日本が誇る電力技術を、 世界に広めたい。

2013年12月26日掲載

電力会社と聞くと日本国内向けの企業と思われがちですが、実は国際的な事業も積極的に行っています。今回ご紹介するのは、中国電力の久芳史朗さん。電気工学を学ぶとともに、海外で活躍したいとの夢を抱いて中国電力へ入社し、その思いを叶えていらっしゃいます。日本の優れた電力技術を世界へ広めたいという思いを実践されている久芳さん。業務内容や海外生活、やりがいなどを詳しく語っていただきました。
※本取材は、中国電力東京支社にて行いました。

プロフィール

1997年4月
九州大学 工学部 電気情報工学科 入学
2001年~半年間
ウェスタン・ワシントン大学(Western Washington University)語学留学
2004年3月
九州大学大学院総合理工学府量子プロセス理工学専攻修士課程修了(村岡研究室)
2004年4月
中国電力株式会社 入社
流通事業本部(系統保護担当)に従事。現在に至る。

※2013年10月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

ダイオキシンを無声放電で無害にする研究に打ち込む

久芳さんは、なぜ電気工学を学ぼうと思われたのでしょうか。

久芳:私は学問を深く極めていくというよりも、学問から得られた知識をいかに社会に利用していくかを考えたいと思っていました。研究者というよりエンジニア志向ですね。それで工学部を選びました。もちろん工学部といっても、機械もあれば情報もある。その中でプログラミング(情報工学)に特に興味があったので、電気情報工学科を志望しました。

当初は電気よりも情報に関心があったと。

久芳:ええ。ただ、電気に無関心というわけではなくて、電気も一緒に勉強できるから選んだ感じです。そして勉強するうちに、パソコンの中だけで完結する情報系よりも、大がかりな実験装置、試験装置を使う電気工学のほうが面白くなってきて、次第にそちらへ興味が移っていきましたね。

研究室ではどんなテーマに取り組まれていたのですか。

久芳:無声放電を用いた揮発性有機化合物(VOC)の分解システムの研究です。具体的には、放電の電気エネルギーで、環境に影響を与えるダイオキシンのような有機ガスを水と二酸化炭素に分解するといった内容です。

手応えはいかがでしたか。

久芳:修士2年生だった先輩と2人で始めた研究なのですが、前例がないため、システムを構築するところから始めねばならず、何もかもが手探り状態でした。放電を発生させる電極の材質や形状など、先輩と2人でああでもないこうでもないと夜遅くまで研究に打ち込みましたね。

研究室時代にはどんな思い出がありますか。

久芳:研究室には他大学から編入してきた仲間も多く、楽しかったですね。研究の合間にバカな話で盛り上がったものでした。そんな中、私は大学院修士1年の後期からアメリカへの語学留学のため休学しました。

どちらへ行かれたのでしょう。

久芳:ワシントン州のベリングハムという小さな街にある、ウェスタン・ワシントン大学(Western Washington University)です。なぜそこを選んだかというと、一般の学生に混じって大学の講義が聴講できるという特典があったからです。

電気とは関係なく留学されたのですか。

久芳:ええ。英語力を身につけて国際的に活躍したいという漠然とした思いからです。日本で英会話学校に通っていたのですがなかなか力がつかず、思い切って留学しました。印象的だったのは、向こうでは自分の意見をはっきり言わないと相手にしてもらえないことですね。そのため、帰国してからは、自分の主張はきちんと言えるようになったと思います。

電力系統の消防隊員 “保護リレー”の方針を決める

大学院修了後、久芳さんは中国電力に入社されました。入社動機は何でしたか。

久芳:就職では、それまで取り組んできた電気工学の知見を活かしたいと思ったのはもちろんですが、英語力も発揮したいと思っていました。そんな時に研究室の先輩から「中国電力は海外関係の仕事も行っている」と聞き、これだ、と思いました。

留学時の「国際的に活躍したい」という思いが、そこにつながるわけですね。

久芳:はい。あとは、九州から出てみたかったというのもありましたね。私は福岡生まれで、大学までずっと実家暮らしでしたから。

入社後はどんなお仕事をされましたか。

久芳:最初は広島県三次市にある電力所勤務でした。ここで機器の保守や試験などを行いました。次に広島市の可部にある電力所に異動しました。

電力をつくる現場への配属ですね。その後に現在のお仕事を担当されたわけですね。

久芳:ええ。現在は保護リレーを主管する本社組織に属しています。保護リレーとは、送電線等の電力設備で事故が発生した際にそれを検出し、事故が発生した設備のみを電力系統から切り離して、事故が拡大するのを防ぐ装置です。

保護リレーをわかりやすく言うと、どのようなものですか。

久芳:電力系統の事故を火災に例えると、火災が周りに被害を及ぼさないように消火するという点で、いわば電力系統の消防隊員のようなものです。

なるほど。具体的に、久芳さんは保護リレーにどう関わっていますか。

久芳:これら保護リレーの仕様を定めたり、中国電力における保護リレーに関する方針を策定したりすることが、現在の私の主な業務です。

保護リレーという装置は、古くなったから取り替えるというリプレースが多いのですか。

久芳:そうですね、リプレースです。ただ、単純に取り替えているわけではありません。膨大な数の電力機器ですから、いかに効率的に行えるのかを考えて、仕様や方針を決めていきます。また、コスト面や現場の使いやすさ、新旧の統一性なども考慮する必要があります。

アメリカで学び、アジアへの技術移転をリードする

こうした通常のお仕事に加えて、念願の海外研修も実現されたそうですね。

久芳:ええ。3年前に会社の研修制度を利用して、アメリカのGE社で半年間の技術研修を受け、米国の企業を訪問するという貴重な経験をしました。これは新入社員研修の時に知った制度で、入社当時からずっと行きたいと思っていました。

海外研修ではどんなことを学ばれましたか。

久芳:大学で学ぶような内容から始まって、新エネルギーやアメリカの電力市場など本当に幅広く学びました。現場で活躍されている方が講師でしたから、単なる教科書的な知識じゃなくて、現場ではこうだという感じで教えていただきました。あとは、疑問があるとすぐにディスカッションが始まるのが印象的でした。

その後の企業訪問というのは、どういうことですか。

久芳:GE社での研修後、事前に定めたテーマについて各企業を訪問して調査してくるというものでした。それこそアポを取るところから始めました。もちろん日本企業の一社員が、突然メールを送っても受け入れてくれる企業などほとんどありません。それに9.11(※2001年に発生したアメリカ同時多発テロ事件)以降はセキュリティー上、ガードがすごく堅くて、何十社もアタックし、ようやく数社のアポイントをゲットしました。

大変ですね!当然、すべて英語でアポからとったわけですか。

久芳:もちろんです。訪問前の勉強も、日本の電力事情に関するプレゼン資料の作成も、すべて英語でした。本当に大変でしたね。けれど、アメリカ人のエンジニアと英語でディスカッションをやり終えた後は、それまでの苦労が全て吹き飛ぶくらいの充実感や達成感を味わうことができました。

そうした経験を活かして、現在は国際関係のお仕事もされているそうですね。

久芳:はい。国際大電力システム会議(CIGRE)の国内委員会幹事補として、国際シンポジウムで電力系統の監視制御システムに関する発表を行いました。また、カンボジア国における送変電システム運営能力強化プロジェクトのメンバーとして、現地電力会社社員に対する保護リレーに関する技術移転を行ったりしています。

カンボジアのプロジェクトについて、具体的に教えていただけますか。

カンボジアでの電力会社社員に対する、技術指導の様子です。

久芳:柱が2つありまして、1つは現地の電力会社に対しての技術指導です。業務の品質を保つためにルールをつくることを提案しました。例えば保護リレーについても、設定の基準をつくるといったことを行いました。面白いのは、今まで自由にやっていたのにどうしてこういうルールが必要なんだ、と感じる人がいたことです。そのため必ず、なぜこういうルールが必要なのかというところから説明しました。

2つめの柱とは何でしょうか。

久芳:2つめは、人材育成です。指導員のレベルを上げることに取り組んでいます。現地へ行くと「ティーチャー、ティーチャー」って呼ばれて、ああ、頼りにされているんだと感じる一方、将来は自立してほしいと強く思っています。

日本の電力会社の技術力は世界トップクラス

学生時代の電気工学の研究は、今のお仕事にどのように活きていますか。

久芳:電力会社に勤めていますから、電気工学で学んだ知識がなければ業務が行えないと言っても過言ではありません。無声放電が業務に直結することはありませんが、研究が行き詰った時に諦めずに取り組み続ける姿勢やプレゼンテーションの力は、現在の業務の基礎となっています。

電気工学を学んでよかったと思うことはありますか。

久芳:今感じているのは、カンボジアのことですね。カンボジアの電力品質は日本に比べると非常に低く、停電も頻発する状態です。首都のプノンペンでさえ、電気が足りなくなってすぐに停電してしまいます。そんな現状を打開するために、自分が培ってきた電気工学の知識が貢献できていることに、大きな喜びと誇りを感じています。

やりがいのあるお仕事ですね。

久芳:嬉しかったのは、出張の最終日、カンボジアの電力会社の方に、お昼ご飯を誘われたことでした。観光客が行くようなレストランではなく、現地の人たちが普段行くような食堂で同じ料理を食べながら、今後どうしたらいいかとか、そういうことを話したのです。後で聞いたら、そんなふうに向こうから誘ってくるなんて、めずらしいことらしいのです。すごく嬉しかったですね。

今後はどんな仕事に取り組みたいとお考えですか。

久芳:日本の電力技術を世界にアピールしていく仕事をやっていきたいと思っています。カンボジアのプロジェクトのように後進の国々に技術移転をすることも含め、日本が誇る最高品質の電力技術を世界にどんどん広めていきたいです。

これから電気工学を学ぼうという学生へのメッセージをお願いします。

久芳:電気は様々な形で我々の生活を支えています。パワーアカデミーHPで紹介されている方々を見てもわかるように、電機メーカ-、研究所、鉄道会社、製鉄会社、電力会社と、実に幅広い業種があげられます。また、電気は日本に限らず世界中どこでも必要とされており、活躍の場は無限に広がっています。電気工学を学ぶということは、皆さんの可能性を広げていくということです。それに日本の電力会社の技術力は世界トップクラスだと思います。そういう技術を学び、社会のために活かしていけるというのは、大きな魅力ですし、誇らしいことではないでしょうか。

本日はどうもありがとうございました。電気工学の魅力、お仕事の広がりということがよくわかりました。一層のご活躍を期待します。

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