これからの日本の電気を私たちが支えたい!

2009年12月25日掲載

松村研究室は、大電流・エネルギーをキーワードとして、電力機器・電力システム分野の研究を行っている研究室です。大容量・高密度・高信頼度で発生・電送する電気エネルギーの新技術を日夜追求しています。

※2009年10月現在。インタビュー中の敬称は略させていただきました。

「大電流を切る」実験に衝撃を受ける

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まずは、電気工学系の学科を専攻された理由を教えて下さい。

川原:大学受験の時期、ちょうど半導体がブームでした。そこで、就職に有利じゃないかぁと思って、工学部を志望しました。具体的に電気へ行こうと思ったのは、大学院の時ですね。研究室を選ぶ際に、もっと電気の知識を身につけて、社会へ出たいと考えました。

近藤さんはいかがですか。

近藤:私は、文系の教科がまずだめでしたので(苦笑)、理系で、理学部か工学部か迷ったのですが、自分に合うのは工学部だと思って進みました。理学部は、数学をひたすら解いていくイメージがあったので。私の場合は、それより実験などの方が合うかなと思い、工学部に決めました。

なるほど。工学部の中で電気という分野は特別意識されましたか。

近藤:入った時点では、そんなに意識はありませんでした。大学院へ進む際に研究室見学があるのですが、その時に実験のデモンストレーションを見て楽しそうだなと思ったのが、電気を意識したきっかけです。

実験のデモンストレーションとは、具体的にどんなことですか。

近藤:遮断器と呼ばれる、「大電流を切る」実験のデモです。送配電線に故障(落雷や樹木接触など)が発生した場合、故障が発生した地点へ大電流(故障電流)が流れ込みます。そうすると、大きな被害が発生してしまうわけです。そこで故障電流を遮断するために使用されている電力機器が、遮断器です。

実際に電流を切るわけですね。

近藤:そうです。実際には、電流を切る前にアーク放電(※)が発生するのですが、その光が強烈なインパクトがありまして、やってみようかなと思いました。

アーク放電の実験

凄いですね。川原さんもご覧になったのですか。

川原:ええ。ただ、私は正直、ピンと来ませんでした(笑)。でも、先輩たちが優しく教えてくれたという印象はありました。研究室は、どちらかというと雰囲気で選びました(笑)。

※アーク放電とは気体中の放電現象の一種。最も激しい最終段階の状態と言われる。

環境を守り、安全な電力機器をつくる

まずは、川原さんの研究内容を教えて下さい。

川原:私は、東京大学の馬場先生の研究室と共同で「超電導限流器」の研究をしています。限流器とは、電力系統において故障が発生したときの故障電流を抑制する装置で、そこに超電導を応用する研究です。

超電導を応用することで、限流器にはどのようなメリットがあるのですか。

川原:超電導のよく知られた性質で「電気抵抗がゼロである」ということはご存知ですよね。実は、それ以外にも「大電流が流れたときには、逆に抵抗が発生する」という性質があるのです。つまり、超電導は、普通に電流を流している時は、電気抵抗がゼロなので、電力ロスが少なく効率的に電気を流せます。ところが、例えば落雷とかで一次的に電流が大きくなったときは、逆に電気抵抗が発生して防いでくれるわけです。つまり、超電導の性質は、限流器にピッタリというわけです。

なるほど。具体的に、川原さんは超電導限流器に関する研究でどのようなことをやられ ているのですか。

川原:Y系(イットリウム系)という素子を使用して研究しています。この素子は、厚さ0.2μmの薄膜です。0.2μmは、1㎜の1万分の1です(笑)。

1㎜の1万分の1!想像もつかない薄さですね(笑)。

川原:この素子が超電導限流器に最適と言われているのですが、まだ基礎特性が十分に理解されていないのです。その解明を行うのが私の研究です。素子に電流を流したり、PCでシミュレーションを行っています。

基礎特性というのは、何がわからないのですか。

川原:いわゆる形状ですね。超電導限流器は、素子が1つだけではどうにもならないのです。そこで、直列や並列など最適な組み合わせは何かということを研究しています。

では、近藤さんの研究を教えてください。

近藤:私は、先ほど話にもあった、遮断器に関する研究をしています。電流を遮断するためには導体を切り離す必要があるのですが、切り離した導体間にアークが発生し、電流が流れ続けます。そこで、遮断器は、アークにガスを吹き付けて消し、電流を素早く切るのです。そのガスがSF6(六フッ化硫黄)というガスです。

SF6ですか。

近藤:はい。このSF6、電流を遮断する性能はいいのですが、地球温暖化に大変悪い影響をもたらすのです。SF6の温暖化係数はCO2の約2万4000倍あります。

そうですか。それは、万が一大気に漏れたら困りますね。

近藤:そうですね。ですから、これに代わるガスを探そうというのが、まず私の研究のコンセプトです。具体的な研究としては、理論構築ですね。これまでの研究の成果でCO2がSF6に代わるガスに一番近いという成果が出ているのですが、それをもっと発展させて、CO2に他のガスを混ぜるとどうなるか、などの実験を様々な方がやっています。私はそれを理論的に裏付ける研究をしています。PCでシミュレーションを行って、このガスの能力はこうだよ、ということを計算しています。

オリジナルの太陽光・風力発電、大電流電源、国際学会、共同研究、ソフトボール、山登り・・・研究室は面白い!

太陽光&風力発電

松村研究室の研究設備でアピールしたいものはありますか。

川原:私たちは使っていませんが、太陽光発電と風力発電を電力会社さんの系統と別系統に設置しています。要するに研究室内に発電所と送電線があるようなものです。

すごいですね。他に何がありますか。

近藤:数千アンペア以上の大電流を流せる、電源ですね。コンデンサをたくさんつなげて電荷を貯めて、一気に放電する電源です。この研究室を有するのは、世界でも数カ所しかありません。設備的には松村研究室は充実していると思います。

コンデンサ型大電流発生装置

では、教授や研究室の皆さんと、どのようなコミュニケーションをとっていますか。

近藤:旅行へ行ったり、飲み会や鍋パーティーを開いたり。率直な感想は、楽しいです(笑)。

川原:そうですね。唐突に買い物に行こうとか、ソフトボールやろうよ、みたいな会話が飛び交っています。特にソフトボールは、名古屋大学の電気系研究室毎で大会を開いているほどです(笑)。

最近、何か思い出に残っている出来事はありますか。

川原:山登りですね。

近藤:そうですね。毎年、6月初旬にどこかの山へ行く企画があるのです。「施設の見学をして勉強しつつ、山を楽しもうよ」というコンセプトです。それで今年は和歌山県の高野山へ行ってきました。お寺に寝泊まりして、座禅を組んだりして、なかなか新鮮な体験でしたよ(笑)。

学会での活動はどうですか。

近藤:大学院に入ってからは、年に2回は発表するルールになっています。年によっては国際学会にも出させてもらったりしています。

国際学会へ行かれたのですか。

近藤:ええ。ドイツへ行きました。そういう素敵な経験もできる研究室です(笑)。

それは素晴らしいですね。産学提携はありますか。

川原:あります。私の場合ですと、実験で使う素子を提供してくださっているのが、ある独立行政法人です。日本最大級のエネルギー研究機関と言われる会社なのですが、合同で実験をしています。それから、先ほども話をしました、東京大学の馬場先生ですね。

交流は頻繁にあるのですか。

川原:そうですね。去年、実験のためにわざわざ来られたこともありました。つい先日は、全国の電気学会で議論したこともあります。

大学の先生や会人の方々と議論を交わすというのは貴重な体験ですね。アルバイトなど、余暇の過ごし方はいかがですか。

近藤:私はコンビ二でアルバイトをやっています。日曜の夜から朝にかけて、時給が少し上がる変則的なシフト時間で頑張っています(笑)。

川原さんはいかがですか。

川原:私は授業の手伝いで、TA(ティーチングアシスタント)をやっています。基本的に、うちの研究室は、資料づくりで夜遅くまで残ることはありますが、徹夜はしないことにしています。安全面も考慮して、夜中に実験は絶対に行いません。だから、オン・オフはしっかりとれると思います。

電気で一冊の本を書きたい(川原)、電気は格好いい存在(近藤)

電気工学を学んで良かったなと思うことを教えてください。

川原:私は超電導をやっていますが、近藤さんはアークをやっています。他の人たちは電力系統などをやっていて、色々な情報が分かりますよね。それら電気の様々なことを知ると世の中の仕組みが分かってきます。それは凄く感動します。

近藤さん、お願いします。

近藤:やっぱり研究室に入って、電気というのを多少なりとも気にするようになりまして、普段、道とか歩いていて電線は、ああなっているのかなとか。あそこに回線があるなとか、そういう楽しみができました。ちょっとマニアックですが(笑)。

では、将来の夢や目標を教えてください。

川原:私は、電力系の会社へ就職が決まっています。研究所で送電線の研究をする予定です。ここまできたら、せっかくなので電気のことを全部知りたいな、というのが夢です。1冊の本が書けるぐらい詳しくなりたいですね。

近藤:私の考えですが、電気って世の中においてメインの存在ではないと思うのです。実際に電気で動くものがメインで、電気はそれを陰で支えている存在だと思っています。でも、それが逆に、格好いいところだと考えています。私も実は、電力機器などを製造する会社に就職が決まっています。将来は「日本の電気は自分が支えている」と胸を張れたら、凄く格好いい人間になれるのではないかなぁと思っています。

おふたりとも来年から社会人として、これまで学んだ電気工学を活かして活躍して頂くことを祈念しています。本日はありがとうございました。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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  • 電力系統
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