災害復旧支援システムの開発・実用化

2015年6月15日掲載

開発者

平沢 広行(ひらさわ ひろゆき)

東北電力株式会社 配電部 配電管理

1992年
長岡技術科学大学 工学部 電子機器工学課程 卒業
1994年
長岡技術科学大学 工学研究科 電子機器工学専攻修士課程 修了
同年
東北電力株式会社 入社 配電部門に配属、現在に至る。
2006年~2009年
東北インフォメーション・システムズ株式会社 出向

はじめに

配電設備は、変電所から一般家庭などの電気使用場所まで、電気をお届けする電線や電柱などの設備です。また、電力流通設備の中で最もお客さま側に位置しており、面的な広がりを持ち、地域に密着してサービスを行うために、複雑多岐な形態そして膨大な設備で構成されていることが特徴です。

図1 配電設備の概要

配電部門では、電気の安定供給のため、複雑、膨大な配電設備について、日々、設備の巡視・点検や保修工事などのメンテナンスを行い、設備の故障による停電の防止に取り組むとともに、停電発生時には迅速な復旧に努めています。

今回は、災害時に停電の早期復旧を支援する「災害復旧支援システム」について、紹介します。

開発の背景

近年、配電設備は、公共の安全確保や電力供給の確保に直結する社会的インフラとして、地震や台風などの自然災害の場合においても早期の復旧が期待されています。
一方で、配電設備は、風雨の影響を受ける屋外に広く面的に施設されているため、災害が発生した場合には、早期に状況を把握したうえで、事故原因を除去する必要があります。
このような背景があり、広く面的に施設されている膨大な配電設備を迅速かつ効率的に復旧するために、屋外で大規模に展開される復旧作業を支援するシステム「災害復旧支援システム」を開発・導入しました。

システムの概要

災害復旧支援システムには、被害状況集約機能、個別送電管理機能および簡易集約機能の3つの機能があります。

表1 災害復旧支援システムの機能一覧

機能名 概要
1 被害状況
集約機能
電柱の傾斜等の被害データ・写真・位置データを携帯情報端末から送信し、被害状況を営業所・支店・本店で集約する機能。営業所・支店・本店で情報の共有化ができ、迅速な復旧対策立案が可能になります。
2 個別送電
管理機能
漏電火災防止のため、お客さま設備の安全確認から送電の結果までの1件ごとの状況を集約し、復旧作業の進捗状況を把握する機能。営業所窓口でも送電状況を確認でき、円滑なお客さま対応が可能となります。
3 簡易集約
機能
営業所等との通信が不可能な場合に、現地本部で簡易的に被害状況を集約する機能。現地本部にて、最善な復旧対策の立案が可能となります。

図2. 災害復旧支援システムの概要

開発ストーリー

1.被害状況集約機能

被害状況集約機能については、平成16年に発生した新潟県中越地震から得た知見を踏まえて、平成18年に導入しました。

この機能の導入前までは、現場の被害状況について、メールや書類での報告が集中すると、送られてきた写真がどの現場のものか分からなくなり、確認に手間がかかることがしばしばありました。

このため、被害電柱の情報と撮影した写真を自動的に整理する仕組みを検討しました。
この結果、携帯情報端末で撮影した現場の被害状況画像に配電線の名称・電柱番号データを紐付けして送信する方法を採用しました。
なお、携帯情報端末のGPS機能で取得した位置座標から、配電線の名称・電柱番号を自動表示させる機能を、全国で初めて導入するにあたり、プロトタイプを作成し、現場で検証しています。

図3 被害状況集約機能の概要

加えて、実用化に向けては、実際にシステムを利用する営業所の担当者やメーカーのシステム開発技術者を含めて、プロジェクトチームを結成しました。

プロタイプ検証では、現場でのフィールド試験にて、GPS機能の精度やデータの送受信時間を実測し、機能性・有効性を確認したほか、携帯情報端末の操作性についても、営業所の担当者との意見交換会を実施し、実際の業務に適用できるようになるまで、繰り返し改良を加えました。

この結果、災害時においても、現場で有効に活用できる仕組みを構築することができ、被害状況の早期把握による「迅速な復旧対策立案」が可能となりました。

2.個別送電管理機能

「個別送電」管理機能については、平成19年に発生した新潟県中越沖地震から得た知見を踏まえて、平成21年に導入しました。

個別送電とは、漏電火災防止のため、お客さま1件毎に漏電調査等を実施し、その結果に基づいて電気の送電と停止を行うことです。

この機能の導入前では、配電部門においては、漏電火災防止のため、お客さま設備の安全確認後に行う個別送電対応の結果について、紙面で管理しており、全体の進捗状況を把握することに苦慮していました。
また、営業部門においては、送電状況の確認や送電依頼など、お客さまからの問合せ・申出が、短期間に集中したため、配電部門と営業部門間で情報の錯綜や行き違いが発生することもありました。
このため、「個別送電対応の結果を自動集計する仕組み」と「配電・営業部門間にて情報を共有化できる仕組み」を構築しました。

図4 個別送電機能の概要

個別送電管理機能の導入にあたっては、営業部門も含めた関係者と業務の流れや役割を再確認し、整理したうえで、システム開発に着手しました。

具体的には、現地作業を行う「配電部門」向けには、個別送電状況のお客さま一覧を自動作成することを前提に、現地から、携帯情報端末を用いて、お客さま1件ごとに個別送電状況をデータ登録・送信する仕組みを開発しました。

一方、営業窓口を担う「営業部門」向けには、お客さまの個別送電状況を事業所端末にて確認し、お客さまとの対応結果をデータ登録できる仕組みを開発しました。

また、画面や帳票のシステム設計にあたっては、非常災害時において、活用することを意識しながら、データ項目やレイアウトを定めていきました。特に、入力画面の設計においては、電柱番号や計器番号などの最低限必要な項目だけを入力することとし、シンプルでわかりやすいレイアウトで、直感的な操作ができるように配慮しました。

この結果、迅速かつ的確な「個別送電状況」および「お客さま対応状況」の把握と、情報の一元管理ができるようになり、部門間の情報共有化が図られ、円滑なお客さま対応が可能となりました。

3.簡易集約機能

簡易集約機能については、大規模災害により、携帯情報端末と営業所等の間の通信が途絶した場所においても、現地指揮車内のモバイル端末と携帯情報端末間で情報を共有する仕組みであります。東日本大震災後の平成25年に導入、平成26年に現場検証し、有効性を確認できたことをもって、災害復旧を支援する一連の機能が完成しました。
この結果、現地判断で方針を定め復旧を進める「自律型復旧」を実現しました。

自律型復旧とは、大規模災害に伴う停電が発生した場合、現地では限られた人員で様々な対応に追われるため、県内外から駆けつける応援隊に担当エリアを割り当てて、復旧計画の策定から資材の調達、食事の手配まで、自律的に判断し担ってもらう仕組みです。

図5 簡易集約機能の概要

東日本大震災での利用状況等について

東日本大震災における被害状況集約機能および個別管理機能の稼働は、発災直後の約1ヶ月間で約12万件にも及びました。
このため、災害復旧支援システムが積極的に活用され、迅速な被害状況の把握、情報の共有化および的確な復旧計画策定に貢献したものと考えています。
特に、東北電力独自の仕組みである「個別送電管理機能」の活用により、お客さま1件ごとに通電可否を管理しながら、漏電火災を発生させることなく送電できました。

なお、未曾有の事態のなかにおいて、配電設備の復旧作業に尽力できたのは、一分一秒でも早く復旧するため、「何が何でも電気をつける」といった強い使命感が復旧作業に携わった個々人にあったからだと思います。
その原動力は、「電気という安心をお客さまへ届ける」という想いであり、配電設備の復旧が完了し、町のあかりが灯った時には、配電の仕事に誇りと喜びを感じました。

今後の目標

今後も、これまでのシステム活用状況を踏まえて、安定供給に寄与する効果的なシステムを展開していきたいと考えています。
さらに、私自身も、電気の安定供給という「使命感」とシステムづくりの「専門性」を兼ね備えた技術者となるように、日々研鑽し、社会やお客さまから求められる役割を果たしていきたいと考えています。

学生へのメッセージ

東北電力の配電システムには、今回、紹介した災害復旧支援システムのほか、配電設備を設計する配電図面・設計書作成システムなど、合計で26のシステムがあります。
配電部門が担当している仕事は、配電設備の建設、保守、運用および管理など、多種多様であり、個々の配電業務を支援するため、配電システムを導入しています。

また、配電部門の職場は、いろいろな業務を経験することができるため、大変、やりがいのある職場であります。私自身も、これまで、配電設備の保守、設計などの業務に従事しており、この「業務スキル」が、システム化の必要性を判断するうえでのベースとなっています。

加えて、平成18~21年には、システム開発を請け負う関係会社の「東北インフォメーション・システムズ株式会社」に出向し、今回のシステムも実際に開発したことで、「ITスキル」を伸長することもできました。
この結果、「業務スキル」と「ITスキル」を兼ね備えることで、総合的な視点で、最適なシステム化の立案が実施できるようになったと思います。

さまざまな仕事をすることは、広い視野を持つ技術者となるための貴重な機会であり、自分自身が成長する「糧」であると思います。
これから、社会人になる学生の皆様には、将来の目標に向かって、さまざまな事柄に対して、積極的に挑戦・経験していただき、自分自身の可能性を切り開いてほしいと思います。学生の皆さまの活躍を期待しています。


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