vol.51 岐阜大学
2020年11月30日掲載
“清流の国”と称される自然豊かな地で、「学び、究め、貢献する」人材の育成に力を入れる岐阜大学。今回はこちらの「高野研究室」におじゃましました。発足してまだ3年というだけあって、研究室内はすっきり広々と快適。いつも明るい雰囲気を作ってくださる高野先生のご指導のもと、皆さん、まっすぐ研究に打ち込んでいらっしゃいます。
※2020年10月現在。文章中の敬称は省略させていただきました。
自由な雰囲気に惹かれて選んだ研究室
皆さんが電気工学を学ぼうと思われた理由を教えてください。中江さん、いかがですか。
中江:最初のきっかけは、高校の電気の授業でした。理系分野の中でも特にパズルを解くような面白さがあり、楽しい授業だなと思ったことが、電気に興味を持った理由です。その後大学に進み、ロボコンサークルに所属してプログラミングを学び、『NHK学生ロボコン』などにも挑戦するうち、この知識を電気の分野にも活かせないかと考えるようになりました。
電気とITの両方をやってみたいと思ったわけですね。
中江:はい。電力の分野でもDX(デジタル・トランスフォーメーション)が進んでいくと考え、その分野で研究したいと思うようになりました。
ありがとうございます。では続けて吉田さん、お願いします。
吉田:高校進学の際、工業高校の見学に行ったところ、電気の授業がとても面白いと感じたことがきっかけでした。結局高校は普通科に進学したのですが、理系の科目が得意ということもあって、大学進学では工学部の電気電子・情報工学科に進みました。学部の講義では電気の使用による環境負荷が地球温暖化の一つの要因と知り、この問題をエネルギーの効率的な視点で研究したいと考え、電気工学を志望しました。
ありがとうございます。岩瀬さんはいかがでしよう。
岩瀬:父が生産管理のエンジニアをしており、子供の頃からその話を聞いていたこともあって、大学では迷わずに工学部を選びました。当時は電気自動車や太陽光発電などのニュースをよく目にしていたこともあり、将来は電気のエンジニアの活躍が求められると感じ、電気工学の道を選びました。
高野研究室を選ばれた理由についてはいかがですか。中江さんは研究室の初代メンバーだそうですが。
中江:そうなんです。新しい研究室ができると聞いて、“どんな研究室だろう”と興味津々にお話を聞いたところ、電力と情報の両方について学べると知り、DXについても触れられる機会があるのではと考えました。
吉田:私の場合は、他の電気系の研究室に比べて、ここは電力の研究に特化している点に惹かれました。また新しい研究室なので、先輩を気にせずに自由に過ごせるのではと思ったことも大きな理由です。
岩瀬:その吉田さんの研究発表を見て、研究テーマの幅が広いと感じたことが、私がこの研究室を選ぶきっかけになりました。
社会に役立つことがイメージできる研究
では、皆さんの研究内容について教えてください。
吉田:私はデマンドレスポンス(DR)の理論的な設計方法を研究しています。DRとは、電気料金を変化させたり、報酬を支払ったりすることで、消費電力を需給運営上の望ましい状態に誘導する仕組みのことです。前者を料金型、後者をインセンティブ型としており、これによって電力の需給逼迫問題や再生可能エネルギー余剰問題に対応できるのではと期待されています。実証実験も行われていますが、その際の電気料金や報酬額の決定は電力供給者の知識・経験が頼りにされているのが実情で、私はこれらを理論的に設定する方法を研究しています。
とてもイメージしやすい研究ですね。面白みはいかがですか。
吉田:やはり社会に直接役立つ研究であるという点が一番のやりがいですね。人に説明しても、共感していただきやすいテーマだと思います。ちなみに個人的にインセンティブ型の仕組みのほうが、効果が高いと感じています。
ありがとうございます。続いて岩瀬さん、研究内容について教えてください。
岩瀬:スマートメータによって記録された、電力需要家の電力消費履歴の解析を行っています。従来の電力メータですと電力消費量履歴の確認は1ヵ月ごとの検針で行われていましたが、スマートメータでは一定の短い間隔で記録され、電力供給者に直接リアルタイムで送られていきます。その解析を行うことで、電力需要管理に役立つ情報を得られるのではないかと思っています。
岩瀬さんの研究も、私たちの実生活に身近な感じですね。
岩瀬:ええ、吉田さんの研究同様、私もその点が面白みです。例えばエアコンの使用状況によって電力消費量は大きく変動するなど、予想したとおりに気候との相関関係が強いことがわかっています。解析に使うデータは電力供給者からいただいているので、社会の需要がそのまま反映されている実感があります。
では、中江さん、お願いします。
中江:はい。私は配電設備に関するビッグデータの活用手法について研究しています。具体的には配電設備の点検記録や保修記録などの情報を用いて、設備寿命を推定する手法や、設備の補修基準を作成する方法などについて検討しています。例えばコンクリート電柱のひび割れから寿命を推定したりするわけです。
皆さん、すぐにでも社会に役立ちそうな研究テーマですね。
中江:この状態の電柱ならあと何年は使用できるといったことを推定できるようにするわけですから、社会貢献度の高い研究だと実感しています。
学会発表で、社会からの期待の大きさを実感
研究活動で印象的だったことは何ですか。
中江:共同研究をしている企業の皆さんとのミーティングで、研究で得た知見を発表したところ、「やはりそうだったのか」という納得や驚きの声をいただいたことが印象に残っています。“やった!”と、大きな達成感がありました。
吉田:私は電気学会、エネルギー資源学会で発表する機会を得ました。その際、社会で活躍されている技術者の方々からいくつか鋭い質問をいただき、期待の大きさを実感しました。「DRは未来の消費電力をコントロールするための手法」とおっしゃっていただいたこともあります。学生の研究であっても、社会で通用するレベルの内容、結果が求められていることを痛感しました。
岩瀬:私が印象に残っているのは、初めてスマートメータのデータを目にしたときのことです。膨大なデータがただ並んでいるだけで、どこから手をつけていいかわからず、戸惑ったのを覚えています。その後、先輩にデータの見方や加工方法などを教わり、研究をスタートさせることができました。
学生一人ひとりに恵まれた研究環境
では研究環境について伺いたいと思います。なんといっても新しい研究室ということが一番の特徴ですね。
中江:今年で3年目の研究室となり、先ほども言ったように初代メンバーの1人が私です。先輩がいないため手探りで進めなければならないという苦労はあったものの、その分、いい意味での自由さは魅力です。
マイペースの研究活動が基本ですね。
中江:ええ。その雰囲気は、後輩が入ってきても変わっていないと思います。
部屋もずいぶんとゆったりしています。
岩瀬:広々として快適な環境です。椅子も座り心地がいいものを使わせてもらっています。机もかなり広いのですが、資料や書籍を広げながら研究することが多いので、とても助かっています。
中江:面積が広いだけでなく、モノが少ないので、なおさら空間的なゆとりを感じるのだと思います。なにしろ研究ではシミュレーションがメインですので、基本的にはPC前での作業が中心なんです。
モニターは2台お使いですね。
吉田:全員2台ずつモニターを使っています。実験機器が不要な分、PCもかなり高性能なマシンを使っています。
中江:私のモニターは3台あります。データ処理で1台、その間にデータの確認をするのに1台、さらに確認したデータをWordでレポートにまとめるために1台という使い方ですね。
こちらの研究室のほか、ミーティング用の部屋もあります。
中江:この部屋では週に1回、同じテーマを研究している学生と共に、先生をまじえてミーティングを行っています。研究内容の共有や議論、進捗状況の報告などが行われ、今後の方針や次週までの課題を決めています。
吉田:もちろん何かわからないことがあれば、ミーティング以外でもそのつど先生に相談できます。
静かで快適な環境の中、研究に専念
普段の研究室はかなり静かな印象ですね。
岩瀬:それぞれ個人で研究テーマを持ち、しかもPCでのシミュレーションが中心ですから、研究室にはキーボードを叩く音だけが響いていることも珍しくありません。
吉田:音楽を聴きながらPCと向き合っている仲間も少なくないですよ。
中江:私は趣味が音楽鑑賞ですので、研究中もロックや電子音楽など、手当たり次第にさまざまな音楽を聴いています。ボーカルが入るとつい言葉の意味に気を取られてしまうので、歌の入っていない音楽が多いですね。
岩瀬:私は逆に人の声がざわざわしているほうが集中できるタイプなので、音楽ではなくてスマホでラジオを聴いています。芸人のトークなどが好きです。
コロナ禍ですから、研究室以外では一緒に過ごしにくいでしょうね。
中江:そうですね、時々帰りにみんなで近所のラーメン屋に寄るぐらいですね。飲み会等は自粛しています。
岩瀬:研究室の活動ではないのですが、私は大学の生協が行っている、新入生向けパソコン講座の運営委員会の仕事をしています。担当していたのはPower Pointの講座のリーダーで、この講座をきっかけに人間関係が広がるのを楽しんでいます。現在は中心メンバーから外れているのですが、時間があるときに手伝えたらと思っています。
コロナ禍でも就職活動は順調に進む
皆さん、電気工学を学んでいてよかったと思うのは、どんな点ですか。
中江:やはり電力に関する関心が高まったことですね。私は配電設備のデータの解析をしているので、普段、道を歩いていても電柱が気になってしまいます。つい見上げて、ああ、ひびが入っているな、と確認したり。
吉田:私も社会問題に対して関心が高まりました。以前はニュースを見ても自分の意見をもつことはあまりなかったのですが、電気工学を学ぶようになってからは、社会のさまざまな問題と電気工学を関連付けて考え、自分なりの意見を持つようになりました。
岩瀬:以前は電気工学と聞いても回路をつくるくらいしかイメージできなかったのですが、実際には想像以上に幅広い分野があると知りました。活躍できる分野も広くて、大学に寄せられた求人票を見ても、食品など、電気とあまり関係なさそうな業界からの求人があったことに驚きました。電気工学の技術者は、それだけさまざまな分野で活躍することが求められているのだと思います。
中江:今年はコロナ禍だったのでオンライン就活が中心でした。そのため同期の仲間の就活の状況がよくわからなかったのですが、だいたいみんな就職先が決まったようです。こんな経済状況でも電気工学の技術者への求人ニーズは高いんですね。アドバンテージの高さを改めて感じました。
吉田:岐阜大学では4月から6月にかけて登校できませんでした。しかしその間、先輩たちがしっかりと就職を決めていたのにはびっくりしました。中江さんも就活をしているそぶりなんて少しも感じさせなかったのに、さすがです。
では最後に、将来の夢を聞かせてください。
中江:私はIT系の企業にSEとして入社することが決まりました。社会人になったら1人の技術者として、日常生活を支えるシステムを開発して社会を支えたいと思います。公共系のシステムには特に興味があります。
吉田:私はインフラ関係の仕事に関心があります。具体的には電力会社等で、社会を支える仕事がしたいですね。できれば地元で活躍できればと思っています。
岩瀬:私は大学院への進学を考えているので、就職はまだ先のことです。現時点では分野を限定せず、幅広い業界で自分の可能性を見ていきたいと考えています。これからビッグデータはさまざまな業界で活用が進むと思うので、研究で得た知見を活かす場は広いと考えています。さまざまな業界、さまざまな企業を検討して、広い視野で社会に貢献したいと思います。
皆さん、今日はどうもありがとうございました。
バックナンバー
- vol.55 地球にやさしい先進的な研究で電気工学の可能性を広げたい。
- vol.54 多様な研究を通じて、電気工学の可能性に挑戦したい。
- vol.53 電気工学の研究を通じて、本格的な再エネ時代に貢献したい。
- vol.52 モータの研究を通じて、電気の新しい可能性を拓きたい。
- vol.51 身近なテーマの研究に打ち込み、より快適な社会づくりに貢献したい。
- vol.50 逆風の中でも志を高く持ち、研究活動に打ち込みたい。
- vol.49 技術力で地球にやさしい社会づくりに貢献できるエンジニアを目指したい。
- vol.48 太陽光発電出力予測シミュレーションなどを通じて、再生可能エネルギーの普及に貢献したい。
- vol.47 自由な研究環境の中、自分ならではの研究テーマを通じて成長したい。
- vol.46 高温超電導の研究を通じて、さまざまな社会課題を解決したい。
- vol.45 幅広い電気エネルギーの研究を活かして、 未来の可能性を大きくしたい。
- vol.44 自由な環境で研究に打ち込み、社会からの期待に応えたい。
- vol.43 "雷"の研究を通じて、快適で安心な生活を支えたい。
- vol.42 先進のモーター研究を通じて、 将来の夢を叶えたい。
- vol.41 高専で専門性を磨いて、将来の選択肢をひろげたい。
- vol.40 グローバルな視点を持ちながら、 日本の電力を発展させたい。
- vol.39 風通しのよい自由な研究室で、電気の幅広い魅力を追求したい。
- vol.38 先駆的な研究テーマで、 太陽電池をもっと進化させたい。
- vol.37 生活に身近な研究を通じて、社会のために貢献したい。
- vol.36 パワエレの専門性を武器に社会のニーズにこたえたい。
- vol.35 電磁界を応用した先進研究で 暮らしを便利にするものづくりに貢献したい。
- vol.34 パワーデバイスの先進研究で、省エネ社会を目指したい。
- vol.33 高電圧・大電流を学んで 社会に大きな貢献をしたい。
- vol.32 電気の研究を通じて交流を広げ、 日本の未来に役立ちたい。
- vol.31 風力発電の未来を、もっと広げたい。
- vol.30 電力技術で世界の エネルギー問題を解決したい。
- vol.29 超電導技術で、 未来の社会を支えたい
- vol.28 先進の技術と知識で、 これからの電力を支えたい。
- vol.27 パワエレ技術を活用して、 社会に貢献したい。
- vol.26 放電プラズマで、 夢の技術を実現させたい。
- vol.25 電力システムの研究を活かし 社会の第一線で活躍したい。
- vol.24 自分たちが開発した技術を、世の中へ出したい。
- vol.23 電力を学んで安定供給を支えたい。
- vol.22 世界中の人の生活を支える技術者になりたい。
- vol.21 電気工学で社会インフラを支えたい。
- vol.20 世界に通用するエンジニアになりたい。
- vol.19 電気工学で様々な社会問題を解決したい。
- vol.18 太陽光発電・風力発電を、普及させたい。
- vol.17 日本に新たな電力システムをつくりたい。
- vol.16 電気を上手に使う、省エネ社会を実現したい。
- vol.15 電気で土壌汚染を解決したい。 CVケーブルを守りたい。
- vol.14 電気工学で世界を舞台に活躍したい。
- vol.13 日本、そして世界の電力・エネルギー分野に貢献したい。
- vol.12 送電設備の建設にかかわりたい。電気の面白さを子供たちに伝えたい。
- vol.11 発展途上国を助けたい、 地元に貢献したい、日本の電力を支えたい。
- vol.10 生活を豊かにする製品をつくりたい。 社会インフラを支えたい。
- vol.9 電気工学で環境問題を解決したい!
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- vol.7 これからの日本の電気を私たちが支えたい!
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- vol.1 電気工学は、社会に役立つ研究であり、手に職がつく学問だと実感しています。
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