電力技術で世界の エネルギー問題を解決したい。

2014年9月30日掲載

今回お邪魔したのは、東京都日野市にある明星大学。ここで伊庭健二研究室と星野勉研究室の計3名の学生にお話を伺いました。両研究室は、近年、再生可能エネルギーの普及拡大に寄与するための研究や、災害に強い電力系統の構築の研究をしています。扱いの難しい自然エネルギーを既存の電力系統に導入し安定に運用するための様々な難問に取り組む一方、社会インフラの構築に寄与する電力の研究は実業界からも注目されており、卒業生も関連分野で活躍しています。

※2014年7月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

電気を通じた社会貢献と超電導に憧れて

皆さんはどうして電気工学を学ぼうと思われたのでしょうか。山口さん、お願いします。

山口:私は中学の頃から応用範囲が広い電気工学に興味があり、父の影響でモノづくりが好きだったことから高等専門学校に入学しました。高専では電力工学を教えてくれる先生の熱心な指導を受け、それがすごく楽しかったので、大学に編入して電力の研究を続けたいと思い、大学の3年次に編入しました。

高専ではどのようなことを勉強されましたか。

山口:5年生で研究室に配属されたのですが、離島などの独立系統内に再生可能なエネルギーを入れて電気自動車を走らせたときにどのようなメリット・デメリットがあるのかを研究しました。実はその頃から伊庭先生とは合同の卒研中間発表会を通じて交流がありました。

なるほど、伊庭研究室とは当時から縁があったのですね。では、次は山本さん、お願いします。

山本:高校時代に進路を選択するとき、将来は社会に役立つ仕事がしたいと思い、電気工学の道を選びました。電気工学は、電力、鉄道、通信などの社会インフラと密接に関係していますから、やりがいが大きいと思ったのです。数学が得意だったので、電気工学は数学を多用すると聞いたことも決め手になりました。

自分の得意分野を活かして社会に貢献したいということですね。

山本:ええ。電気というのは社会になくてはならないものだし、やはり一度きちんと学んでおきたいという気持ちがありました。

では、西原さん、お願いします。西原さんは他のお二人とは違って星野研究室で学ばれていますね。

西原:はい。実は学部時代は他大学の機械工学科に在籍していました。しかし、卒論時に研究を行った鉄道総合技術研究所で超電導と運命の出会いをしてしまったんです。もう一目惚れでした。それで、こんなに面白い現象があるのかと感動して、もっと深く超電導を理解したいと思い指導教員に相談したところ、明星大学のことを教えていただきました。

最初が機械工学科というところがユニークですね。

西原:もともとF1が好きで、将来は車関係の仕事ができたらと思って機械工学科に進学したんです。それが研究室の数が足りなくて外部研究室に行くことになり、たまたま関わったのが鉄道総合研究所でした。そこで出会った超電導の研究を続けるために明星大学に編入したわけです。

画期的な秒間隔のデータを使った風力発電の出力分析

では、皆さんの研究について教えてください。まず山口さんですが、風力発電の出力分析だそうですね。

山口:ええ。学部の4年生から続けています。日本にある北海道から九州までの6ヵ所の風力発電所で記録された、秒間隔の出力データを使って風車1基ごとの出力分析や、風力発電所間の差異の分析をしています。これまで風力発電所が複数連系された場合の“ならし効果“の分析を行ってきました。

“ならし効果”というのは?

山口:一箇所の発電所では風の変動が出力に大きく影響しても、距離が離れた複数の発電所の出力を合わせると個別の出力の変動が相殺されて、出力の変動が緩和されるというものです。そこで秒間隔の膨大な出力データを使って、例えば北海道と東北の発電所の同じ時間帯の出力データを合算し、平準化を分析するという研究をしてきました。現在は季節風や局地風の影響、あるいはウェイクロス(※1)の影響など、実測データについて様々な側面から分析しています。

秒間隔の出力データとはすごいですね。

山口:そうですね。電力会社の方々も驚かれるほど、めずらしく貴重なデータです。この繊細なデータがあるからこそ、ならし効果の分析が行えるわけです。

研究において印象的だった出来事はありますか。

山口:去年の電気学会全国大会での発表では、3つの電力会社の研究者からならし効果について質問をいただき、すごく励みになりました。一方、別の国際学会では初めて英語で論文発表をしました。残念だったのは質疑応答に英語で対応できなかったことです。悔しかったので、今は英会話を習っています。

(※1)ウェイクロスとは

風向に対し前後に風車が重なった場合、前にある風車が風のエネルギーを受け取るため、後ろにある風車の発電量が減少してしまうことを言う。

風力発電を電力系統へ大量導入するために

山本さんは学部4年なので、最近、研究をはじめられたそうですね。

山本:そうですね。これまでは、電気回路の基礎や国内の電力システムの概要を学んできました。卒論では、風力発電のパワーカーブ(出力曲線)の特性解析を行うつもりです。日本国内に大量の風力発電を導入するためには変動対策をしっかりやる必要があるので、まず、この変動の特徴を調べようと考えています。

変動対策ということは、山口さんの研究とも関わりがありそうですね。

山本:風向きが出力にどう影響するか、地域の違いなども見ていきたいので、山口先輩のデータも活用したいと考えています。分析の方法も山口先輩に指導してもらったので、初めの頃は波形を眺めてもどんな意味があるかわからなかったのですが、最近ではだいぶわかるようになってきました。

波形を眺めただけで分かってきましたか!そうなると研究も面白くなってくるでしょうね。

山本:ええ、毎日が楽しくて、研究室で過ごす時間も長くなりました。もっとも、自分としてはまだ初心者だと思っていたのですが、電気学会の研究会への論文投稿をすすめられてもちょっと焦っているところです(苦笑)。

超電導限流器で再生可能エネルギーの普及をはかる

西原さんは、星野研究室に所属し超電導関係を研究されているそうですね。

西原:そうですね。私は超電導限流器(※2)という電力機器について研究をしています。これは、電力の送電網で事故が起きたときに発生する事故電流を抑制する電力機器です。これは再生可能エネルギーのような分散型電源の普及にも寄与します。

超電導限流器が分散型電源に寄与するとは、どういうことでしょうか。

西原:分散型電源というのは、従来の発電所とは違って、いたるところにあります。そうすると、従来は発電所から需要家の方向に電流が流れていたものが、分散型電源では電流が様々な方向からやってくるわけで、事故電流を抑制する限流器が必要になるのです。

再生可能エネルギーを活用するために限流器は、非常に重要なのですね。

西原:はい。ただこれは私見ですが、非常に挑戦的な機器だとも感じています。というのも、電力系統に対して直列に導入するものだからです。一般論として、日本の電力システムは非常に慎重につくられているので、基本的に並列機器が多いのです。ですから、私は超電導限流器においてどのような現象が起きているかを研究し、故障や誤作動しない機器として完成させようと思います。

研究をしていて、何か印象深いエピソードはありますか。

これが研究をしている超電導限流器の超電導限流素子です。

西原:今の日本の電力系統を模擬したような模擬送電線を使って、超電導限流器を系統に入れた実験を行った時のことです。その系統の負荷として10数個の白熱灯を用いたのですが、限流器の有無でその光のゆらぎに大きな違いが見て取れ、“今、日本の電気を守っているんだ”と胸に熱いものがこみ上げてきましたね。

電気は目に見えない存在ですが、その実験でははっきりと違いが見て取れたわけですね。

西原:ええ。超電導限流器がないと、暗くなったり明るくなったりする、パワースイング(発電機を並列投入した時に発生する電力動揺)という現象が起きるのです。それが超電導限流器を入れると光が揺らがず安定し、感動しました。

(※2)超電導限流器とは

超電導限流器については、学生インタビューvol.1東京大学馬場研究室や、vol.7名古屋大学松村研究室もご覧ください。

環境抜群のキャンパスで密なコミュニケーションを

明星大学のキャンパスは非常にきれいで、広々としていますね。見晴らしも素晴らしいですし。

山口:天気がよければ富士山まで見えますよ。

山本:施設も恵まれていて、学生にはPCが1台ずつ支給されているほか、研究室には洗濯機以外の家電はだいたいそろっています。炊飯器も布団もありますよ。伊庭先生からは「ここで生活するな」と言われていますが(笑)。

伊庭研究室のコミュニケーションはどんな感じですか。

山口:電力関係のことはもちろん、就職、資格など様々なことが話し合える環境です。学会発表や他大学との合同中間発表など学外活動も積極的に参加しています。とてもにぎやかな研究室ですね。

山本:毎週金曜日には研究の経過報告を全員で行います。また、月に一回程度、打ち上げとして焼き肉をしています。

山口:研究室の中で食事をすることもありますね。最近はそうめんかな(笑)。プライベートな会話が多くて、とても盛り上がります。ランチもほぼ毎日研究室のメンバーで食べますね。

卒論のテーマも幅広いようですね。

山口:ええ。電力系統分析から、太陽光発電の実測、モノづくりなど、それぞれの希望に沿ったテーマで研究が行われています。

モノづくりもやるのですか。

山口:そんなに大げさなものではありませんが、太陽光発電の実測も自分でつくった計測機器を使いましたし、自分の手で何かをするという感覚を大切にしています。

研究室の垣根を越えて、スキルアップをはかる

西原さんは星野研究室ですが、伊庭研究室の皆さんと非常に仲が良く感じられます。

西原:そうですね。私の研究に関連して伊庭先生に相談に乗ってもらうこともあります。先生と学生の距離が非常に近いんですよ。これは私の星野研究室でも同じで、他学系の学生が質問に来たり、外部の研究者との交流が盛んだったり、非常にオープンです。山口さんも、よく星野研究室に来てくれますね。

山口:わからないことがあると、すぐに星野研究室へ聞きに行きます(笑)。

西原:それから、これまで明星大学では大学院生が少なかったんですが、本年度から同じ研究を行う仲間ができて、日常的にディスカッションできるようになったのがとても嬉しいです。星野先生も学年の垣根を越えてコミュニケーションが広がるようにと、月に一度は1~4年の学生を誘い、イベントを開催してくれます。多摩動物公園に行ったり、あじさいを観賞に出かけたりしていますね。

皆さんの一日の生活はどんな感じですか。

左から三番目が伊庭健二教授です。取材当日、研究室にいたメンバーが集まってくれました。

山本:11時頃来て6時頃に帰る感じですね。バイトは、ファミリーレストランでキッチンの仕事をしています。

山口:私は午前中に大学院の授業があり、午後は先生の手伝いや研究です。

西原さんはずいぶん朝が早いそうですね。

西原:7時40分に学校に到着して、その日のスケジュール、今週やっておくべきことを確認します。正直に言えば、大学院に入ったばかりの頃はスケジュールを立てずに無茶な生活をしていたのですが、教授から「研究をするための生活習慣」ということを教わり、以来、それに従った生活をしています。

角度を変えてもう一枚。奥には送電線がうっすらとみえます。

電気工学は社会から広く求められています

電気工学を学んでいてよかったと思うのは、どんなことでしょうか。

山口:電気はどんな機器にも使われているので、その幅の広さが魅力ですね。就職を考えても、選択肢が多く、必ず自分に合った仕事が見つかると思います。電力技術は実業界と大学が密接に関連しているのも、いいですね。

山本:私も同感です。電気工学は社会から広く求められている分野ということで、やりがいがあります。就職活動でもあまり苦労はしませんでした。電気工学と聞くと難しいと考えて構えてしまう人がいると思いますが、やりがいは大きく、社会貢献が実感できる学問だと思います。

西原さんはいかがでしょう。

西原:やはり実用的で社会的ニーズの高い学問だということですね。私の場合、電池と抵抗器の学習から始まったことが、気がついたときには日本の電力系統を語るところまで来ていました。こんなふうにどんどん広がっていくことで、電気を学んで本当によかったと思いました。

では最後に皆さんの将来について、お聞かせください。

西原:電力系統の信頼度の高さは97%とも98%とも言われていますが、電力の安定供給と信頼性維持のためには、解決すべき課題がたくさんあります。この信頼度を1%でも上げていくことに貢献できる研究者になりたいと思います。

山本:私は電気工事関連の会社に就職が決まっているので、東京オリンピックのような、地図に残る大きなインフラ工事に携わりたいと思います。

山口:私はプラントエンジニアリング関係に就職したいと思います。特に東南アジアや南米で日本の電力技術を広め、その国の発展に寄与したいです。

ありがとうございます。今後の皆さんのご活躍に期待いたします。

伊庭 健二 学長補佐 教授(いば けんじ)

私立/東京都
明星大学 理工学部

伊庭 健二 学長補佐 教授(いば けんじ)
伊庭研究室は2004年4月にできた研究室で、学部4年の卒研生が電力系統工学を学んでいます。電気工事・建設・設備管理・電機製造といった企業に就職する卒研生が多いので、電気主任技術者試験の受験支援もしています。研究室では太陽光・風力発電などの再生可能エネルギーやNAS電池の利用技術・運用制御に関わる研究をしています。研究課題は環境・エネルギー問題に関連する重要な分野なので学生も熱心に取り組んでいます。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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