先進のモーター研究を通じて、 将来の夢を叶えたい。

2017年9月29日掲載

今回おじゃましたのは、モーターの研究を専門とする長崎大学の樋口・横井研究室です。モーターは人々の暮らしの中のあらゆる場面で利用され、私たちの社会生活を支えています。樋口・横井研究室は、メンバー同士のコミュニケーションが非常に密で、研究以外にもスポーツなどでいつも盛り上がっているそうです。

※2017年7月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

苦手だった理系を克服するために、あえて電気工学の道へ

皆さんが電気工学を志望された理由についてお聞かせください。

秋吉:子どもの頃から図工の時間で何かをつくるということが好きで、高校生の頃に工学部に行こうかなと思うようになりました。電気を専攻しようと思ったきっかけは、父が電気工学出身であったことが影響していると思います。

大学院に進まれたのはどうしてでしょうか。

秋吉:一番の理由は、やはり就職に有利だからです。樋口・横井研究室を選んだ理由は、モーターという身近な存在に惹かれたからです。先生から、「モーターは生活の中でよく使われていて、朝起きるための目覚まし時計、歯を磨くための電動歯ブラシ、バスに乗るための自動ドアのように、朝の通勤までだけでもたくさん使われているんだよ」という話をしていただき、そんなふうに常に人の役に立っているモノを自分もつくりたいと思い、この研究室を選びました。

山田さんはいかがですか。

山田:私も幼い頃から、ブロックやプラモデルなどモノづくりが好きでした。電気工学に進んだのは、高校3年生の時に予備校の先生に「就職に強いから」と勧められたのがきっかけです。この先生は電気・情報系の学科に通う学生アルバイトで、電気についてとても楽しそうに話してくれました。それを聞いて“今まで手を使ったモノづくりを考えていたけれど、電気という目に見えないものに携わるのも楽しいかな”と思いました。

それまでモノづくりイコール“手”という発想で、電気は考えてなかったと。

山田:そうですね。

樋口・横井研究室を選んだ理由を聞かせてください。

山田:これは部活の先輩に誘われたのが大きいですね。私が大学1年の時に修士2年の先輩が、「モーターは楽しいよ。就職にも強いし」というようなことを教えてくれたのです。実際、その先輩は大手電機メーカーに就職しましたし、それを見て自分も“なるほど、モーターをやると大企業に行けるんだ”と思いました(笑)。

石井さんはいかがでしょう。

石井:子どもの頃、自分の身の回りには扇風機やエアコンなど電気製品があふれているというのに、その原理をよく知らないということに気づいて、詳しく知りたいと思ったのが出発点でした。実は高校時代、数学や物理が苦手科目だったのですが、苦手だからこそ克服すれば自分の力になるのではと思って、電気工学の道に進むことに決めました。

普通は得意な分野で大学受験すると思うのですが、あえて苦手な道を選んだわけですね。素晴らしいですね。

石井:ありがとうございます。加えて、父が自動車関連の会社に勤めていたというのも、動機の一つです。私は出身が愛知県なので、子どもの頃から自動車関係の仕事は安定した良い仕事というイメージを持っており、将来は、モーターの研究を通じて自動車に関われたらという思いがありました。そして、父の出身地が九州でしたので、その縁もあり長崎大学を進学先に選んだわけです。

風力発電をもっと効率的に発電するために

皆さんの研究内容について教えていただけますか。

秋吉:私は、風力発電への応用を考えた発電機の設計開発をしています。具体的には、磁石を用いない巻線界磁型の発電機です。この発電機は高効率化のために求められている可変界磁制御(※1)が容易に行えます。また、ブラシやスリップリングを使用しないことでメンテナンスが必要ありません。磁石が用いられる発電機では、風車が回り始めることのできる風速は、磁石の磁力により大きくなってしまい発電できる風速範囲が狭くなります。提案している発電機であれば磁石の磁力がない為、風車が回り始めることのできる風速が小さくなり、発電可能な風速範囲が広がり、総発電量を増やすことができます。

磁石は使っていないのですか。

秋吉:ええ、磁石は使いません。界磁は固定子の巻線に流す電流により発生させます。簡単に言えば、変圧器の要領で固定子の巻線から回転子の巻線に電力を送電し、回転子に磁力を持たせるようなイメージですね。現在は試作機をつくってどれくらい発電できるかを検証しているところです。

磁石を使わないで発電機ができるのですね。研究で印象的なエピソードはありますか。

秋吉:苦労したのは企業と共同研究で新しくつくった発電機です。それ以前の試作機と制御方法はほとんど変わらないのですが、パラメーターをいろいろいじって試してみても、うまく発電させることができませんでした。設計が失敗だったのかと落ち込んだのですが、先生が「新しいものを動かすのは大変で最初はこういうものだよ」と声をかけてくださいました。ずっと先輩から受け継いだ発電機を使っていたので、動いて当たり前という感覚が私の中にあり、ものづくりの大変さを学びました。

苦労して製作した、風力発電の発電機の試作機。企業と合同で研究をしており、実験結果を随時報告しています。

(※1)界磁とは、電磁力あるいは誘導起電力を発生させるための一様磁界のこと。
(※2)励磁(れいじ)とは、電磁石のコイルに電流を通じて磁束を発生させること。

低コストで簡単に製造できる、最新型モーター研究

山田さん、研究内容をご紹介ください。

山田:可変漏れ磁束モーターという磁石モーターの研究を行っています。このモーターは一般的な磁石モーターよりも、高効率で広い可変速範囲を得ることが可能になります。私は、この可変漏れ磁束モーターの巻線方式を集中巻構成で実現するために、現在は解析ソフトを用いて検討を行っています。主な用途としては、電気自動車のように様々な動作点で運転する電気機器です。

集中巻構成のモーターというのは、電気自動車以外にはどんなものに使われていますか。

山田:家電が多いですね。集中巻構成のモーターは構造が簡単なことから低コストで製造できるため、家電にはよく採用されています。

この研究そのものは比較的新しいのでしょうか。

山田:可変漏れ磁束モーターは近年注目されているモーターの一つです。先ほど秋吉さんが可変界磁に触れられましたが、このモーターも可変界磁モーターの一つです。一般的な磁石モーターでは、界磁は磁石でつくられるため一定です。界磁を変えるためには,磁石の磁束を電流による磁束で打ち消すのですが、余分な電流を流すため効率が低下してしまいます。それに対して、このモーターは、特殊な構造によって磁石の磁束が自動(受動)的に調整されるため、磁石の磁束を打ち消すための電流が不要になり、高効率な運転を可能にしています。

印象的なエピソードはありますか。

山田:研究が行き詰まったときに横井先生とディスカッションしたのが印象に残っています。まったく予期しない問題が発生したとき、先生と話していたら、いろいろなアイデアをいただいて、その通りにやったら解決できたのです。本当に横井先生の発想力はすごいと感激しました。

学部の勉強と研究室の勉強の違いとは?

石井さんはまだ研究が始まっていないのですね。

石井:ええ、私は学部生ですので、現在はモーターに関する基礎的な勉強をしているところです。まだ準備中ですが、半波整流磁石併用モーターに関する研究をする予定です。

研究の準備となると、学部での勉強とは違うところも多いでしょうね。

石井:そうですね。何もかも学部の勉強とは違うという印象です。電気機器の研究一つでも深く、幅広い知識が求められますね。印象的な出来事としては、昔の研究を題材にみんなの前で発表したのですが、その準備段階で、一人で考えただけでは解決できないことも多く、学部生のメンバーや先輩と議論したことです。同期には留学生もいるので、先日も夜10時くらいまで一緒に数式の証明をしました。やはり一人で取り組むよりは、誰かと一緒に挑戦した方が、解決したときの楽しさは倍増します。

どちらの国の留学生の方ですか。

石井:エチオピアです。私は英語が全然できないので、身振り手振りでのコミュニケーションでした。

ユニークな「座長システム」を発表会に導入

皆さんの研究室の特徴について教えてください。

石井:ひと言で言えば、真面目な研究室ですね。私たち学部生はゼミや基礎研究、先輩方は研究や就活に打ち込んでいます。もちろんメンバー同士の仲は非常にいいので、一緒に過ごしていて楽しいですよ。

秋吉:週に一度はサッカーやソフトボールをしますし、親睦を深める機会は多いですね。

山田:飲み会もあるし、長い休みにはみんなで旅行に行くこともありますね。夏休みには他の研究室と合同で合宿を行っています。だいたい2泊3日で、バーベキューして、飲んで、という感じですね。キャンプみたいな感じで、夜遅くまでワイワイやっています。

密にコミュニケーションを取っているという印象ですね。

山田:研究については、樋口先生には定期的な研究室ゼミで発表を聞いていただき、アドバイスをいただいています。横井先生とは週に一度ディスカッションをして、研究のアドバイスをいただいています。

秋吉:週に2回、研究の進捗確認をするのですが、その場では横井先生の提案で「座長システム」というものを導入しています。

座長システム?

秋吉:発表する人とは別に、仕切り役が一人割り当てられて、座長として進行するというものです。発表が終わると「質問はありませんか」とみんなに振るのですが、学生が仕切るため研究室のみんなも発言しやすいわけです。

山田:私は一度座長をやりましたが、本当に大変でしたよ。常に場の空気を読んで、間が空いたら私が質問しなくてはならないですから気が抜けないし、質問のためには発表をしっかり理解していなくてはなりません。でもすごく勉強になりますね。

分からないことは先輩が教えてくれる、一体感が魅力の研究室です。

年に2回の電気電子工学コース研究室対抗ソフトボール大会では、2016年は優勝と準優勝をはたしました。

研究室生活は、スポーツで気分転換

ここで皆さんの平均的な一日について教えてください。

秋吉:私の場合は、朝9時に来て研究の報告会を行い、指摘いただいたポイントについての研究を午後に行うというパターンですね。

山田:私も同じ感じですが、大学院の講義もありますね。講義がないときは研究を行ったり、仲間とコミュニケーションを取ったりしています。

石井:私は、午前中は研究室で勉強して、午後も5時頃まで研究室で勉強しています。4年生ですので、授業そのものはだいぶ少なくなりました。

研究以外ではどんなことに打ち込んでいますか。

秋吉:体を動かすことが好きなので、休日は外でスポーツをしています。夏は登山、秋はマラソン、冬はスノーボードですね。

山田:私も冬は友達とスノーボードに行きます。あとは週に3回、部活で空手をしています。院生のため大学生の大会には出られないので、一般の大会への出場を目指して練習しています。

研究室生活といっても、普通の大学生と同じですね。

石井:ええ。みんなスポーツで気分転換という感じです。

研究室の集合写真。上段一番左が横井 裕一助教。左から四番目が樋口 剛教授。

電気工学に出会って、将来進むべき道が見つかった

電気工学を学んでよかったと思うのはどういう点でしたか。

山田:日常生活の中で何気なく使っている家電について、その中身を知ることができたのはよかったと思います。一番驚いたのが冷蔵庫でした。冷蔵庫の中のコンプレッサーというものにはモーターが使われていて、コンプレッサーで空気を圧縮して冷やしているということがわかって、とてもびっくりしました。

石井:私の場合は、電気工学だからというわけではないかもしれませんが、この研究室で切磋琢磨できる仲間に巡り会えたのが一番よかったと思っています。

秋吉:電気工学を専攻したことで、自分の進路が見つかったというのがよかったです。大学に入った目標の一つが、自分が将来取り組みたいテーマを見つけるということでした。そのテーマとして、モーターというものに出会うことができ、学んだことを活かせる道に就職が決まりました。これは本当によかったなと思います。

なるほど。どういうお仕事に就職が決まったのでしょうか。

秋吉:ロボット関連です。産業用や福祉用にロボットを活用していく中で、モーターに関する研究が役立てるかと思うと、とても嬉しいです。学生時代の研究がそのまま社会貢献につながるというのは、大きなやりがいです。

就活の際、電気工学出身ということで有利に感じたことはありましたか。

秋吉:他の人の話を聞くと電機業界や通信業界に就職するケースが多いようですが、それに限らずに、電気と機械はあらゆる分野で求められていると感じました。

石井:電気電子工学コースではほとんどの先輩が就活に成功していますし、有名企業に行かれた方も多いですね。私の友人にも学部卒で就職する仲間がいるのですが、彼は自動車関連の有名企業に決まりました。やはり電気は就活に強いと思います。

では、皆さんの将来の夢について聞かせてください。

石井:まずは研究でいい成果を出すことですね。将来は、自動車関連の企業に就職できたらと考えています。

山田:私もモーターの研究を活かせるような就職をしたいですね。特に自動車関連には興味があります。

秋吉:私はロボット関連の仕事に就くことが決まっているので、自分のこれまでのモーターの知識をこの分野で存分に発揮できたらと考えています。

皆さんの将来の夢が実現するよう祈念しています。今日はありがとうございました。

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