vol.31 宮崎大学 湯地敏史 教授
2021年5月31日掲載
湯地 敏史 (ゆじ としふみ)
- 1995年3月
- 国立都城工業高等専門学校 電気工学科卒業
- 2003年3月
- 宮崎大学大学院工学研究科博士前期課程電気電子工学専攻 修了
- 2007年3月
- 東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程原子核工学専攻 修了,博士(工学)
- 2002年9月
- 国立広島商船高等専門学校 電子制御工学科 助手
- 2006年4月
- 国立大分工業高等専門学校 電気電子工学科 助教
- 2009年4月
- 宮崎大学 教育文化学部 講師
- 2011年4月
- 宮崎大学 教育文化学部 准教授
- 2021年1月
- 宮崎大学 教育学部 教授
電気工学を学んでの人との出会い
今回、このような原稿を執筆する上で、これまでの人生と研究生活を振り返ることができたことはとても感謝している。まずは、これまでの電気工学を学び教鞭を取ってきた人生を振り返ってみた。そもそもは、機械工学を学び、航空整備士になりたい夢があった。中学生当時の担任の先生から、「君は、油まみれになることは向いていない」と言われたことを今でも覚えている。今考えるとその時から、電気工学に進むためのレールが引かれていたのかもしれない。30年以上前の人生を振り返ると、電気工学を進むためのレールがあったからこそ、大学での教鞭を取る人生が決まったのではないかとふと考える。
私は大学院修士課程の時、高圧遮断器の研究に携わっていた。研究がなかなか進まず、悩んでいた頃に、研究のアドバイスをいただいた故人中央大学理工学部稲葉次紀先生に出会ったことは、今では大きな人生の転機となった。稲葉先生は、とてもユニークで気さくな性格であり、私に研究者になるための多くの道筋を作っていただいた経緯がある。私は、稲葉先生の門下生ではないのだが、とてもよく面倒を見ていただいた。2009年にドイツミュンヘン工科大学へ短期留学した際も稲葉先生の推薦により、受け入れの許可が出た経緯がある。ドイツミュンヘン工科大学は、電気工学の基礎理論となるオームの法則を提案したゲオルク・オームが教鞭を取っていた大学としても知られている。ミュンヘン工科大学での短期留学期間に、ドイツの科学技術の素晴らしさやミュンヘン工科大学における電気工学の原点ともなる書物などを読むことで、電気工学をもう一度基礎から見つめ直すきっかけともなった。
この時、稲葉先生の交友関係で友人となったタイ王国キングモンクット工科大学トンブリ校のムンクン・ナロン先生は、ミュンヘン工科大学にも訪問してくれた人物で、年に2度は日本とタイ王国を行き来して家族間でも交友のある大親友となった。また最近では、大阪大学接合科学研究所で溶接の研究を一緒に取り組んでいる田代真一先生も稲葉先生の門下生であり、とてもいい研究が進められている。2018年には、大阪大学接合科学研究所より、所内の200テーマほどの中からアーク溶接における電流の陰極点挙動制御に関する接合科学共同利用・共同研究賞をいただけるほどの研究成果を得ることもできた。本当に、これまで人の繋がりと出会いにより、とてもいいライフワークが形成されている。
もう一度、勉強し直し
ドイツミュンヘンの留学後、もう一度、原点に戻って電力工学関連の本を読み漁さり、大学院修士課程の時期に収集していた資料や論文を見直すことにした。そんな時、1つのきっかけで、送配電工学に関する本の改訂版の執筆依頼があった。全てのタイミングが揃い執筆を引き受けることにした。スケジュールもタイトであった為、大変な時期でもあったが、とてもやり甲斐のある執筆作業であった。留学から帰ってきたリフレッシュ感ともう一度、勉強し直して研究をやり直そうと思った願いが重なり、また、学生時代に戻った気分で、多くの電力輸送や送配電、電気機器に関連する問題を解いたり、書物や資料を熟読した。この期間は、あまり研究は進まなかったが、とても意義のある充電期間(知識を蓄える)であったように思える。元々、電力関連の授業については、高専で教えていた科目でもあり、今回執筆した「送配電工学の基礎」は、とても自分自身で納得するものを執筆できたと思う。本書は、第3種電気主任技術者試験の内容や電力輸送工学及び電気機器に関する例題を多く含み、分かりやすい解説で読み解いている。産業界においては、若手の電気主任技術者の不足が課題ともなっているため、学生諸君や若手の電気技術者にはぜひ電験をトライして将来のキャリアパスとして頑張って欲しい。
現在の研究と大学での教育
現在、私は教育学部において、教員養成学部の立場にて、中学校技術・家庭科の技術分野における中学校教員を養成するための学生指導を行なっている。中学校技術・家庭科の技術分野の学習内容は、材料と加工、エネルギー変換、生物育成、情報の4分野から構成されているが、その内のエネルギー変換の電気分野について、大学では教鞭を取っている。大学では、教員養成学部の観点から、中学生にどのようにエネルギー変換を理解させるのかを授業するための教授法の提案及び授業カリキュラムの開発、教材開発の観点から研究を行なっている。また、学生への卒業研究のテーマとして電力分野の研究も設定し、佐世保高専などと協力して、小型風力発電機の開発及び超音波センサやショックセンサを用いた風力発電機のブレード部の故障診断技術の開発などに取り組んでいる。
私は、これまで電気工学を学んだ知識及び経験を生かして、教員養成学部において、義務教育の学校現場で「電気」を教える教員をこれからも養成していく思いである。更に、電気工学を学びたいと思う小学生・中学生を義務教育の学校現場から増やしていくことに貢献できればと考えており、また、それらの学生が今後増えていくことに期待する。