vol.10 明治大学
2010年9月30日掲載
明治大学 理工学部 電気電子生命学科 大規模複雑システム研究室は、2004年に開設されました。若い研究室らしく、既成概念に縛られないユニークな研究を行っています。学生主体で運営されている、元気いっぱいの研究室です!
※2010年8月現在。文中の敬称は略させて頂きました。
きっかけは、機械いじりが好き(荒木)、電気は今、注目を集めている(濱島)
電気工学を志望された理由をお聞かせください。
荒木:私は、もともと機械をいじるのが好きで、小学生の頃から壊れたテープレコーダー、リモコン、ゲーム機などをいじって修理をしていました。特に、機械を動かすための原理、電気回路について興味を持ったからです。それと、高校の担任の先生に勧められたことも理由の一つです。
濱島さんは、どうですか。
濱島:自分は荒木さんとは反対で、機械いじりには興味がありませんでした(笑)。数学と理科が得意だったので高校で理系を選択しました。ただ、大学の学部学科について考え出したのは高校3年の秋から冬頃で、それまでは野球漬けで全く勉強をしていませんでした(苦笑)。
ギリギリまで、理系しか決めていなかったのですね。
濱島:ええ。自分は農学部には興味がなかったので、理工学部に絞りました。そのなかで、機械にしようか電気にしようかで迷ったのですが、当時(4年前ですが)、太陽光発電や電気自動車が脚光を浴び始めた頃で、それに影響を受けて電気工学を学んでみたいと思いました。
人間の脳の神経回路を半導体チップで再現する、研究
おふたりの研究を教えてください。では、先輩の荒木さんから。
荒木:私は、「パルスニューラルネットワークを用いた人物追尾処理のFPGA実装検討」という研究です。聞き慣れない言葉が飛び交いますが、電気工学の中でも少し異端の研究です(笑)。
まず、パルスニューラルネットワークとは何ですか。
荒木:パルスニューラルネットワークとは情報処理の計算モデルの一つで、人間の脳の神経回路の仕組みを模したものです。
その計算モデルは、何が優れているのですか。
荒木:コンピューターは膨大なデーターを素早く計算することができますが、まだ人間の脳に及ばないところがあります。例えば、音声や画像から意味のある情報を選別することなどです。人間の脳はあらゆる音声や画像情報に対して処理を行うことができるので、コンピューターに音声や画像処理を行わせるときに、人間の脳をモデルとしたニューラルネットワークを適用することが考えられています。
具体的な例を教えてください。
荒木:私がやっている研究ですと、監視カメラなどの画像処理が挙げられます。現状の監視カメラでは、「どの人がどういう動きをしたか」、「この人は、あの人と同じ人か」などといった情報をあやふやにしか識別できません。そこで、パルスニューラルネットワークを用いて、正確に識別できるようにしています。
なるほど。それが、パルスニューラルネットワークを用いた"人物追尾処理"ということですね。FPGAとは何ですか。
荒木:簡単に言うと、プログラミングと似たような感覚で回路を書き込むことが可能なLSI(大規模集積回路)半導体チップです。様々な産業用途に使用されています。私は、このFPGAを実装させたパルスニューラルネットワーク"人物追尾処理"の実現のための研究をしています。
この研究が成功すると、どのようなところに利用できますか
荒木:例えば、カメラで人物を識別するためには多くのセンサーを内蔵する必要がありますが、これが1チップで済むためカメラの小型化・高性能化が期待できます。その他、電磁界解析などにも利用できます。
天気予報で、太陽光発電の出力を予測する
濱島さんはどのような研究をされていますか。
濱島:私は、「太陽光発電出力予測」の研究です。太陽光発電というのは、主に日射量の変化で出力が変わってくるので、その日射量を予測することが大事になってきます。そのなかで、自分は"天気予報"のみを使った予測手法を考えています。
テレビや新聞に載っている天気予報のことですか。
濱島:ええ。東京都で予測しているので、雪は考えていませんが、雨、曇り、晴れ、これら3パターンの天気予報から予測しています。例えば「8月3日・晴れの15時は、日射量X(W/m2)」という感じですね。
パソコンでシュミレーションしているのですか。
濱島:はい。エクセルで行っています。ただ、天気予報は、雲の多い少ないに関係なく、"晴れ"として予報を出すことがありますよね。そこに差を付けることがすごく難しいです。
季節によっても違ってきますね。
濱島:そうですね。月によっては上旬と下旬で日射量が違ってきます。そこの差を補正して予測することも課題です。もし現実に合った補正手法が見つかれば、天気予報という身近なもので太陽光発電の出力を予測することができると思います。自分は、過去のデーターなどを基に、誤差が±20%程度以内となることを目標に研究をしています。
やりたいことをバックアップしてくれる、研究室
研究室の特徴を教えてください
荒木:できてまだ新しい研究室なので、学生が自由に意見や提案を言うことができます。例えば私の場合、今まで先輩が行っていた研究とは違っていましたが、先生に提案して研究許可をいただきました。
パルスニューラルネットワークのFPGA研究は荒木さんが提案されたのですか。
荒木:そうです。いろいろ調べた結果、自分のやりたい研究テーマが見つかりましたと先生に報告したところ、「じゃあ、それを実際やってみる?」という流れで決まりました。ただ、自分で選んだ分、責任をもってやらないといけないので、今、すごく大変です(苦笑)。
濱島:私の太陽光発電出力予測の研究も、自分から提案しました。うちの研究室は、学生がやりたい研究テーマを自ら先生に提案して、研究テーマを決めることができます。
理系の研究室ではなかなか珍しいですね。設備面はいかがですか。
荒木:パソコンはひとり一台あります。それから、机はパーテーションで区切られているので、研究に没頭することができます。パソコンでシミュレーションすることが多いので気持ちよく研究できますね。椅子は先生より立派かもしれません(笑)。
濱島:それから、実験に必要な装置がある場合には、先生に「こういう装置が必要です」と言うと必ず検討していただけます。先輩の例ですが、太陽光パネルやインバーター、超電導の関連装置、パソコンのソフトウェアなども購入しています。研究に関することは親身になってバックアップしてくれますね。
それはすごいですね!学生の研究のためを思ってくれる研究室なのですね。
濱島:そうですね。それからコミュニケーションが多いのも特徴です。必ず1週間に1回、打ち合わせがあって3週間に一度のペースで交代で自分の研究を発表します。先生を含めて、研究室全員で突っ込みあっている感じです(笑)。また、研究以外のことも含めて、普段からみんなでよく喋りますね。あとは、先生がすごく熱心に指導してくれます。例えば、いきなり相談しても、必ず時間を取っていただいて話をしてくれます。
交流会などはありますか。
荒木:研究室の公式行事として、毎月1回、先生も一緒に近くの食堂で夕食会を行なっています。生田は安い店が多いですよ(笑)。
子供の頃からの夢が叶った!(荒木)、エネルギーの実態が分かる(濱島)
電気工学を学んでよかったと思うことを教えてください。
荒木:もともと好きだったから入った分野なので、やっぱり深く勉強できてよかったなと思います。回路関係は詳しく理解できていると思っています。就職先も回路設計関連の仕事ができるところに決まりました。好きだったことを、もっと深く付き合っていけるようになったのが、一番よかったことですね。私の場合、少し理想的すぎるかもしれませんが(笑)。
濱島さんはいかがでしょうか。
濱島:よかったと思うことは、電力・エネルギー業界全体の動向などが分かるようになったことですね。例えば、太陽光発電や超電導が話題になっていますが、普通の人はメリットしか知らないことが多いと思います。でも、自分の場合はデメリットを含めて、ある程度正確に理解できるようになれたことが大きな財産だと感じています。
具体例があれば教えてください。
濱島:そうですね。自分は大学に入った当初、太陽光発電で日本の電気エネルギーの100%を賄うことができるようになればいいと思っていたのですが、太陽光発電が大量に系統に導入されると電力需給バランスが崩れて安定供給できなくなることを知りました。いかに自分が無知だったかというのを思い知りました。
なるほど。今の就職の話にも関連すると思うのですが、将来の夢や目標を教えてください。
荒木:自分は、電機デバイスメーカーに就職が内定しているのですが、みんなの生活が豊かになるような、社会を影で支えるような製品をつくってみたいと考えています。
濱島:自分は通信会社に就職が内定しています。電力も通信も安定供給というのがとても大事なので、ぜひ維持しつつ発展させていけたらなと思います。
通信業界で電気工学を学んだことは活かせそうですか。
濱島:通信の基礎は、電気の授業でも習いました。あとは、この研究室に入って、論文や発表の締め切りなどで色々と鍛えられました(笑)。研究室で得た経験は、社会へ出ても必ず通用すると思うので、仕事でうまく活かしたいなと思っています。
おふたりとも、来年から社会人としてのご活躍を楽しみにしています。本日は、ありがとうございました。
- 私立/東京都
- 明治大学 理工学部 電気電子生命学科
熊野 照久 准教授(くまの てるひさ)
当研究室は、2004年開設。明治大学理工学部の中で伝統ある電気エネルギー分野の研究室の一つです。まだ歴史の浅い研究室ですが卒業生の就職先は、今年度の就職内定者も含め、全国の電力会社や電力関連企業を中心に、電機メーカ、交通関係、通信機器メーカなど多岐にわたっています。2008年度は、教員1名、大学院生11名、学部生11名の、総勢23名が活動しています。
バックナンバー
- vol.55 地球にやさしい先進的な研究で電気工学の可能性を広げたい。
- vol.54 多様な研究を通じて、電気工学の可能性に挑戦したい。
- vol.53 電気工学の研究を通じて、本格的な再エネ時代に貢献したい。
- vol.52 モータの研究を通じて、電気の新しい可能性を拓きたい。
- vol.51 身近なテーマの研究に打ち込み、より快適な社会づくりに貢献したい。
- vol.50 逆風の中でも志を高く持ち、研究活動に打ち込みたい。
- vol.49 技術力で地球にやさしい社会づくりに貢献できるエンジニアを目指したい。
- vol.48 太陽光発電出力予測シミュレーションなどを通じて、再生可能エネルギーの普及に貢献したい。
- vol.47 自由な研究環境の中、自分ならではの研究テーマを通じて成長したい。
- vol.46 高温超電導の研究を通じて、さまざまな社会課題を解決したい。
- vol.45 幅広い電気エネルギーの研究を活かして、 未来の可能性を大きくしたい。
- vol.44 自由な環境で研究に打ち込み、社会からの期待に応えたい。
- vol.43 "雷"の研究を通じて、快適で安心な生活を支えたい。
- vol.42 先進のモーター研究を通じて、 将来の夢を叶えたい。
- vol.41 高専で専門性を磨いて、将来の選択肢をひろげたい。
- vol.40 グローバルな視点を持ちながら、 日本の電力を発展させたい。
- vol.39 風通しのよい自由な研究室で、電気の幅広い魅力を追求したい。
- vol.38 先駆的な研究テーマで、 太陽電池をもっと進化させたい。
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- vol.34 パワーデバイスの先進研究で、省エネ社会を目指したい。
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