vol.11 東京大学 太田 豊 特任助教
2011年11月25日掲載
太田 豊
東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻
先端電力エネルギー・環境技術教育研究センター(APET) 特任助教
- 2003年
- 名古屋工業大学大学院工学研究科電気情報工学専攻博士後期課程修了 博士(工学)
- 2003年
- 名古屋工業大学大学院工学研究科情報工学専攻助手
- 2009年
- 東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻特任助教、現在に至る
先日、デンマークからドイツにかけて縦断する機会がありました。ドイツ北部の港には、これから建設されると思われる洋上風力発電の胴体がごろごろと置かれており、陸上には風力発電、南部には太陽光発電が導入されていました(写真1、2)。参加したワークショップでは、風力発電をたくさん建設すると、夜間の風が強いときに風力の電気が余ってしまうことや、風力・太陽光の出力が急に変動したときの調整力確保が深刻になってきていること、などが議論されていました。
これに対して、休日や夜間など電力の供給量に余裕があるときは、風力・太陽光などの再生可能エネルギーにより電気自動車を充電し、再生可能エネルギーの出力が急に低下したときには電気自動車から一時的に放電させるなど変動緩和に貢献させることで、再生可能エネルギーと電気自動車の相乗効果をねらうコンセプトが注目されています。再生可能エネルギーで電気自動車を走らせるとともに、停車時の空き時間には再生可能エネルギーのパートナーとしてもうひと働きしてもらうわけです。
もちろん、
- 電気自動車の所有者のメリットはあるのか?
- 電池(バッテリー)の劣化が早まるのでは?
- 充放電を効率的に実現する充電インフラの整備は?
- 家庭にある電気自動車までアクセスする通信手段は?
- 分散型電池を活用するための制御方法や制度設計は?
- 電力/自動車業界の分野横断は可能か?
など、たくさんの課題があります。が、経済性分析、電気化学(電池)、パワーエレクトロニクス、情報通信、電力システム、システムイノベーション、など様々な分野の専門家が一斉に将来を見据えた検討をはじめていることを実感してきました。
わたしたちの研究室でも、再生可能エネルギーと電気自動車の導入を想定したシミュレーションにより、電気自動車の制御方法や電力システムへの効果の評価を行っています。太陽光・風力発電の振る舞い、電気自動車のプラグイン・アウトの状況や走行距離、電池の充放電時の特性、充電インフラの電気回路や制御・通信、そして電力システムの発送配電それぞれの要素(発電所や送電線)とその相互作用、などは専門家によるシミュレーションモデルの構築が行われています。これらを慎重に組み合わせることで、研究室でもパワフルな解析を行うことができます。最近では、電力システムシミュレーションと実際の電気自動車/充電インフラを連動させる試験システムの構築にも取り組んでいます。電気自動車の電池システムは三菱自動車株式会社に提供いただき、充放電を制御するパワーコンディショナはニチコン株式会社に製作いただきました。統括するスマートインターフェースは柔軟なプログラミングが可能で、電力系統と協調したいろいろな試験システムの構築にも取り組んでいます。(写真3)
ここまでの研究は、再生可能エネルギーが導入されたときの電力システムの需給調整に分散型の電力機器である電気自動車を活用する、という観点で、スマートグリッドの核心に触れるテーマであると思います。今後、分野横断的な協力がますます必要なスマートグリッドですが、電力システムや電力機器をあつかう電気工学は間違いなく中心分野です。みなさんも電気工学の知識・技術をベースとして、国内外の様々な分野の方々と協力しながら、スマートグリッド実現に向けての研究開発に関わってみませんか?
スマートグリッドと電気工学に興味があるみなさんは、下記情報もご覧ください。
東京大学工学部電気電子工学科E&Eニュース(2010年2月号)