変電設備の最前線で、 電気の安定供給に尽くしたい。

2016年2月29日掲載

学生時代に学んだ電気工学の知識を活かし、生まれ育った北海道で電力の安定供給に貢献している宮野さん。北海道電力に入社以来、一貫して変電所関係の業務を担当されています。学生時代には、今では想像もできなかった電力自由化環境での安定供給の研究をやっていたことや、変電所の保守から建設の経験まで日々の業務で感じるやりがいなど、最前線のお話をうかがうことができました。

プロフィール

2008年3月
北海道大学 工学部 システム工学科 卒業
2010年3月
北海道大学大学院 情報科学研究科 システム情報科学専攻 修士課程 修了
2010年4月
北海道電力(株)入社
2010年6月
静内電力センター変電課
2012年4月
苫小牧統括電力センター変電グループ
2015年4月
工務部変電グループ、現在に至る。

※2015年12月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

理系へ進んだきっかけは、苦手な因数分解が解けたこと

宮野さんは幼い頃から電気に興味をお持ちだったのでしょうか。

宮野:実は中学1年生の頃までは数学も理科も苦手でした。因数分解もできなくて苦労していました。ところが、兄に教えてもらったことがきっかけで、急にひらめいたように数学が得意になっていったのです。それからは自然と理系思考になっていきましたね。

因数分解が解けたことがきっかけだったんですね!北海道大学の工学部へ行かれたのはどうしてですか。

宮野:その兄が北海道大学の工学部に進んで「理系は就職に有利だゾ」とアドバイスしてくれたので、自分も進むことにしました。ただ、私が進学したシステム工学科は、幅広い工学分野を勉強する学科なので、大学に入ったころは電気というのは特に意識しませんでした。

電気工学を意識されたのは、いつになりますか。

宮野:大学3年の時です。北裕幸先生の講義を聴いて電力システム分野に興味を持ち、北先生の研究室を志望したわけです。北先生はとても黒板の使い方が上手くて、講義が理解しやすかったです。

就職のことも意識されていたのでしょうか。

宮野:そうですね。将来は北海道で働きたいという気持ちがあり、北先生の研究室からは北海道電力に入っている人が毎年、何人かいるという話には惹かれました。

未来を予見した先駆的な研究に取り組む

修士課程ではどのような研究に取り組まれましたか。

宮野:電力自由化、つまり自由化環境下における調相設備(※1)計画に関して研究していました。電力系統の安定運用には電圧の維持管理が必要ですが、一般に電圧の調整は無効電力の調整により行われます。そのため無効電力の供給源である調相設備を適切な配置にすることが必要となります。しかし、規制緩和に伴い電力供給形態などが変化する電力系統では、系統内の公正性や経済合理性の高い調相設備計画が求められます。そこで、調相設備を導入する主体の違いなどによる評価や系統への影響、導入費用の回収方法などを検討していました。

今の電力広域的運営推進機関(※2)のような存在を意識されての研究だったのですね。

宮野:そうですね。例えばある独立系統運用者が系統管理する形態において、電圧の低いところに無効電力設備を入れると電圧が上がって送電ロスが減ります。すると一方では、電圧を安定させることで出力が減ってしまって損をする電気事業者というものも現れるわけです。その際に、どうやって公共性を保つのか、また費用の回収をどうするかといったことを研究していました。具体的にはIEEE(※3)の系統モデルを用いて、最適潮流計算によるシミュレーションを行い、調相設備導入前後での各発電設備の出力変化から各事業者の損得(燃料費の増減)を決定し、費用の回収率等を検討していました。

当時はいわば近未来の話だったのでしょうが、今はそれが現実になっているわけですね。学会の発表でもかなり注目されたのでは?

宮野:実は、当時はまだ日本が今のような状況になると想定されることもなかったので、基本的にはあまり質問もされずに終わっていました(笑)。それよりも、もともと上がり症なので大勢の前へ立つだけで緊張がピークに達していたことが記憶に残っています。数をこなすうちにそれにも慣れてきて、そのうち次はどこで学会があるのかと楽しみにするようになりましたが。

研究室の雰囲気はいかがでしたか。

宮野:親睦会やお花見、送別会など、イベントの多いゼミで、コミュニケーションはよかったですね。北先生もお酒が好きでした。あとは学内で“ジンパ”、つまりジンギスカンパーティーもよくやりました。今は届け出制となって限られたエリアでしかできないようですが、当時は大学の生協で鍋などを借りて“ジンパ”を楽しんだものでした。

(※1)調相設備については、学生インタビュー大阪府立大学をご覧ください。分かりやすく解説されています。
(※2)電力広域的運営推進機関とは、2015年4月1日に設立された、日本の電気事業の広域的運営を推進することを目的とする団体。
(※3)IEEE(The Institute of Electrical and Electronic Engineers)とは、アメリカに本部を持つ電気電子工学技術の学会。

現場からスタートして、一貫して変電に関わる

先ほど、将来は北海道で働きたいという気持ちがあったとおっしゃっていましたが、その思いはどのように具体化していきましたか。

宮野:大学入学当初は漠然とした思いだったのですが、研究活動を続けるうちに、学んだ知識を活かして社会基盤である電気事業に携わりたいと考えるようになりました。そこで、研究室の先輩の話を聞いて具体的に北海道電力で働きたいという思いになっていった感じです。修士1年の夏には北海道電力のインターンシップにも参加し、現場の設備も見ることができました。

どちらへ行かれたのでしょう。

宮野:札幌管内の西野変電所という現場です。そこで変電設備を見せてもらい、働いている方のお話も伺って、自分も北海道電力で変電の仕事に携わりたいと思うようになりました。

その思いがかなって、北海道電力に入社、そうして変電の仕事に携われたのですね。

宮野:入社後、苫小牧より少し南に位置する静内電力センター変電課に配属され、エリア内にある変電所の保守を担当しました。具体的には管内の11ケ所の変電所を毎月2回訪れ、目視等で点検する他、設備ごとに定められた点検周期に則り、設備を停止し、測定試験や分解点検等も行いました。

地味に思えますが、電力の安定供給にとっては重要な仕事ですね。

宮野:ええ、私個人としても、現場に近いところで仕事がしたいと思っていたので、とても充実していました。そして3年目には苫小牧統括電力センター変電グループに異動となり、老朽化した変電設備の更新や新設工事などに携わりました。ここでの仕事は入社してから一番、印象に残っています。

なぜ一番、印象に残っているのですか。

宮野:それまでは現在使用している設備を今後も使い続けるために保守することが仕事でしたが、今度は、そういった設備が寿命を迎え、新しい設備に更新することが仕事になりました。特にそのときは、北海道電力にとって10年ぶりとなる変電所新設を担当することになり、5年がかりで進めてきたそのプロジェクトの最後の1年の担当ということでプレッシャーに押しつぶされそうでした。しかし周囲の先輩や上司にサポートしていただき、関係箇所と調整を図って無事故・無災害でプロジェクトを終え、無事に電気の供給を開始できたときは、達成感もひとしおでしたね。

会社にとっての一大プロジェクトに一役を担い、無事、達成できたわけですね。現在はどのようなお仕事を担当されていますか。

宮野:現在の部署の工務部変電グループに異動したのは2015年4月です。ここでは変電設備の修繕予算策定や規程類の見直し、自然エネルギーなどの系統連系申し込みへの対応など変電設備に関する業務を幅広く担当しています。入社してすぐ変電所の保守・メンテナンス業務を担当したと申し上げましたが、その保守作業に必要な修繕費用を策定して、予算として計上するという仕事です。会社の経営的に見れば当然、経費は抑えなければなりませんが、だからといって設備を維持するためには十分な修繕費用が必要ですから、その板挟みの中で費用を確保していくことが私の役割です。

入社してから現在まで、ずっと変電の仕事でつながっていますね。

宮野:はい。一歩一歩、変電の分野でステップアップできているという実感があります。

学生時代に身につけた知識や経験は、現在のお仕事の中でどのように活かされていますか。

宮野:直接に結びついているということはなかなかありませんが、設備に関する名称や役割については知識があったので、さほど苦労せずに設備の情報を覚えられたと思います。もちろん当社は電力会社ですし、特に変電の仕事は電気工学が基本ですから、学生時代に身につけたことは今後も様々な状況で活きてくるでしょう。

宮野さんが関わった、苫小牧市の沼ノ端変電所です(左:外観、右:開閉装置、保護装置等)。

より電圧階級の高い変電設備に携わりたい

今後はどのようなお仕事を担当してみたいとお考えですか。

宮野:これまでずっと変電業務に携わってきたので、できればこれからも変電に関わっていきたいですね。その中でも、特に電圧階級の高い設備の更新を実施している基幹系工事センターというところで、より重要な設備の工事を担当してみたいと思います。基幹系の設備は各地域へ電気を供給するための大元の設備であるため、その重要性も高くなります。

基幹系工事センターというのは、どちらにありますか。

宮野:北海道で一ケ所、札幌にあります。ここで全道の基幹系の変電所の設備を更新する計画を立てています。電圧階級の高い変電設備は規模が大きく、重要性も高いことから、やりがいも大きいのではないかと思います。

改めてお仕事の魅力について教えてください。

宮野:変電の業務では、変電所の新設や設備の更新、保守、メンテナンスなどにおいて、しっかりと電気の供給を開始できたときは大きな達成感があります。自分の手がけた設備が問題なく電気を供給していることは良かったなぁと心から思います。電気工学を学んでいたから、こういうやりがいが得られるのだと改めて感じますね。また以前、静内電力センターにいたときは、現場に出ると地元の方に「ご苦労さまです」「頑張ってくださいね」と声を掛けて頂くこともありました。停電の際などは申し訳なく思いながら作業しているのですが、そんな時でも温かい声をかけていただくと、この人たちの役に立っているという気持ちで本当に嬉しく思います。

電気工学を学んでいる学生の皆さんにメッセージをお願いします。

宮野:電気工学は世の中のいろんな分野で活用されているので、どんなところに就職しても絶対に役立つし、活かせるはずです。電力業界で言えば、東日本大震災以降、電力システム改革など様々な変革への取り組みが進められています。今まで誰も経験していないことをやらなければなりませんが、学生の皆さんにはそこにやりがいを見いだして挑戦していただければと思っています。

これからも北海道の人々の暮らしを支え、変電設備の最前線でのご活躍を期待しています。本日はありがとうございました。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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