vol.17 群馬大学 栗田 伸幸 助教
2013年9月30日掲載
栗田 伸幸
群馬大学 理工学研究院 電子情報部門 助教
- 2001年 3月
- 茨城大学工学部機械工学科卒業
- 2003年 3月
- 茨城大学理工学研究科博士前期課程修了
- 2006年 3月
- 茨城大学理工学研究科博士後期課程修了
- 2006年 4月
- 都城工業高等専門学校機械工学科 助手
- 2007年 4月
- 都城工業高等専門学校機械工学科 助教
- 2009年 4月
- 群馬大学大学院工学研究科電気電子工学専攻 助教
- 2013年 4月
- 現在 群馬大学理工学研究院電子情報部門 助教
はじめに自己紹介
私の専門分野は磁気浮上技術の応用です。磁気軸受や磁気浮上モータの研究をしています。磁気力を利用して対象を非接触支持・非接触回転させることで、従来の技術では実現できない優れた性能を有した装置を開発することができます。
テキサス心臓研究所での人工心臓研究
ところで先日、ヒューストンのTexas Medical Center (TMC) にある、Texas Heart Institute (THI) におじゃまする機会がありました。TMCはヒューストンにある世界最大級の医療研究機関の集積地です(写真1)。THIはSt. Luke's Episcopal Hospitalの傘下にあり、心臓学と心臓外科を専門とする機関です。THIとSt. Luke's Episcopal Hospitalには100,000回以上の心臓切開手術、200,000回以上の心臓カテーテル手術、そして1,000回以上の心臓移植の実績があり、この分野ではアメリカでも最大級の規模を有しています。
なぜ電気工学系の教員である私にこのような施設を訪れる機会があったかというと、実はTHIのCenter of Technology Innovation (CTI)では人工心臓の研究が行われており、私もその研究に協力しているのです。図1に開発中の磁気浮上型人工心臓の概略図を示します。インペラ (ロータ) は磁気軸受によりケーシング内で非接触支持します。そして下部のアキシャルギャップモータによりロータに非接触で回転トルクを与えます。ロータはどこにも接触しないため、極めてクリーンな人工心臓用血液ポンプを開発することができます。
代表研究者「ダニエル・ティムズ氏」
私がTHIにおじゃました時、CTIにはアメリカ、オーストラリア、ドイツ、スイス、日本など様々な国から研究者が集まっていました (写真2)。人工心臓の開発には電気工学などの工学分野だけではなく、医学を含む極めて多くの分野の知識を複合的に必要とするため、多くの分野の専門家を集めなくてはいけないからです。その人工心臓研究の中心にいるのがBiVACOR社の理事兼最高技術責任者であり、THI内のCTIの副所長であるDaniel Timms氏です。オーストラリア出身の彼はQueensland University of Technology (QUT)の修士学生の頃から、現在の研究テーマである全置換型磁気浮上人工心臓のアイディアを持っており、それを実現するための研究をしていました。
そしてQUTの博士課程を卒業後、オーストラリアのThe Prince Charles HospitalやドイツのRWTH Aachen University、Helmholtz Instituteで研究を続け、この間に人工心臓の研究を行うBiVACOR社を立ち上げました。当初、磁気軸受によりロータを変位させ、右心と左心の両方を1つの装置で補助・代替するという彼のアイディアは “crazy” と言われ、多くの専門家が実現は難しいだろうと考えていました。しかし、彼は「専門家が直感的に難しい・不可能だと思うところにこそ問題を解決するヒントがある」との信念を曲げず、時に経済的に非常に厳しい状況に置かれつつも研究を続けました (写真3 )。そしてTHIのFrazier博士とCohn博士に研究内容の有用性を高く評価され、アメリカでも有数の心臓研究機関であるTHIに移ることになりました。
現在、彼の夢が現実になる可能性は極めて高いといえるでしょう。若い読者の方には、彼のエピソードから、信念を持って自分の夢の実現に全力を尽くすことの大切さを学んでいただければと思います。
日本からのインターン
THIのCTIには学生も多く在籍しています。オーストラリアやドイツの大学に在籍する博士課程の学生は、彼らの博士研究の一部として研究を行なっています。それぞれの研究の知識をもちより、非常にレベルの高いディスカッションが行われています(写真4)。
また学部生、修士学生については短期インターンの受け入れも行なっています。芝浦工業大学からは2週間から3週間の日程で7名の学生がインターンに来ていました (写真5)。それぞれに研究テーマが与えられ、充実した時間を過ごしているようです。読者のみなさんも海外でのインターンを考えてみてはいかがでしょうか。