再エネがあふれる、災害に強い電力システムをつくりたい。

2025年2月28日掲載

2023年11月に誕生した大澤研究室は、パソコンによるシミュレーション研究で電力システムの最適化に取り組んでいます。一方で、3Dプリンターなどモノづくりの設備も備えているユニークな研究室です。学生の皆さんは、研究はもちろん、課外活動や趣味、アルバイトなどにも打ち込んで充実の高専生活を送っていました。

※2024年12月現在。文章中の敬称は省略させていただきました。

電力システムという大きな研究にチャレンジ

まずは皆さん、中学卒業時に高専を志望された理由を教えてください。

岡本:中学校時代、数学や理科といった理系科目が得意で、学ぶことが楽しかったです。一方で文系科目は少し苦手で、自分の得意分野を活かせる進路を選びたいと考えていました。そこで、高専は理系に特化した学びを深められる場であると考え、進学を決めました。

:元々モノづくりが好きで、小学校の自由研究で電子工作にはまり、はんだ付けでFMラジオをつくったりしていました。その時は飛行機や車を作る技術者になりたかったです。中1の時に親から高専の存在を教えてもらい、担任の先生からも高専の女子カフェなどを勧めてもらって進学を決めました。

佐々木:進路に迷っていた中3の時に、担任の先生から勧められたのがきっかけです。理系科目が得意でモノづくりに興味があったことに加え、就職を見据えて、5年間で専門学校卒業に近い扱いになるのも魅力でした。普通高校とは異なる私服やスマートフォンを休み時間などに使えるといった自由さにも惹かれました。

高専の中でも電気系の学科(コース)を選んだ理由をお教えください。

岡本:苫小牧工業高等専門学校では、2年生から系配属が始まります。私の場合は、高専1年のGW頃に入手した電磁気学の専門書がきっかけです。そこで、中学で学んだ電気の現象が数学的に記述され、全てがつながっていることに気づいて、一気に電気への興味が深まりました。また、電磁気学だけでなく、電力システム、発電、モーター、パワーエレクロニクス、放電・プラズマなどをひとくくりに学べることも魅力に感じました。

:昔から電子工作に興味があったからです。はんだ付けが好きだったので、電気工学の方面に行けばたくさん工作ができると思い志望しました。ただ実際に進んだら、はんだ付けの機会は少なかったです(笑)。

佐々木:機械の分解などモノづくりに小さいころから興味があり、機械系と迷いました。ただ、オームの法則など中学時代で学んだ電気の分野が楽しかったことを思い出し、電気電子系を選択しました。

苫小牧工業高等専門学校は本科4年後期に研究室へ配属になるそうですね。大澤研に進んだ理由も教えてください

岡本:当時の電力研究室は、赤塚元軌准教授の赤塚研究室でした。私は、電力システムという大規模で難しい分野を研究したいと、チャレンジ精神で進みました。(事務局補足:大澤研究室は赤塚研究室と共同で研究を行っており、赤塚准教授は取材時点で長期海外出張中となっています。)

:再生可能エネルギーに興味があったことと、赤塚先生の下で研究したいと思い、進みました。

佐々木:私は電力会社を就職先に考えていて、電力系の研究室である大澤研に進学しました。それから岡本さんとは反対でネガティブな理由ですが、弱電系が苦手だったこともあります(笑)。

太陽光発電の「同時同量制御」における周波数変動の制御研究

岡本さんの研究内容を教えてください。

岡本:蓄電池付き太陽光発電の周波数制御に関する研究を行っています。太陽光発電の同時同量制御が周波数変動に与える影響を調査し、その周波数変動を抑制する制御手法を提案しています。

同時同量制御とは何ですか。また、なぜ周波数変動に影響を与えるのですか。

岡本:今、電力系統の制度として、30分間の計画値と実際の発電量をあわせる「30分の同時同量制御」というものがあります。これは、需給バランスを整えて周波数を維持する役割がある制度です。ところが、同時同量の制御をする際に、時間帯によっては逆に周波数が乱れることがあるのです。電力品質を維持するには、周波数維持が必要なので、それを改善してもっと周波数制御に貢献できる制御手法がないかPCでシミュレーションを行っています。

なるほど。どのようなモデルを使用してシミュレーション研究をされているのですか。

岡本:電気学会が発表している電力需給解析標準モデル「AGC30モデル」を使用しています。これを使用して、発電機30機に太陽光発電を追加したモデルでシミュレーションしています。

研究をしていて印象的だったことは何ですか。

岡本:本研究は、マトラボ(MATLAB)という数値解析ソフトウェアを使用しています。マトラボを使用して自分で考えた手法をもとにプログラムを作成します。この過程はとても大変で一歩狂うと全部だめになりますが、その分、正しい結果が得られたときの喜びは格別です。

太陽光発電の余剰電力を有効活用して電力コストを下げる

堀さんの研究内容を教えてください。

:現在、太陽光発電の導入が拡大していますが、日中のみ発電するため、季節と時間帯によっては、発電電力が電力需要に対して過剰になり余剰電力となります。そこで、発生した余剰電力を有効活用するために蓄電池を導入した状況を想定し、シミュレーションによってその経済性評価を行っています。

経済性評価とはどういうことですか。

:現在の電力システムは、火力発電がベースです。一方で太陽光発電は増えており、需要と供給を一致させるためには、太陽光発電の出力を制御しないといけません。そこで、その出力抑制分を蓄電池に充電して運用すると、火力発電の燃料コストが下がるのではないかという点を評価しています。

どのようなデータに基づいてシミュレーションをしているのですか。

:北海道電力が発表している、北海道内の電力需要実績に基づいてシミュレーションをしています。太陽光発電所に蓄電池が併設しているイメージで、蓄電池に充電しつつ夜でも充電した分を使っていくシミュレーションです。

研究をしていて印象的だったエピソードを教えてください。

:去年、学会の北海道支部大会にはじめて参加したことです。学校の研究発表よりも詳しく聞かれてずっとドキドキしていました。準備では、先生から発表内容を細かく指摘されて大変でした(笑)。結局、夏休みを全部つぎ込んで頑張りました。

大規模停電が発生してもマイクログリッドで電力を維持する

佐々木さんは本科5年生なので4月からはじめて8カ月ですね。研究内容を教えてください。

佐々木:2018年に発生した北海道胆振東部いぶりとうぶ地震のブラックアウトに代表されるように、地震や台風などの自然災害による停電対策は非常に重要です。一方で近年、家庭単位での太陽光発電や蓄電池といった需要家に近い電源を活用して「マイクログリッド」と呼ばれる需要家のみで需給を満たす運用が提案されています。私はこれを用いて、家庭・地域単位の電力供給を災害復旧までの期間まで維持できる運用方法を研究しています。

具体的にどういう風に電力供給を災害復旧までの期間まで維持するのですか。

佐々木:まず地域ですが、北海道ですと苫小牧市よりもさらに細かい区単位を想定しています。そして、発電所の停止や送電線事故などの災害時には、電柱についている開閉器を操作し、マイクログリッドを区単位で構成して太陽光発電を使って運用する仕組みです。

パワーアカデミー事務局が昨年取材した「電気の施設訪問レポート vol.31 来間島マイクログリッド実証設備」とよく似た研究です!この研究は先生から提案されたのですか。

佐々木:はい。私自身が中学のときに、胆振胴部地震で停電を経験しているのでとても意義がある研究でやりがいがあります。また電力会社に就職が決まっており、今後に生かせると思うとうれしいです。

研究をしていて印象的だったことを教えてください。

佐々木:現在の研究ではなく4年生後期のプレ卒研(卒業研究の前段階として行う研究活動)のときでしたが、3Dプリンターで、一から実験装置等を自分で製作しました。この過程で、様々な発想力や製作に必要な技術を培うことができて、とても楽しかったです。

モノづくりを大切にするPCシミュレーション研究室

研究室はどんな特徴がありますか。

岡本:大澤先生のモノづくりをしてほしいという意向で実験道具を導入しています。PCによるシミュレーション研究がメインなので、研究にはあまり活かせないですが、実験装置の製作やアイデアの試作がしやすい環境が整っています。

佐々木:基本的な実験装置に加え、はんだごてなどの工具などや、CNCフライス(切削加工する機械)、3Dプリンターがあるため、実験の際に必要な装置まで自作できます。

:一方で、掃除機が研究室にあるので結構室内はキレイな方だと思います。また、広い机が設置されており、学生同士で会議や勉強会を行っています。

研究室の皆さんと、どのようなコミュニケーションを取っていますか。

岡本:先生や仲間とのコミュニケーションがとても活発です。先生は非常にフレンドリーで、些細なことでも気軽に相談できます。研究の進捗や困ったことなども遠慮なくお話しできます。

佐々木:常に明るい雰囲気で、4年配属時には懇親会を開催してもらい、トランプでミニゲームをしました。

:その懇親会では、毎年ピザパーティーもやっています。また、2月の試験と研究発表終わりには、焼肉屋で打ち上げをやっています。現在、4年生を含めると8名です。

平均的な一日のスケジュールをお教え下さい。

岡本:学校に登校して授業を受けた後、そのまま研究室に向かい、夕方5時以降まで研究活動を行うという流れです。空きコマが多く、研究がメインです。

:同じようにずっとPCで研究を行っています。午前中に授業が集中しているので、午後に研究室にいることが多いです。学校の決まりで20時までには帰宅します。

本科5年生の佐々木さんはいかがですか。

佐々木:授業があるのが、月、水、金です。専門科目や英語等の一般科目を受講しています。火・木に授業はなく、一日中研究です。例えば9時に登校して、午前中授業と研究、昼休みを挟んで16時10分まで授業と研究という流れです。

課外活動も趣味もアルバイトも力を入れています

研究以外で打ち込んでいることはありますか?

佐々木:特にアルバイトに打ち込んでいます。苫小牧の焼肉店の厨房で働いています。年末年始は時給が300円あがるので、これから頑張ります。

:空港のお土産物屋でバイトをしています。趣味は、お菓子作りで、バイトがない休日はケーキを焼いています。最近はパン作りにハマり始めて、酵母からつくってオーブンが大活躍しています。親からは電気代がかかると言われます(笑)。

岡本:趣味は電子工作です。特にパワーエレクトロニクス回路の工作を行っています。実際にモーター駆動回路やインバーター回路などを自作し、手で触れながら学んでいます。

電子工作はいつからやっているのですか。

岡本:元々ロボコンをやっていて、そのときにモーター回路をつくって面白いと思いました。高専5年まではロボコンにも打ち込み、全国大会にも出場しました。でも、なぜかNHKのTV中継には映りませんでした(笑)。

その他の課外活動で思い出に残っていることはありますか。

:電気コース全員ですが、本科の時に、苫東厚真発電所の見学に行き、大規模な火力発電所を見たことが印象深いです。

皆さんは、パワーアカデミーの電気工学教材企画コンテストにもご応募いただきました。応募の感想を教えてください。

岡本:2023年度、2022年度に代表者として応募し、それぞれ最優秀賞、優秀賞を受賞できました。このコンテストはテーマが毎年違い、電気工学の基礎を自分なりに突き詰められることができると思います。

:私も共に応募しました。中学生という専門知識のない方へわかりやすく教えるのは、難しいことだと痛感しました。

佐々木:岡本さんたち研究室の先輩から助言をいただき、2024年度に応募しました。文章は同級生、モノづくりは私、というカタチで分担し、時間はかかりましたが、一つのものをつくる面白さを味わいました。研究室の3Dプリンターを使って制作しました。

制作に使った3Dプリンターの横で。「持っているのは2024年度に応募した作品です」佐々木さん

岡本さんは2023年度の最優秀賞、堀さんは2022年度の優秀賞の表彰状を手にしています。

電気の重要性や危険性、裏側まで理解できた

電気工学を学んで良かったと思うことをお教え下さい。

佐々木:電気の重要性や危険性などについて改めて深く学べたことです。また、就職したい職種が明確になり、就職活動で電力会社へ行けたのも良かったです。

:再エネの問題点や火力発電の有用性を知れて良かったと思います。ニュースでしかしらなかった電力の裏側についても理解できるようになりました。電子工作についても配線の仕方とか学べて良かったなと思いました。

岡本:世の中の電気やシステムの仕組みを理解できるようになったことです。例えば、今まで謎だった家電製品や電力システムなどの仕組みが分かり視野がひらけました。また、電気を学ぶことで、扱えるものや避けるべき危険から身を守る方法を知ることができ、日常生活での安全性が向上しました。

堀さんと佐々木さんは就職活動をされましたが、電気工学出身者の就職状況はいかがでしたか。

佐々木:電力関係の会社はもちろん、クラスメイトは、飲料メーカーやエレベーターなどの機器のメーカーなどにも就職して、広い分野で電気工学出身者が求められていると感じました。

:複数の企業が参加する就職説明会のようなものを学校で行っていて参加したことがありますが、化学系や建築系の会社以外はほとんど電気を募集していて、電気に関する仕事は無くならないと思いました。

最後に将来の夢や目標を教えてください。

佐々木:電力会社に就職が決まりました。今は送電部門を第一志望にしており、現場で働き続けたいと考えています。

:昨年、電子部品メーカーのインターンシップに参加し、そのまま就職できました。スマホ等に使用されている電子部品をつくる会社で、今後も発展していく電化製品を影ながら支えていけたらと思っています。

岡本北海道大学・電力システム研究室へ進学が決まっています。現在再エネの導入が進んでいますが、まだまだ不安定です。パワーエレクトロニクス機器の制御によって、電力システムの安定化に貢献する研究をしたいと思っています。

皆さんの研究やモノづくりに対する真摯な姿勢がとても感じられました。本日はありがとうございました。

※インタビューへのご質問、お問い合わせにつきましては、「こちら」にお願いします。

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