空港という重要施設を電気のスペシャリストとして守っていきたい

2021年2月26日掲載

インフラ系の仕事に就きたいと考えて齊藤さんが選んだのは日本の表玄関・成田空港。数少ない電気の専門家として、さまざまな電気施設の保守全般を担当されています。ここで働く人の数だけでも約4万人という成田空港は、1つの街のよう。そんな大きなスケールの重要施設を支えていることが、一番のやりがいとのことです。

プロフィール

2012年3月
明治大学 理工部 電気電子生命学科 卒業
2014年3月
明治大学大学院 理工学研究科 電気工学専攻 修了
2014年4月
成田国際空港株式会社入社
2014年5月
滑走路保全部 航空照明グループ 配属
2017年7月
株式会社NAAファシリティーズ出向
2018年7月
施設保全部 電気グループ 配属

※2020年11月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

大学の研究室で電気の魅力を知る

齊藤さんが電気工学の道を選ばれた理由を教えてください。

齊藤:理系が得意でしたので、大学は電気電子生命学科に進みました。名前のとおり幅広い領域を学ぶ学科で、いろんな分野に関心があったのです。その中で電気工学に興味をもつようになったのは、大学3年生の時でした。研究室で自分の手を動かしてテーマに挑む楽しさに惹かれたことがきっかけでした。そして、世の中になくてはならない電気の研究を通じて社会貢献ができたら、という思いが強くなりました。

どんな特徴の研究室だったのですか。

齊藤:できたばかりの研究室で、私が1期生でした。先輩がいない気楽さがあり、自由度の高い研究室でしたが、一方で問題にぶつかっても先輩の助けが期待できないという面もあり、自分で考え、進めていく習慣が身についたと思います。

超電導関連の研究で海外発表も

研究室ではどんなテーマに挑まれましたか。

齊藤:超電導関係の研究をしていました。超電導は、液体窒素マイナス196℃の低温下において損失をほとんど無視できる状態で銅線の100倍以上の大電流を流すことのできる技術です。交流ではなく、直流を採用することで電圧降下といった損失のロスも少なくできます。その際、いかに損失を少なくできるか、サイリスタという部材を使って研究を行いました。

最新技術の研究ですね。

齊藤:ええ、現時点でまだ活用し切れていない壮大な技術に取り組んでいることが、大きなやりがいでした。実験で思ったとおりの結果が得られないときは、その原因が部材にあるのか、プログラムにあるのか、なかなか原因がつかめず、苦労したものです。トライ&エラーの繰り返しで、仲間と徹夜したこともありました。

印象に残っているのは、どんなことでしたか。

齊藤:海外の学会で発表のチャンスをいただいたことです。場所はフランスで、私にとっては初めての海外でした。私は英語が得意ではなかったため十分に準備していったつもりでしたが、やはり本番ではかなり緊張しました。研究成果を自分の言葉で人に伝えることの難しさ、大切さを学びました。

苦労された分、いい経験になりましたね。

齊藤:ええ。実はもう一つ大変なことがあって、フランスで財布をなくしてしまったのです。たぶんスリの被害に遭ったと思うのですが。幸いパスポートは失わなかったものの、財布の中には免許証も入っていたので、青ざめました。帰国してすぐ成田空港の警察で手続きしたことを覚えています。

空港ならではの重要施設の保全に携わる

電気を専攻されて、空港に就職される方は多くないように思いますが。

齊藤:そうですね。そもそも採用人数も限られていますし。

齊藤さんはなぜ成田空港に就職しようと思われたのでしょうか。

齊藤:インフラ関係で働きたいとは思っていました。電気は世の中になくてはならないものですし、社会の役に立ちたいという思いがありましたから。とはいえ当初は空港に就職するなんて想像もできなくて、大学で行われた合同企業説明会で初めて成田空港を知りました。

どんな印象を持ちましたか。

齊藤:その場で説明を聞いたところ、ターミナルビルや滑走路の航空灯火など、空港の重要施設を支えているのが電気だと知り、電気の専門家の果たす役割の重要さに気づきました。電気の知識を活かして空港というインフラ施設を支えるという、やりがいある仕事ができると知ったのです。それで成田空港で働きたいと志すようになりました。

入社後、最初に配属されたのが滑走路保全部ですね。

齊藤:滑走路の航空灯火の点検、保全を担当する業務に就きました。航空灯火は飛行機の離着陸を支援する重要な灯火です。日々の点検を通じて不具合がないかを確認し、必要に応じて補修するほか、滑走路の補修など大規模な土木工事の際は、土木工事に追従して航空灯火のLED化を行います。

責任ある仕事ですね。

安全な航行を支える航空灯火。その数は14,500個にも及びます。

齊藤:まさに空港ならではの仕事でした。航空灯火は厳しい基準で定まっており、国の検査も入ります。空港というスケールの大きい職場でありながら作業自体は細かさが要求されるという点が、面白かったですね。ネジ1本紛失しても大事故につながりかねないという緊張感もありました。

その後、関連会社に出向されました。

齊藤:今お話しした航空灯火の点検、保全の業務を、実際に現場で作業する会社です。つまり当社の発注先ですね。夜間のメンテナンス作業などを体験し、現場作業の大変さを学びました。例えば夜間作業後に報告書をまとめることも、決して簡単ではないと知りました。現場の苦労を実際に体験できたことは、無理のない発注をする上で役に立っています。

裏方として活躍するからこそ得られる誇り

現在のお仕事を教えてください。

齊藤:ターミナルビル以外の電力設備の保守全般を担当しています。例えば貨物の施設、ランプセントラルタワー、駐車場照明、場周柵照明、空港内道路照明、さらには当社ビルなど多岐に渡ります。具体的な業務としてはメンテナンス計画の立案や更新にかかる設備工事の発注・監督などです。更新時期を迎えた設備の更新の計画や予算関連の業務も行っています。

まさに成田空港という重要な社会インフラを電気のスペシャリストとして支えていらっしゃいますね。

齊藤:旅行客や送迎の方が利用され、人と人の出会いの物語が生まれるターミナルビルが花形の舞台だとしたら、私たちが支えているのは人目にはつきにくい裏方です。けれど裏方の施設が問題なく稼働することで表舞台も輝くことができるのです。また、成田空港で働く人は約4万人にものぼり、まさに一つの街のようなスケールです。この街が日々問題なく動いているのも電気のおかげといっていいでしょう。それを支えているのが我々だという自負はあります。そんな責任の重さが、やりがいです。

背景に写る貨物ターミナルや駐車場の電力設備の保守全般も担当しています。

どんな難しさがありますか。

齊藤:成田空港は開港から40年以上がたち、施設・設備の老朽化が進んでいます。そのため不具合も起きており、その対応は難しさの一つですね。それこそ電気のある当たり前の日常を保つために、不具合が発生したら早急に原因を突き止め、復旧作業に当たらなくてはなりません。老朽化した設備の更新は懸命に行っているのですが、規模が大きく、設備を運用しながらの更新となるためなかなか簡単にはいかないところが難しさです。

設備の更新と新設に挑む

学生時代に学んだことはどのように活かされていますか。

齊藤:実は研究室で扱っていたサイリスタについては航空灯火設備にも使用されており、打ち合わせ等の際にその知識を活かすことができています。

今後の課題や目標について教えてください。

齊藤:先ほども申したとおり、成田空港は開港して40年以上が過ぎて老朽化への対応としての更新工事が課題となっています。一方で拡張に伴って新しい施設もつくられています。この更新と新設という2本立てで取り組んでいかなくてはならないことが、これからの課題ですね。その意味で成田空港はまだまだ発展途上だと思います。また、当然ながら空港は電気だけでは運用できませんので、他の設備に関する知識も学び、さまざまな視点をもてる人材になりたいと思っています。

活躍できる選択肢の多さが魅力

電気工学を学んでよかったと思うのは、どんなことでしょうか。

齊藤:仕事の面では、成田空港には電気の専門家が少ないので、大勢の人から頼りにされていることです。社会的な重要施設で働く人々の中で信頼を寄せていただいているという実感は、嬉しいですね。また個人的には、普段の生活においても電気の知識は活かされていると感じます。新しい家電を使うとどれだけの電気的負荷がかかるのかを計算するなど、日常生活の中で電気の知識は役に立っています。

最後に電気工学を学ぶ皆さんにメッセージをお願いします。

齊藤:電気は守備範囲の広い学問なので、幅広い業種でその知識を活かすことができると思います。皆さんがイメージしている以上にさまざまな分野で活躍できるので、ぜひやりたいことを見つけて挑戦してください。そのためにも時間のたっぷりある学生時代は好きなことに取り組み、視野を広げていただきたいと思います。また、勉強で得られる知識も意外と重要なので、座学も大事にしていただけたらと思います。

本日はありがとうございました。

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