太陽光発電・風力発電を、普及させたい。

2012年2月29日掲載

北海道大学・北研究室は、「システム統合学研究室」の異名を持ち、電力系統の解析・計画・運用・制御の広い分野にわたり研究を行っています。また、産学合同研究や他大学、学会などの外部交流も盛んで、産業界・学術界共に注目を集める研究室です。

※2011年11月現在。文中の敬称は略させて頂きました。

高専から「大学」へ、「大学院」へ編入しました

電気工学へ進まれた理由を教えてください。

赤塚:私は苫小牧高専の電気電子工学科出身です。高専へ進んだ理由は、ものづくりをやりたかったことが大きかったですね。また先生から「電気は就職に強いのでは」とアドバイスも頂きました。

高専の5年を終了して、大学3年生の時に北海道大学に編入したのですか。

赤塚:はい。北研究室は3年生の後期から配属となりました。北研究室へ進んだのは、北先生の講義が分かりやすくて、この先生のところで研究したいと思ったからです。

似鳥さんはいかがですか。

似鳥:私も高専出身で、函館高専でした。まず高専を選んだ理由としては、父親が知内の発電所で働いていて、同じように手に職をつけたいと思ったことです。その中で電気を選んだ理由は、やはり父親が発電所で働いていたことが大きかったですね。

北先生の研究室へ行かれた理由を教えてください。

似鳥:私は、赤塚さんのように大学へ編入したのではなく、高専の専攻科へ進んで(高専で通常5年間+専攻科2年間をすごして)から大学院でこの研究室へ入りました。修士課程へ進んだ理由は、私は研究開発の仕事をやりたかったのですが、高専卒だとそのような仕事に携われない現実があります。そこで研究開発の仕事をやりたいと思って、修士へ進みました。北研究室は、高専の先生から推薦されました。

吉村さんはいかがですか。

吉村:私は、高校から北海道大学へ進みました。工学部へ進んだのは、化学や物理、数学が得意だからという軽い気持ちでしたね(笑)。北海道大学で電気が学べる学科は、情報エレクトロニクス学科なのですが、どちらかというと私は、情報のほうに興味がありました(笑)。しかし、2年の後期に北先生の授業を受けまして、電力に興味を持ちました。

「稚内メガソーラー発電所」で太陽光発電の出力変動を研究する!

皆さんの研究内容を教えてください。

赤塚:私は「太陽光発電の出力変動評価」の研究です。太陽光発電は、日射量によって出力が変動します。そのため、太陽光発電が電力ネットワークへ大量に入ると、不安定になり、電力系統に悪影響があるといわれています。修士課程では、その出力変動に対してNAS電池を使って、どのように抑制するかということをやっていました。

具体的に、どのように研究を行っていましたか。

赤塚:稚内にある、「稚内メガソーラー発電所」で、実際に5メガワットの太陽光発電所を建設し、出力変動の実測調査と、NAS電池を用いた出力変動抑制技術を開発していました。

それは大規模ですね。企業の方との共同研究ですか。

赤塚:はい。NEDO(※)の委託事業で、北海道電力・稚内市・明電舎・日本気象協会・パナソニック環境エンジニアリングと、私たち北海道大学の共同研究でした。およそ月に1回、打ち合わせをして、稚内には半年に1回ぐらい行っていました。PCでのシミュレーションベースの研究です。

※NEDO:独立行政法人 新エネルギー・生産技術総合開発機構

博士課程からはどのような研究をされていましたか。

赤塚:先ほど太陽光発電の出力変動が電力系統の運用に影響を与えるかもしれないと言ったのですが、「本当に悪影響があるのかどうか」を評価する研究を行っています。

風力発電の出力変動をどうコントロールするのか

似鳥さんの研究を教えてください。

似鳥:私は、「STATCOM(※)とコンデンサの風力発電予測に基づく協調制御」の研究です。STATCOMおよびコンデンサは、電力機器の一種です。風力発電は天候によって出力が左右されます。しかし、STATCOMを大量に設置すれば、出力変動によって生じる電圧の変動が緩和されることが可能だと証明されています。

※STATCOMとは
自励式無効電力補償装置といい、交流式のアーク炉によるフリッカ(照明のちらつき)対策で使われ、負荷の無効電力変動分を補償する機器。

STATOCOMは、電圧変動を抑制できると。

似鳥:はい。ただ、このSTATCOMという機器は、高価でコストが高くなってしまいます。風力発電機自体でも従来の発電機と比べて高いのに、さらにコストが増してしまうのです。

なるほど。

似鳥:そのため、安価なコンデンサをうまく組み合わせることで、経済的に電圧変動を抑制することが私の研究目標です。

電圧を抑制する目標値はありますか。

似鳥:経済産業省がつくっているガイドラインがあります。そのガイドラインに沿う形で、電圧を抑制することを研究目標としています。通常の電圧を1とすると、0.98から1.02の中でおさめることが目標値です。

吉村さんの研究を教えてください。

吉村:私は、「STATCOM・コンデンサ・ピッチ角制御を併用した風力発電機の電圧変動抑制」です。基本的に、似鳥さんの研究に"ピッチ角の制御"を加えたものです。風力発電には、ピッチ角という、風車の羽根の角度を変える箇所があります。ピッチ角を変えることで、出力を減らして電圧の変動を下げることができるのです。

似鳥さんは電力機器のみで出力変動の抑制をしていますが、吉村さんは、風力発電機そのもので抑制するということですか。

吉村:はい。似鳥さんと共同でやっています。もし似鳥さんの研究で電圧変動が±0.02を超してしまったら、ピッチ角を制御して、出力を減らして電圧を±0.02におさめようという研究です。いわば似鳥さんの研究のバックアップですね。

稚内の失敗(?)、スウェーデン学会、研究は悲喜こもごも

研究していて印象に残ったことを教えてください。

赤塚:先ほどの稚内の太陽光発電の実験です。夏至付近だったので、朝3時から実験をしていました。でも実際に機器を動かしているときはやることがなくて、ほとんど見ているだけです。そのため、つい昼寝をしてしまったのです。ちょうどそのとき、企業の方が見学に来られて(笑)。一緒に実験をして頂いた方が「彼、朝3時からやって、疲れたみたいで」とフォローをしてくれて、難を逃れました(笑)。

平成23年度電力・エネルギー部門大会にて。
似鳥さんは真ん中にいる?

スウェーデンにて。真ん中が北教授。
左から2番目が原准教授。一番右が赤塚さん。

それは大変でしたね(笑)。似鳥さんはいかがですか。

似鳥:学会ですね。学会で様々な先生方と研究についてディスカッションができたことは、すごく楽しいことでした。今年、福井大学で開催された電気学会の電力・エネルギー部門学会へ行きました。

赤塚さんは博士課程なので、多く学会は行かれたと思いますが?

赤塚:そうですね。直近で行ったのは、スウェーデンです。2011年8月22日~26 日にスウェーデン・ストックホルムで開催されたPSCC(Power System Computation Conference)2011という学会です。

英語で発表されたのですか。

赤塚:はい。原稿を作って発表のリハーサルもやりましたが、やはり不安でいっぱいでした。(苦笑)。

学会の他にありますか。

似鳥:北研究室は、北見工業大学と合同で研究交流会を実施しています。学会の場合は時間が限られていますが、北見工大との合同ゼミは、時間を使って十分にディスカッションができました。同じような研究をしていて、自分たちが気付かなかった盲点のようなことを指摘頂いて刺激になりますね。

赤塚:年に一回電力システム研究会という四大合同ゼミをやっています。各大学持ち回りで温泉などへ行って、夜飲んで、次の日は朝から研究のディスカッションをやります。いい経験ではありますが、一番印象に残っているのは、飲みすぎて次の日の朝がつらいことです(笑)。

吉村さんはいかがですか。

吉村:毎週、私と似鳥さんは、北先生・原先生と打ち合わせを行っているのですが、その時のアドバイスが的確で、次の研究の流れが分かります。それが刺激的で楽しいですね。

ピカピカの研究室で、留学生も含め一体感も抜群です

北研究室はどんな特徴がありますか。

赤塚:きれいだと思います(笑)。建物自体が新しく、室内もカーペットで土足厳禁です。その上、一人当たりのスペースが広くて、パソコンは一人1台です。

似鳥:基本的に、学会のようなイベント参加への、希望を叶えてくれることが特徴だと思います。

吉村:他の研究室にないところというと、浄水器がついています。それでお茶をいれています(笑)。

似鳥:それから、留学生が多いですね。

留学生の方と一緒に研究をされて気が付いたことなどありますか。

赤塚:留学生の方たちは、まだ研究生で、今、日本語の練習中です。ですから、研究室で英語が出てくる機会が増えました。たとえ単語でも言わないと伝わらないので、コミュニケーション能力は向上した気がします。

吉村:英語を学ぼうという気になります。携帯音楽プレイヤーに「TOEICが800点取れるアプリ」を入れました(笑)。

素晴らしいですね(笑)。研究室の普段のコミュニケーションはどんな感じですかね?

赤塚:飲み会は、先生方も含めて月に1回ぐらいでしょうか。先生はかなりお酒が好きで(笑)、飲むと話が弾みますね。

似鳥:昼食や夜食も、研究室のメンバーとよく行きます。一体感はあると思います。

一日のスケジュールはどんな感じですか。

似鳥:朝は、9時ぐらいに学校へ行って、研究をして、8時ぐらいに帰って終わりです(笑)。研究の打ち合わせがある時間はコアタイムですが、それ以外の時間は各人に任されています。

赤塚:私は博士課程ですが、彼と同じ感じです。

吉村:大体午前中に授業です。午後は研究をして、5時ぐらいになったらロッククライミングのサークルへ行きます。アルバイトは、土日にやっています。

まだ半年ですが、電力は面白い(吉村)、
電気の話をすると歓迎されます(似鳥)、
この先も電気工学を盛り上げたい(赤塚)

電気工学を学んで良かったと思うことをお教えください。

吉村:まだ学んで半年ですが、電力に関してすごく身近になれました。ブレーカーやコンセントの仕組みなどが分かったのは面白いと思います。

赤塚:大学へ入る前は、電力分野は研究材料が少ないと思っていたのですが、実際、勉強してみると電力運用は難しく、色々とやることがあるので面白いと思います。

似鳥私は、重工業メーカーへ就職が決まりました。インターンシップを経て就職を決めたのですが、先輩の社員に聞いても、社会に出て電気に携わっている人は大変多いと感じました。ですから、電気の話をするとすごく歓迎されて、電気を専攻してよかったと思います。

似鳥さんから就職の話が出ましたが、皆さん、就職活動はいかがですか。

赤塚:就職に関してはすごく強いと思います。就職は、高専卒も修士卒も、幅広い就職先がありました。私は今、高専の教員を目指して活動中です。

吉村:東京のソフトウェアのコンサルタント会社へ就職が決まりました。電力とは接点が薄い業界ですが、別のことをしたいと思って就職先を決めました。合同企業説明会でご説明頂いた、社長の熱意が決め手でしたね。

最後に、皆さんの将来の夢や目標をお教えください。

吉村:起業したいです。社長へ言ったら、「10年以内に起業する」と宣言した方がいいと言われました。ですから、私の目標は32までに起業することです(笑)。

似鳥:私は、石油やガスなどを処理するプラントの電気設備の設計をする予定です。将来は、海外へ行きたいですね。プラント建設などで海外に行って貢献ができればいいと思っています。高専のときに希望した技術者には、一応なれました(笑)。

赤塚:今、高専の電気工学科の先生を目指しています。また、パワーアカデミーの研究助成の萌芽研究に応募して、採択していただきました(2011年度 パワーアカデミー研究助成「萌芽研究」)。せっかく学んだ電気工学をこれからも盛り上げていきたいですね。

赤塚さんは萌芽研究に関して、今後またお話を伺うかもしれません。ぜひよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

特別インタビュー「東日本大震災について」
現役の電気工学の研究者として、東日本大震災について感じたことを
語って頂きました。

赤塚:原子力発電所の事故が一番気になりました。また、計画停電についても電力分野の研究をしているので、大変気になりました。研究では火力発電所の信頼性を考えて、停電が起きる確率なども計算しています。しかし現実に、電気が足りなくなって停電が起きたことは、研究者としては思いもよりませんでした。

似鳥:ニュース番組で、あるおばあさんが「原発のことはよく分からないけど、安全に使ってほしい」といった趣旨でインタビューに応えていました。これを見て、技術者が信頼されてこその原子力発電だと思いました。ですから技術者は、安全については最大限、頑張らなければいけないと感じました。

吉村:津波後の太平洋側の町並みは、電柱も全くなかったですね。瓦礫状態でしたので、電柱ではない方法で、電力を送る方がいいのかなと感じました。

北 裕幸

国公立/北海道
北海道大学大学院 情報科学研究科 システム情報科学専攻 システム統合学研究室

北 裕幸 教授(きた ひろゆき)
当研究室は、1925年に北海道帝国大学に設置された「電力及び電力応用学講座」にその起源を置いています。以来、小串孝治教授、小池東一郎教授、長谷川淳教授が研究室を担任され、現在、北がこの伝統ある研究室を担当しています。幾度かの組織改編を経て、2004年度からは「システム統合学」という研究室名となっていますが、研究室の伝統はしっかりと受け継がれており、電力工学・電力系統工学の教育・研究を担っております。2010年度は、スタッフ5名、博士課程学生4名、修士課程学生8名、学部生4名の総勢21名が活動しています。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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