vol.7 三菱重工業株式会社
2010年2月26日掲載
地球温暖化対策として、今大きな注目を浴びている風力発電。三菱重工業株式会社は、国内屈指の大型風車メーカーです。今回の社会人インタビューは、風車の開発・生産拠点である長崎造船所に勤務するエンジニア・福田光芳さんへ話を伺いました。
プロフィール
- 1997年3月
- 久留米工業高等専門学校 電気工学科 卒業
- 1999年3月
- 九州工業大学 工学部 電気工学科 電気コース卒業
- 1999年4月
- 三菱重工業株式会社入社。入社後、一貫して風車の電気制御関連の設計業務に従事。
※2009年12月現在。文中の敬称は略させて頂きました。
電気工学は、圧倒的に応用分野が広い
福田さんは、高専の電気工学科卒業だそうですね。
福田 光芳(以下、福田):はい、そうです。
ということは、中学生のときから電気工学に興味があったのですか。
福田:そうですね。数学や理科が好きだったのと、将来のためにできるだけ若いときに手に職をつけるよう親から勧められていたので、出身地の久留米工業高等専門学校に進学することにしました。電気工学科を選択した理由は、電気工学科で学んだことをいろいろなところに応用できる、広がりのある学問だと思ったからです。
高専の5年間で、印象に残っていることはありますか。
福田:単純にオームの法則だけでなく、高電圧や弱電、情報処理やプログラムなど、電気工学の応用範囲が実に広いことに驚きました。当時は大変だなぁと思って勉強していました(笑)。
1マイクロメートル以下の半導体を解析する研究
その後、九州工業大学へ進学されて、どんな研究をされていましたか。
福田:量子井戸構造と超格子構造と呼ばれる構造を持つ、半導体の基本物性の研究を行っていました。
量子井戸構造と超格子構造とは何ですか。
福田:簡単に言えば、1μm(マイクロメートル)以下の異なる種類の半導体を積層する構造を指します。私は、その半導体に、強さや波長の異なるレーザーを照射して光電流を計測し、特性を解析する研究を行っていました。最終的には、その半導体を応用して、光顕微鏡のような計測器を開発することが目的です。今は風車をやっていますが、どちらかというと太陽光発電に近い研究かもしれませんね。
太陽光発電は、半導体で作られていますからね。最終的に解明できたのですか。
福田:なかなか良い成果が出ませんでしたが、無事卒業論文を完成させました。多少目標の下方修正しましたが(苦笑)。近い将来、1μm以下の半導体の基本物性を解析する光顕微鏡も実現すると思います。その時は、私の論文も少しは貢献するかなと期待しています(笑)。
素晴らしいですね!では、研究において何か印象に残っているエピソードがあれば教えて ください。
福田:研究にはレーザーを使用するので、実験室はいつも真っ暗、睡魔と戦いながら実験をしていた気がします(苦笑)。それから、私同様、高専から編入学してきた同級生と仲良く研究できたことが一番の思い出です。仲が良すぎて、朝から晩まで研究室で一緒、ある意味家族以上の関係でした。
電気のチカラで、風力発電を動かす!
三菱重工に就職された理由を教えてください。
福田:就職先については、結構悩みました。悩んでたどり着いた結論が、学生のとき学んだ電気工学を活用できる自然エネルギーに関わる仕事をしてみたいということでした。その中で風力発電を選んだのは、壮大でカッコいいと思ったからです(笑)。インターネットなどで色々会社を調べ、当時国内で唯一大型の風力発電を手掛けていて、開発から設計、建設までやっている三菱重工を就職先に選びました。
では、現在の仕事内容について教えてください。
福田:三菱重工は、風力発電の開発、設計、プロジェクト計画、アフターサービスまで一貫した業務を行っています。その中で、私が所属する風車電気制御課は、電気機器、制御系の開発、設計、アフターサービスが担当業務です。
風力発電の電気機器、制御系とは、具体的にどのようなものなのですか。
福田:電気機器とは、下記図の発電機やトランス、インバータなどで、制御系とは、風速に合わせて風車の回転数を変える制御、翼のピッチ角度を変えて出力を一定に保つ制御、風向きに合わせて風車の向きを変えるヨー制御などです。
発電機の開発だけではないのですね。
福田:ええ、そうです。他には、遠隔監視装置の開発・設計も担当しています。風力発電に何かトラブルが発生した場合、お客様と電話でのやりとりだけでは、トラブル箇所やその対応策を正確に伝えることができません。ですから、遠隔監視装置でトラブル箇所やその原因を把握し、素早い対応ができるよう、アフターサービスの一環として関わっています。
実に幅広い仕事をされていますね!では、学生時代に学んだ、電気工学の知識は現在の仕事にどのように活かされていますか。
福田:基本的には、電気工学の知識のほとんど全てが活かされているといっても過言ではないと思います。風力発電は、発電機や変圧器、インバータ、制御装置、通信機器、色々な電気機器で構成されています。電圧にしても、2万ボルトを超える高い電圧から数ミリボルトといった低い電圧まで使用されています。ですから、幅広い電気工学の知識が必要になってきます。それから、プログラムや、風力発電を構成する1つ1つの部品や機能なども、学生時代に勉強した基本的な電気工学の知識が役に立っていると実感しています。
自分がつくった風力発電が、世界中へ広がる
どのようにお仕事を進めていますか。
福田:設計といっても、いつも事務所でデスクワークをしているわけではありません。時々、試運転のため数週間から数ヶ月間国内・海外の現場に行きます。国内ですと、北海道から沖縄まで様々な地域に行きました。1つの風力発電のプロジェクト期間(設計から運転開始までに要する期間)は、半年から2年程度です。
海外へ行かれたこともあるのですか。
福田:はい。風力発電の納入先は日本国内だけではなくて、アメリカを主な市場として世界各国に広がっています。私は入社してから10年になりますが、国内・海外合わせて、約20の風力発電プロジェクト、400台以上の風車の建設案件に携わることができました。また、昨年から今年にかけてアメリカへ半年間ほど出張し、多くの方と仕事をする機会がありました。異なる文化や伝統に触れて仕事以外の面でも自分にとって貴重な経験になりました。
それは素晴らしいですね。今まで仕事してきたことで、一番印象に残った出来事は何ですか。
福田:風車が完成したときの感動が忘れられません。視界に100台、200台の風車が建っている姿を見ると、自分たちの活動が地球や人類のために、少しずつ役に立っているのだなと実感できます。それから、最近の出来事で印象に残っているのは、当社の主力製品「MWT92/2.4(出力2,400kW)」を初めて納入したときです。鹿児島県出水郡長島町に合計21台の風車を納入したのですが、本当に昼夜問わず働き詰めで疲れ果てました。おまけに計測器を破壊してしまうという失敗までありました(苦笑)。でも、最後はお客様からお礼の言葉を頂いて本当に良かったなぁと思いました。
電気工学でエコの輪を広げよう!
電気工学を学んで良かったと思うことはありますか。
福田:電気を作る仕組みや、電気で動くものの仕組みが理解できるのが大きいと思います。それから、電気は便利である反面、危険なものでもあるので、電気と上手に付き合っていくための知識が身に付いたことが良かったです。また、現実的な話ですと、就職するとき大きなアドバンテージになったことは間違いないです。
これから電気工学を学ぼうとする学生のアドバイスをお願いします。
福田:電気は我々の日常生活を支えています。照明、冷蔵庫、エアコン、携帯電話など挙げたらきりがないぐらい。電気工学は知っておいて損のない学問です。私の場合、電気工学を学ぶことで、電気をつくるために化石燃料などの有限の資源がどれだけ使われているのか、生み出された電気がどんなふうに使用されているのか、そういうことが理解できました。だから、学生の方も電気工学を習得することで環境問題に対して深く理解できるのではないかと思います。電気工学でエコの輪を広げましょう!
最後に福田さんご自身のこれからの夢や目標を教えて下さい。
福田:まず、風力発電を世界中にたくさん建設したいです。将来的な目標としては、自分が考えた独自のアイデアを次世代の風力発電に生かすことができたらいいなと、また、そのアイデアが間接的に人々の生活を豊かにすることができたらと思っています。
素晴らしい目標ですね。ぜひこれからも環境を良くする風力発電をつくって下さい。本日はありがとうございました。
バックナンバー
- vol.53 日々の確実な作業の積み重ねで、地下鉄というインフラを支えたい。
- vol.52 電気工学を活かして技術の発展に女性の視点を反映したい
- vol.51 東西日本間の電力融通を通じて安定した電力供給に貢献したい。
- vol.50 情報科学の知見を活かして電力業界のDX化に貢献したい。
- vol.49 電力業界の新たなルールへの対応の検討を通じ、カーボンニュートラルの実現に貢献したい。
- vol.48 変電技術者として変電所の運営に携わり、電気のある明るい生活を支えていきたい。
- vol.47 空港という重要施設を電気のスペシャリストとして守っていきたい
- vol.46 海底ケーブルのスペシャリストとして電力インフラを支えていきたい。
- vol.45 「ワクワクしつつ冷静に」をモットーに電力の安定供給に貢献したい。
- vol.44 “縁の下の力持ち”として測定器づくりによって社会を支えていきたい。
- vol.43 電力インフラを支える仕事を通じて、環境保護などの社会貢献を続けていきたい。
- vol.42 誰からも認められる女性技術者となり、 発展途上国の人々の暮らしに貢献したい。
- vol.41 電験1種取得者としての専門性を活かし、 電力業界で必要とされる人材であり続けたい。
- vol.40 電気工学の知識をもっと身につけ、 信頼される技術者になりたい。
- vol.39 大容量の電力貯蔵を実現するNAS電池の普及を通じてエネルギー問題の解決に貢献したい。
- vol.38 電気工学の知識を活かし、設備設計のプロとして活躍したい。
- vol.37 電動化が進むクルマの、これからの進歩を支えたい。
- vol.36 電力を支える使命を持った 信頼される存在になりたい。
- vol.35 世界に広がる活躍のステージ。 社会貢献への期待に応えたい。
- vol.34 四国の電力を支える使命を持って、火力発電の未来を拓きたい。
- vol.33 世界中のヒトに信頼される、建設機械を設計したい。
- vol.32 変電設備の最前線で、 電気の安定供給に尽くしたい。
- vol.31 都市レベルでものごとを考えられる、広い視野を持った電気設備設計者になりたい。
- vol.30 高電圧・高電界分野の技術開発で、 電力機器を進化させたい。
- vol.29 電力系統解析の研究者として、 社会や現場のニーズに応えたい。
- vol.28 電力・エネルギーの専門家として、社会に広く情報発信したい。
- vol.27 世界の海洋開発と海上物流を、最先端の電気技術で支えたい。
- vol.26 電力系統を守って人々の生活を支えたい。
- vol.25 新しい制御技術で、 環境にいいクルマを実現したい。
- vol.24 世界の産業を支える 技術者として活躍したい。
- vol.23 日本が誇る電力技術を、 世界に広めたい。
- vol.22 宇宙を駆ける、世界初のものづくりをしたい。
- vol.21 電気工学を活かして、交通安全を支えたい。
- vol.20 製鉄現場を電気技術者として支えたい。
- vol.19 エネルギー・環境問題の解決と、 日本の産業を強くしたい。
- vol.18 電力の安定供給を支えたい。
- vol.17 ものづくりの現場に、 電気の専門家として貢献したい。
- vol.16 社会の役に立つ、電気の研究をしたい。
- vol.15 電気工学で、地球環境を守りたい。
- vol.14 世界に広がる省エネ機器をつくりたい。
- vol.13 世界中の社会インフラを支えていきたい。
- vol.12 電気工学で、半導体の進化を支えたい。
- vol.11 電気工学で、日本の鉄道を支えたい。
- vol.10 世の中ではじめての電力機器をつくりたい
- vol.9 電気を広めて、紛争のない世界を実現したい。
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- vol.6 電気工学で、日本のケータイを世界へ広めたい。
- vol.5 夢の超電導ケーブルを、世界中で実現したい!住友電気工業株式会社 西村崇さん
- vol.4 エコキュートをもっと便利に。電気工学で地球環境を守る。
- vol.3 電気は、社会に不可欠なライフライン。だから、私は高電圧・大電流に向き合う。
- vol.2 電気工学を応用して、世界一のハイブリッドーカーを開発したい!
- vol.1 電気工学は一生の財産。どこへ行っても使える学問です。