I Will ...

2009年11月9日掲載

造賀 芳文

広島大学大学院工学研究科
複雑システム工学専攻複雑システム運用学研究室

1995年3月
広島大学大学院工学研究科システム工学専攻博士過程前期修了
1997年3月
広島大学大学院工学研究科システム工学専攻博士過程後期退学
1997年4月
広島大学工学部第二類助手
2001年4月
広島大学大学院工学研究科助手
2002年3月
博士(工学)取得
2002年6月
~2003年5月 ワシントン大学(米国・シアトル)にて客員助手
2007年4月
広島大学大学院工学研究科助教
2007年6月
広島大学大学院工学研究科准教授、現在に至る

大学で働き始めて、早いものでもう12年が経過します。この間、電力システム分野で研究・仕事をしてきて、常に私が感じてきたキーワードが「大海原」と「チーム」の2つです。

国際会議にて

私が研究対象としている"電力システム"は、「世の中で最も大規模・複雑な人工システムのうちのひとつである」とよくいわれます。確かに、これほど大規模で複雑なシステムを大胆、かつ繊細に計画・運用・制御している分野は他にあまりないと思います。また、電力システムに関連する学術分野も、電気工学、電力工学はもちろん、機械工学、建築工学、土木工学など多岐にわたっています。システム自体が大きい、また必要となる知識が幅広いという意味で、電力システムはまさに「大海原」だなと感じてきました。

そして、当たり前ですが、これだけ大きなシステムは一人の人間の力でできあがったものではありませんし、もちろん、その計画・運用も一人ではできません。

運用でいえば、各電力会社にある中央給電指令所がよい例ではないかと思います。ここでは、3〜5名程度でチームを組み、交代制で24時間365日休むことなく電力システムを監視・運用しています。どの中央給電指令所でもピリピリとした緊張感と、働いている方々のプライドを感じます。最近は、かなり自動化も進んでいるようですが、やはり最後は人間の判断であり、チームワークであるというお話をお聞きします。特に、事故が起こった場合の復旧などは、「日頃から訓練を欠かさず、チームとしての結束をいかに高めるか」がものをいうそうです。このようなチームに入るには、たくさんの勉強と努力が必要であろうことは容易に想像できます。もちろん、中央給電指令所も他の部署などと連携しながら業務を行っているので、より大きなチームの一員でもあります。電力システムの計画・運用というのは、不断の努力によって培われるチームワークのなせる業なのでしょう。

また、研究するという面から考えても、やはり一人の人間が携わることのできる分野は限られてきます。私は、電力工学の中のある分野を対象として研究していますが、他の研究者の方々もそれぞれ得意とされている分野があり、電力システムを支えている「チーム」だと考えることができます。分野が限られるといってもやはりカバーすべき領域は多岐にわたり、こちらもたくさんの勉強が必要です。

議論中(シアトル時代のある日)

さて、話は変わりますが、私は2002年6月からの1年間、米国University of Washingtonで客員助手として在籍させていただく機会を得ました。当初は、日常会話さえ思うようにいかないこともあり、渡米して最初に、勇気を振り絞って突撃した地元のスーパーマーケットのレジで起こった「レジ袋」事件もそのひとつです。
だだっ広い店で、子供を3人は乗せられるのではないかというようなまさにアメリカ的なカートに品物を積み込み、レジに向かいました。レジのおばちゃんが最初の品物のバーコードを読み取りつつ、にこやかに聞いてきました。

"Paper or plastic?"
ん? 紙かプラスチックか、だと? この段階でこんな質問がくるとは思いもせず、何のことかさっぱり分かりませんでした。パニックに陥った私の頭の中は...、

次はお金を払うはずだ

支払い方法で紙かプラスチックかと聞いているのだ

紙=紙幣、プラスチック=クレジットカードに違いない

Plasticでいけ!

となりました(このフローが生まれた私の頭の中はどうなっているのかと少し不安になりますが...)。  勢い余って「Plastic, please!」といいながら、クレジットカードをおばちゃんの目の前に差し出しました。するとキョトンとしつつ、「ちょっと待って。まだ全部レジを打ってないから。で、プラスチックバッグでいいのね?」との弁。単にレジ袋を紙袋にするかビニール袋にするか聞かれただけだったのです。丁寧にレジ袋を指し示しながら聞いてくれたところをみると、私の勘違いはバレバレだったのでしょう。顔が真っ赤になりました...。

それでも、しばらくすると徐々に耳が慣れてくるもので、少しずつ意思疎通ができるようになってきました。そうやって過ごしてきた1年間で、心にとどめておこうと思ったフレーズがあります。

OB・OGも集まる恒例の研究室対抗駅伝大会

ある日、教授から私と同僚に対して、ある本の原稿を書くように指令が下りました。お互いにどこの部分を担当するかを話し合っていた際、私は"I'm going to write this part."と提案してみました。すると彼は「ん? それは教授が指示したの? もう決められたことなの?」と聞いてきました。そうではないと否定すると、「じゃ、I willを使うべきだよ」と。それ以来、同僚たちの会話を注意して聞いてみると、みんなの積極性、協調性がI willに現れているように感じました。研究プロジェクトの分担を決めるとき、大学で開催される研究会の準備をする際や研究室でパーティーを企画するときなどもそうでした。自分の得意なこと、今までの経験を生かせることに対してはもちろん、まだやったことがなくても興味があれば積極的に"I will do that."なのです。その結果、見事なチームが結成されていました。

渡米した当初、同僚たちはみんな競争心が強く、自分のことだけを考えているのかと勝手に思っていましたが、決してそうではありませんでした。確かに、自分を磨くことは自分のためでもあるのですが、そうすることで結果的にチームの一員としての役割も強化され、チーム全体のためにもなるのだと気付かされました。

ちょうどその頃、いくら勉強しても足りないように感じられる広大な電力システム分野を前にして、慣れない海外生活での心労も重なり、これからの研究活動の進め方について悩んでいた時期でした。そんなとき、このように何ごとにも積極的に取り組み、自分を生かそうと努力している研究室の仲間たちの姿勢を見ているうちに、自分もI willといえる分野をもつこと、そしてチームの一員として貢献できるようになることを目標に頑張ろうと思うようになりました。そして、実際に貢献することができたとき、それは大変すばらしい経験となりました。

感涙の卒業証書・修了証書授与式

先に述べたように、電力システムは確かに「大海原」かも知れません。いろいろなことを勉強する必要もあります。それでも、いずれ自分の得意な分野、自分も貢献できる領域が必ず生まれてくるでしょう。自分にしかできない部分が見つかるかも知れませんし、ひょっとすると新しい技術を生み出すことができるかも知れません。そうすれば、「チーム」のどこかで活躍できる日がきっとくると思います。これは、電力システムに限らずいろいろな分野でもいえることですが、自分も貢献したうえでチームワークが発揮されたときの達成感は、何物にも代え難いすばらしい体験だと思います。

これを読んでくださっている学生の皆さん、一緒にチームに入ってI willといえる分野を見つけてみませんか?


電気工学のヒトたち

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