vol.34 佐賀大学
2015年8月31日掲載
今回は、電力用半導体などのパワーデバイスを専門とする、佐賀大学の嘉数研究室を訪問しました。嘉数研究室は、ダイヤモンドなどの先端のパワーデバイスの研究に取り組んでいます。それに加えて、佐賀県・吉野ヶ里遺跡近郊の吉野ヶ里メガソーラー発電所において太陽光発電の研究も行っているユニークな研究室です。メンバー一丸となって、先進の研究に取り組んでいる姿が印象的でした。
※2015年6月現在。文章中の敬称は略させていただきました。
「やりたいことがなかったら電気へ」と親からアドバイス
皆さんは、なぜ電気工学を志望されたのですか。田中さんは、いかがですか。
田中:高校時代から、比較的、数学や物理が得意でした。それから正直に言えば、その当時、進路についてはあまり考えていなかったんです。それで親に相談したら、「特にやりたいことがなかったら電気へ行けば」と言われたのが一番のきっかけです。
「やりたいことがなかったら・・・」とは少しネガティブに聞こえますが、どのような意味だったのですか?
田中:はい。電気というのは社会の様々なところで必要とされているので活躍の場が広く、すごく就職などに有利だと親は言っていました。嘉数研究室へ進んだのは、オープンラボ(研究室見学)でダイヤモンドの研究の話を聞いてすごく興味が湧いてきたからです。就職も考えたのですが、そのまま大学院へ進学しました。
原田さんはいかがでしょうか。高専出身とうかがいましたが。
原田:ええ。中学の時に担任から進められて、高専の電気電子工学科に進学しました。電気電子工学科に進んだのは、身の周りにある電気や電子デバイスが、好きだったからです。
高専ではどんな研究をされていましたか。
原田:カーボンナノチューブの研究です。放電現象を利用したカーボンナノチューブの新しい作り方を研究していました。卒業後は就職も考えたのですが、やはり電気をもっと勉強したい気持ちが強くなって、佐賀大学へ編入しました。嘉数研究室へ進んだのは、ダイヤモンドという、カーボンナノチューブと同じカーボン(炭素記号C)の研究をしていたことに興味を持ったことが大きな理由です。
原田さんと同じく古賀さんも高専出身だそうですね。
古賀:はい。実は父が電力会社に勤めていたため電気に興味はあったのですが、高専では電気じゃなくて、電子情報工学でした。すみません(笑)。
そうでしたか(笑)。では電子系だった古賀さんが、なぜ電気工学の嘉数研究室へ?
古賀:高専では、主にプログラミングを学んでいました。それが研究室へ入って、半導体などに使用される「超ナノ微結晶ダイヤモンド(※1)」を研究したのです。これをやりだしたら、半導体や材料研究がすごく面白くなって、佐賀大学の電気電子工学科へ編入しました。ですから大学も電子志望だったんです。でも、オープンラボで原田さんの発表を聞いて「いいな」と思って嘉数研究室へ進みました(笑)。嘉数研究室は電気といっても、ダイヤモンドなどの材料から研究していると聞いたので面白そうだと思ったんです。
(※1)粒形が数ナノメートル(10億分の1メートル)のダイヤモンドの結晶
吉野ヶ里メガソーラー発電所で、太陽光モジュールの発電研究
それでは皆さんの研究内容を教えてください。田中さんは、佐賀県にある吉野ヶ里メガソーラー発電所(※2)で研究をされているそうですね。
田中:はい。発電量が低下した場合の太陽光モジュール(※3)についての原因調査などを研究しています。
発電量が低下した時とは?
田中:いろいろありますが、ガラスが割れたり、木などの影がパネルにかかって発電量が減るなどといった事例です。こうした場合、発電量が下がるだけでなく、ホットスポットという発熱現象を起こして発火する事態も考えられます。
太陽光発電はまだまだ、いろいろな問題があるんですね。
田中:そうですね。私が今まで研究をしていて一番驚いたことは、発電量が低下して原因調査を行った時に、大きな雑草の影が原因だったことです。これによって、通常の発電が10としたら、半分以下にまで発電量が落ちていました。
発電量の低下の原因は、雑草ですか!田中さんの研究は、こうした事例の原因を調査してまとめることですか。
田中:はい。それから嘉数研究室は、半導体デバイスの研究室なので、壊れたパネルを研究室へ持ってきて、自分たちで故障の原因を解析しています。この研究は企業との共同研究で、学会でも何度か発表しています。特に電気学会では太陽光発電というと発電量など、電気的なアプローチで発表される方が多いのですが、私は太陽光モジュールの半導体デバイスという観点で発表したので、注目をいただいたようです。
(※2)吉野ヶ里メガソーラー発電所は、佐賀県神埼市にある佐嘉吉野ヶ里ソーラー合同会社の太陽光発電所で、年間発電量は、約1,285万kWh/年(一般家庭約3600世帯分の消費電力量)。詳しくは公式HPをご覧ください。
(※3)太陽光発電(太陽電池)の仕組みは、身近な電気工学第6回「人工衛星と太陽電池」をご覧ください。
世界の最先端を行く“次々世代”パワーデバイスの開発
原田さん、研究内容を教えてください。
原田:現在の主な研究は、「酸化ガリウム」を用いたパワーデバイスの開発と評価です。パワーデバイスとは、主に電力用途に使用される半導体のことで、電力変換に使用されます。電力は変換される際に損失(ロス)が発生するので、すぐれた半導体を使用して、このロスを抑えることができれば社会全体で非常に省エネルギーになるのです。
なるほど。酸化ガリウムとは一体何ですか。
原田:酸化ガリウムは、次々世代のパワーデバイス材料として注目されている材料です。現在パワーデバイスの材料としては90パーセント以上、シリコンが使われています。その次の世代として、シリコンカーバイドや窒素ガリウム(※4)が、材料の物性値から見て非常に効率的なパワーデバイスがつくれると注目されています。酸化ガリウムはその次の世代です。酸化ガリウムは、両材料よりも特性値が高いために、より効率的な、より低損失な半導体がつくれると考えられます。
すごいですね!“次々世代”のパワーデバイスですか。
原田:はい。ですから、現在は基礎研究の段階です。内容は酸化ガリウムによるデバイスの作製や、特性の評価、酸化ガリウムの電子濃度や電子移動度といった基礎的な物性を評価しています。まったく前例のない研究なので、実験によっては何時間も続けて行うことがあって、学部4年生の時にはじめて、翌朝に終わる実験をしてしまいました(笑)。何回も失敗してやり直しての連続でしたが、実験を終えた時はとてもうれしかったですね。
企業との共同研究や学会発表はされていますか。
原田:ええ。この研究は企業との共同研究です。学会は材料研究なので、応用物理学会で発表しました。パワーデバイス分野は、世界の中でも日本が先端を行っているので、やりがいがありますね。
(※4)シリコンカーバイト及び窒素ガリウムについては、学生インタビューvol.24 長岡技術科学大学もご覧ください。
ダイヤモンドでもっとも優れた半導体材料をつくる研究
古賀さんは、先ほどから話が出ているダイヤモンドに関わる研究ですね。
古賀:はい。ダイヤモンドトランジスタ(半導体素子)の作製と評価に関する研究をやっています。
ダイヤモンドは、半導体材料として使えるものなんですか。酸化ガリウムと比べても優れているのですか。
原田:ダイヤモンドと酸化ガリウムは、どちらも次々世代パワーデバイスに位置づけられる半導体材料だと思います。見方にもよりますが、酸化ガリウムのメリットを言えば、非常に特性が良くて、なおかつ安価で、作り方が簡単なことでしょう。一方、ダイヤモンドはご存じの通り、非常に高価なものですが、それを差し引いても半導体材料としては一番、すぐれた特性値が出るのではないかと期待されています。
なるほど。それで古賀さんはダイヤモンドでトランジスタをつくっているわけですね。
古賀:はい。実際に動くのですが、流れる電流が小さいんです。ダイヤモンドは、半導体材料として絶縁耐圧や熱伝導率などすぐれた特性があるのですが、一方で電気抵抗が大きくて絶縁体に近い半導体なんです。そのため大電流を流せないことが、パワーデバイスとして課題となっています。
これまで研究をされていて、一番印象に残ったことはなんですか。
古賀:以前、酸化ガリウムでダイオードを作成したのですが、金属を蒸着しただけで動作したことが驚きました。基板に金属の接合を作って測定したのですが「本当に動くのかな」と疑いながら設計したんです。するとパッと動いて、半導体をつくっているなぁと実感しましたね。
最先端の研究室は、学生や先生との一体感も抜群
皆さんが所属している、嘉数研究室の特徴を教えてください。
原田:やはり次々世代パワーデバイスの材料であるダイヤモンド、酸化ガリウムに着目して研究を行っていることでしょう。両材料を共に行っている研究室はほとんどないと思います。
田中:それに加えて、太陽光発電など広い範囲で研究を行っているところだと思います。
そうですね。電気工学の研究室でも非常に最先端の研究をされていますね。古賀さんは?
古賀:研究室の特徴とは少し違うのですが、南アフリカのモザンビーク出身の外国人留学生の方がいらっしゃいます。その方のモチベーションがすごく、朝から夜中までずっと勉強しているので毎日驚いています。
先生や研究室の皆さんと、どのようなコミュニケーションを取っていますか。
原田:毎週、ゼミや研究の進捗報告を行って研究室全体の情報共有をしています。また、それとは別に先生から進捗確認ということで、毎日、研究の進め方について相談しています。それから数ヶ月に一回程度は、研究室内で飲み会や簡単なパーティーなどを開催しています。
簡単なパーティーとは何ですか。
原田:例えば、留学生の方が来日した時は、ウェルカムパーティーを開きました。それから最近は、この暑い時期なので納涼祭みたいなものをやろうかな、なんて話をしています。
研究とプライベートを両立して、学生生活を楽しむ
学生生活についても伺いたいと思います。修士2年生のお二人に伺いましょう。
原田:朝9時までには研究室に入り、その日に行う実験や予定を確認します。12時まで実験、13時から17時までは実験の続きで、17時からは先生の時間が空いた時に実験結果を報告します。平均18時ぐらいに帰りますが、学会発表などで長引くときは長引きますね。
田中:原田君とほとんど変わらないですね。メールチェックを行った後は、基本的には実験をおこなったり測定データをまとめたりしています。
では修士1年生の古賀さんはいかがですか。
古賀:修士の1年はまだ授業があるので、お二人と違うのはそこぐらいだと思います。授業がなければ、朝9時から17時までの研究室のコアタイムは実験やデータ整理をしています。その後、19時頃までは残って授業の課題などをやっている日々です。
それでは皆さん、研究以外で打ち込んでいたことを教えてください。
原田:修士1年の時に、スーパーでアルバイトをしていました。生活費のために、1回4時間を週に5回程度やっていました。結構やっていたので、お客さんに顔を覚えられて、声かけられることもありましたね(笑)。
田中:大学に入学してから、ずっとソフトテニスサークルに所属しています。今でも時間があるときはよくソフトテニスをしています。
古賀:たまに走ったり、バイクに乗ったりしていますね。佐賀は空も広く、気持ちいいですよ(笑)。
皆さん全員、研究とプライベートを両立しているという感じですね。
原田:そうですね。プライベートも楽しみつつ、研究をやっていると思います。
学生時代に学んだ研究を、社会に出ても活かしたい
電気工学を学んで良かったことを教えてください。
古賀:電子工作に触れることができたことですね。高校時代は、いろいろな部品を買ってきてつくっていました。
田中:私は電気工学を学ぶことで、今まで何気なく使ってきた電気製品の中身が分かるようになったのが良かったです。
原田:電気工学といっても様々な分野があるので、研究室を選ぶ際、多くの選択肢があり、自分がしたい分野が必ずあるので電気工学を学んでよかったと思います。
原田さんと田中さんは修士2年ということで、就職活動をされているそうですが。
原田:今、電機メーカーや材料メーカー、水処理メーカーなど色々な分野を受けているのですが、電気とまったく違う業界だと思ったところでも必要とされています。就職の面では、非常に活動しやすく、広い視野で選べますね。
田中:推薦をとれる企業の数が他学科と比べて圧倒的に多いので、電気工学出身者は求められていると思います。サークル仲間の別の学科の友人からも「電気は枠があっていいな」とよく言われますね。
では最後に、皆さんの将来の夢を教えてください。
古賀:電機メーカーなどへ勤めることができればいいかなと考えています。今の世の中にない新しいものを開発したいですね。
原田:パワーデバイスの研究をやっているのですが、この経験が活かせるような仕事ができたらいいと思っています。今はパワーデバイス関連の企業から推薦をいただいて、就職活動の最終局面です。
田中:太陽光発電事業は飽和状態になってきていると言われています。しかし、その中でも現在の太陽光発電をどうやって長期間の発電をさせられるかが重要な点であり、目標であると思います。また、太陽光発電の寿命は約20年と言われていますが、割れたり発電量が低下したりします。ですから、こうした対策をいろいろと考えていけたらいいなと思っています。
ぜひ皆さんのユニークな研究を、今後の進路に活かしてください。本日はどうもありがとうございました。
バックナンバー
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- vol.54 多様な研究を通じて、電気工学の可能性に挑戦したい。
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- vol.51 身近なテーマの研究に打ち込み、より快適な社会づくりに貢献したい。
- vol.50 逆風の中でも志を高く持ち、研究活動に打ち込みたい。
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- vol.48 太陽光発電出力予測シミュレーションなどを通じて、再生可能エネルギーの普及に貢献したい。
- vol.47 自由な研究環境の中、自分ならではの研究テーマを通じて成長したい。
- vol.46 高温超電導の研究を通じて、さまざまな社会課題を解決したい。
- vol.45 幅広い電気エネルギーの研究を活かして、 未来の可能性を大きくしたい。
- vol.44 自由な環境で研究に打ち込み、社会からの期待に応えたい。
- vol.43 "雷"の研究を通じて、快適で安心な生活を支えたい。
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