、開催されませんでした。それが山納先生の一声で復活したんです。いくつかの研究室が予定を調整して参加してくれました。もちろん先生も参加してくれて、なかなかの腕前を披露してくれました。
結果はいかがでしたか。
草野:残念ながら決勝戦で負けてしまいました(笑)。
オンとオフのメリハリがしっかりの山納研究室
皆さんの研究生活はどんな感じでしょうか。草野さん、いかがでしょう。
草野:私の場合は午前9時前後に研究室に入って、メールやニュースをチェックして、午前から午後に研究を行う感じですね。その日の進行具合によって帰宅時間は決まっていません。
中村:私は8時半には研究室に入ります。
早いですね!
細野:家が近くて通学時間が5分くらいなんですよ(笑)。
佐藤:私は実験をする場合は1日通して行って、実験がない場合は輪講や進展報告の準備などを行うという感じです。先ほども出たように自由に来て自由に帰っていい研究室なので、実験内容によっては14、5時間もかかってしまって、帰るのが夜中ということもありますね。
徹夜はしないですか。
佐藤:しません。
細野:泊まったことはないですよ。
草野:私も必ず家には帰りますね。オンとオフの区切りは、みんな、はっきりしているんじゃないでしょうか。発表前などは忙しいですが、基本的に土日も休むようにしています。
アルバイトはいかがですか。
細野:私は大学のティーチングアシスタントに従事していました。学内での仕事でしたから、時間的な負担は少なくて、研究時間が取られるということはなかったですね。
草野:私も学内でのティーチングアシスタントや臨時のアルバイトが主でした。
佐藤:私はアルバイトもサークルも行っていませんが、まわりはやっている人が多いですね。
電気工学は想像以上に就職に強い
電気工学を学んでよかったと思うのはどういうことですか。細野さん、どうでしょう。
細野:やはり就職に強いことだと思います。電気、機械、情報通信など実に幅広い分野に活躍の場があるということに、就職活動を始めてから改めて気がつきました。
草野:私も同じで、想像以上に就職に強いと実感しました。様々な企業が電気工学の専門家を必要としていて、社会にとって重要な立場にいると感じています。
佐藤さんは、就職はまだですね。
佐藤:ええ。まだ2人のように企業から強く求められているという実感はないですね。ですが、電気回路だけでなく情報系や機械系など実に幅広い分野の知識を学ぶので、その分、社会の様々な場面で活躍できるのかなという感じはしています。
草野:私は趣味でエレキギターやベースを演奏するんですが、改造するときに理論を頭の中で理解しながらいじれたので、そういう点も個人的にはすごくよかったですよ。
最後に、皆さんの将来の夢について教えてください。
細野:私は鉄道会社に就職が決まっています。強電部門の業務に携わって、これまで学んだことを活かしたいですね。
草野:私は電気機器メーカーへの入社が決定しており、社会を支える製品づくりに精一杯取り組みたいと思っています。今まで電流遮断を研究してきましたが、人目につかないけれども絶対に必要なものに携わって社会を支えていけたらと感じています。
佐藤さんはいかがですか。
佐藤:私は東北の出身なので、電力会社に就職し、電気を通じて地元を盛り上げる仕事がしたいと考えています。
なるほど、初志貫徹というわけですね。皆さんのこれからのご活躍が楽しみです。本日はありがとうございました。
バックナンバー
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